なぜ【推しの子】に熱くなるのか&最近思うこと
かなりの話題作である【推しの子】
私も友達に勧められてからジャンプ+で見ています。
アニメが放送中で、実写化も決まった【推しの子】ですが、私はずっと気になっていました。
ジャンプ+のコメント欄の熱量がめちゃくちゃ高いことに。
※ネタバレがありますので、ジャンプ+を追っていない人は閲覧注意
私にとっての【推しの子】の魅力
初めて推しの子を読んだ時、ジャンプ+では「深掘れワンチャン!!」でコスプレイヤーに対するセクハラ問題を取り扱うところまで連載されていた。
憧れているアイドルの子供への転生という、突拍子もない設定
最初はほのぼのとした雰囲気で続くのかと思いきや、だんだんとミステリーかつサスペンスで社会派な展開に入っていったところでグッと引き込まれた。
そして、"見た目は子供、中身は大人の立場"から誹謗中傷問題や、原作が実写化によって汚された気になる問題、(色々な観点から)出演者を無遠慮に消費していく芸能界の闇を提示していくところに、私は魅力を感じていた。
どの問題も現実世界でニュースになっていた分、芸能界という設定の中で出された解決策にはリアリティがあり、解決されたことによって誰かが救われ、主人公たちの人間関係が広がっていく姿に感動をしていたからだ。
本当に、面白かった。
何より、推しの子供に転生したルビーとアクアの心の闇が伺い知れ、それぞれがそれぞれの考えで"他人を利用してでも復讐をやり遂げる"という、アイに対しての執着が見えていたのが、魅力的に見えた。
ただただ憧れの人の子供に転生して、美形に生まれて人生チョロい!!という幸せなファンタジーで終わることなく、転生前の心のよりどころを奪われた絶望を抱きながら生きていることに、私はとても共感をしていた。
他にも、登場人物にやたら現実的な部分があるのも魅力的だと思う。
ちなみに、私が特に現実的だと感じているのはアイと有馬だ。
星野アイ
アイは生まれ持っての魔性の女だった。
その魔性が母親からの虐待に繋がり、アイドルとしての才能となり、たくさんの人から"こうあるべき"を求められることになった。
苦悩しながらも、自分の子供が産まれたことで、やっと心が救われていた。
私が最もアイのエピソードで印象的なのが、娘であり大ファンだったルビーの言葉だ。
アイのドキュメンタリー映画を撮る中で、アイ役を演じていたルビーは有馬かなから「あんたがいると1番になれないから、あんたのことが憎かった(意訳)」と言われてしまう。
その時に「ママも、こんな気持ちだったの?」と、いつも笑っていたけど、メンバーからの嫉妬により涙を流すこともあったのではないか?ということにルビーは思い至っていた。
ルビーはずっと、アイのことを完璧なアイドルで、唯一絶対の存在として崇めていた。
その姿が、私はずっと苦手だった。
実の娘にすら、アイは自分も普通の人間であると理解をしてもらえなかったのかと思うと、辛いよなぁと感じていたからだ。
しかし一方で、だからこそ現実世界でもアイのことを好きな人が多いのかもしれないと思っていた。
今の現実世界では、誰もが誰かのアイドルになる。
InstagramやTwitter、YouTube、ブログなど様々な方法で自分を発信することができる。
イベントで会うこともできるし、テレビで出ているアイドルと話ができる特典も珍しくない。
好きな人と話せたり会う機会があって、好きなものがたくさん見つかるのは良いことではあるが、私は一方で"手が届かない、本当の姿が見えない完璧で絶対的な存在"というものが少なくなっているようにも感じている。
そういう意味で、アイは手が届かない絶対的な存在としての憧れを投影しやすいキャラクターだと思う。
ファンがたくさんついた人が、自分の本音を語ってニュースになるということは珍しくなくなった。
ぶっちゃけキャラという枠がなくなって、時代が誰でも本音で話すことを良しとしているというようになってきていると思う。
それは親しみやすさを感じて、より好感を持つ人も出て来ると思うし、その方が本人だって生きやすいと思うから良いことだと思っている。
