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【物語シリーズ】メンヘラが改善しても羽川翼と千石撫子には共感しかない話

西尾維新先生の<物語シリーズ>を、久しぶりに見返した。

初めて見た時の高校生だった私と今の私では、かなり精神性が違っているからか、いくつか見え方が変わっていた。

昔はネガティブでどす黒い感情を言葉遊びを交えてユーモアとして見せていることが魅力的な、中二病やメンヘラほいほi(ry

……純粋に面白いアニメとして見ていたのですが、今の私には"かなり露骨に"どす黒いものを見せているように見えて、あの時とはかなり違って見えて、かつ心を抉られるように感じました。

例えば、辛い思いをしている人に救いがある物語シリーズは、羽川翼と千石撫子にはやたら厳しいとか。

けど、変わらなかったものもある。

それは、"羽川翼と千石撫子には共感しかない"ということです。

私のパートナーは流し見程度にしか物語シリーズを見ていないから、詳しくは知らない。
食指が動かなかったらしい。

そんなパートナーが「羽川翼と千石撫子は気持ち悪い」とだけは言い切った。
(そんな二人に共感しかないメンヘラが側に居るというのは、なんだか皮肉だよね)


さて、この先はネタバレ満載なので、ネタバレ嫌な人はみないでくださいね。

羽川翼

羽川翼は「なんでもは知らないよ」と言いつつ、暦をはじめ困った人の相談に乗り解決に導くヒントを与える、チートキャラだ。
眼鏡を取ると可愛くてスタイル抜群で、物わかりが良くて賢くて、辛い日常に耐えて笑って、聖母のように優しくて皆に慕われる、創作物の鉄板である何でもできる完璧女子だった。

そして打算的で臆病で、理解されたいのに理解されることを諦めて、理解できない自分でいようとしてしまう、本音とは反対方向を選択しちゃう、不幸に安心してしまうところのある人だ。

メンヘラが羽川翼に共感するポイント

  1. 感情を切り離して自分を守るところ

  2. 愛されたいから白くいようとするところ

  3. どす黒い本音が溜まってるところ

  4. 表には出さないけど察してちゃんなところ

  5. 単純なことができないところ

  6. 打算的で悪意を見て見ぬフリをするところ

1.感情を切り離して自分を守るところ

辛いことがあった時、人は様々な反応をする。
怒り狂うこと、泣き叫ぶこと、モノに八つ当たりすることと様々だ。
けど、この感情の発散は本人にとっては悪いことではない。
今起こっている辛いことを、今のこととして捉えて感じ切っている儀式をしているからだ。

しかし、とてつもなく辛い体験が日常的にある人の場合は、毎日こうしてはいられない。
だから、切り離すことを選択するようになる。

この目の前のことは、別に辛いことじゃないと思い込もうとして、辛いと感じると耐えられないから、もう辛いとは思わないように努力する。

これが行き過ぎると二重人格や多重人格という精神疾患になったりする。
しかし、だいたいはここまで行くことはないから精神不安定や自律神経失調症という形で不調が出て来る。

つばさキャットやつばさタイガーで出てきた「羽川翼のストレス、羽川翼の切り離された感情の権化」というのはまさに、"あるものをないものとして扱ってきた結果"だ。
羽川翼の生み出した怪異は、二重人格や多重人格の暗喩とも取れる。

私は同じように、自分にとって嫌な感情は切り離して生きてきた。
その結果、自分のトラウマの核になっている部分に触れられた時は記憶が飛ぶことがある。
二重人格や多重人格まではいかなくても、私には"解離"という症状があった。

物語の中で、暦が「同じような環境にいたってブラック羽川を生み出さずに生きている人だっている。事情はどうあれ、そうなってしまったのは羽川の弱さだ」と言うシーンがあるのだが、私は怒りを感じていた。

お前に何が分かる!!
妹のために死ねると言い切るほど家族愛に満ちた中で育ち、人に好かれ、人を助けることを有言実行し、ちゃっかり彼女もいて、理解者がたくさんいるお前に!!くらい思った。創作物に対して。

