「創作大賞2024」レポート――わたしの推し作品
「書く」という行為は自己表現、だから自分が書きたいことを書きたいように書けばいいんだ。
――という考え方があります。
別に間違っているとは思いません。その結果、すごい作品が生まれることだってあるでしょう。
でも、誰かが「書きたいように書いた」作品が、他の誰かの「読みたい」作品になるとは限りません。いや実際のところ、独りよがりで、つまらない作品になってしまう可能性の方が高いのではないでしょうか。
かくいう私も、書くものはほとんど自己満足。ほぼほぼ「書きたいことを書きたいように」書いているに過ぎません。だから上記の内容は全て自戒の言葉です。
ところが、noteには読者のことをしっかり考えて、存分に楽しませてくれるクリエーターの方々が、ちゃんといらっしゃるのです。
今回は、そんな素敵な「創作大賞2024」エントリー作品をご紹介したいと思います。
Ⅰ.半径100mさん
先ずは、こちらの作品。
半径100mさんの『エロを小さじ1』。「恋愛小説部門」にエントリーされています。
エンタメで一番大事なのは、「バランス感覚」――こういう優れた作品に接すると、改めてそう感じずにはいられません。
「恋愛小説部門」エントリー作品ですから、もちろん「恋愛」要素はあるのですが、それだけではないのです。
「ミステリー」、「家族小説」、「お仕事小説」……さまざまな要素が。文字通り絶妙な〝さじ加減〟で散りばめられ、更に半径ワールド独特のユーモアが全編を覆っています。
誰にでも楽しめる作品――言うのは易いですが、実際に書くのは至難の業。『エロを小さじ1』は、それを見事に成し遂げた稀有な作品です!
半径100mさんの作品を、もう一つご紹介しましょう。
掌編集『球体の動物園』。「ファンタジー小説部門」にエントリーされています。
ここに登場する動物たちが、本当に〝動物〟なのか、それとも秀逸なメタファーであるのかは、これからお読みになる方々が、それぞれ判断されればいいことであって、わたしごときがしたり顔に、わかったようなことを言っても興ざめなだけでしょう。
ただ一つ言えることは――
『球体の動物園』は、紛れもない傑作!!
ということです。
「文学」と「エンタメ」を高次元で融合させることによって生じた〝化学変化〟。そのエネルギーによって、宇宙空間を飛ぶ宇宙船。そんなイメージが、読後のわたしの頭の中に鮮やかに浮かびました。
そして、この宇宙船は現代の〝ノアの方舟〟だと、わたしはひそかに思っているのです……。
Ⅱ.櫟茉莉花さん
続いてご紹介するのは、こちらの作品です。
櫟茉莉花さんの『リモンチェッロと魔法使い』。「エッセイ部門」にエントリーされています。
エッセイというと、なんとなく気楽に書けそうなイメージがあります。自分が実際に見聞きしたり、経験をしたことを書けばいいと考えれば、確かに間口は広いと言えるでしょう。
でも、と言うか、だからこそ、エッセイは「読者を意識する」のが一番難しいジャンルなのかもしれません。〝自分〟との距離感というのは、〝他人〟との間のそれより、実はずっと難しいものだからです。
人は誰でも、自分に関する〝とっておきのエピソード〟というものを一つか二つ持っているものですが、うっかり出し方を間違えると、独りよがりの自慢話に堕しかねません。
しかし優れた書き手は、エッセイでも、いや、エッセイだからこそ、ちゃんと読者を意識し、慎重に〝自分との距離〟をはかりつつ、〝とっておきのエピソード〟を披露してくれるのです。
〝自分との巧みな距離感〟は、一種の〝ユーモア〟となって行間ににじみ出ます。ここに描かれる人たちが、実在の俳優に擬えられている部分などもその一つで、そうした作者の〝余裕のある遊び心〟によって、読者は安心して、イタリアの海の青さや爽やかな風に酔うことができるのです。
「異国情緒」、「専門的なお仕事の裏話」、「奇跡のような出会い」――興味深い〝食材〟を巧みに調理して、茉莉花さんはわたしたちの前に、にっこり微笑みながら差し出してくれます。リモンチェッロの、〝香水〟のように美しい小瓶と一緒に……。
Ⅲ.ハミングバードさん
最後にご紹介するのは、こちらの作品です。
ハミングバードさんの『軽く狂った感じのショートホラー本が頭に当たった!』。「ホラー小説部門」にエントリーされています。
ハミングバードさんと言えば、ユーモラスなエッセイで有名な、人気noterさんです。
最近はエッセイだけでなく、小説の方にもその健筆ぶりを発揮しておられますが、今回の作品は〝セルフイメージ〟を覆すように、なんと「ホラー小説部門」にエントリーされています。
ところが実際に読んでみると、物語はいつものハミングバードさんらしい、ユーモラスなーードタバタコメディー的な雰囲気で始まります。
――あれ、もしかして全然怖くないんじゃ……?
正直に告白すると、プロローグを読んだ時、わたしはそう思ってしまいました。
この時にはもう、ハミングバードさんの〝ネズミ捕り〟の罠にかかっていたのだとも知らず……。
後でわたしは、自分が〝騙されていた〟と悟ることになるのですが、時既に遅し……。
――怖かったよ~!!
ふだんのハミングバードさんのイメージとのギャップもあって、本当に怖かったです。
セルフイメージがミスリードになっていると考えれば、これも〝叙述トリック〟の一種と言えるかもしれません。そういう意味では、ミステリー要素も巧みに取り入れられていると言えるでしょう。
『軽く狂った感じのショートホラー本が頭に当たった!』は、サービス精神たっぷりのユーモリスト、ハミングバードさんに見事に〝騙される〟快感を味わえるホラー作品です。
――以上、三作家、四作品をご紹介しました。
「創作大賞2024」の現場からは以上です。
レポーターはミナミノでした。