しかし、だからこそ本音は隠し通して、アイドルとしての面しかファンには見せないという、常人にはできないこと(したくないこと)をするからこそ"手に届かない、絶対的な存在"として安心して崇めることができる部分がアイにはある。
(現実世界だと、元AKB48の渡辺麻友ちゃんが近かったかも)
親しみやすさを最初から押し出していたら、たぶんアイは作中の中でも現実でもそんなに人気はなかったと思う。
実際、前半部分はアイの口から本当の気持ちが出て来ることはほとんどなくて、恐らくこうだったんじゃないかという推測でアイのイメージは作られていた。
最近になってアイが残したDVDからカミキに対する本音が開示されたりしているが、それもどこまでアイの本心なのかどうか分からないという余地が残されている気がしている。
神の視点で見ている現実世界の私たちは、アイの頑張りに対して「絶対的な存在でいてくれて安心だ。彼女はプロだ」と信頼と尊敬を感じているからこそ、アイが隠し通してきたことが公にされるという、ある意味ではアイの頑張りを冒涜されたスキャンダル編に対して、批判も多かったのではないかと思う。
ちなみに、私はアイの遺したDVDの中で"カミキはもう限界だから、別れて1人で抱え込むんだ!!けど、本当は愛していたから一緒にいたかった"というシーンを見て、もしこれが本音のアイなら微妙だと思ってしまった。
アイなら「カミキの事情なんて大したことないよ!!」とか言って周りを巻き込んで全部なんとかしようとしたんじゃないかな、と思うから。
現実的に考えると、16歳でアイドルをしているのに妊娠したとなると、相当メンタルにくるものがある。
育てられるのか?産むのが怖い、アイドルという仕事がなくなったらどうやって生きていけば良い?と動揺すると思う。
その動揺からメンタルが弱ってカミキとの別れを選ぶというのは年齢相応の女の子の反応としてありそうだけど、DVDの中のアイは冷静だから違和感があった。
私自身も、どこかアイに対して"想像の範疇を超える存在"を求めていたんだと思う。
作中でも現実でも、アイドルにはアイドルであることを人はやっぱり求めていて、それが熱狂的なアイのファン、つまり【推しの子】への熱量になっていると思っている。
有馬かな
有馬かなは作中では珍しく、年齢相応の女子高生だ。
好きな人に素直になれなくて遠回りしたり、悩みを一人で何とかしようとして状態を悪化させたり、極論に走ったり、他人のことには気が付くのに自分のことには気づけなかったり…
個人的にはもどかしいことが多く、またイラつかされることも多く、けど可愛いと思うことも多い感情が揺さぶられるキャラクターだ。
漫画の登場人物は現実世界の年齢よりも大人びて描かれることも多い中で、有馬かなだけは現実世界で見ても年齢相応だ。
恐らく有馬かなを好きな人は、芸能界という"無理やり大人にさせられそうなエグイ環境"にいながらも、まだ年齢相応な不安定さと純な部分があるところに魅力を感じているのではないかと考えている。
スキャンダル編で女優としての仕事が欲しいという気持ちから、そういう営業だと理解した上で男性の家に行ったけど、やっぱりできないと逃げたところとか、めちゃくちゃリアルだと私は感じた。
衝動的にうまい話に飛びつくけど、やっぱり途中で怖気づいてしまうのがリアルな若者だなぁと思ったのだ。
基本的に【推しの子】の作中に出て来る人物は、あかねを筆頭に皆が通常の精神年齢から解離している様子が伺える。
(特にあかねは、恋リアで出てきた当初は普通の女子高生だったのに、その後、才能が開花したという理由から、一人だけ人間を超えているようにも見える)
だからこそ、有馬の行動はかなり悪い方向に目立つ。
特にスキャンダル編以降。
女優として大成したいという気持ちから、アイドルである自分に葛藤を抱えるようになり
アクアの推しの子になるという名言を残し、有名になるためにB小町を利用していたにも関わらず「アイドルなんてしたくなかった(意訳)」という言葉が出たり
(アイドルとして応援してくれるファンや、ルビーたちのことはどう思ってたの?)
