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“筆箱” by Milorad Pavic

“筆箱” by Milorad Pavic

https://jp1lib.org/book/16698678/7e0b66


筆箱について記述

 現在の筆箱の所有者である私は20世紀の最後の1年間で1000ドイツマルクで、その夜、ホテルのゲストのために用意された乾燥マトンの皿の上で神秘的な笑みを浮かべた、ブドヴァのウエイターから手に入れた。


 「変わった箱をお買いになるつもりはありませんか?

船長の箱です。書き物や地図や望遠鏡用の箱で、」と、火曜日、そのウエイターが私に夕食を給仕しながらは低い声で言った。


 「それを見てもいいですか?」


 「朝食の時にお見せできます。私はここに、このホテルにそれを持っていますので。」


 「持ってきてくれ、」と、私は若い人であれば賢くなる時間があるだろうけど、私にはもはやそんな時間はないのだとと考えながら答えた。


 筆箱は私が思ったよりも大きかった;私はそれが気に入り、私の物になった。


それはおそらくドブロタ出身のダビノビッチ家が、航海中船の日誌を保管するために使い、その後より最近の時代のその他の物を保管するために使われていたところを、コトル宮殿で発見されたのだった。

最後に、ウエイターが言ったように、我々の時代にもう一度海に行ったが、航海はその所有者にとってはそれほど成功裏には終わらなかった。


「しかしながら、私はそれ以上は詮索しませんでした、」と、ウエイターは言い、「と申しますのは、もしあなたが秘密を暴かれるとすれば、あなたはその一部になります。

何故私がそれをする必要がありましょうか?

結局、その箱の所有者について知られているすべての事は一言で言えてしまうからです。

彼はしゃべりたくもなかったし誰も詮索しなかったのです。

彼はその汗の匂いを嗅ごうともしなかったし・・・・

彼は決して海から帰ってこなかった。

そのことがこの箱が売りに出ている理由なんですから。」


それは赤っぽいマホガニーでできていて、真鍮でメッキされている。

からの重さはほぼ4kgで、ウェーターの言うには、小さな犬ぐらいの重さだ。

その寸法は約51㎝×27㎝、高さ17,5cmだ。

その様な明らかに中途半端な長さはその箱が最初にできた時間と場所が異なる測定単位、インチやフィートのようなものを使っていた事に由来している事による。


 「今や、もしあなたがそんな些細なことにこだわるのなら、」と、ウェイターが言った、「かつて魂や愛の深さを計るのにセンチメーターという測定単位で測るという頓珍漢なことにこだわっていることになりますよ。」


 箱の両側にの付いた金属板がある。

その2つは似た形をしているが、その用途は同じではない。

右の環は(鍵がかかっている時は)その場所から取り外して、小さなスーツケースとしてその箱を運ぶために使うことができる。

左側の環は箱が閉まっている間取り外すことができない。

箱が開いている時はその環は、箱の側面についている、外側の引き出しを引き出すためのハンドルになる。


 蓋が開いている時は筆箱が3階建ての家のように、3段になっていていることが分かる。

15個の区画、部分コンパートメント、隠し場所、小さな箱、そのうちの5つは隠されている、に分かれている。

それらのいくつかは箱の上段にあり、いくつかは中段、いくつかは下段にある。

とりわけ、筆箱の一番奥には一種のオルゴールが隠されている。

その筆箱は妊娠していると言う事もできる。



                  *


 その箱は全部で6個の錠がある。

一つは外側にあり、閉まった箱の前面パネルに見られた。

LH.M.GRトンプソンの特許。

持ち主が個人的に持っていられる小さな鍵が付いている。

錠の外側のカギ穴を敢えて舐めてみる者がいるとすると、それがしょっぱいと知るだろう。

このことから、それ以外の兆候からと同様、箱が少しの間海の中にあったが、明らかに中まで塩水が沁みていず、箱が海に沈んでいなかった事は明らかだ。

船長の箱というのは防水になっているので、これは驚くようなことではない。

それ以外の錠は内部についている。

それらは同じ目的を持っているわけではない。

中には鍵のように見えるだけのものもある。


 その箱は利益というより苦痛をもたらした、というのは私はその箱の中の全ての区画を探して開けなければならなかったからだ。

前に言ったすべての錠前を開けなければならなかった。

ここでは私の鼻が最も役に立った、というのは長い間密封されていた木の箱のそれぞれの小さな区画は異なる匂いがしたからだ。

前に言った15とは別に筆箱には私が到達できないより小さな区画が隠れているかもしれない。

;それはこの圧倒的な物体の将来の所有者に残されることになるだろう・・・


現在の所有者が所有した時点で、筆箱は空ではなかった。

それほど価値のない、様々な物が入っていて、その一部は19世紀の最初の所有者からのもので、一部は明らかに20世紀の終わりに箱を海に持って行った人の持ち物だった。


 私がこれまでに発見し、目録を作成したものによれば、この筆箱とその中身は次のようなものである。


第一部

筆箱の上の段


筆箱の上の段は蓋(1)と5つの受け皿(2~6)で構成される。


                   1

真鍮の太陽の付いた蓋


 筆箱の上の段は蓋(1)は傾斜している。

そのため、完全に蓋を開いた状態では箱そのものと一緒にものを書くための傾斜した空間で、布で覆われた2つのパネルにより構成される。

その表面は箱の2倍の長さ(約54cm)である。


 筆箱の蓋の外側には楕円形の太陽の形の真鍮版が付いていて、その上に1852年と頭文字T.A.Rがジャーマンゴシック体で彫ってある。

筆記用のパネルの色あせた布の上にはラム酒のしみと、赤インクとメモの跡がある。

メモはイタリア語で次のように書いてある:


「ヨーロッパが病気になるといつも、バルカン半島に治療法を探す。」


 筆記用のパネルを持ち上げると、その下に饐すえたシナモンの匂いがする部分が現れる。

筆箱を作った職人は明らかにその蓋が地図と船の位置を決めるための器具が入ると考えていた。

それにもかかわらず、この部分は今や嗅ぎたばこのくずと青いリボンで結ばれた48枚の絵ハガキが入っている。

それら全部が同じ人物、フランス・ペルージュのミス・アンリエット・ドーヴィルに当てられているが、投函されてはいない。

一枚を除いて、全て消印も押されていないし、同じ絵柄だ。

パリのデファンス門だ。

例外である最後の一枚は、ベネチアの馬の絵が描かれている。

絵葉書は同じ美しい女性の手書きで、フランス語で書かれていて、「I」の文字の代わりに書く方向とは逆に斜めに小さな十字架が描かれていた。

覆われた空間の底には、アヒルの羽でできた爪楊枝と、コトル湾のレースでできた手袋が裏返されており、「キプロスのバラ」というオイルで香りがつけられている。


 もし絵葉書を正しく並べると、パリから誰だか分からない女性がペルージュにいる彼女の女性の友達に一般的な伝えたいことがそこに書いてあるが、一二枚抜けていていることが分かるだろう。

