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ユキガミ様とユキオニ(仮)

むかしむかしあるとことに俊之くんという少年がいました。
俊之くんの住む街は冬になるとたくさんの雪が降ります。
その雪を降らすのが雪の神様「ユキガミ様」。
俊之くんの家は代々ユキガミ様のお世話をするのが仕事です。
俊之くんとユキガミ様は代の仲良し。
学校であったことをお話したり、一緒にご飯を食べることもありました。
そんなユキガミ様の唯一の楽しみが雪を降らせたあとに飲むお酒。
「この一杯のために生きてるんだよなぁ」というのが口ぐせです。

この街はユキガミ様の降らす雪で豊かな土地になりました。
高い山に降った雪は、とてもきれいな水になって田んぼや畑を潤します。
まだ雪を使った雪蔵は食べ物を長い時間腐らせずに保存することができました。
俊之くんの街の人々はユキオニ様に感謝をして、大好きなお酒を俊之くんの家にお供えにきました。
「どうかこのウチでつくった美味しいお酒をユキガミ様に……」
しかし、ある時ユキガミ様は手が滑ってしまい、いつもよりとても多くの雪を降らしてしまいました。
三日三晩降り止まぬ雪に、家々は雪で埋もれてしまいました。
神様だって間違うことはあります。
しかし、街の人たちは手のひらを返すようにユキガミ様の悪口を言いました。
「こんなに降らせるとは何事だ!!」
「家が潰れちまうじゃねーか!!」
俊之くんの家に届いていたユキガミ様へのお供えのお酒もまったく届かなくなってしまいました。
俊之くんも学校でイヤなことを言われることも増えて、あれだけ仲が良かったユキオニ様とも遊ばなくなってしまいました。
それからと言うもの、あれだけ降っていた雪がピタリと止んで、まったく降らなくなってしまいました。

ユキガミ様が心配になった俊之くんはユキガミ様の住む家に見にいきました。
するとユキガミ様は「鬼」になっていました。
髪の毛は逆立ち、髪の毛も顔も真っ白、目は吊り上がり、口は裂けていました。
怖くなった俊之くんは挨拶もせずに逃げ帰りました。
大好きだったユキガミ様が、ユキオニになってしまった……。
このままでは大変なことになってしまう、と思った俊之くんはお父さんに相談しました。
「それは困った。このままでは雪が降らなくなってしまうぞ」
お父さんは言いました。
この土地に雪が降らなくなったら大変なことになってしまいます。
ユキガミ様に戻ってもらわなくては!
お父さんは街の人たちを集めて相談しました。
ユキガミ様がユキオニになったことを伝えても、まだ納得してくれない人もたくさんいました。
「もう雪なんて降らなくていい!そんな神様は放っておけ!」
そんなことを言う人もいました。
俊之くんは悲しくて悲しくて仕方がありませんでした。
あんなに街のことを考えて雪を降らせてくれた神様は他にはいないことを知っていたからです。
一緒に雪合戦をして遊んだことを思い出すと涙が出てきました。
気づくと俊之くんは叫んでいました。
「なんでみんなのために雪を降らせてくれたユキガミ様にそんなことが言えるんだ!ぼくはユキガミ様が大好きだっ!早くもとの神様に戻って欲しい!!みんなは違うの!?」
俊之くんがそう言うとみんな静かになりました。
沈黙がしばらく続いたあとに、お父さんが言いました。
「我が家に代々伝わるユキガミ様を戻す方法があるから、みんなでやってみないか」

それは街中のお酒を一滴足りとも残さずユキオニにお供えするれば、ユキオニからユキガミ様に戻るというお話でした。
街中の男たちは悲鳴を上げました。
ですが、これ以上雪が降らないのも困ります。
男たちは自分の家にあるお酒を一滴残らず集めて、ユキオニにお供えしました。
俊之くんも一生懸命にそのお手伝いをしました。
そして次の日、供えられたお酒をすべて飲み干したユキオニはユキガミ様へと戻りました。
街の人たちもホッと一安心。
すぐにユキガミ様は街の人々のために雪を降らす仕事を始めました。
そして仕事のあとにお酒を飲んで「この一杯のために生きてるんだよなぁ」と嬉しそうに言います。

おしまい。



新潟県でカメラマンとして活動しています。特に飲食店などのメニュー撮影、ブツ撮りに定評あり。ポートフォリオ→https://jinbo-lab.jp/。一般社団法人 愛南魚沼みらい塾理事。1980年生まれ。