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【読書日記】父からの手紙

「父からの手紙」小杉健治
恐らく去年、新聞広告で見て、図書館で予約してたのが届き、読了。
10年前父親が家を出て行った。それから誕生日に毎年かかさず父親から手紙が届く。きっと、父はどこかから自分たちを見守ってくれている…という主人公、麻美子と、殺人の罪で10年の刑期を終えて出所してきた圭一。二人の視点から物語は紡がれていく。
父からの手紙、に隠された真実…というところから、感動モノを想定して読み始めたが、火曜サスペンス感が凄い。
火曜サスペンスのテーマが流れてきそうな勢い。
別に悪いわけじゃない。
私の思い込みがいけなかったのだ。
初めて読む作家さんというのもあるだろう。
雰囲気が掴めきれず、どう読んでいいか分からない、ということはよくある。
そうか、ミステリか、と思い直し読み進めていくと、なるほど、この圭一目線と麻美子に襲いかかる事件がどう絡んでいくのか…と思いながら読める。
二つの事件が重なる時に、明かされる事実は、ほほう、なるほど、そういう関わりね、と。

主人公といい、圭一に漂う悲壮感といい、昭和サスペンスの空気が漂う。
途中、ふと、松本清張の「砂の器」が頭をよぎる。
話の内容が似ているわけではない。
男の哀愁という点だけだろうか。
そういう物悲しさが漂う小説だった。

ところで、松本清張は一時期好きで読んでいたが、「砂の器」は映画で見ただけだったと思う。
うちの父曰く、ご本人も「映画が原作を超える例はなかなかないが、これは原作を超えた」と言ったとかなんとか。なるほど、たしかに、映画には音楽があるからだ。
ずっと父親のハンセン病を隠すために逃亡生活を送っていた主人公がピアニストとして成功し、その哀しい人生全てを注ぎ込んだような渾身のピアノの演奏が劇中に繰り広げられる。その曲の素晴らしさ、だと思う。
百聞は一見にしかず、じゃないけれど、小説には音楽がないわけで、映画にはその音楽、映像全てに彼の物悲しさが入っている。

で、話は戻り、「父からの手紙」は、
父親の哀愁、という点において、父親がなぜ家族の元を去らねばならなかったか、という謎が明かされる場面だけれど、
その真実は女の私には迫るモノではなく。話の中で圭一もその点は否定しているわけだけれど、
もしかしたら男の人は共感したり、悲しんだりできるのかもしれない。

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