六千円

指輪をはずした。
10年の間にむくんだ薬指から、銀色の指輪はなかなか抜けなかった。
それでも、なんとか外した。
出て行け、と言われて本当は出て行きたかった。
すぐに出て行って実家に帰りたかった。
腕に出来たアザを見たら、親が何と言うか考えると怖かったけど、
でも泣きついてしまいたかった。
でも、子どもの人生を考えると出て行けなかった。
学校を変えるだけで済むと思えなかったから。
受験を諦めるだけで済むと思えなかったから。
親権を渡さない、と言う夫と戦い続けるということは、もしかしたら、暫く実家に帰らずに居場所を知られないようにどこかに隠れていなくてはいけないかもしれないから。
そんな人生を子どもに送らせていいのかわからなかったから。
だから、ただ、指輪を、はずした。
少し、スッキリした。
ずっと、窮屈だった指輪。
10年のうちのサイズアウトは、心のサイズアウトでもあるのかもしれない。