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結果発表:ウィークリーぱか詠み第3回『ヴィクトリアマイル』

おんぶにだっこの自覚

はじめに

前回、結果発表を出すのに時間がかかってしまった関係で、Twitterでは開催の告知が遅れ、Discordでは告知はできていたものの初めにアナウンスしただけ、となってしまいました。その関係で各締め切りを少しだけ伸ばさせて頂きました。色々とご迷惑をおかけしまして、大変申し訳ございませんでした。

そんな中でも、短歌をお寄せいただきました。いつも本当にありがとうございます。

また、今回から投票にこちらのサイトを使用しました。

こちらは『ぱかたんか』メンバーの方に教えていただいたものです、本当にありがとうございます。皆様に過剰に支えられて、やっと運営できております。

というわけで、おしゃべりはこのくらいにしておきまして、お寄せいただい短歌をご紹介させていただきます。今回はこちらの3首をお寄せいただきました。

ありがとうございました!

ついにフリガナが登場しましたね。上の画像はPowerPointで作成したものですが、この後に記述するようなnoteでのフリガナ表記のやり方も、別の『ぱかたんか』メンバーの方に教えていただいたものです。おんぶにだっこ、本当に助かっています……!

それでは、結果発表に移りましょう。

結果発表

第3位

幕が上がる5月15日 君は強く、逞しく、美しく

8Pt 蒼豆

モチーフ:デアリングタクト
コメント:2022年のヴィクトリアマイル、豪華メンバーの揃い話題性の高かったレースでしたが、その中で1番注目していたのは1年振りに舞台に戻ってきたデアリングタクトでした。
「無事に戻ってきて」と祈りました。薄曇りの府中の直線を最内から伸びてくる姿は彼女が本当に強くて、逞しくて、美しかったことを証明していました。多くの人が夢を見た瞬間でした。例えそれがエゴでも、それが人の美しさの断片だと思った瞬間でもありました。

 昨年度のヴィクトリアマイル(優勝馬:ソダシ)は、リアルタイムで見た方も多いのではないでしょうか。ウマ娘から競馬に魅了された私もそのころにはズップリで、彼女の活躍を見たことはなくとも「あのデアリングタクトが帰ってくる!」と意気込んでいました、その後にウマ娘モチーフになるとも知らずに。
 私の周囲もそういった反応で、最終オッズ5番人気とは思えないほどデアリングタクトの話が飛び交っていました。馬券には絡ませずとも、彼女の勝利を願った人も多いでしょう。それほどに、多くの願いを託された一戦だったと思いますし、競馬がただのギャンブルではないと改めて感じたレースでした。
 さて、そんな彼女とそれを見守る人々の様子を表した一首ですが、句切れの解釈が分かれる一首でもあると思います。私は6,6,5,7,6と解釈しました。全体としては30音で字足らずですが、これは意図的なものでしょう。後で詳しく述べます。
 上の句はスムーズな印象を受けました。おそらく、「君は」以降へ接続するための役割を担わせたのだと思いますが、そのうえで「5月15日」というワードを使っているのがお見事。蒼豆氏はときどき日付を詠み込むのですが、偶然あるいは運命によって決められた、非常に限定されたそれを短歌に落とし込むのが非常に上手い。
 今回でいえば、「まくが/あがる/ごがつ/じゅうご」と、3音の繰り返しでリズムを取り、それがスムーズな印象を生み出して、「にちきみは」の5音に繋いでいるのだと思います。こういった表現は蒼豆氏の上手いところ、今回も腕が光りました。
 下の句もお見事。「強く、逞しく、美しく」とこちらは形容詞のリフレイン。「つよくたくまし/くうつくしく」と切るか「つよくたくましく/うつくしく」と切るか、私は前者で解釈しましたが、いずれにしても結句は字足らずで終わります。それが余韻を生み出して、コメントにあったような「夢」や「美しさ」を感じさせてくれるのかな、と。
 全体として、非常に完成度の高い一首でした。言葉の隅々まで血が通っているような、考え抜かれ、研ぎ澄まされた歌。読み込むほどに新たな発見がある。ここまで完成度の高いものを二次創作短歌で出せるのは本当にすごいと思います。

第2位

青嵐ふたたび吹いて頂点の女王の証ふたつ輝く

9Pt キマユ

モチーフ:ヴィルシーナ(2014年、二度目の制覇)
コメント:ウマ娘未実装のモチーフですが、いつかウマ娘に来てくれると信じて選びました。

 今年のヴィクトリアマイル、皆さんはご覧になられたでしょうか。馬券は人気馬で決まりましたが、上がり最速の脚を使って4着に食い込んできた15番人気のド穴馬がいました。その名はディヴィーナ。モーリス産駒の三勝クラス馬の激走は、あまりに予想外なことで多くの人に驚かれました。それについて安藤勝己氏はこのようなコメントを残しています。