羽川翼がブラック羽川やタイガーを生み出したのは当然だし、別に良いんじゃないとすら私は思っていた。
だって、彼女に周りはそうさせてきたじゃん。

皆、羽川翼が「そうだね」と言って引き下がるのが分かっているから、自分にとって都合のよい理屈を羽川翼に押し付けているようにしか見えなかった。

なんで押し付けられた選択肢を選択した羽川翼"だけ"が、責められないといけないの?と私は思っている。
両親がブラック羽川に襲われたのも、タイガーに家を燃やされたのも身から出た錆だし。
赤の他人を襲うのはダメだというのは倫理的には正しいけど、個人単位で考えたらむしろそれは健全だよね。

誰だって人を傷つけたいくらいムカつく!!というくらいの憎しみが湧くことはなくはない。世の中はいつだって急に理不尽を振るって来るから。

けど、その時に親しい人は狙わない。だって大切だから。
狙うのは、恨んでいる人か自分に関係ない赤の他人。
だからブラック羽川の行動は、感情的に正しいと私は思って見ていた。
あの時の羽川翼だけは自分に正直だった。

感情を切り離して、とにかく"今"を生き抜く選択をした羽川翼に共感し、そして選択肢がなかったために間違った選択をしたことを責められている羽川翼には共感しかない。

2.愛されたいから白くいようとするところ

羽川翼は自分が切り離した感情の怪異から「白々しい」と言われるほど、白くいようとした。
戦場ヶ原ひたぎから「暦は悪く見せることの大切さを理解しているけど、あなたは理解していない」と言われるほど、白くいようとした。

白いとはどういうことか?
羽川翼が自分で言っていたように「家族になるために良い子でいようとしたこともあった」というのを、ずっと続けているということだ。

ブラック羽川が言っていたように「車に轢かれた猫を埋葬するという日常の中に溶け込んだ異常なことを、猫に同情することなく無感情にしていた」と周りから清く正しく見られることを行動の第一優先としていた。
そうあることに意味が本当はないことに気付いてはいるけど、そうしていると人から好かれるんじゃないかと思い、後々に暦からはそれを期待されているんだろうと思いながら白くいようとした。

その白さの恩恵を享受する人が多数いる中で、けどその白さを裏では異常だとも言う。
戦場ヶ原ひたぎからは、例え気持ち悪いと言われ、嫌われたとしても白くあろうとするのは異常だと指摘もされている。
(裏で言われるよりは、面と向かって警戒心を持ったほうが良いよと言ってくれるひたぎは良い人だよね)

忍野メメが言った「常に正しい人間が側にいるのって、自分が責められているみたいで嫌だよね。親御さんが叩きたくなる気持ちは分かる」という言葉は、残酷だけど的を射ている。
皆、自分が生きるためにやっていることが綺麗なことばかりではないと理解しているからこそ、綺麗なままで生きようとする人を見ると自分が責められているように感じるのだ。
そして、そういう"異常な人"を排除しようとして辛く当たる。
それこそ自分の理性を働かせない奴が、正義面して悪を行うという、胸糞なことが当然だとして行われるのだから気分が悪い。

羽川翼ほど完璧に何でもスマートにできる完璧人間ではないが、私も同じように白くあろうとしていた。いつも正しく、良い子であろうとしていた。
それを押し付けられたから、そうしないといけないと思っていた。

母親の意に沿わないと殴られた。父親や学校の教師の思い通りの言動をしないと怒鳴り散らされ、人格を詰られた。
そんな人生を強いられて、その中で自分が生きるためにはそうするしかないと思い込み、毎日頑張っていた。
良い子である、正しくあろうとする、そういう自分を軽蔑しながらも、そういう生き方しか私は知らなかったから。

3.どす黒い本音が溜まってるところ

羽川翼は感情を切り離し、白くあろうとした。
それは、裏返すと本当は白くないということだ。

では感情を切り離したり、白くあろうとして我慢を続けていれば、その時に追いやった感情はどうなるのか?