筆箱の中の絵葉書に書いてある、送られなかったメッセージがここに閉じこめられている。


             48枚の絵ハガキ


 今朝私はまた夢の中で嘘をついた。

そしてその夢には匂いがある。

それは「クリスチャン・ディオールの目の美容液」の匂いだ。

その匂いで私は目が覚めた。


 ベッドから起き上がって、陶器のグラスでお水を二杯飲み、ある女性の左手用に3世紀に作られた指輪を付けて、足首に「ティソ」の時計のブレスレットを付けた。


 誰かがドアのベルを鳴らした。


ドアの匂いを嗅いで「エルメス」の「パルファム スプレー カレーシュ」だと結論した。

それは私の妹のエヴァだった。


 「あなたはあなたのイメージを変えるべきだわ、」と 、私は彼女に言った。


 私たちは街の中央に向けて出発した。

最初のブティックで私は彼女に缶に入った「アマリージュ・ド・ジバンシィ」と、有名な香水メーカーのデザインに沿って作られた金色の紙の使い捨てのイブニングドレスを買ってやった。

エヴァは喜んだ、そして私は私たちの物を包んでくれている女性の匂いを嗅いで、妹に耳打ちした。

:「彼女の3日目だわ!」

その後私たちはモンテーニュ通りの路地裏にひっそりと佇む豪華な毛皮の店に厳かに踏み込んだ。

人工のスミレの香りがコンセントの付いたディヒューザーから漂ってきた。

店の細い通路を通って私たちは髪をポニーテールにした若い男に近づいた。

私はいつものようにレモンを空中に放り上げていて、時々それを嗅いでいた。

レモンが空中にある間に途切れ途切れに、私は姉にささやいた。


 「この人は起きている時は健康的で寝ている時は病気なの。」


 彼は私が言ったことが聞こえたかのように、息をひそめてつぶやいた。


 「病気はいつも健康よりも年取っているものさ」そして彼は私たちに挨拶をした。


 「こんにちはご婦人方、何かお探しですか?」


 「どうしようもない人ね、私に翼を頂戴!」と私は彼に言い返した。


 「なんですって?」


 「昨夜私はあなたと私が暖炉のある広いフロアで座って夕食を食べている夢を見たの。

暖炉の火がぱちぱち言っていたわ・・・覚えている?」


「ご親切にどうも、お嬢さん、でもどう思い出してみても思い出せません・・・」


「忘れて頂戴・・・ 名前は何て言うの? 小さな天使さん?」


「スングルフです。」


 エヴァと私は大笑いした。

「この人は母音を飲み込んじゃうんだ。」


「スングルフ、あなたはお腹が空いているの?

あなたが毛皮の店で2人のレディーにやってあげられることが何なのか思い出すことを期待しているわ、朝、男たちが仕事に出て行った時に。」

「ご婦人は毛皮のコートをご所望かと?」

「そうよ、見つけられる限り一番高いのをね・・・」

「どうぞお座りください、素晴らしいものをお見せします。」


2人の少女が少し眠そうな顔で現れた。

音楽が始まり、彼女たちは洗濯したての服と朝の女性の汗の匂いがした。

その汗を通して私たちは「ロハス」、グローブ デオドラント スプレーの強烈な香りにハッとした。

彼女たちは細い通路キャットウォークに沿って歩きながら色々な型の毛皮のコートを見せた。

ショーの間スングルフは私の妹との会話を盗み聞きしていた。


 「あなたは本当に毛皮のコートが買いたいの?」と、エヴァが聞いた。

「当然よ。」

「何のために別の毛皮が必要なの?」

「私は私の恋人とハネムーンに行く予定なの。今はハネムーンにキエフに行くのが流行りなの。」

「冗談でしょ。」

「全然違うわ。女性は冗談は決して言わないものよ。

子供が生まれようという時に冗談なんて言うはずないじゃないの?」


 「そうね、本当にそうあってほしいと思っている人もいるわ。

残念ながら、死ぬことは誰もができても、生まれることができる人は一部なのよ。

最もいい人は生まれないままなのよ。」


 「子供がいないからあなたはそんなことを言うのよ。

それに私は何か他の物が欲しいわ。

私は自分の人生を変えたいのよ、根本から。」


 「どうやってあなたが人生を変えるのか興味があるわ。」


 「あなたはすぐ分かるでしょう。

私がそのおさげ男に言うことを黙って聞いていてよ。」


 「お店に展示してあるのよりもっと高い毛皮のコートはあるの?

それに、お店にあるどのコートより高いの?

ゴールドカードで支払うくらいの物?」


「勿論です、奥様。すぐにお持ちいたします、マダム。」


 売り手の合図で、地面に届くほどの立派な毛皮のコートを着た女の子が目の前に現れた。


 「そうよ、これ!」と、私は毛皮の下はその少女は裸で雌馬のように興奮しているのを感じながら思った。

その毛皮のコートをじっと見て、私は素早くその少女からはぎ取った。

少女はキャットウォークの上で裸でとどまり、ショックで少しお漏らしをした。

彼女の代わりにそれを着て意気揚々とエヴァの前まで歩いて行った。


 「どう?似合うかしら?」と、私は鼻を膨らませて言った。

「買った方がいいかしら?どう思う?」


 「それにはちょっと問題があるわね、」と、エヴァが答えた。

「エヴァったら、解決されるべきちょっとした問題だなんて・・・

あなたのその小さな頭の中にあるちょっとした問題って何なの?」


 「アダムよ、あなたのご主人の。」

「そうね、勿論、彼はあなたの頭の中で生まれたものじゃないけど、それは正解だわ。

それは本当にちょっとした問題だわ・・・

でも、なぜあんたは私の夫の事をそんなに心配するの?

お望みなら、彼をあなたに譲ってあげてよ、でもあなたは少なくても120年は待たなきゃだめよ。

彼は急がなきゃいけないときはぐずぐずしているし、ゆっくりでいい時はせっかちなの。」


 「もしあなたのご主人、アダムがその毛皮のコートを買ってくれないなら、彼じゃなくあなたの恋人がそれを買ってくれるとすると、あなたはあなたのご主人がいる時にはそれをあえて着ないでしょう。

家に持って帰ることもないでしょう。」


「そう思う?

