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タクシー会社ができる地域貢献の探究から見えてきたこと / 都タクシー株式会社

南区情報ステーション「みなみなみなみオンライン」は,京都市南区役所が,南区に関わる誰もが南区をもっと知って・学んで・楽しんで・好きになってもらうことを目的に,南区の皆様によるまちづくり活動の紹介,区役所からのお知らせ等を,SNS等を用いて配信するWebサイトです。このnoteでは,まちづくり活動に取り組む方々,地域貢献活動などに取り組む企業・事業者の方への深堀りインタビューを掲載していきます。

「都」マークでお馴染みの都タクシー。1940年創業で,南区上鳥羽に本社を構えておられます。

今回は,都タクシー株式会社さんが行われている「子育てタクシー」の取組についてお話を伺いました。

お話をきいた人
筒井 基好(つつい もとよし)さん / 都タクシー株式会社 代表取締役社長

子育てタクシーとは

子育てタクシーは,「地域の子育て応援団」として子育て中の方をサポートするサービスで,妊娠中の方,15歳までのお子様と保護者の方にご利用いただいているそうです。具体的には,お子様の年齢に合せたチャイルドシートの設置や「一般社団法人全国子育てタクシー協会」の養成講座課程を修了したドライバーによる運転を行っているとのこと。ドライバーのみなさんは子どもとのコミュニケーションの取り方を学んだり保育の実習などを経験しており,子育てタクシーのプロフェッショナルとして活躍されているそうです。

実際には,お子さんの塾や習い事,保育園の送迎や,急な病気の際の病院などへの送迎,妊娠中の通院や買い物時など,様々な場面でご利用をいただくことが多いとのこと。

この事業を始められたきっかけをお聞きすると,筒井さん自身が香川県で始まった「子育てタクシー」のサービスを見学に行き,全国に拡げたいという考えに共感して京都でやってみようと思い始めたとのことでした。現在では,一般社団法人全国子育てタクシー協会の副会長も務め,導入した事業者数は全国160ほどになっているとのことでした。

特別なことじゃない。でも伝えることが大事

「そもそも,タクシーは子どもだけで乗れないわけではないので,特別なサービスではありません。ただ,親御さんたちに向けて安心して使ってくださいと伝えることが大事なんです。地域の子育てを応援していますと会社として宣言することで,きちんと伝わるんだと思います」と筒井さんはお話しくださいました。

利用者の登録のきっかけは,妊婦の方が病院への通院や突然の陣痛にそなえて登録されることが多いそうです。実際,出産時に利用されることは少ないですが,出産後に親子で利用され,次第に使い慣れてくればお子さんだけでの乗車も増えていくそうです。安心して利用できることを知ってもらえれば,「いざというとき」に親御さんの助けになれるのではと考え,普段から安心いただけるよう取り組んでいるとのことでした。

研修で学ぶ,子どものことや親のこと

丸一日をかけて開催する養成講座では,講師によるレクチャーだけではなく実践的なロールプレイを行ったり,お互いの体験を語り合うワークショップを実施されているとのこと。その他にも,子育てママの体験や保育の実習,チャイルドシートの装着方法なども学んでいるそうです。

このプログラムづくりには,地域の子育て関係のNPOの方が携わられていて,親御さんの声を取り入れたり,陣痛の際の妊婦さんの気持ちを知るために看護協会の方にお話をしてもらったりと,様々な方が関わっておられ,タクシー会社だけでは気づかない視点も多く学べるよう工夫されています。

特に,子育て中の親御さんの中には,「汚してしまったらどうしよう」「子どもが騒いだらどうしよう」と考えている方も多いことを知り,それに対して「気にしないでいいですよ」と言ってあげることの大切さを伝えているそうで,当たり前で気づかない部分にも講座を通じて気づいてもらうようにされていました。

ハードはできているけど,心の部分ができていない

現在,都タクシーでは100名ほどの認定ドライバーが活躍されており,子育てタクシーへの利用登録数も増えているとのこと。いつでも安心感を持って利用してもらえるように取り組むことが地域貢献につながると話される筒井さんがもう1つ大事にしていることがある,というお話をしてくださいました。

それは,世の中のサービスや設備自体は進歩してきているけれど,利用者の側にどこかそれを使いづらい現状があることです。タクシーを含む交通の業界においてはバリアフリー化が進み,車いすの方でも利用しやすくなっています。しかしながら,利用者が気兼ねなくサービスや設備を使うには「提供する側が利用者の立場に立てているか」という問いがあると話されていました。

サービスとしては存在するけれど,利用者が利用する際に断りを入れなければいけなかったり,そもそも迷惑かもと思って遠慮してしまったり。そんな状況があるからこそ,提供する側が「相談されたら応える」ではなく「こんなサービスできます」と事前に言ってあげることで,心のバリアフリーを後押ししていくことが大事だということでした。

「表現として『嫌な顔ひとつせず』という言葉があるけれど,そうではなく乗車する際に『よく呼んでくださいました。私に任せてください』という安心感を持ってサービスすることを当たり前にしていきたい。そうやって,私たちの行動からサービスを利用しやすい世の中を作っていくことができないかと考えている」と語ってくださいました。

ポリオワクチン寄付や社内託児所運営も実施

お話を聞いていくと,子育てタクシーサービスの他にも様々な社会や地域への貢献事業にも取り組まれていることが分かりました。例えば,タクシーの走行距離1,000kmごとに,ポリオワクチン1本をミャンマーやラオス,ブータンの子どもたちに届ける活動を15年以上行なっているとのこと。その数は,いまでは50万本に到達されているそうです。

また,2017年には京都でも当時珍しい「企業主導型保育事業」を活用した保育園「きっずハウスみやこ」を開園されています。子育てをしているお母さんたちが育児をしながら働ける職場づくりが世の中でも求められている中,会社として「応援している」という姿勢を見せることで実際にドライバーとして働かれる女性も増えたとのことでした。

その他にも,油小路北部区域美化活動など,地域の清掃活動に取り組んでいたり,最近ではコロナ軽症患者等の送迎専用車(飛沫循環抑制車両)を導入されたりと,進んで様々なことを推進されています。

そこには「誰かがやらないと」という思いがあるとのことでした。筒井さんが先代より事業を引き継ぐ際に「まずは地域に貢献していかないといけない」ということを教えてもらったそうです。企業として儲かるようにしていく必要はあるけれど,社会に対してタクシーを通じてやっていけることが何かを常に考えることのほうが大事であり,様々な技術を取り入れながら,これからもいろいろな業界の人たちと協力し「より交通を便利に」を実現していきたいと語られていました。

改めてお話を伺い,タクシーの会社としてできることが何かを常に考える姿勢や利用される方の声に耳を傾けながらサービスをつくっていかれるあり方が,地域への貢献事業に繋がっているんだと感じた時間でした。

南区情報ステーション「みなみなみなみオンライン」
取材/文 まちとしごと総合研究所

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