答えは簡単。黒く濁って心の底に溜まっていくんですよ。

羽川翼は人に優しくし続けてきたからこそ、人を傷つける可能性のある感情を圧縮して、閉じ込め続けて、蓋をし続けてきた。
だからこそ、心の奥底に隠された本音であるブラック羽川は人を襲うことに躊躇いがないし、タイガーは躊躇いもなく燃やして消そうとする。

健全な方法なり、不健全な方法なりでこまめにストレスを発散することで、自分は白いと思っている一般的な人々と違って、
黒い感情を溜め続けることで煮詰まってしまったからこそ、どす黒い本音を抱えたままでいる羽川翼。

どす黒い感情は煮詰まってしまうと、こびり付いてなかなか取れません。
だからこそ私は、自分に害をなした人たちを何年も恨み続け、そいつらが傷つく目にあった時は「当然でしょ」としか思わず、自分を傷つけるものに対しては湯沸かし器のように攻撃性が湧いてくる。
でも、これだけで済んでいるのは、私に強い理性が働いているからだと理解している。

しかし羽川翼は、どす黒い感情が限界を超えた時に怪異を生み出した。
つまりこれは現実世界で言うと、恐らく通り魔とか復讐殺人とかそういうものになるのだと思う。
よくニュースで言われる「むしゃくしゃした」という言葉の裏には、煮詰まってしまった黒い感情が隠れている。

そういう嫌な感情を抑え続けて、どろどろに煮詰まった時に大仰なことになるというのも、かなり羽川翼に共感し、私がリアルさを感じている部分だ。

4.表には出さないけど察してちゃんなところ

羽川翼が父親から頬っぺたを叩かれた時に「よく知りも知らない小娘に知ったことを言われたら手をあげても仕方ないよね」と暦に言っていた言葉は、恐らく自分に言い聞かせていた。
けど、そういう、潔白で物わかりの良い自分でいようとする自分を見せていた。

そして戦場ヶ原ひたぎにも指摘されたように、暦の動向を気にしながらも頼るという選択肢は自分からは取らない。
つまり心のどこかで、かつてのあの時のように「困っている時に助けてくれる」ことを願っている。

助けを求めて拒否をされた時のショックを味わうのが嫌で仕方ないから、自分を守るために、じっと我慢をする姿を見せ続ける。
そして自発的に助けてもらうことに期待している。
自分を必要としてほしい、自分のことを助けたいという暦の好意を感じたいために。

まぁ、ほんの少し破滅願望が混ざっているから、最終的にどうなっても仕方がないと思っているというのもあるのだろうけど。
それを含めて、私は共感している。

5.単純なことができないところ

まよいマイマイでは「あなたのことは嫌いです」と突き放してくる八九寺(子供)を懐柔する。
かれんビーの中では、居場所を探し当てるのが難しい貝木を探し当てる。
つきひフェニックスの中では学習塾の場所を聞かれた時に暦から「全国の学習塾の場所を把握しているやつがいる」と言われるくらい、物知り。

成績が優秀で、表立って精神を病んでいるように見せることなく、かといって舐められたりすることなく世の中を渡るという、ハードなことができてしまっている。

しかし、単純なことができない。
自分の気持ちを吐露するという、簡単なことができない。
だからこそ、羽川翼はどんどんストレスを溜めて、拗らせて、怪異を生み出した。

一番分かりやすいのは、暦に対して「好き」ということが言えなかったことだ。
つばさタイガーの最後で結婚前提に付き合って欲しいと暦に言ってフラれて泣くシーンがあったものの、その頃には既に嫉妬の怪異を生み出した後だ。

しかも残念なことに、本当はタイミングが違えば付き合えていた。
暦の初恋は羽川翼だった。

暦は羽川翼に頼って欲しくて、羽川翼のために死にたいと思うくらい心酔していて、けど羽川翼が「放っておいて」と言って助けを分かりやすく求めなかったから、ブラック羽川が「触れるな」と言ってしまったから、暦の心は折れてしまった。

もっと早く好きだと言っていれば、羽川翼は暦と精神的に支え合って、痛いところを舐め合って、釣り合いが取れる形で将来を過ごせていたと思う。

まぁ、本当に羽川翼が恋愛として暦のことを好きだったのは分からないけど。
恋愛とではなく単純に、依存関係としての好きだったんじゃないかな、と私は思っている。
まぁ、私は依存関係も恋愛関係の一種として捉えているから、そんなに変わらないのかもしれないけど。

そして最も、簡単なことができない人だと思ったのは、戦場ヶ原ひたぎの親子関係に対する嫉妬から見えた。

嫉妬からひたぎの家を燃やそうとしたタイガーが言っていた嫉妬は、暦との恋愛関係ではなく恐らく家族関係だ。
嫉妬の限界が超えたきっかけが、自分の両親が同じ内容の朝食を食べて今更家族をやり直そうとしていることだったから、たぶんそう。