そのことがあなたが夫も愛人もいない理由なのよ。

繰り返しになるけど、あなたは頭が良くなるという、醜い小さな習慣を身につけています。


それはあなたに害を及ぼす可能性がありますよ。

だから耳を澄ませてよく聞きなさい・・・

この毛皮のコートはおいくらかしら?」

「5万でございます、奥様。」

「結構。いただくわ。だけどよく聞きなさい、スングルフ、スングルフだったわね?」

「さようでございます、奥様。」

「いい、スングルフ、取引をする必要があります、私たちの間だけで、お互いの利益のために。」


 「もし、奥様が値段が高いとお考えなら・・・」

「もしレディーが値段が高すぎると考えるのなら、レディーはレディーじゃないわ。

もし私が交渉するとすれば、私は値段以外の事で、何か他の事でやるわ・・・

そうねえ。」


 スングルフが驚いたことには、私は彼の後ろに回って彼の頭の後ろにある小さな髪の毛の束を持ち上げた。


 「悪くないわ、スングルフ、でもお辞儀をすればいいってものじゃないのよ。

あなたはチェーンを付けた方がいいわね、スングルフ、そのほうがかっこいいわ。

それとアルマーニのアフターシェイブローションも変えた方がいいわね。

もっとシャープなのにしなさい。

多分、男性用の名門「ランコム」コレクションの香りにね。

ビジネスの話を始めましょう、小さな天使さん。

私は友達を連れて30分したらここに戻ってきます。

あなたは毛皮のコートは6万だって言うのよ、すると彼は私にその値段で買ってくれるわ。

5万じゃなくって、6万よ・・・

聞いてる?6万よ。」


 「勿論聞いております、マダム。

でも、分かりません。

チェーンと、香水の事は分かりましたが、値段については理解できません。」


 「後で分かるわよ。以上よ。

必要のない質問はしないで頂戴。それともう一つ。

私がここに戻ってきたとき、あんな、なんて言ったらいいの、ヌードの女の子は連れてこないで。ヌードはうんざりだから。」


 「完全に承知いたしました、マダム!楽しい一日をお過ごしください。」



                  *


 そのすぐ後、私は愛人のベイリー少佐の家の前で「レイランド・バッファロー」車の中に座っていて、大きな人工のビュット・ショーモン公園の橋の下を這う霧を物思いにふけりながら眺めていた・・・・。

突然私はその霧が苦く少し煙っぽいにおいがした。

;私は霧の中から白い糸杉が現れるのを見た。

;水辺のその下では、数人の人々が露や穴の開いた石を集めていた。

;私はそのほかの人々が自分たちの影に火をつけてその影を燃やしているのが見えた。

;二人の女性が軽く出血している匂いがした。

;2時間分の長さの庭が現れ、そこでは最初の1時間は鳥たちがさえずり、2番目の夕べが暮れてゆき、最初の1時間は果樹園に花が咲き乱れ、2番目の時間には風の後ろで雪が降っていた・・・・

私は嗅ぎなれた匂いによって物思いにふける事から目覚めさせられるのだった。


 ハバナ産の「アラミス」と私は結論づけ、その匂いに向けて車のドアを大きく開いた。

私の愛人ベイリー少佐は私の横に立ち、私にシナモンの香りのするコンドームの味でキスをした。


 この人は聖書からパンを盗むことができるかもしれない、と、私は思った。

その瞬間、彼は後部座席のエヴァを認め、彼女に挨拶をするためにちょっと立ち上がった。

彼は彼の下の車より少しだけ軽かった。

彼の髪は太陽の下で年齢により白髪になるのではなく赤くなっているのに気が付いた。


 30分の無鉄砲な運転の後、私は再びモンテーニュ通りに車を止めた。

毛皮の店では少女たちが静かな音楽に合わせて商品を並べていて、「マックス ファクター」ル ジャルダン、ボディ ローション パルフュームの香りと混ざり合った真昼の笑顔の息が広がっていた。


 「ご婦人方とお客様、」と、スングルフが心からのあいさつをした。

「どうぞお掛けください。どのようなご用件でしょうか?」


「私が誰だかわかるかしら、小さな天使さん、言うわよ、」と、私は彼を驚かせながら言った。

  「レディーは難しい質問をなさいますね。私は思い出せませんが。」


 「私は悪魔よ。私の名前は夢。私は一番最初のイヴ、リリスと呼ばれています。

私は神の名前を知っていたし、神と争っていたの。

それ以来、私は彼の影の中で聖書の7つの異なった意味の間を飛び続けているの・・・」

これらの言葉を聞いて、売り手は申し分のないヘブライ語で笑い、まるで彼が夢の中にいて女性ででもあるかのように言葉を続けた。


「私は真実と土を混ぜて作られました、私には3人の父がいて母はいません。

そして私は後ろ向きに歩いてはいけません・・・そうでしょ?」


 「あなたにはなぜそれが分かるの、スングルフ?」と言って彼を魔法から目覚めさせた。


 「天使は全てそれをするんです。

でも、ご婦人が今、何をしようとしていらっしゃるのか分かりません。」


「それを言うのはそれほど難しくはないわ、スングルフ!

もしあなたが私の額にキスしてくれれば、私は死んでしまうでしょう・・・

でもあなたはそうしない、というのは、ここでは、スングルフ、あなたは売り手で、私は毛皮のコートの買い手だからです。

あなたはそのことを忘れないでね・・・

ここです、私がその毛皮のコートを見つけたのは、」と、彼が私のこの種のおしゃべりに耐えられないことは分かりながら、私は私の愛人の方を向いた。


 「豪華なのよ。見たい?」

「見たいね、生で」。

「いいわ、私の愛するエヴァ、私たちが合意に達したので、私たちにその毛皮のコートを見せて。

ベイリーさんがそれをどうしても見たいって・・・」


 それを聞いて、エヴァは戸惑いながら店の裏手に行きその毛皮のコートを両肩にかけた。


それから彼女は恐る恐る私と少佐と売り手の前にやってきた。

私は拍手喝采し始めた。

:「完璧だわ!裏生地も見せて頂戴!」


 その瞬間、私が毛皮のコートを開けるとエヴァの2つの乳房が現れた、少し重すぎる、男性の耳のように毛深いものだった。

エヴァは大声をあげてすぐ毛皮で身を包んだ。


 「ごめんなさいね、私の可愛いエヴァちゃん、でも裏地を見なきゃいけなかったの。

紫色! 思った通りだわ。で、あなたはなんて言うの?