自身のスキャンダルを、アイの秘密を暴露するという形でもみ消してもらったのに、MEMちょが自分で考えてスキャンダル回避策を取った際に「上手くやったね。配信も伸びているみたいだから、言うことない(意訳)」という少々上から目線が香る言葉を言ったり
(アイが死ぬまで守っていた秘密を暴露という形でもみ消してもらっておいて、なんで偉そうなの?)
バレたらマズイよねとか言いながら、アクアと学校で制服デート(有馬は卒業しているので制服を着るのはマナー的にどうか?)したり
アクアのことをあっくんと呼べばバレないと言ってベタベタする
(あっくんは普通にあだ名だし、くっついて歩いているのを加味するとすごく親しい間柄に見えるから対策になっていないし、学生ではないのに制服で学校に入るのは軽率では?)
"演技の先輩としてアドバイスをしてあげよう"ということで清々しい顔で思案した後に、「あんたがいるから1番になれない。あんたなんていなければ良かった」と言う。
(本音が入っていたけどこの言葉はルビーのために!!という体をとって、八つ当たりを美化したのでは…?)
と、私は有馬のことはわりと可愛いし好きだと思っていたのにツッコミを入れずにはいられなかった。
けど、こういった言動がまたリアルだなと感じる。
ルビーとアクアに思うこと
自分のアイドルとしての目標を持ちつつ、アイの復讐も成し遂げると燃えていた"深堀れワンチャン!!"の時のルビーは、最高に輝いていた。
(それまではアクアがメインで影が薄かった)
自分の父親を見つけるためにアドバイスをもらって持ち込み企画を提出し、のし上るために優秀な人材を見つけてスカウトしたりと、計算をしようとするところが好きだった。
口が上手くなったというのは、世渡りのためには必須のコミュニケーションスキルであると同時に、相手を自分のために利用するという人間の厭らしさに磨きがかかったという見方もできる。
年相応に幼いルビーに、そういうダークな一面ができたことが魅力的に見えた。
けど、カミキのことが判明してからはダークな一面が消えて、アイドルとしてトップに立つという夢の方がクローズアップされていった。
ルビーの役割は、病で亡くなった子供が純真な気持ちで新たな人生を楽しむ様子から、周りが浄化されていく"心の洗濯機"みたいなものだと、最近は感じるようになった。
ルビーのアイドル姿を応援している人も多いから、それはそれで良いと思う。1つの頑張り物語としては十分だ。
ただ、それにしては有馬の卒業公演で大きな会場を抑えるまでになっていたにも関わらず、あまりアイドルとしての苦労や喜び、活動が見えなかった。
"ルビーがタレント業に力を入れていたら、注目度に伴ってトップアイドルグループになった"という感じで、個人としてどこまでアイドル活動に対して真摯に向き合っていたのか分からなかった。
(歌が上手じゃないから有馬がセンターになったのに、有馬が抜けたら2人でライブすることになるけど大丈夫なの?という気持ち)
アイドルになるための頑張り物語にするなら、もっとルビーのアイドル活動への描写が欲しいと思ってしまう。
アクアは序盤、中身は大人であるというアイデンティティを活かして様々な芸能界の問題に答えを出してきた。
"アイを間接的に殺した父親は誰か?"というミステリーが背景にありながら、探偵が事件を解決するように、アクアが人を動かして問題を解決するという社会派な内容は見ていて面白かった。
しかし恋愛パートに突入してから、様子がおかしくなった。
あかねを利用するというところは良かった。
はっきり言って、良い年をした大人が子供の恋心を自分のために利用するなんて、すごく気持ち悪い。
けど"何を利用してでも、自分から大切なものを奪った奴を許さない"という執着を感じていたから私は共感をしていた。
それに「こんな復讐に何の意味があるのか?(意訳)」「普通の男子高校生として生きたい(意訳)」という葛藤が出て来るのも、まぁなくはないとも思った。
(自分の人生を楽しみたいというのは、そりゃ当然だよねという気持ち)
ただ、そういう葛藤描写はもっと序盤から出しておいてよー!!