本当なら「いいなぁ、お父さんと仲が良くって。羨ましい」と、口に出したら少しは解消されるような些細なことなのに、羽川翼はそれすらもできない。

ひたぎの家を燃やそうとするタイガーに、「ひたぎの家を燃やしたいと思っているのも本音だけど、それを止めたいと思っているのもご主人の本音」と返すキャットのやり取りは、まさに人間の葛藤で、羽川翼が心の中でしてきたことだった。

もっと簡単に「いいなぁ」と口に出せば、それだけで解消されるものもあるのに。
「あれが欲しい」「これは要らない」と言えば楽になれるのに、そうしない。

けど、難しく考えて、自分を追い詰めて、そういう簡単なことが生育環境からできなくなっているところに、共感する。

気持ち悪いと言われることに、他人に理解されないことに、共感する。

つばさタイガーの最後、両親に「自分の部屋が欲しい」と言えたのは、まともな人になるための大きな一歩なんですよね、ほんと。

6.打算的で悪意を見て見ぬフリをするところ

羽川翼は人間の悪意をちゃんと知っている。
というか、人のネガティブな部分を見つめ続けていると言ってもいいくらい知っている。

しかし、それに気づかない、見ないフリをしている。

ちなみにここで言う悪意というのは、羽川を傷つけるという攻撃性を認識した上で放たれるものだけではない。
羽川翼にとって痛いところを突いてくる言葉のことも含む。

暦から「面と向かって助けを求めて欲しい」と思われていることを分かっていても、羽川翼は言えない。
言ってしまえば、自分がギリギリの状態で保っていたものが崩れてしまうから。
だららこそ、羽川翼にとって、助けてと言って欲しいという思いは見て見ぬフリをするしかない。
自分を壊そうとする、悪意のない悪意は羽川翼は受け止めることができない。
だからこそ、何も言わなければ暦は自分を責めることなく助けてくれることに期待をして、気づかないフリをする。

そして家族という部分に対しては顕著に敏感に反応する。
火事で家を失い、泊めてもらうことになった時、助けてくれた戦場ヶ原ひたぎや、楽しそうにお風呂場ではしゃぐ阿良々木火憐と月火の声を聞いて嫉妬するくらいに。

阿良々木家では、羽川翼を泊めることに対して少し揉めたことを知っており、そして「泊めてくれるなんて、やっぱり暦の両親だ」と思うくらいに羽川翼は親切に飢えている。
ぶっちゃけ私は「職業として警察官を選んでいて、街の正義を守る活動をする娘を止めることもない大人が、そこを渋るんだ」と思った。
そしてどれだけ、悪意ばかりを見つめてきたのかが、表れているように見えた。

そして羽川翼に対して最も悪意を乗せない悪意のある言葉をかけたのは、暦の母親だと思う。
家族っていいなぁと思っている、ほんの少しだけ温かい気持ちになっている羽川翼に対して「行ってきますと言って、この家から学校に行くことを普通だと思わないでね。家族になってあげることはできない」と二人きりの時に言う。

これは、かなりキツイ言葉じゃないか、と私は感じた。

大人相手だとしても精神的にきついものがあるのに、子供相手にそれをやっちゃうんだと、正直思った。創作物なのに。
しかも火憐や月火がいる朝食の場で言わないところが、かなり辛辣だと思った。
だって、二人きりだと誰も羽川翼を庇えないじゃない?

まぁ、自分の家族を守るための防御のためであり、そして羽川翼の教育的な面もあるとは頭では理解しているけど、感情としては納得できなかった。

これは同情してるとか、理解しているとかいうスタンスの皮を被った悪意だと私は感じていた。

そして、羽川翼はそれらを理解した上で「変な心配をかけてしまってすみません」と笑って頭を下げた。
そんなことを、どうしてさせられないといけないのか。
もう十分、傷ついてきたのに。どうして傷つけられないといけないのか?