毛皮のコートとその中の私の姉、どっちがよさそう?あなたはどっちを選ぶの?」


 「それで、値段はいくらなんだい?聞いてもいいのなら教えてくれないか?」と、彼は皮肉を込めて言った。


 「聞いてもいいけど、私の姉の値段なら私に聞かなきゃいけないし、毛皮のコートの値段ならそのポニーテールの紳士にお聞きにならなくちゃいけないわ。」


 その言葉で、エヴァは泣きながらキャアットウォークから走っていき、それを見た少佐は、「見ろ、君は彼女を怒らせてしまった、それに私は君がその毛皮のコートを着たところを見損なってしまったじゃないか。」


 「そんなに動揺しないで。

毛皮古コートを買ってちょうだい、そうすればあなたは私が着た姿が見られるわ。」


 そして私は売り手の方を向いて: 「さあ、あなたの番よ、小さな天使さん!」


 「私の部屋の暗がりにすぐ飛んでいきなさい!」と、彼は私に言い、私は雷に打たれたように彼を見た。


 「なんて言ったの?」


 「あなたの夫を手放さないようにしなさい。」

「あなたは誰なの、スングルフ?」

 「小さな天使です、お嬢さんが自分でおっしゃったように。」

 ずっとそのような会話にイライラしていた少佐が私たちの会話を遮った。

 「若いレディーが私たちに見せてくれた毛皮のコートはいくらなんだね?」

「6万です、」と、スングルフが言った。


 その時エヴァが自分の服を着て私たちの前に現れた。

少佐は座って足を組み、ゆっくりとキューバ製の葉巻に火をつけ、「パルタガス」タバコの匂いのする煙の輪をはいた。

私たちはみんなしばらくの間無言だった。

その後、私はできるだけ大声でくすくす笑い、エヴァは彼女の涙を拭き、売り手はついに敢えて聞いた:

 「紳士はお決めになられましたか?」

 「何ですと?」と、少佐は彼を遮って、彼の小さなポケットからハンカチを取り出して彼の葉巻の煙をその中に吹き込んで匂いを付けた。


 「紳士はその毛皮のコートをお買いになりたいのですか?」

「私がその毛皮のコートを買いたいのかだって?

私は君がそれを包装してくれるのを待っているんだよ、君、そして私のカードは君の前のカウンターの上だよ。」


 売り手は二度見しそうになった。:

 「すみません、今日はちょっといつものスタイルと違うんです。すぐにすべての手続きをしますので。」


 すぐに彼は豪華に梱包された毛皮のコートを持ってきて少佐に手渡した。

そして、少佐はそれが最後になるとは知らず私にキスをして毛皮のコートを私にくれた。

私はエヴァにキスをした。

 「彼女にはキスをする相手がいないのよ、そして私は後であなたにキスするつもりよ、毛皮のコートの事で、」と、私は言った。

そして私は嘘を言ったのだった。

これらの言葉とともに、私たちは店を出て、車の中に座った。

今度は少佐が運転した。

 「どこに行くかね?」と彼は聞いた。

「シシル通り。そこで降ろしてくださる。

私たちはママのためにコンドームを買うつもりよ。

彼女はレモンの香りのそれを3つとパイナップルの香りのを2つ、シナモンアップル味のを一つ注文したの。

あなたが使うのと同じ種類の。

私の車はここに、駐車スペースに置いて行っていいわ。」



                   *


 彼が私たちをシシル通りに降ろした時、私はすぐに貸アパートの業者のところに行った。

「3区で4年間住めるアパートが欲しいのですが、マレ地区です。

部屋が3室あって、静かなところ。

そうね、できれば内庭があれば。2階よりも高くなくて。」


 不動産屋は3つのアパートを提示した。

二つはシルク ディヴェール冬のサーカスの近く、一つはフィーユ・デュ・カルヴェール通りにあった。

「近いですよ、すぐに3か所ともみられますよ。」

「まず、フィーユ・デュ・カルヴェールに行きましょう、」と、私は言った。

「あなたはフィーユ・デュ・カルヴェールって誰だか知ってる?」と、私はエヴァに聞いた。

「いいえ、」

「彼女たちは6から12歳の少女たちなの、2000にんぐらいの処女の集団なの。

彼女たちは船に乗り込み、アラブ人からキリストの墓を解放するためにエルサレム近郊に送られたの。

その船はサラセン人によって捕獲され、サラセン人はほとんどの少女たちをレイプし殺し、残った少女を奴隷として売ったの。

そして何世紀も経って彼女らはパリの大通りと、ヴィエイユ・ デュ・ タンプル旧寺通りから続く通りを手に入れたの。

パリのテンプル騎士団通り、ってとこね・・・

アパートは高層ですか?」と、わたしは業者の方を向いた。

 「いいえ。平屋です。着きましたよ。」

そして私たち3人は螺旋階段を昇って行った。


 「御覧のように前に借りていた人が壁にこんな絵を残しました。

お気になさらないといいのですが。

結局、もし彼が来てそれらを持っていかないのなら私たちで取り外しますが。」

 「気にならないなら、そのままにしておきますが。」

「レディーはそんなことを心配するべきじゃないですね。

それに、そのほかの施設も充実していますよ。

96番のバスはちょうどあなたのアパートの正面玄関の前に泊まります。

角を曲がったところにパリで最も美しい、ブルターニュ通りに市場がありますし、そこの角には犬のための小さな路上トイレがあります。」


「あなたは私を納得させましたね。犬のトイレもコミでいただくわ・・・

私は今日は何でも買っちゃうわ。」


 「ほかのアパートは見たくないの?」と、エヴァが二人きりになるとすぐ聞いた。

「ところで、なぜほかのアパートが必要なの?あなたの新しい毛皮のコートのため?」

「多分、私は私の夫と別れたいのよ・・・

それに私はこのアパートが好きだし。

私は昔からこんな階段の付いたアパートが欲しかったの。

あの大きな表玄関を見たことがある?

