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【小説】12月18日

「コータロー!来週のイブ、クラスのみんなでカラオケ行くんだって。お前も行くだろ?」
廊下を歩いていたら、後ろから同じクラスの春名に声をかけられた。
「イブ?」
「そう、クリスマスイブ」
「イブってお前、受験生だろ?」
言うと、春名は一瞬きょとんとした顔をする。
「んなこと言ったって今さらじたばたしたってしょうがないだろ。息抜きも必要じゃん。中原たち、推薦組がカラオケ行くって言うから、俺も混ぜてもらおうと思ってさ。お前も来たら喜ぶんじゃん?中原も。お前が受験で相手してやれないから、カラオケとか言ってんだろ?」
ニヤニヤ笑いながら肩を回す、呑気な春名の顔を見つめてため息をつく。
「行かない。」
「は、なんで?」
「俺が行ったら、中原が困るよ。」
「へ?」
「俺ら別れたんだよ。」
「ええっそうだったの?知らんかった。いつ?」
購買部へ向かいながら、中原と並んで歩く。
弁当は食べたが、まだ小腹が空いている。
廊下も寒いが、校舎を出ると更に寒い。上着を着てくるべきだったか。
けれど、暖房で火照った肌にはちょうどいい気もする。
「えーと、10月?」
「なんで?お前から?やっぱり受験に集中したいとか?」
「違うよ。振られたんだよ。」
「なんで。中原から言われて付き合ったんだろ?」
じろりと春名を睨む。
「そうだよ。これから受験でお互い励まし合っていこうぜって時にひどいと思わん?よしんば別れようと思っても、なんでもう少し待ってくれないかな?」
「待てないぐらい嫌だったんじゃねーの。」
後ろから声がして振り向くと、同じく購買部に向かうらしい恵一がいた。
「ど、どういう意味だよ。」
「しらん。なんて言われたんだよ?」
「えっと、『幸太郎は私のこと好きじゃないと思う』って。意味わかんねーよ」
「は?どういう意味だ?なんで幸太郎の気持ちが中原に分かるんだ?恵一分かるか?」
「分かるわけねーだろ。俺に。」
購買部についた3人は残ったパンを物色し始める。
昼休みも終わりに近づいて、ほとんど残っていない。
「何かしたの?」
「いや…何もしてないと思うけど。ほら、中原、誕生日だったろ。で、まあ小遣いあんまりないけど、何かプレゼントしようと思って『何が欲しい?』って聞いたんだよ。」
「ふんふん。いいんじゃん?」
「そしたら、中原が『ちょっとは考えたの?』って。」
「え?」手にしていたあんぱんを購買部のおばさんに渡しながら、春名が聞き返す。
「だから、『考えてもわかんないし』って答えたら、『幸太郎は私のこと好きじゃないと思う』って言うんだよ。」
俺はクリームパンのおつりを貰いながら、訴えるように言う。
「どういう意味だと思う?誕生日プレゼントを用意しようとしてる人間に『好きじゃないと思う』ってどういう意味だと思う?」
「え、それって喧嘩?」
「いや、喧嘩かなと思ったんだよ。俺ら喧嘩したことないし、謝ればいいのかなと思って謝ったんんだけど、なんつうか『もういいの』ってすっきりした顔されちゃって。もうわかんねーよー。」
「それは、あれじゃないの?プレゼントを考えてほしかったんじゃないの?」
購買部にいたおばさんが、思わずと言った顔で口を挟む。
「えーそうなんすかー?」
「えーだって聞いたほうが早いじゃないすか。」
恵一がジュースにストローを差しながら言う。
「まあ、そうなんだけどね。おばさんは何貰ったって嬉しいんだけど、ほら相手が考えてくれることに愛情を感じちゃうっていう彼女の気持ちも分からなくもないのよね。」
「えー気に入らなかったらどうするんすか。」
「あばたもえくぼって言うじゃない?好きな人からなら何貰っても嬉しいものなのよ。」
「本当ですか?俺は、昔彼女に大仏の置物をお土産にあげたら『いらない』って言われましたよ。」
恵一が真顔で言う。
「大仏の置物は俺もいらん…」
「俺も…」
「なんでだよ。奈良って言ったら大仏じゃねぇか。」
「でも、大仏はいらねぇよ。」
「まあ、ほら、頑張って勉強して、大学入ったら沢山出会いもあるわよ。ほら、この余ったきなこパンあげるから。」
そう言って、一つだけ余っていたパンを袋に一緒に入れてくれた。
「ありがとうございます。」
「あーずるいぞ。幸太郎だけ。」

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