羽川翼は悪意に気付かないフリをして、いつもやり過ごす。
そうじゃないと、自分の心が辛いから。

現実世界でも鈍感な方が生きやすいという言葉がある。
本当、その通りだと思う。

そして物語シリーズの世界の中での羽川翼は、悪意に鈍感だからいつも笑っているように見せかけようとする、敏感な人だ。

羽川翼は悪意に対して見て見ぬフリをして、鈍感であることを装うことで、傷つく可能性も含めてそちらを選択している。

躊躇いなく廃墟で暮らそうとすることも、そして誰でも困っていたら助けることも、羽川翼はそこでどれだけ傷ついても、いいやと思っている。
だから躊躇いなくできる。

もしかしたら、善意の皮を被った悪意よりも、悪意のある悪意に傷ついた方がマシだと思っているのかもしれない。

悪意に対して目を逸らしていると、傷つくことを防ぐことができる、ボロボロになった時に「気づかなかった」と言うことで、何も守れていないのに何かを守ることができる。

そういう、変に打算的な思考が働く中で悪意を知らないフリをするところに共感する。

ここは千石撫子にも通ずるところはある。

千石撫子

千石撫子は自分を押し殺している女の子。
押し殺した先にある本当の自分を知って欲しいのに、そうすると人が離れていくんじゃないかと思って、結局は皆が求める自分を演じる中学二年生。
ちなみに、ちょっと感覚が人とズレているところはある。

メンヘラが千石撫子に共感するポイント

  1. 大切なものの価値基準がちょっとズレている

  2. 割と打算的で人を動かすことに長けたところ

  3. 楽じゃない"楽"がしたいという気持ち

  4. 自分の世界以外に興味がないところ

  5. ちゃんと心の中で怒っているところ

  6. 真っ直ぐで真面目なところ

1.大切なものの価値基準がちょっとズレている

まず最初に、人間は大切なものが人それぞれ違うというのは知っての通りだと思う。
しかし、大多数の人間が"これは大切だよね"というものとズレたものを大切だと言った時には"変人"という称号をプレゼントされる。

千石撫子の言動は、結構これに当てはまっている。

例えば、なでこスネイクの時に呪いによって身体を二匹の蛇に締め付けられて苦しんでいたにも関わらず、全く表情には苦しみをださなかった。
暦が「忍野メメから苦しいはずだと聞いた」と言って、やっと「うん」と肯定した。
そして、そんな苦しみの中で蛇を何匹も殺すということを躊躇いもなくできる。
異常さを知られないという、自分の領域に他人を入れないことに徹底をしていた。

しかし女性としての危機管理は薄く、ブルマ一丁で自分の身体の跡を見せることに躊躇しない。
さらに暦に対して「撫子の身体を見ていやらしい気持ちになってほしい」という、下心と恋心を区別せず、分かりやすく女性としての自分への興味を示しているかどうかを気にしている。

なでこスネイクでは淡々として描かれていたが、異常だった。
そして分かりやすく描かれていた。

撫子にとって一番大切なのは、自分の領域に踏み入れられないこと。

撫子は自分の表情が見えないように前髪を伸ばしている。
そして、そんな前髪に大好きな暦が触れようとした手を、戸惑いながら二度も避ける。
しかし最後にスカートの裾をつまみ上げられた時は、避けない。

たぶん、大多数は逆。
スカートをめくられないことの方が大切。

しかし撫子にとっては前髪を触られて顔を見られるというのは、自分の領域を侵されることに等しいからこそ避けたのだ。

そして反対に、スカートに関しては撫子は何も考えていないから反応しない。

ここはスカートめくりをされた時にビンタをした羽川翼との違いである。

他にも、自宅に遊びにきた暦を誘惑するのには躊躇しなかったのに、押入れを開けようとする時は大きな拒否感を示していた。

この押入れには、ひたぎエンドで撫子は漫画を描いていることが明かされる。
撫子にとって誰にも言っていない、最大の不可侵の領域だった。

自分自身が大事なだけの詰まらない奴だと他キャラに責められるシーンがちょこちょこあったが、そうではない。
単純に自分の世界が大事な人なのだ。

いつも他人は、ずかずかと寄ってきて「そんなんじゃ社会に適応できないよ」としたり顔で人の領域を無遠慮に侵してくる。
本当は、そうやって人を尊重しない姿勢をもった、その人こそ裏でヤバい奴だと言われていることにも気付かずに。
けど、大多数が自分の領域に踏み入っていくことを当たり前としているからこそ、撫子は理解されることを諦めて自分の世界を大事にしている。