パリには子供の時から知っている階段があるのよ、分かるでしょ。

マレ地区には私が恋人を迎えてよくそこでキスをした美しい階段の付いた門があったわ。

そんな階段とそんな門は私に即決で契約させてしまうのよ。

フィーユ・デュ・カルヴェール通りの門はそんな門だったの。

ガラス、木と真鍮で作られた曲がりくねった階段。

もみの木と漆の匂い。

もし、何の準備もなしにそこに入ったら、あなたはおしまいよ......」


 30分程後には毛皮のコートを腕に抱えて、又、モンテーニュ通り店にいた。

中では音楽が鳴り、モデルたちが客を見つけるや毛皮を見せようとしていた。

それは女性の黒髪の匂いがした。

わたしが「スングルフ?」と叫ぶと、彼が店の後ろから現れた。


 「やっと来たわね・・・

わたしは蝶ネクタイじゃなくチェーンを付けなさいって言ったでしょ、スングルフ。

でも聞く気はないのね・・・

さて、ここで私たちの取引のもう1つの部分です。

あなたの年収はいくらですか?」

 「確かにお嬢様はあまり高くないと推測されますです。」

 「よろしい。

私たちは少しだけ改善するでしょう。

私はその毛皮のコートを返品します、あなたは私に5万を返します、それがその値段ですから、そしてサービスとしてあなたが1万を手にする。よろしいかしら?」

「奥様レディーは、冗談をおっしゃっているのですか?」

「レディーは決して冗談は言わないものです。

そうじゃなければレディーは淑女じゃないですから。

でも、まじめな話、その1万が欲しいの、欲しくないの?」


 「ちょっとお持ちください。

あなたに返金できる現金が十分あるか確かめさせてください、奥様・・・

良かったです、5万あります、どうぞお受け取り下さい。」


 幾分混乱したように、スングルフが私から毛皮のコートをとり横に置き、私は少佐の5万をポケットに入れた。


 「よくできました、小さな天使さん!、」と、私は売り手に行った、「でも私が返品したその毛皮のコートを売っちゃだめよ、面倒を起こしたくなかったら!

聞いているの?」

 「はい、奥様、そして次に何が起こるのかおっしゃってください。」


 「私は今私の新しい毛皮のコートにふさわしい香水を買いに行くつもりです。

新しい毛皮のコートには新しい香水が必要ですから。

「ミヤケ・イッセイ」が最もよく合うと思うわ・・・」


「奥様が今どの新しい毛皮のコートの事をおっしゃっているのか分かりません。」

 「勿論、その同じ毛皮のコートよ。

スングルフ、今日私はもう一度この店に現れるでしょう。

私は私の夫のアダムと一緒に来ます。

そして彼は私にその同じ毛皮のコートを買うでしょう。

そうじゃなければ私は彼のいるところでそれを着ることはできませんから。

私はそれを家に持って帰ることさえできません、ここにいる私のエヴァが言ったように・・・

聞いているの?」

「伺っております、奥様、でも理解できません。」

「なぜわからないの?

私が5万受け取り、あなたが1万受け取る、そして私は毛皮のコートもタダで手に入れる、それは私の夫が私に買ってくれるんだけどね・・・少しは理解できたかしら?

理解することはあなたにとっては重要なことではないけど。

あなたは聞いているだけで十分よ。だから、その毛皮のコートは売らないでね!

ところで、私の夫にに売る値段は値札通りしてね、5万と言う事で、覚えておいてね。

結局、私たちは家族なんだから・・・」


これらの言葉を残してエヴァと私は店を出た。

大都会の悪臭が私たちの周りにあり、私はそれを手紙を読む様に読み取った。


 「ここ数週間、私の夢も悪い匂いがしていた。

イタリアのトウモロコシ料理ポレンタのように濃く、タールのように黒く。

そして私が目を覚ますとき、私はいつもより年をとっていませんが、それを通して地下水のように大量の時間が流れるのだった。

まるで私の人生に2種類の時間があるかのように。

その一つはあなたに年をとらせないが、体以外の何かを消耗させる。

業カルマ?」

私たちの体と心が燃料なのか?

何のための燃料?

時間が体を動かす力なのかそして永遠が魂を動かす燃料なのか?


                 *


 「私たちは今休憩をとらなければいけないわ、」と私は言って、妹を小さな居酒屋の庭にランチに連れて行った。

昼食の後私はバッグから携帯を取り出して夫に電話を掛けた。


 「私たちはいつもの公園にいるわ。

私たちはあなたをその居酒屋で待っているわ。

あなたに今すぐ見せたいものがあるの。すぐに来て頂戴。

私のギターも持ってきてね。」


 アダムが現れるとすぐ、私はすぐ1968年のフランス5月革命家式のあいさつで妹にさようならを言った。:


 「5時半にそこに来なさい。場所はどこでもいいけど、時間は正確にね。」

「冗談を言っている。」

「どこか分かるでしょ。いつものようにシェークスピアよ。」


 その後、私は夫をまっすぐ毛皮の店に連れて行った。

彼が素直に持ってきたギターを持ってね。


 「アダム、あなたは、かごの中みたいに自分の満たされた愛の中に閉じこめられているのよ。」と、私は彼を店の中に引き込みながら言った。

 「どんな愛で?」

「どんな愛ってどういう意味?

私と結婚する前は私の愛で満たされていなかったの?

そうだったでしょ。

そしてあなたは欲しいものを手に入れなかった?手に入れたでしょ。」

 「お前は同じものを手に入れなかったのかね?」

 「手に入れたわ、でも違う男とね。

アダム、私の夢の中では私は今だにヴァージンなの、わかる?

私は10年間ベッドの中で私が処女である夢を見続けているの。

そして私は誰かほかの人と私の処女を失う夢を見続けているの。

夢の中で少なくとも100人の人が私の処女を奪ったの。」


 「リリー、お願いだ!」と、彼は不満を言った。

「処女についてとあなたが得たものについて言うのは、もううんざりだわ。

私も何か欲しいわ。

私はあなたに話したあの毛皮のコートが欲しいわ。

さあここよ。

私はそれをこの店で見つけたの。

そして私はそれに首ったけになったの・・・

私は毛皮のコートをここで予約したの、」と、私は売り手に話しかけながら付け加えた。


 「何という名前で予約なさいましたか、奥様?」

「私の14ある名前のうちのどれかでよ、お兄さん。」

「少々お待ちください、奥様・・・

はい、その毛皮のコートならエンプーサという名前で予約が入っております。」

「そうよ。今私たちは私の夫が買えるようにここに来たの。」


 その会話に恐れをなしたアダムは、必死の努力をした。;

「しかしリリー、君は私よりもたくさんお金を持っているじゃないか。

君はそれを買えるけど、私には買えないよ。」

「それは同じじゃないわ。私はあなたに、私のために、買ってほしいのよ。」


そして私は突然真顔になり私の夫の耳にささやいた:

「今、それを試着してみるわ。」

 私はコートのボタンをはずし、その船長は彼の妻がジャコモ・デ・ジャコモ・アンスラサイトの香水の他には何も身につけていないことが分かった。


 「リリー、どうか、やめてくれ、リリー、家に帰ろう。

この喜劇をやめろ!」


 「じゃあ、私たちは試着もしないでそれを買うの?」

「試着はしないでくれ、お願いだ。

それはいくらだね?」


 船長はその質問に対する答えをすぐに受け取り、店に中にいた人全員が振り向いた。:

「五万です」

「五万?」

「あなた、あなたは私が着て見たところを見ないから高すぎると思っているだけよ。

どれくらい似合うか見なくちゃだめよ。」


 そして私は急いで私のコートを脱いで、コートの下は完全に裸だったんだけれどね、その毛皮のコートを着て、キャットウォークに踏み込み、そこにいる拍手をし始めた全員の前を意気揚々と歩いた。

「あなたは好きじゃないの?

