とってもシンプルなのに、このおいしさ!――台湾サンドイッチ専門店「洪瑞珍」
わたしがこのサンドイッチ専門店の存在を知ったのは、6、7年前、ある仕事の時でした。台湾の友人が差し入れを持ってきてくれたのです。
「このお店のサンドイッチ、食べたことある? とっても有名なのよ」
その友人は言いました。
――洪瑞珍三明治。
と袋に書いてありました。ちなみに、「三明治」は❝sandwich❞(サンドイッチ)の音訳です。
「食べたことない。ありがとう」
とお礼を言って受け取ったのですが、内心、ちょっと不思議な気分でした。
すごくシンプルな包装で、見た目は「ごく普通のサンドイッチ」なのです。
こんな感じです。
――本当に、そんなに有名なのかしら?
正直、そう思いました。
その場では食べる時間がなく、家に持って帰り、夜食代わりに食べてみました。
包装紙を取った後、出てきたサンドイッチも、これまたシンプル極まりない外観をしています。大きさも、大きすぎもしなければ、小さすぎもしません。すごーく普通です。下の写真を御覧ください。
それでも小腹が空いていたわたしは、はむはむ食べ始めました。
――えっ、おいしい!
びっくりしました!
見た目は普通なのに、味は普通ではないのです。
ただ、ハムもチーズも卵も、特に厚かったりするわけでもなく、むしろ控え目で、奥ゆかしい風情です。コンビニのサンドイッチの方が、レタスとかが挟まっていたり、肉がぶ厚かったり……見た目だけならよっぽど豪華です。
――どこがこの味をつくっているんだろう??
念入りに舌と目で確かめた結果、ようやく突き止めました。
バターなのです。
上の写真をもう一度ご覧ください。サンドイッチの真ん中にチーズが挟んでありますが、そのチーズの上下が白くなっていますよね。
白い部分が、バターです。
このエッセイシリーズの中で、台湾のマヨネーズは甘みが強いということを既に何度もご紹介していますが、少しそれに似た味です。でも、あくまでマヨネーズではなく、バターです。
「洪瑞珍三明治」のおいしさの秘密は、パンの間にさりげなく塗られたバターにこそあったのです!
その日以来、わたしはこのサンドイッチのファンになりました。
調べてみると、「洪瑞珍三明治」は1947年、台湾中部の彰化で創業したとのこと。なんと80年近くの歴史を誇る、老舗サンドイッチ専門店だったのです。
現在の「洪瑞珍三明治」はチェーン店として事業を拡大しており、「洪瑞珍」という名がついているお店は、わたしが住んでいる台北市内だけでも何軒もあります。
でも、名前が同じだからと言って、どの店の味も同じというわけではありません。
けっこう微妙に違うのです。
これはネット情報ですが、どうやら「洪瑞珍三明治」ブランドの権利をめぐっては、かなり複雑な事情があるらしい感じでした。
だから、名前こそ同じでも、あの独特のバターの「秘方」(秘密のレシピ)は、一種類ではないようなのです。
わたしの味覚では、写真にある「老四房」店のそれが一番おいしいと感じます。
わたしがよく行くのは、「北車店」(台北駅前店)なのですが、とても小さなお店で、内装も素っ気ないほどシンプル。とにかく、「サンドイッチ(しかありませんよ)専門店」という佇まいです。
しかも、この「老四房」の「招牌」(看板メニュー)である「火腿三明治」(ハムサンドイッチ)は、チーズも挟んでいない、本当にハムと卵と秘密のバターだけという、思わず「断捨離サンドイッチか!」とつっこみたくなるほどのいさぎよさ。
しかも驚くべきことに、看板メニューのサンドイッチに、新たにチーズだけ加えたもの――つまり、わたしがいつも食べているサンドイッチ(上の写真)は、なんとこの店で一番の豪華バージョンなのです。
何しろ名前が――
「滿漢三明治」というんですから!
この「滿漢」は、おそらく「満漢全席」の「満漢」なのでしょうが、いくらなんでも、ちょっと大げさすぎるネーミングなのでは? とさすがに思ってしまいます……。
滿漢三明治の値段は、一個35TWD(日本円に換算して約167円)で、「火腿三明治」(ハムサンドイッチ)が32TWD(約153円)。まあ、豪華版と言っても3TWD(約14円)しか違わないのですが……。
見た目や具材はシンプルを極めながら、ネーミングは過剰に豪華絢爛という、方向性がちょっと混乱しているような気がしないでもありませんが、とにかく、この「老四房」店の「滿漢三明治」、わたしの一推しサンドイッチであることは間違いありません。
「洪瑞珍三明治」ブランドは台湾国内だけでなく、海外展開も行っており、日本では東京に店舗があるそうです。※日本では「洪瑞珍」を「ホンレイゼン」と読ませるようです。
ただ、「洪瑞珍」日本支店のそれは、わたしは食べたことがなく、また日本に進出しているのは、「老四房」店の系列でもないようですので、その味もわたしが好んでいるものとはやや異なるのではないかと思います。
たかがサンドイッチ、されどサンドイッチ。
見た目がシンプルだからこそ、味の違いがより一層際立つとも言えますよね!