放っておいて!!私はあなたを傷つけないから、私の領域を侵さないで!!という撫子の気持ちに私は共感する。

2.割と打算的で人を動かすことに長けたところ

撫子は自分の利用方法をとてもよく理解している。

なでこスネイクの時に、忍野メメの元に行く途中で座り込む忍を見た時のこと。

神原は忍を可愛いと言っていた。睨まれているにも関わらず、まったく気にしていなかった。
(まぁ、レズという性的趣向や細かいことを気にしない性格というのもあるだろうけど)

しかし撫子は「暦や忍野メメを見る目と、私や神原さんと見る目が違う。私は視線に敏感だから分かる」と、女子と男子で態度を変えていると暦に言った。
暦に気のある女を排除するために、自分の可愛さを利用した。
可愛くておとなしくて、攻撃性のない純粋の塊とも言える自分の言うことならば、聞くだろうという計算が見えた。

次に、学校の教師だ。
撫子は黙っていれば相手が去っていくことを知っていた。
それは少なからず撫子にとって心が傷つくことではあっても、それでも無理難題を押し付けられた撫子が、教師に表立って反論したりできなかった。
だから、撫子は自分の表情が見えないこと、そして普段から大人しいことを利用して黙るという作戦を取り続けた。

生徒に責任を押し付けるこの教師はクズだ。
罪悪感を感じているかどうかは分からないが、そのクズ教師は千石撫子という学級委員長に任せているという大義名分を得て体裁を保っている、最低な奴だ。

しかし、撫子はそれすらも利用して、黙ることを選択している。
その証拠に、前髪を切られた後は教師が去っていかないことに対して「私がそんなに困っていないことが見えてしまっている」と自覚をしていたのだから、強かだ。


最後に、撫子は両親は可愛いという表面的なところ以外、自分に興味がないと理解している。
だからこそ、漫画を描いている自分を隠した押入れを開けないように言えば、それに従うと思っていた。
実際、両親は撫子が行方不明になっているのに手がかりを掴もうとするために部屋を物色もしないし、押入れも開けなかった。

撫子はちゃんと、自分がどう見られていて、どう動けば自分の思う通りに人が動いていくのかをちゃんと理解している。

心の中では傷ついていても、そうしていることで自分の存在を感じられるから甘んじてしまう辛さに共感する。

3.楽じゃない"楽"がしたいという気持ち

"被害者で居るのは楽だよね"と、なでこメデューサではさんざん言われる。
しかも忍に「良かったのぉ、たまたま可愛くて」という侮辱さえされる。

楽な訳、あるかーーーー!!と撫子の代わりに私が言いたかった。

撫子が被害者でいるのは、実際に自分の領域を侵され続けて嫌だという感情が溢れすぎたからだ。

可愛いということを押し付けられて、そうじゃなくなったらどうなるの?という不安を娘が抱えていることを、両親が思い至らなかったことに問題がある。
というか、率先して両親が押し付けていることが問題だ。

そして、そんな辛い気持ちを抱えて生きるには苦しすぎるから、周りにこれ以上干渉されないように「可愛いだけの撫子」で居るように、あえて縛られてあげているのだ。
つまり、自分を守るために可愛く、大人しく、何も考えていないように見せているのだ。
それが本当は良くないことだと理解していても、それでも全て跳ね除けるだけのエネルギーが今の自分にはないからこそ、苦しいことを言われても、自分に納得させるようにその言葉を咀嚼しようとするのだ。
本当は、自分を守ることで精一杯になって、そんな言葉を咀嚼するような余裕すらないはずなのに。

それを寄ってたかって、被害者は楽でいいよねとか言うんじゃねーーー!!という風に私は見ていた。

しかし、そんな撫子の願いや努力も虚しく、月火から「ねぇ、なんで小学生の時に少しだけ関わった暦を好きで居続けられるの?」「彼女ができた暦をどうして諦めないの?」と煽られ、
そして「好きな人がいる」って言えば告白を断るのは楽だもんねと、前髪を切られた上に、隠したかった本音を土足で引きずり出される。
終わりにしてあげるという、お節介から。

この物語シリーズの登場人物たちは、エネルギーに溢れていて、他人に対してかなり土足で踏み込んでいく。
そして防戦を強いられている者には厳しい言葉が投げつけられる。
この点に関しては、かなり現実的に思える。