じゃあ、私はそれを返すわ。」

 そして私は、そのことはまた新たな拍手が起こることになるんだけど、そのコートを脱ぎ始めた。

「必要ないよ、」と、私の夫は急いで言った、「ご婦人のコートを包んでくれ、彼女はその毛皮のコートを着るから。

毛皮の勘定をしてくれ。」


 それが終わるとすぐ、売り手は私のコートを包装し、私はそれをすぐに私の夫に手渡した。


 「これは私をおぼえておくための思い出に、」と私は彼に言った、「そしてさようならを言いましょう。さようなら、アダム!」


 そして私は急いで私のギターを取った。

「これはどういうことだ、リリー?」

「この意味は、神と全ての高潔な人々の前で、私はあなたとお別れすると言う事です。

あなたとあなたの嫌な臭いのするお髭と。

もし誰か異論があるなら、今発言するか、さもなくば、永遠に沈黙していてください!」


 そして私はドアに向かって歩き出した。

みんなが驚いたことに、売り手が言った:

「お待ちください、お待ちください!

入っても出てもいません!

3人用のベッドに気を付けなさい!

あなたからは何も出てゆかないし、何もあなたの中には入ってきません。」

 アダムは彼を驚きのまなざしで見て、私の後ろ姿に向かって怒鳴った:

「しかし何故なのだ?」

私は立ち止まり答えた:

「何故?もしあなたが覚えていないなら、なぜだか言いましょう。

私が17歳で結婚した時、私は私の周りの誰も私の顔を覚えていないぐらい立派なおっぱいを持っていました。

私の夫で有るあなたでさえ。

或る夜私がダンスをしていると、あなたはひざまずいて私のお腹に手を置いた。

そして私は初めて痛みを感じたの。

その痛みは7年の間続いたわ。

弱く、ある時はより強く、普段は無視できるほどの痛みでした。

でも或る晩、痛みは突き刺されるようにひどく、私は読んでいた本を気も狂わんばかりにベッドから投げ出して、急いで医者に行ったの。

医者は私をレントゲンで見て、私の中にちっちゃな完全な形の7歳になる女の子を発見したの。

私は一生懸命父親が誰だか考えなきゃいけなかったの。

今は私は分かっているわ。

あなたが父親だったのよ・・・・」

この言葉と同時に私は店のドアを開けた。

その時だけ船長は立ち直って叫んだ:

 「リリー、帰って来てくれ! お前はどこへ行くんだ、リリー?」

 そして彼は次のような答えを受け取った:

 「キエフよ。私の新しい恋人と一緒にハネムーンに。

キエフでハネムーンを過ごすのが今、流行はやっているの・・・」


 その瞬間ハンサムな紳士が店の中で「ブラボー!」と叫び、売り手が、私がドアにいる間に声をかけた。:

 「回れ右をしなさい、思いとどまりなさい、海は荒れていますよ、波があなたを呼んでいますよ・・・」


船長は店の真ん中で戸惑いながら立って、怒ったように彼を見て、椅子に崩れ落ちながら、言った:

「ちくしょう!」

そして彼は付け加えた:

「神よ、あなたが私に与えたもうた女性が飛び去ってしまいました!」


 これが私が私の夫から聞いた最後の言葉だった。


                  *



パリの中心地には、セーヌ川の支流を超えてノートルダム寺院を望む美しい場所に、中古の英語の本屋「シェークスピア」がある。

天気が良ければ店の人は店の前に古本を並べていて、まさにそこが私が妹ともう一度会った場所だった。


「終わった?」とエヴァは私の毛皮のコートをしげしげと見ながらイラつきながら聞いた。

「今からどこに行こうというの?」

「私は新しく借りたフィーユ・デュ・カルヴェールに引っ越すつもりよ。」

「じゃあ、あなたはその新しい毛皮のコートのために新しくアパートを借りたってこと?」

「いいえ、私は夫ともベイリー少佐とも別れたの。

あなたに言ったように私はこの酷い生活を変えるつもりなの。

今がその時よ、もう私は26歳なんですもの。

私は私のお勉強をやり遂げたいの。そしてその後で子供を産むの。

でも誰の子供を産むかってことには気を付けなくちゃあ。」

 「それと、新しい愛人とのキエフへのハネムーンはどうなの?」

「無しね。」

「どういう事?」

「新しい愛人なんていないの・・・今はお勉強の時なの。」

「分からないわ。わたしはあなたが新しい愛人のためにあなたの昔からの愛人と夫と別れるのだと思っていたわ。」

「それは正しいんだけど、これまでのところ、新しい愛人は架空の可能性に過ぎないわ。

夫にも恋人にも飽きてしまったの。

多分私は女性の友達を見つけるべきだわ。

彼女たちは私を喜ばせることをもっと知っているわ。」

 「だからあなたにはそんな浮気男蝶々が全然いないのよ。

まずそれを捕まえることが必要ね。そう、あなたは私よりもっと悪いわ!」


「エヴァ、あなたはほんとに寝ている時は女なの?

私が今から新しい愛人の見つけ方を教えてあげるわ。

彼らはあなたが探そうとしないときに見つかるものなのよ。

一寸瞬きをして見ていなさいよ。

本屋の窓に広告があるのが見える?

見える、いいわ、それを読みなさい。」


本屋「シェークスピア」のガラスの後ろに灰色の紙があり、大きな文字で、英語で次のように書いてあった:


                  求む!

