わがままな患者と譲らない先生

検査結果を聞きにいかねばならない。
でも、初期の初期で小さいって言われていたし、
ぺってとって終わりだな。癌だってちょっと騒々しくしすぎたな、これは。

そういえば宿題があった。
温存するか、遺伝子検査を受けるかの返答。
温存とは、乳房を残すということ。そりゃあ残すでしょ。小さいんだし。
遺伝子検査とは、アンジェリーナジョリーがご自身の親族が乳がんや子宮がんを患ったことで、予防のために乳房と子宮を摘出したという少し前にニュースになったことと同じと説明を受けた。
わたしは歳も若い。わたし自身が遺伝子異常の可能性がとても高い。
娘もいる、姉、姉にも娘がいる。わたしと同じ遺伝子を持つ人にリスクがあるかもしれない。だからわたし自身がそうなのかその対象に該当しているから受けるかというもの。
これは正直悩んだ。わたしより年長者の親族に婦人科系の癌の病歴はない。
ただ、癌家系ではある。
でも知ってどうなるんだろう。これは今でも返事をしていない。

順番が来て診察室へ入る。
また先生が無駄なくそつなく説明を始める。
「この前の教科書持ってきた?読んだ?」
1ページも読んでいなかった。いまだに直視できずにいた。
「読んでません。」
先生がムスっとしたのがわかった。
「で、誰もいないの?」
誰か連れてこいって言われたっけ?でも連れてくる人はいないから
説明を進めてもらう。
「乳がんでステージは◯ それで脇の下から採ったでしょ。あれ最悪。
一番最悪のレベル5。リンパ節に転移」
確かにあの後針の痛みが引いてから自分でも触ってみた。
ころっとしたものが触れた。脂肪のような粉瘤のような。
「はい、教科書開いて」
「あなたは、これでこれだから全摘。転移があるから手術目標で抗がん剤から
クリアできたら手術。その後放射線のフルコース」
えーーーー。聞いてないよお。
全摘っていうことはおっぱいをとって、抗がん剤ってことはハゲるの??
頭の中が忙しい。想定外すぎる。
「自覚症状何もなかったの?」
何もなかった。あったのかもしれないけどそもそもわたし癌かもなんて思って
生きてる人っている?それとも鈍感なの?どこも痛くない。
宿題考えてきたのに意味ないじゃない。
「治療、しないといけないんですか?したくないです」
こんなこと言っても「じゃあ、今回は大まけにしてとって終わりね」なんて
言ってもらえるはずはないのはわかってる。
「今、治療すれば治る。時間はかかるけど治る。」
「抗がん剤っていうことはハゲるんですよね?」
「うん。抜けない人はいない」
「治療したくないです。しないといけないんですか?」
「あなたのすべてが変わるかもしれない。でも今治療すれば治る。」
人の生き死には誰かがコントロールできることではない。
でもいつかは死ぬ。今ここで治療を受けると言っても家に帰る時に
死んでしまうかもしれない。だったら、どうしてわたしの体が変わってまで
生きていかなければいけないんだろう。
「治療しません」
「本当にそう言ってるの?」
「はい。治療しません」
「今治療すれば治るのに?」
「はい」
しばらくそのやりとりが繰り返される。同席している看護師さんが困惑しているのがわかる。自分でもわかってる。何を言ってるんだって。
でも認めたくない、そんなはずはない。ただのわがまま。
「わかった。次この日来れる?わたし手術の予定入ってるけどずらすから話しましょう。あなたが納得するまで話しましょう」
ものすごく怒ってる。ここまでで1時間は経っていた。



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