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芸術とは ー文学部と人間


"人はいつか必ず死ぬのが分かっているのに
 なぜ私たちは死なずに生きているのか"

 これに答えを与えつづけるのが、文学部の仕事なのだと以前何かの本で読んだ。

 私はその一つの応答があるのなら、"芸術に触れるため"だと思えてならない。

 芸術とは人間が生み出したものの中で、最も崇高で価値の高い文明の産物である。

 文学
 音楽
 絵画
 彫刻
 演劇

 およそすべての芸術は人間讃歌であり、人間は芸術によって肯定されていると思う。

 ある対象の何かを表現するとき、そこには造り手の人間の姿が必ず浮かびあがってくる。
 その中で、造り手は容赦なく人間の本質を暴き出す。
 人間の美しさや醜悪さ、尊さや矛盾、賢さやずるさを、余すところなく描きあげる。
 恥ずかしいくらいに、私たちは裸のまま照らされる。

 あらゆる芸術は、人間たちが日々もがきながらも生きることを称えてくれているのだと思う。

 言い換えれば、芸術を享受することで、人間を知ることができる。
 人間を知ることは、私たち人間が人間であることの証を知ること。
 少なくとも人間として生まれてきた限り、私たちは私たちをできる限り忠実に捉えてから人生を閉じる必要がある。

 芸術に触れることでふと何ということもなかったかのように、心が救われることがある。洗われることがある。

 私は私で生きていていいのだと。

 シェイクスピアの心揺さぶる愛の物語に、
 醜い戦争で子を喪う女の嘆きを描いたピカソの絵に、
 ロダンの懸命に生を悩む男の彫刻に、

 私たちは自らの人生を重ねるのである。

 虚構の生は、時に現実の生を映し出すことがあるからーー。


 冒頭の問いに立ち返る。
 人はなぜ生きるか?なぜ死なずに生きようとするか?

 その一つの答えは、

 "芸術に出会い、
  私に出会うため"。

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