ハザール辞書(男性版)を持っている青年が、ハザール辞書(女性版)を持っている女性を探しています。

目的: 辞書と会話の交換。 電話番号: 22 52 39…


「分かった?」

「いいえ。」

「それがあなたに恋人がいない理由なのよ。

私は新しい恋人にふさわしく、新しい香水「エリザベス アーデン」のブルー・グラスを買ったばかりだけど、ここシェークスピア書店でその女性版を見つけたのよ。

それはクノップのニューヨーク版の辞書で、293ページに同じような文が掲載されているの。

広告のこの若者が交換の対象として探しているものと同じものです。

それを手に、広告の電話番号に電話をかけるわ。

彼の本の内容を見るためだけに…」


                 2-6


白黒の容器

 ふたを持ち上げて箱を開けると、(前にも言ったように)書き込みができる面に達する。

この面は色々の補助器具を箱の区切りの間を動かす事ができるように、真鍮の縁が付いている。

縁の所には気閘きこうが2つ付いていて一つは内側用の隔壁で、そっちのほうが外向けの隔壁よりも大きい。

それは三角形の開口部のあるパイプのような形をしている。

その鍵は歯を抜くのに使われていた器具に似ている。

その真鍮は腐食していてあちらこちら緑色になっている。


箱の上の端には最初の内部隔壁がある。

もし内部用のカギを回すと、不思議な目的が達せられる。

鍵の圧力で箱の底にある穴からネジが現れる。

だから箱は船の揺れでテーブルやそれを置いた他の台から滑ることもない。

前述のカギとネジは木製の表面に固定するために使われたのだ。

箱がロックされている限りネジには達しない。


 「あなたに左手が2本あったとしても、あなたはそれを盗むことはできませんよ。」と、給仕がそれを置くときに言った。


 真鍮の枠と布の筆記するための表面の間には、その上部の縁に沿って明るい木材と暗い木材で出来た小さな溝が5つ、5つのお盆トレーのようにある。

その一つはおそらくインク壺が入っていたのだろう、というのはそこには緑色のシミがたくさんついている、そしてもう一つにはインキの上に振りかけるための砂が入っていた。

4つのトレーは正方形で、5番目は長方形でらせん状の溝を切ったチーク材で出来ていた。

その事から判断して、恐らくその下には砂を使わない場合を考えて、吸い取り紙が付いていたのだろう。

だからペンホルダーを収容するためのそのトレーは同時に吸い取り紙も兼用していたのだろう。


 2つのトレーは空だ。

 ホルダーを入れるトレーにはペンを固定するための銅の金具の付いた濃い緑色の杉材のペンホルダーがある。


 その隣のトレーには赤い砂と、ペニス状の形をした笛と、箱の中には入っていなかった瓶のガラス瓶用のコルクが入っていた。

笛は死者の魂を呼ぶためのものだ。

それは何か「クムト!クムト、クムト!」という奇妙な音を出します。

これは死者の氷のような夢が自分自身を温めるために生きている者の心地よい夢の中に時折入り込む時に出す呼び声なんだ。

その時だけ彼らを呼ぶことができる。

より正確に言えば、その笛は死者の魂を召喚したい人が、その魂を呼び出すことができるために使われる。

もしあなたが3回笛を吹けば、あなたは死者の魂とその氷のような夢をその一時的な居場所から引き出すでしょう。

死者の魂と夢はその笛によりあなたを見つけるでしょう。

だから、笛は箱の中には我々が知っているよりももっと深いところに何かが隠されているものがあるぞという警告であるわけです。


 つまり、もしあなたが何か探していてそれを見つけられない場合、けっして希望を失ってはいけません。

多分それがあなたを見つけてくれます。


 ガラス瓶のコルク栓に関しては、あなたが光の方に持ってきて、虫眼鏡を使えば、栓の底にギリシャ語が彫ってあるのを読むことができます。

その気泡ガラス瓶の記述は次のように書いてある:

 「おまえの年月は姉妹や母娘、兄妹のように一組だということを忘れるな。

また、ある者は義父と義理の娘、または恋人のようでもある...」

 ガラス瓶のコルク栓をひっくり返して反対側をみようと思った者は次の言葉を読むだろう:

「すべての夜を昼として迎えるには、おまえの人生にどの年のペアが来るかを前もって認識する必要がある。」


 かつてインク壺が置いてあったトレーは今は小さな黒の絵具とアフリカとアジアの女性が足に塗るための小さな棒が入っている。


               第二部


  筆箱の真ん中の段


筆箱のこの段はローズウッド材の引き出し(7)、クルミ材の引き出し(8)と3つの広い区画(9-11)が含まれる。


                7

ローズウッド材の引き出し


 ペンホルダーを入れるトレー(4)を外すと筆箱の真ん中の段の一部が現れる。

その下にくぼみがある。

真ん中のトレーの左の壁を持ち上げると、秘密のバネガ外れて、トレーの下に隠されていた、ローズウッド材の引き出し(7)が左側から飛び出してくる。     

その引き出しにはナイフとフォークと女性の髪の毛の塊が入っている。

同時に秘密のオルゴールが作動し、オルゴールは見えも触れもしないが、音が聞こえてくる。


 オルゴールには7つのメロディーが入っている。

それぞれの海の風に対応している。

だから、それぞれの風に合わせて異なる曲を奏でる。

風が変わるとオルゴールの曲が変わる。

何が奏でられているか聞くことで、船乗りは船室を出ることなく風の情報を得ることができ、外でどんな風が吹いているか、変わるとすれば、いつ風が変わるか知ることができる。

南の風は次の言葉で始まるメロディー:「明日の動きの静かなシャツで・・・」、南東の風は「静寂、青い花の囁きのように.....」、山を越えてくる風には「私の一日は二つの夕暮れ......」という具合である。


                    8

               クルミ材の引き出し


真ん中のトレーのを取り外すと、クルミ材の引き出し(8)がバネの力でくぼみの中に飛び出してくる。

その小さな引き出しには漫画本の一枚を引きちぎった一枚の紙にクルクルと巻かれた手書き原稿が入っている。

口から泡を吹いている雄牛が書いてある。

若い男女が向かい合ってその牛に乗っている。

そのマンガ本は英語で書かれていて、表題は「Third Argument」です。

そのマンガをはがすと、前述した原稿が出て来る。

緑色のインクで書かれた各ページは、吸い取り紙のようで、環境にやさしいことを示す小さな印がついているノートである。

黄色っぽいノートのカバーには小さな青い花がちりばめるように描かれている。

原稿そのものは男の手で書かれていて、日記に似ていて、そこここに印刷物の切り抜きが張り付けられている。

その全文を下に記す。

それはパリでセルビア語で書かれている。


         英語の漫画の切れ端に包まれているパリからの原稿


「あなたがシェークスピア書店に広告を出しましたか?」と、昨日、受話器から女性の声で尋ねる声を聞いた。

「そうです」と、私は言った。

「私は今から学部に行くとこなの。私は土木工学を勉強しているの、大学が何処だか、あなた、わかる?」

「僕も土木工学を学んでいるんです。」と僕はすぐ答え、「僕はそこに、正門に、45分までいます。」と言った。

僕は彼女に会った時、瞳の位置によって、彼女の左眼は彼女の右眼よりも多くの回数、輪廻転生を繰り返しているということがすぐに分かった。

左眼は右眼より少なくとも1500年は年をとっている。

そしてそれは瞬きをしない。

彼女は本を抱えてやってきていた。

「あなたはその本を読んだのですか?」と僕は彼女に聞いた。

「いいえ。」と、彼女は答えた。

「私は本はあまり読まないの、それであなたは?あなたは読んだの?それともそれは私を引っ掛けるためのトリックだったの?」

「今言った事は忘れてください、」、「僕と一緒に勉強しませんか?」と、僕は言った。

「いいわ、でも一つはっきりさせておきましょう。勉強中はやらない、試験の後で-会いましょう、良い?」

「分かった。」と、僕は言った。

そして僕たちは一緒に「数学Ⅰ」を勉強し始め、彼女は僕のように地方出身者ではなかったので、僕たちは彼女のフィーユ・デュ・カルヴェール通りの大きなアパートで勉強した。


