「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 第6章

「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 第6章 
“Absent in the Spring” by Agatha Christie
https://www.pdfdrive.com/absent-in-the-spring-e199881914.html
Chapter 6
レストハウスに返ってくると、従業員が「奥様、散歩はいかがでしたか?おいしい夕食の用意が出来ていますよ」と言った。
そうはいっても、毎日変わらないメニュー。
夕食が終わっても、寝るには早すぎる時間で、本か裁縫するものを持ってくればよかった、と強烈に思った。
「レディーキャサリン」を読み直そうかと思ったがやめた。
何もやることがなく、頭の中のトカゲという夢想が穴から出てきた。
一体人は自分の夢想を制御出来るものなのか。
これが広場恐怖症なのか。
そう言えば、私は家の中で人に囲まれて過ごしてきた。
誰か話し相手さえいればいいのに・・・ブランチェでも・・・
セント・アンでの事を話せただろうに。
校長先生のミス・ジルベイの事を思い出した。
卒業の時「これからあなたが出て行く世の中であなたはいろんな困難に出会うでしょう。
人生は進歩の連続なのです。失敗を越えて進んでいきなさい。私はいつでも助言を与える用意があります。」
そしてその時、ブランチェが校長先生の物まねをして先生から怒られた事。
しかし、先生の言ったことは正しかった。
ブランチェに必要なのは規律、自制だ。
例えば、私が送ってあげたお金も自分のために使わずトム・ホリデーのためにロールトップデスク(蛇腹の覆いの付いた机)を買うのに使ったのだ。
しかし彼女はこの世に生み出した2人の自分の子供さえ見捨てたのだ。
それは、世の中には母性本能の無い人がいると言う事だ。
私たち夫婦は常に子供第一に考えてきた。
日当りのいい部屋を子供部屋にしたりしてきた。
だから子供たちはシャーストンの子供達とは違って素直に育った。
シャーストンは子供たちを、アシカのまねなんかさせる変な活動に参加させていた。
シャーストン夫人自身ちゃんと育ってこなかった人なんだから。
ジョーンはサマセットでキャプテン・シャーストンと会ったときの事を思い出していた。
地方のパブで偶然会ったのだが、その時の彼は銀行頭取時代の、気取った自信に満ちた彼とは正反対の、世の中でうまく行かずしょげている感じの彼だった。
「これはこれはスクーダモア夫人!世間は狭いものですなあ、どうしてここスキプトン・ハイネスにお越しになったのですか? ぜひ、妻に会って行ってください。」
市場向けに作っているアネモネの花とリンゴの畑を通ってシャーストンの家に着くと、疲れて元気のないレズリーがアネモネの花壇にかがみこんでいた。
しかし、昔のように快活でちょっとだらしない感じでもあった。
立ち話をしていると、子供たちが学校から帰ってきた「お母さん、お母さん」と騒がしく言った。
レズリーが「静かにしなさい!お客さんでしょ!」と、まるで飼い犬を訓練するような言い方で言った。
家に入って子供たちと食事の準備をするレズリーは幸せそうだ。
しかし、シャーストン(夫)の態度が変わり、外の世界での冷たい評価を受けている彼とは違い家庭内では幸せそうだった。
ピーターが「看守とプラムプディンの話をしてよ」とシャーストンに言った時、シャーストンが困っていると、レズリーは「話しなさいよ、スクーダモア夫人(ジョーン)も聞きたいはずよ」と言った。
二階に案内してくれる時にジョーンが「あんな話を子供に聞かせるなんて、レズリーは無神経なんじゃないの?」と言うと、レズリーは「現実をそのまま子供に伝える事は良いことだと思うわ。子供に、お父さんはなぜ、いなくなったの?と聞かれた時、お父さんは銀行のお金を盗んだので牢屋に入れられたのよ、それってあなた(ピーター)が、ジャムを盗んで寝室に閉じ込められるのと同じことよ。」と答えた。
「それに、本当の事を子供たちに伝えるのは、夫にとっても良い事なの。自然にふるまう事が彼にとっても良いことなのよ。ところでロドニーはどうしてるの?」
レズリーが窓際に立っている姿を見て、ジョーンは「赤ちゃんが生まれるのね、予定日はいつ?」
「8月よ。新しい赤ちゃんの誕生は夫を変えたのよ。」
「お金は大丈夫なの?」とジョーン。
レズリーは笑いながら「何とか食べて行けるし、私の体も丈夫だし」と言った。
二階から降りると、シャーストン(夫)がジョーンをそこまで送ってゆくと言った。
道々、彼はレズリーへの感謝を述べていたが、別れて振り返ると、酒場の前に立って開くのを待っているのを見てしまった。
家に帰ってロドニーにその事を話すと、「結局、彼女は彼の妻であり子供たちの母であるという両方の道を選んだんだ。」

⇒ https://note.com/minamihamaryu/n/n19be8fe266d2


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