ホラー映画を観た夜
ここ最近、数年前に流行ったホラー映画をよく観ている。ヤバめな顔をした女の子の人形が出てくるアレとか、ホームビデオがとらえた怪奇現象のアレとか、ナイフを持った人形が追いかけてくるアレとか。ホームビデオに関しては10年前以上前に流行った映画だと知ってちょっとショックを受けた。
昨日は下水溝から顔を覗かせるピエロの映画を見ながら寝落ちた。そして明らかに一連のホラー映画鑑賞のせいだと思われる夢を観た。白い服の女の人が背後にいて、ついてくる夢。そのせいで夜の3時半に起きるハメになった。
冷や汗をかいて目覚めた……と思いきや全然そんなことはなかった。普通に夜中に目が覚めて、電気がつけっぱなしになっていることに気づいて「電気代がもったいない」と現実的な理由で絶望しただけだった。
恐怖で心臓がドキドキすることはなく、部屋が不気味に感じることもなかった。
理由は明らかで、出てきた女の人が全くと言っていいほど怖くなかったのだ。俯いた顔は黒い髪の毛で隠れていて見えなかったが、その立ち姿は気の毒な印象を与えた。
惨めで、気弱そうで、寄る辺ない感じ。長い髪の下に恐ろしい顔を隠しているというより、ガックリ気落ちして泣きそうな顔を隠しつつ、無理矢理ヘラッと愛想笑いを浮かべようとしている。
ああ、仕事している時の自分はこんなふうに見えるのだろうな。なぜかそう思ってしまって、怖くなかった。そしてこのド深夜に、上の階の住人が風呂に入る音が聞こえてきて、怖さは本当に吹き飛んでしまった。
夢を見るときでさえ、仕事が頭の中いっぱいに広がっているのだ。やっていられないな、と思う。別に怖い夢を見たかったわけではない。それは御免だ。だが、怖い夢を見ているはずなのに、情けない幽霊に同情心を抱いて目覚めることになるとは、自分もずいぶんくたびれたものだ。
また一週間が始まる。
あの疲れ切った幽霊のような見た目で、電車に揺られ、会社で肩身の狭い思いをし、夜遅くまで残業するのだ。それならいっそ、本当に幽霊になってその辺りの道端に突っ立ている方が、まだ面白いかもしれない、などと思う。そんな、日曜と月曜の境目である。
余談だが、ホームビデオのホラーは本当に素晴らしい映画だった。特に恐ろしいシーンに差し掛かると、両手で顔を隠し指の隙間から覗き見した。怖い瞬間がなんとなく予想できるから、スリルを味わいながら鑑賞できる。
他方、恐怖を予想できないのが現実世界だ。採れたての枝豆を茹でるために洗っている途中、枝豆の中から芋虫が「コンニチハ」してきた時の方が、ホームビデオより遥かに怖った。
ホームビデオでは叫ばなかったが、芋虫には絶叫した。心臓は跳ね上がり、一瞬止まった。恐るべし、芋虫。
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