実は、前から悩んでいましたという後出し感が否めなかった。
あかねをさんざん利用しておいて、これ以上は危険だからって別れてすぐに、有馬とデートしたり、有馬に恋していると気づくとか酷すぎません?
しかも、あかねはカミキのことを突き止めて、ルビーを身を挺して守って、アイの映画を盛り立ててくれたり、私生活でもいろいろと手配してアクアを支えているのですが…
そもそものところ、私はアクアがアイのことをどう思っているのか?という部分が分からない。(私の読解力の足りなさかもしれないが)
仲の良かった患者が応援していたから、亡くなった後もその子の代わりに応援するという雰囲気を感じていたが、それにしては執着が強すぎる。
応援していたアイドルを殺されたから、その復讐で自分も同じことをするという意気込みは、かなり傾倒していないとそうならない。
それこそ、アイのストーカーレベルの執着が必要だと思う。
けど、そうではなさそう。
まぁ、母親を殺されたという観点から見ると正しい感情なのだが、それならかなり肉体に意識が引っ張られていることになる。
ルビーにはそういう描写がなくて100%さりなちゃんの意識があるから、アクアの復讐心の成分として"母親を殺された憎しみ"が強いなら、この2人には肉体自体が持つ意識について差が出来ている。
というか赤ちゃんの時からルビーとアクアにはアイのファンとしての熱量に違いがあって、ルビーが少し「アクアはアイへの気持ちが足りない(意訳)」と怒っていた描写もあったから、余計に私はアクアのモチベーションに疑問を感じているのだと思う。
(まぁ、そのシーンはアクアもちゃんとアイを想っているということを伝えて納得してもらえていたから、想いは強いのかもしれないけど)
カミキとアクアは同類という描写が出てきているが、まぁ顔がそっくりという時点でそういう役割なんだろうとは思っていた。
才能を良い方向に活かすアクアと、才能を悪い方向に活かすカミキ
けどそうすると、"1人で何でもできるもん"なアクアは、生前の大人としての知見からできたことだと思っていたが、
生まれ持った才能を使っていたのなら、生前の魂はどうなっているのだろうか?という疑問が湧く。
あかねは人物ではなく舞台装置になった
【推しの子】の中で最も異端な存在がいる。あかねだ。
あかねは最初、素朴な女優志望の普通の女子高生だった。
事務所の人たちの期待に応えようとして空回りして、アクアに救われたことから恋心を抱いた。
役を演じる上で人物の背景を徹底的に分析し、それを自分に落とし込むという女優としての才能を持った女子高生だ。
初期の不器用で素朴なあかねが、私は結構好きだった。
しかし、アクアがアイの子だと知ってからはアクアが間違いを犯さないように牽制をしながら助けてくれる人間を超えた万能キャラになった。
カミキを探し当て、アクアを案じて良いタイミングで連絡を取ったり、アクアと有馬の恋が成就するように後押ししたり、ルビーを身を挺して守ったり…普通の女子高生じゃないことを成し遂げてきた。
彼女は物語の外側にいるはずなのに、物語が動く時には必ず彼女が絡んでくる。
なぜか大人が無能になり、アクアはともかく、まだ女子高生のあかねがいつも助けてくれる。
神の領域になってしまったあかねは最早、舞台装置となってしまった。
【推しの子】はおもしろい
推しの子の話は、どれも私にとって魅力的な話ばかりだった。
深堀れワンチャン以降、急展開だったり、大筋から外れた1話完結だったりして戸惑うことが多いものの、どれも面白い。
ルビーの夢、アクアの夢、そして何より黒幕のカミキとの決着をどうつけるのか?有馬との恋仲は?
そして、アイの本当の姿はまださらに奥深くに隠されているのか、それとも出し切っているのか?
どうやって終わるのか、私はとても楽しみにしている。
できれば、あかねが普通の人間に戻って幸せになってくれると嬉しいとはちょっと思っているけど。
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