がんばれ

ある治療の帰りに乗ったタクシーの運転手さんは
閉院ギリギリに病院を出た私に「長かったんですね」と声をかけた。
続けて運転手さんは自分の息子さんが今日から検査入院をしていること
付き添いの奥様と連絡をとりたいがまだ用が終わらないのか繋がらないこと
息子さんが難病で不安だということを話し始めた。

「お客さんも若いのに病院大変だね こんな時間まで検査か何か?」
と興味があるとでもないとでもどちらでもないように話す。
「抗がん剤です」
交通量の多い道を走行しているのに上半身を捻って後部座席のわたしを見る。
「癌なの?」
「はい」
「どうなの?抗がん剤って具合悪くなるんでしょ?」
「そうですね。人それぞれだと思いますが、でも思ったより耐えられてます」
「若いから癌も大変なんでしょ?病気が早く進んだりするんでしょ?」
「そうなりたくないですねえ。なんとか無くなってくれたらいいなと思ってます」
「前向きだね。自分だったら癌だなんてなったら落ち込んじゃうよ。
落ち込まなかったの?」
「最初は小さいからって言われたけど、そうじゃなかったから、えーー違うじゃんとは思いましたけど あはは」
「ということは、よくないの?」
「転移があるんです」
細かく質問してくる運転手さんからは最初の印象は消え
病気の人の話を聞きたいということがぼんやりと伝わってくる。
今日は、息子さんの検査入院。病気も難病。奥様との連絡もなかなか取れない。
最初の言葉通り不安なんだな。
「でも、転移を見つけてもらって、治療も進めてもらって気づいたら少し人ごとみたいに受け身に思うこともありますが。皆さんに良くしてもらっているので。
わたしは良くなるのが仕事ですからね 頑張ります!」
「いやあ、明るい。うん。頑張って」

運転手さんはあの後奥様と連絡は取れたのだろうか。
息子さんの検査結果は出たのだろうか。

わたしは若い頃、人に「がんばれ」っていうことに気が引けていた時期があった。
人に「がんばれ」っという自分は何かをがんばれているのだろうか。
こじらせちゃんだったなあ。恥ずかしい。

運転手さんに頑張ってって言ってもらえてとても嬉しかった。
運転手さんは純粋にわたしに頑張ってと伝えたかっただけなのだ。
頑張ってほしいのだ。

「ありがとうございます。頑張ります」
「頑張れー」

人と接したり、読みたい本を見つけて読んだり、何かを見たり知ったり。
一つ一つ、わたしが持ってないものばかりでそれに触れることができて
とてもありがたく思う。
読んでいた本の終わり辺りに、”その話がよんでいる”と書いてあった。
会う時に会えること、それは少しも早くも遅くもないんだと思う。
わたしはたくさん足りていないけど、周りの人が素晴らしい人ばかりで
それを一つ一つ見つけていっているのかなあとぼんやり思った1日だった。

がんばります。


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