飴よりもやわらかい

 そろりと唇をつける。瞼に。二度ばかりゆっくりと触れると、彼女は面倒そうに眠たそうに目を開けた。やる気なく頭を枕に置いたまま、無防備な首筋をわたしに晒している。その首筋に歯を立てて、彼女の首筋から赤い体液を零させて、音を立てて啜りたくも思うけれど、そんな吸血鬼めいた衝動にも駆られるけれど、そっと息を吐くことで堪えた。同じ場所に唇をつける。三度目だ。開けた目はもう瞼に覆われてなくて、唇に濡れた瞳の感触があった。濡れた舌が涙を拭うように眼窩の中をなぞり、まあるいその子を外へと連れ出した。眼窩から抜き出されたはずの眼球はけれど、また濡れた穴に包まれる。舌で転がす。眼球は飴よりもやわらかい。少しかたい。そのまま飲み込みたくもなる。そうしたところで彼女は気にしないだろう。何の感情もなく少しの間わたしの顔を眺めたあと、意地悪そうに微笑むかもしれない。懐かしい味がする。子供のころに食べた駄菓子のような。彼女の眼球だけがそうなのか、他の子のもそうなのか、わたしは彼女の眼球しか知らないのでわからない。おいしい。まあるいそれを口の中で転がしながら、彼女に顔を近づける。彼女の唇に、わたしの目を近づける。彼女は片目の空洞を開けたまま、面倒そうに息を鳴らした。薄い唇の隙間から舌が覗いた。彼女はそれを尖らせて、優しく意地悪な笑みを一つ残った目に浮かべた。その笑みに命じられるまま、わたしは自分の目を彼女の舌に近づけていく。視界の外から伸びた手がわたしの頭を押さえ、逃げられなくする。顔が近い、ことに気づいて、息をするのをためらう。とめる。彼女の唇が笑みの形を作る。わたしの唇が自然と彼女の形を真似た。ゆっくりと赤く濡れた舌がわたしの目に。濡れた音。目を閉じて音と感触の中に浸りたいと願うのだけれど、それは叶わない。赤い舌。彼女の喉の奥にある空洞に、この身体ごと沈めてしまいたい。

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