見出し画像

メンバーが欠けたバンドには色気がある

フジファブリックは昔聞いていた。
たまたま最近レンタル落ちのCDを買いなおしたら興味が再燃したけど、それほど熱心なリスナーでもない。

YouTubeは蚊みたいに人の趣味をかぎつけてくるから、似た作風のバンドでお薦め欄があふれた。
フジファブリック、俺が聞かないあいだも作ってたんだなあ、自分にとっての空白期間が埋まっていく感じが面白いなあ、と思っていたらグレイプバインというもっと技巧派のバンドも薦めてきた。
この人たちは佳作100曲、ミリオンセラー0曲のバンドで、フジと同じでメンバーチェンジの経験がある。

初期は素直じゃない歌詞でも軽快だった。20年熟成させるとこのように熟成されていた。意味がわからなくて、いつまでも面白い。

アイドルもメンバーが卒業していくけど、担当パートがはっきりして若いころからずっといっしょにわかりあえている、代わりがいないロックバンドのほうがメンバーチェンジは深刻だ。

バンドが人体だとしたら、メンバーはそれぞれ足、心臓、脳、みたいに役割が決まっていて、それぞれ自然なフォームで走り出す。
なのに、いきなり足が消える。肺が消える。

それを、足になる訓練を受けてないはずの「腕」が、俺が足をやると言い出して、独自の走りかたで動くことをやめない。その姿に色気を感じる。
一人でも消えたらプツンと生命停止するのも、また美しい。

AIにクリエイターの仕事が奪われるというけど、あれには背景はない。
何の情報もなく「あなたのことを思い出す」と聞くと、ラブソングかなと思うけど、これを歌った人は長年いっしょだった家族や友人と別れたばかりだよ、と背景を知ると、同じ歌詞が聞き手の中で変化する。

だから小説も絵も、作者とともに生きる感じがするものはなくならないんじゃないか、とか思った。いや嘘。じつはそんなこと考えずにいろいろ聞いているし、割と新しいのもお薦めされたら聞く。


この記事が参加している募集

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。