 はい、ディヴィーナの母がモチーフとなったヴィルシーナです。ウマ娘から競馬の世界に入った方は知らない方もいらっしゃると思います(私もここで初めて知りました)。というわけでこちらをご覧ください。

 ……なんかもう、戦績をデータで見るだけですごいんですよね。
 牝馬クラシック3冠全てジェンティルドンナの2着に惜敗したり、1度目のヴィクトリアマイルの勝利後、なかなか勝ちに恵まれず人気を11番まで落とした翌年のヴィクトリアマイルで1年ぶりの勝利を収めたりするなど、あまりにドラマチック。特に2回目のヴィクトリアマイルはすごいもので、スタートからハナを維持し続け、そのまま逃げ切りV。見事な復活劇でした。
 長々と語りましたが、それを踏まえた上で見てみましょう。かなりシンプルな言葉運びの中に強い意志が隠れているように感じます。
 初句の「青嵐」は、ヴィルシーナの毛色が青毛だったことからでしょう。ちなみに、青嵐とは初夏のころに吹く少し強い風の意味で、俳句では夏の季語として数えられます。初夏とはだいたい5月初旬あたりから6月初旬までのことを指し、俳句としても夏とは立夏から始まるものです。今年の立夏は5/6だったそうなので、その辺の細かい整合性も取れているんですよね、抜かりなし。
 「ふたたびふいて」や「(頂点)のじょおうの」など、同じ文字を繰り返しているのがポイント。定型をしっかり守りつつ音として気持ちのいいテンポを作っています。
 全体として句切れなしの一首で、先ほどとは打って変わってかなりストレートな印象を受けましたし、正直に言うと「あんまり解説するトコないな」と思いました。しかし、おそらくはそれでいいのだと思います。
 私は先ほど、ヴィルシーナについてかなりしっかり語り、参考となるページを紹介し、ヴィルシーナへ思いを馳せました。そして、コメントにあったようにヴィルシーナが「いつかウマ娘に来てくれ」た時、キマユ氏の短歌によって作られた知識という下地は、きっとウマ娘の彼女を好きになるきっかけになる。
 つまり、この短歌の本懐はすでに果たされたか、この先も果たされることを待ち続ける。そんな一首なのではないかと思いました。

第1位

淑女レディたるもの強かに美しく! 泣き言は無し、さぁ素手喧嘩ステゴロだ。

10Pt von
1着おめでとうございます!

モチーフ:ヴィクトリアマイル(2023年)

 こちらは今年のヴィクトリアマイルをモチーフにした一首。この歌を語るうえで、1つ語らなければいけない裏話があります。というのも、こちらを投稿していただいたのが、メイケイエールの回発表前なんですよね。おそらく、事前に話題になっていたソダシとメイケイエールの再戦もモチーフの一つではあったのだと思います。
 これに関して、メイケイエールは状態に問題なしとの判断でそのまま安田記念へ、ソダシも中2週で安田記念へ向かう(!?)そうで、再戦はすぐに見られそうです。
 さて、今年のヴィクトリアマイルについては先も少し語りましたが、本当にメンバーが豪華だったのも特徴の一つでした。昨今の牝馬の勢いは凄まじく、牡馬相手にG1を勝った馬も少なくありません。そんな牝馬全体の盛り上がりをヴィクトリアマイルに見出し、モチーフとしたのでしょう。
 短歌としては3句切れで、明確に前後に分かれています。ただ、その間に対比が盛り込まれていて、非常に完成度の高い一首となっています。
 1つ目の対比はフリガナ。初句には「淑女レディ」、結句には「素手喧嘩ステゴロ」と、フリガナとそれを入れる位置(初句⇔結句)、さらにそのワードが生み出す印象で対比を作っています。「淑女レディ」が華やかな印象なのに対して、「素手喧嘩ステゴロ」はかなり野性的な印象を持たせますよね。1つ目の対比といいつつ、位置と印象の2点で対比しています。
 2つ目の対比は、句読点です。上の句では最後に「!(感嘆符)」が打たれているだけであるのに対して、下の句では途中に「、(読点)」、最後に「。(句点)」が打たれています。これを1つ目の対比の「印象」と合わせると、以下のようになります。