楽じゃなくて苦しいけど、そうやって他人の意を汲んで振る舞うという"楽"をして自分を守ろうと戦う撫子に、私は共感する。

白くあろうとして鈍感なフリをする羽川と、可愛いで居続けようとする撫子は似ていると私は感じている。
けど、羽川は賢く見られて、撫子は下に見られるのが理不尽だなぁと思います。

まぁ、本質は何かを見極めて日々を生きる羽川と、自分の安全圏を確保したいから周りを見ない撫子では違いが出ても仕方ないけど。

4.自分の世界以外に興味がないところ

私が一番撫子に共感しているところは、自分の世界以外に興味がないからこそ周りを気にして防戦をしているところ。

けどこれについては、たぶん多くの人が多少は共感できると思う。
好きな人いないの?という話題を体よくかわすために、アイドルが好きだと言ってみたり、仮の好きな人を作ってみたりという経験はないだろうか?

ようはそれだ。

撫子は可愛い以外は、かなり嫌なことを言われます。
ひたぎには「可愛いガキは嫌い。絶対に友達にはなれない」と言われ、
忍には「黙っていれば得できるだろ」と言われ、
扇には「この子にはとりあえず阿良々木先輩の名前を出しておけばいい」と言われ、
貝木からは「世間知らずのバカだから騙しやすい」と言われ、
月火からは「可愛いだけの撫子が悪い」と言われ、
暦に気にかけてもらって嬉しいという気持ち(私の困りごとについて時間を割いてくれることが嬉しい)が口から出た時には「お前おかしいぞ」と言われる。

そして羽川には「独自の世界観があるから誰のことも相手にしていなくて、誰のことも好きじゃない」と本質を見抜かれる。

「なんで忍のことは心配するのに、私のこと(片思いで居続けさせてくれることで保たれる自分の世界)は助けてくれなかったの?」と、自分の世界を無意識に壊そうとする暦の行動に怒りを表したり、
「暦が死ねば、もう失恋しなくて良いしロマンチックだから」という、他者の迷惑な好意から自分を守る理由を作るためだけに、暦と戦場ヶ原を殺そうとすることができるくらい自分の世界が大切な人です。

だからこそ、他人から傷つけられるようなことをされても甘んじている。
もちろん傷つくのだけど、その傷さえも自分の世界に気付かれず、守るためのものだと思い耐えている。

撫子のことを下に見ている人が、実は撫子から全く相手にされていないということには、一体何人気づいているんだろう?

作中では、羽川と貝木とうっすら戦場ヶ原も気づいているのかなっていう感じでしたね。

私は「もっと人と仲良くなった方がいいよ、人に興味持たなくちゃ」と言われたり、何かにつけて絡んで来る人間にはたくさん出会ったが、誰一人として大切だとは思ったことはなかった。
理解もできなかったし、するつもりもなかった。

たぶん、撫子にとってもそうなのだろう、というところに私は共感している。

5.ちゃんと心の中では怒っているところ

撫子はちゃんと、心の中では怒っている。

なでこメデューサで、クチナワという神様と融合したという思い込みをしている時の逆撫子がそうだ。

お呪いによって人間関係が壊れてしまい、クラスの雰囲気が最悪になっているのを何とかしろと言ってきたクズ教師に対して、
「教師にできないことが、どうして一生徒の撫子にできると思うのか」「疲れてるんじゃないか?疲れてるに決まってるだろ」「大人しい奴が本当に大人しいと思うな、何も考えていないと思うな」と言う。

そしてクラスメイトを有象無象(数が多い、くだらない人間たちという意味)と呼び、
ちょっと気に入らないからってお呪いを掛け合ったことをクズだと言い、
今はお互いに不信感が募り合って人間関係が崩壊したことを、どこかで折り合いを付けろ、このまま時間を過ごすなんて無意味だと言う。
そして最後に「大嫌いだがクラスメイトだと思っている」という、撫子らしい本音とお人好しな部分も出ていた。

