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台湾の総統選挙制度と「民主&多元化」の意味

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昨日(13日)に行われた「台湾総統選挙」。日本でもニュース等で報道されたと思いますが、民進党の「賴清德・蕭美琴」コンビが558万票(得票率40.05%)を獲得して勝利しました。

この選挙は「直接選挙」と呼ばれるもので、台湾国民が直接、自分の好きな総統候補に投票するという制度です。

このように、日本と台湾では選挙制度が異なります。最近、台湾の総統選挙は世界的に注目されていることもあり、台湾国民が一体どういう流れで総統を選ぶのかを紹介するのも何かの参考になるかと思い、Q&A方式で書いてみることにしました。

Q1:台湾国民はどうやって候補者を知るの?

A1:選挙通知書と選挙広報が各戸に届きます。

選挙日が近づくと、各戸のポストに選挙通知書選挙広報が届きます。その選挙広報に候補者の番号、名前、写真、学歴、経歴が載っており、台湾国民はそれを見て投票することになります。


Q2:投票には何を持っていくの?

A2:選挙通知書、身分證、自分の印鑑です。

自分の属する地区(戸籍地)の投票所に、「選挙通知書、身分證、印鑑」を持っていきます。「身分證」には写真が印刷されているので、選挙委員が本人であるかどうかを確認し、名簿にその人の印鑑を押します。これはなりすましや、一人が複数回投票する等の不正行為を防ぐためです。(携帯電話は投票所の入り口に預けることになっており、中に持ち込むことはできません)
ちなみに台湾で印鑑と言えば、「姓と名の両方」が彫ってあるもので、日本のような「姓だけ」のものではありません。


Q3:選ぶのは総統・副総統だけ?

A3:総統・副総統のほかに、「區域立委」と「不分區立委」も選びます。


Q4:そんなに選ぶの? なんだか複雑そう…。

A4:いいえ、とてもわかりやすいです。

選挙委員が、選挙通知書を持参した投票者が本人であることを確認すると、三枚の投票用紙を渡してくれます。この投票用紙は色分けされており、「総統・副総統」が赤「區域立委」が黄、「不分區立委」は白になっています。
投票者は候補者の名前を書くのではなく、候補者の番号・名前・写真がある上の欄に、投票所備えつけの選挙専用印を押します。(自分の印鑑ではありません)。
※見出し画像の「賴清德當選」の文字の右にある赤色の図案が「選挙専用印を押した状態」を表しています。自分の印鑑や拇印を押したり、候補者の名前を書いたりすると、無効票になります。
投票箱も、投票用紙と同じ色で三種類に分かれているので、お年寄りなどでも間違えることはありません。


Q5:投票時間は何時から何時まで? 開票はいつから?

A5:投票時間は午前8時から午後4時までです。その後、すぐ「開票」作業に入ります。

投票時間は午前8時から午後4時までです。午後四時に投票時間が終わると、すぐ「開票」作業に入ります。
選挙委員が、一枚ずつ、投票用紙を外側に向けて掲げ、投票用紙に記された番号と名前を読み上げます。今回なら、例えば「ナンバー2、賴清德・蕭美琴、1票!」という感じです。この名前を読み上げる作業を唱票チャン・ピィアオと言います。
この「開票作業」が行われている様子は、誰でも投票所の中に入って参観することができ不正が行われていないかどうか自分の目で確認することができます。
投票用紙が読み上げられると、別の選挙委員が壁に張ってある候補者のところに、その得票数「正」の字を使って書いていきます。ここまでは手作業で、全ての有効票が読み上げられた後、コンピューターを使っての集計作業に移ります。


Q6:結果はいつわかるの?

A6:大体三時間でわかります。

今回の選挙を例にすると、午後4時に開票が始まり、午後7時にはもう大方の結果は出ていました。賴清德新総統は、7時半にはもう国際記者会見を開いていました。


Q7:総統・副総統のほかに「立委」も選ぶとのことだけど、「立委」って何?

A7:正式名称は「立法委員」で、日本の国会議員に相当します。


Q8:「區域立委選挙」と「不分區立委選挙」の違いは?

A8:日本の選挙制度に擬えれば、「區域立委選挙」が「選挙区選挙」、「不分區立委選挙」が「拘束名簿式比例代表制」になります。

「區域立委選挙」の場合は、自分の戸籍のある地区「立委」直接選びます。それに対し、「不分區立委選挙」は、「立委」ではなく「政党」を選びます。各政党は、その得票率に応じて議席数を配分されるのです。
そして、台湾が採用しているのは「拘束名簿式」——つまり、当選者はあらかじめ各政党が提出している名簿の上位から決まっていくことになります。


――以上が台湾の選挙制度の紹介です。ここまでおわかりになりましたか。

さて、いよいよここからが本題です!


昨日の「不分區立委選挙」において、民進党国民党民衆党は、それぞれ13席13席8席の議席を獲得しました。(「區域立委選挙」で選出された「立委」は含めていません)

具体的には下の図のようになります。(「緑」「民進党」「青」「国民党」「水色」「民衆党」を表す)

三党の「不分區立委」当選者一覧表

ここで注目してほしいのは「緑」——「民進党」の部分です。ポイントの部分を赤枠で囲んでみます。

名簿の順番でいくと、13番目「王正旭」さん、14番目「王義川」さん、そして、15番目「陳培瑜」さんです。

ところが、13番目の「王正旭」さん、14番目が「王義川」さんが落選し、15番の「陳培瑜」さんが繰り上がって最後の13番目の議席獲得しています。

――なぜでしょうか?

その理由は、「陳培瑜」さんが女性で、「王正旭」さんと「王義川」さんが男性だからです。

台湾の「不分區立委選挙」制度では、男女の比率1:1にする決まりになっています。

今回の民進党の議席数13のように奇数になった場合はどうなるかと言うと、女性7:男性6になります。

その説明が「因女性保障名額」(女性保障定員数による)という部分です。

こうした部分だけでなく、台湾はアジア初の同性婚を法的に認めた国であり、周知の通り現総統が女性次期副総統も女性です。これらも民進党の業績として数えられます。

このエッセイシリーズで既に何度も取り上げていますが、民進党が製作した選挙広報動画「《在路上》 #交棒篇の中で、賴清德さんが「守護台灣的民主」(台湾の民主主義を守る)と力強く宣言し、更に「民主社會就是可以容納多元」(民主社会とは、多元的な価値を認める社会だ)と語りますが、それが決して口先だけの「口號」(スローガン)ではないことが、以上の事実からもわかるのです。

「《在路上》 #交棒篇
※㏄字幕の「日本語」をONにして、御覧ください。

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