上の句→華やか:!(感嘆符)
下の句→野性的:、(読点)。(句点)

 気づかれた方も多いかと思いますが、華やかなら読点や句点を、野性的なら感嘆符を使うほうがそれぞれの印象に合っています。つまり逆なんですが、これは意図的なものでしょう。
 つまり、わざとズラすことで、華やかさと野性的さを繰り返し登場させ、歌全体にメリハリを持たせつつ、スピードを生み出し一気に受け手に届ける。そんな魅力を持たせてくれています。
 また、ズレていると言いましたが、ズレていない面もあるんですよね。じゃあ今までの何だったんだよと思われるかもしれませんが、これは馬という動物に着目すると見えてきます。特に下の句では、野性的でありながら句読点で静かな印象を出すことで、レース前の静かな闘志を表現しているのだと思います。上の句は馬として見るなら気性難、もしくはTwitterなどでよくある「元気なお嬢様」的な概念かもしれません。ウマ娘でいうカワカミプリンセス的なところは、今回の出走馬にも見受けられますし。
 ここまで語った内容をまとめますと、「フリガナの位置(初句⇔結句)と印象(華やか⇔野性的)での対比」、「感嘆符と句読点、そしてそれが生み出す印象とフリガナワードが生み出す印象とのズレ」、「ズレが生み出す印象の変化の繰り返しによるメリハリとスピード感」、「元気さと静かな闘志の表現」ですかね。どこを見てもこだわりがあり、どんな視点で見ても対比が存在している。
 これを一首で、あんなに簡単な語彙でやってのけるのだからすごい。1着にふさわしい、見事な一首だと思います。

これは内輪の話なので飛ばしていただいて大丈夫なのですが、この歌が送られてきたときあまりにvonの短歌すぎて一人で笑っていました。彼と親交があったり、彼の短歌をよく見る方は、冒頭の短歌紹介のシーンや投票の際に彼の参加を察したんじゃないでしょうか?Twitterでも言ってたし。

総評

今回、評を書いていてめちゃくちゃ楽しかったです。と、同時にめちゃくちゃ疲れました。特に1位と3位ですが、掘れば掘るほど新発見があって、書きながら書きたいことが増えていく、という無限ループでした。そんなわけで今回ちょっと文字数が増えてます、長くてごめんなさいね。前回の結果発表で「スルメ」ばっかりではないのかもしれないと書きましたが、今回はだいぶ「スルメ」でしたね。人によるんだな~。

また、短歌のキャプションには毎回、筆名とポイント(同点の場合は人数も)を記載しているのですが、今回は3位が8Pt、2位が9Pt、1位が10Ptでした。大接戦クビ差……!

そして、得点の合計が27Pt、つまり投票者が9人と、投票も今までで一番の盛り上がりを見せました。やっぱり、そのために作られたツールは付きやすかったですね、匿名なのもよかったのかもしれません。
(投票の際の記名はお任せしていましたが、ほとんどが匿名でした。この辺は引き続き、各自の判断にお任せします。)

今回はキマユ氏や蒼豆氏といった、もはやいつものメンバーとなった方々が素晴らしい短歌を下さいました。今回の蒼豆氏の短歌の評を執筆しているとき、今までの評や感想文などを書く時間の中で一番楽しかったです。

そして今回初参加だったのはvon氏。いつもエネルギッシュでスピーディな歌を詠む彼ですが、今回も彼らしい素敵な短歌を投稿してくれました。一首の中に要素が詰め込まれまくっていましたね、おそらく彼はこれを無意識でやってるから怖い。

今回の短歌をきっかけに彼らの過去作を見てみたい、という方もいらっしゃるかと思います。でも、Twitterでは普段のツイートに埋もれてしまったりなどで、やや探しづらいんですよね。

そんなとき、『ぱかたんか』のDiscordサーバーが便利です。短歌を投稿するためだけの部屋があり、非常に過去作へ遡りやすくなっています。詳しい案内は、記事の最後にあるリンクからご確認ください。

というわけで、ウィークリーぱか詠み第3回『ヴィクトリアマイル』結果発表でした。ソダシとメイケイエールの安田記念では再戦が見られるといいですね。

次回のお題

次回のお題は『優駿牝馬(オークス)』です。

投稿の締め切りは5/19(金)23:59
投票の締め切りは5/21(日)12:00です。

『ウィークリーぱか詠み』についてはこちらから。

『ぱかたんか』について、詳しくはこちらをご確認ください。

それでは、第4回でお会いしましょう。

南の柳


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