そして、撫子のことを侮辱する忍に「なんでそんなことを言われないといけないの。撫子のことを何も知らないくせに」と怒ってご神体を飲み込んで神になった。

そう、撫子はちゃんと心の中で怒っていたのだ。

けど、上手く表面に出して加害者になって自分の世界が壊れるくらいなら、何も言わずに守っていたいという理由で我慢をしていた。

私は怒りを自分の中だけで消化し続け、耐え続け、そして頑なに自分の世界を守るところに共感する。

怒りを上手く調節して表すことができるのが、いわゆるまともな人。

そして、撫子はもう少し後でそれができるようになる。

6.真っ直ぐで真面目なところ

撫子は狂っていると散々な言われようをする。
けど撫子は、真っ直ぐで真面目な人だ。

例えば、貝木に神様から人間に戻るように諭される中で「もう神様になったのに、漫画家になりたいからって、やっぱり辞めたって言って人間になっていいの?」と、自分の決めたことを曲げることに疑問を投げかける。

ようは、扇に唆されて自分の心の中を解放した結果、なし崩し的に神様になってしまったにも関わらず、参拝客の願いを叶えようと張り切ったり、神様になったのだから中途半端はできないと考えるような真面目さんなのだ。

貝木が撫子を騙そうとした時に「皆、嘘つきだよね」と言うくらい、皆が自分勝手に物事を解釈して振る舞う姿に辟易していた。

羽川翼が感情なく正しく見られようとしていたのに対して、撫子は心から無垢だった。

まぁ、現実世界ではこれを世間知らずと言うのだけど。
それ自体は正しいことなのに、なぜか柔軟性がないとかいって見下されるし、子供だと言われるのだけど。

そして、撫子に対して貝木は「俺の知っている奴は好きになった目の前の人を、さも初恋だというように振る舞うぞ」と言って戦場ヶ原ひたぎのことを撫子に話していた。
ようは、自分にとって都合よく振る舞うのが普通の人間だということを伝えている。

私は"あったことを自分の都合を考えてなかったことにする"というのは、軽蔑するタイプ。
一度決めたのだから全うするという、撫子の考え方のほうが共感できる。

けど現実は、都合の良いように嘘をついて、時に自分を正当化するために他人を噓つき呼ばわりする奴がはびこっている。

つまりは、戦場ヶ原ひたぎのような人間が上手くこの世を渡って生きていっている。
ここでもひたぎは、普通の女子だということが分かる。

まぁ、そんな撫子だが、なでこドローでは、過去の自分と対峙して受け止める強さを見せた。
自分の感情を、表にだすことができるようになっていた。

撫子は自分の世界と世の中のまともさに折り合いを付けて、うまく距離感を近くすることができている。

最後に

実は羽川翼も千石撫子も、本当に阿良々木暦のことが好きだったのか?と作中で疑問視されている。

羽川翼は戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦に。
千石撫子は阿良々木月火と羽川翼に。

羽川翼に関しては、戦場ヶ原ひたぎと同じく自分を助けてくれたから好きになったのだと思う。
辛さを理解してくれる、分け合える相手として、ある種では依存的な気持ちからの恋心だったと感じている。
まぁ、それを恋心と呼んで良いのかどうかは他人ではなく、羽川翼が将来的に悩むことになるかもしれないけど。

千石撫子については、暦は他の人と違って優しいという、消極的な理由からの好意だと思っている。
けど、なでこドローの中で「暦を待っているだけで、想っているだけで幸せだったのに、全てなかったことになるの?」と、人の顔色を伺ってばかりいた過去の撫子は泣きながら「そんなの嫌だ」と今の撫子に対して訴えていた。
自分の世界が何より大事な撫子は、暦にだけは歩み寄っても良いと思っていた。
それは恐らく、本当に恋だった。
ただ種類としては、真面目で世間知らずな撫子だからずっと想い続けられただけで、本当は吹けば飛ぶような、「あの人かっこいいな」くらいのふわふわとした好き。
もっと撫子が自分がモテることを自覚して、その上で現実世界を楽しんでやろうとするような性格だったら、たぶん「あぁ、私のほんのりとした可愛らしい初恋」という過去にとっとと分類していたと思う。

それは本当に好きなの?恋なの?というのは、他人が言うのは野暮だ。
感情なんて、その人にしか分からないのだから。
後々になって違うと分かるかもしれないけど、それももう本人だけが知ることだ。

物語シリーズは、羽川翼にも千石撫子にも厳しかった。
けど最後は少し優しさを見せてくれた。

環境やタイミングが違えば、彼女たちもまた苦しまずに済んだのかもという、現実に即した残酷さを残しつつも。



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