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【IRIAM創作小説】ノンフィクション

01


「駅ついたよ」
「おれも。今歩いてる」
「電車なに?俺は副都心線」
「おれは山手線」

もはや呼吸レベルのフリック入力を駆使して待ち合わせ相手に連絡を取る。
彼とのやりとりが残ったTwitter(現X)のダイレクトメール画面は、ここ数ヶ月ですっかりスクロールバーが極小になっていた。
今現在相手が文字を打ち込んでいるのが分かる『…』マークが点滅していることに僅かに安堵する。

ヒュッと画面に現れるグレーの吹き出しに対して青い吹き出しを打ち返していく。
「ねむい」とか「昨日寝れた?」とか、そんな他愛無いラリー。これから直接会うというのに、話題デッキの山札をつい引いてしまう。
なんとなく、お互い緊張しているのかもしれない。少なくともおれはしている……と思う。

「おれ」こと《綾取かざる》と今から対面する《深井ねむり》は、IRIAMで活動しているVライバー同士。お互いの枠にも頻繁に行き来し、個人的に通話までしている仲だ。
断っておくが、これは出会い行為ではない。ただ、意気投合した友人同士として「一度会ってみよう」となっただけだ。本当にそれだけ。

山手線のホームからハチ公口に向かう階段を降りていく。渋谷には久しぶりに降り立ったが相変わらず人が多い。推しの返礼品の黒いキャップを目深に被り、外を向かう隊列のような群集から弾かれないよう先を急いだ。
徒歩15分のバイト先と家の往復だけで日々を過ごす陰の者に、パリッとしたスーツに身を包んだサラリーマンや、スクールバッグをリュックのように背負った学生達は至極眩しく感じる。
インスタのおすすめ投稿で流れてきたプチプラコーディネートを付け焼き刃で真似してきた程度の自分にはまったく歯が立たないように思えた。

スマホと地面とたまに周りを見渡しながら、なんとかハチ公前に到着した。
学生の帰宅時間にぶつかり、辺りは混雑を極めていた。明らかに待ち合わせであろう人も数名目に入るが、事前に教わった相手の服装とは全員違うように見えた。
久々に入れたカラコンがやけに乾く。少しかさついた手を落ち着きなく擦り合わせ、カーゴパンツにしまったはずのスマホをひっきりなしに触ってしまう。やばい、絶対挙動不審だ​────。
一度だけ短く深呼吸をして、「ついたよ」と打ち込む。
「もうちょい待って」とすぐに返信が届いた。
先に着いたことで、初対面の相手を探し出し自分から声を掛ける必要がなくなったことに安堵しつつも、急に知らない相手から声を掛けられる事実に、おれの身体は否応なくこわばる。
所在なげに二、三歩その場をうろついてみたが、この浮ついた姿を相手が見ていたとしたら馬鹿にされるかもしれないと思い、とりあえずTwitterを開いた。おすすめタイムラインは立ち絵公開や引退報告で、いつもと変わらず忙しない。
気を抜くと地面を叩きそうになる足をぐっと抑えて、早まる鼓動には無視を決めた。
目に入る情報を親指で流していると、ひゅっとバナー通知が現れた。

「かざくん居たかも」

『…』の表示が吹き出しに変わった瞬間、バッと顔を上げると柔らかそうな茶髪の男と目が合った。
確認が確信に変わったようで、男は目尻を下げて「こんかざ~」と言った。
渋谷のど真ん中での初邂逅。
おれはまあまあでかい声で「やめろや!」と言ってしまったのだった。





続くかもしれない。
BL小説のつもりで書いていますが、まだ攻守も決まっておりません。
また、出会い行為やオフで会うことを推奨しているわけではありません。

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