毎朝かなり早い時間に、僕は彼女の所有する大きな車「レイランド・バッファロー」の前を通り過ぎた。

その前に僕はブルターニュ通に面する公園で石を探して立ち止まってポケットに入れて、彼女の部屋の呼び鈴を鳴らして上に上がっていった。

僕は本もノートも筆記道具も持ってこなかった。;

それらの物は全部いつも使えるように彼女の部屋に置いてあった。

17インチのスクリーンが彼女の前でチラチラしていた。

僕たちは9時から11時の間に朝食が出て、12時まで勉強した。

その後、主に既に学習した教材を復讐した。

その間ずっと僕は手に石を握っていた、もし僕が眠り込んでしまった場合その石が床に落ちて眠ったことを気付かれる前に起こしてくれるからです。

また、眠くなければ、僕は部屋の隅にある彼女のギターを見た。

壁には絵画の代わりに、ガラス張りの巨大な切手(帆船や船の絵)が掛かっていた。

1時過ぎても彼女は勉強を続けたが、僕はそれ以降勉強をせずにアパートを出た。


 だから僕達は彼女が一人で勉強する日曜日以外は毎日数学の試験に取り組んだ。

彼女は、すぐに僕がどんどん遅れて行っているのに気が付いた。

彼女は僕が早く帰るのは休んだ講義を午後一人でやりたいと思っての事だと考えていたが、彼女は何も言わなかった。


 彼女は、人に教えても自分は教えられないと知っていて、「別々の道筋で葉っぱを食べる虫のように、別々に学びましょう、」と彼女は考えたのだろう。

彼女は、二人で約束したにもかかわらず、休憩中に自分の膝にキスをしそこにキスマークを付けたり、顔を自分の髪で隠したまま彼女の舌を私に向かって突き出したりした。

勉強中は恋愛禁止という合意を尊重して僕は反応しなかったので、僕たちの間には何も起こらなかった。

実際、彼女の影響を受けた放蕩の下で、彼女は恥ずかしがり屋で、ある意味で彼女自身も気づいていなかったが、貞淑な人だった。

さらに、まだエロティックなことに目覚めておらず、明らかに過去にそんな経験もななかった。

だから新しい関係を始めることに不安を持ち、気乗りがしないのだった。

そのことが「試験が終わってから・・・」といって、その事を後回しにした理由だったのだった。

そんな人々に愛し方を教えるのより、鳥にボタンの留め方を教える方がもっと易しいだろう・・・。


「あなたは誰なの?」と、彼女は突然僕に聞いた。

「あなたはその答えを自分で見つけることができますよ。

人は古い秘密があります、それによれば人は自分自身が鏡に中にいるように見るか、鏡が彼を見ているように見ることができる。

ギリシャやローマの古代の詩はすべて、同じ隠された物語を繰り返している。

正しい方法で質問をすることができる人には聞こえるだろう。

正しく質問できない人には聞こえないだろう。

ある解釈によれば、男性と女性は同じように呼吸することはできない。

別の解釈によれば男性と女性は一緒に歩くとき、常に同じ歩幅を持っていない。」

どちらにせよ結局のところ、こういうことになるのだ。

女性と男性は、三分呼吸の人と二分呼吸の人とに分かれる。

生まれつきそうなのだ。

それは彼らの性格の一部であり、彼らの本性です。


 本性が二部リズムで表現されている女性がいます。

彼女たちの生活では最初の息は長く、2番目の息は短く、別の言い方をすれば、最初の一歩は二番目より長い。

彼女らはいつも少し急いでいる。

一晩に100の速い夢を見る。

同様に二部リズムを示す男性もいるが、彼らは最初に短い息をし、それから長い息をする。

それか、彼らの最初の一歩は躊躇いがちで短く、2番目の歩幅だけが長い。

その様な男性はいつも盗難にあうのだ。

最後に、男性にも女性にも、2歩の同じ長さや、2拍の長い呼吸を続けてする者がいる。

それらの歩調は男性でも女性でもない。

多分それらは両性具有、最古の歩み方なのだ。

それは性が分かれる前の歩き方だったのだ。


 また、その性質が3者リズムである別の種類の女性もいる。

彼女たちの愛における最初のステップは常に躊躇いがちで短く、二番目は長く、3番目はもう一度短い、もしくは最初の呼吸はいつも短く、次に長く、最後はまた短い。

その様な女性では、男性は彼らがどの場所に立っているか決して知ることはない。

何故なら、男は3まで数えることができないのだから。


一方、性質が3つのリズムを示す男性たちは2つの短い歩調の後1つの長い精力的な一歩が続くことで際立っている。

それは彼らの機会を逸する人たちである。

最後には、稀にではあるが、一つの力強い長い一歩の後、2つの躊躇ためらいがちな短いステップが来ることがある。

そんな人々は扱いにくい。;そんな男たちは常に長期的な視点を持っていて計画を実行する・・・


 誰でも彼らがどこにいるか推測することができ、その古代の尺度上で彼ら自身を見つけることができるし、あなたもそうできます。


 「そして、あなたはその尺度の上にいる誰なの?」と彼女が僕に聞いたが、答えを得ることはできなかった。

彼女は自分自身で答えを見つけなければならないのだった。


 秋の試験の期間がやって来て、試験の当日の朝、会って一緒に試験に行くことにした。

彼女はとても興奮していたので僕がその日試験に行かないで試験を受けないと知った時それほど驚かなかった。

ただ、彼女が試験に合格した後で、彼女は僕の身に何が起こったのかと不思議に思った。

しかし僕はそこにいなかった。

彼女に恋人がいたのか知らないし、彼女が我々が合意したように、勉強する必要がなくなってから会うことを期待していたのかどうか知らない。

何故なら、今や彼女が「試験が終わって、会いましょう」と言った時期が来たのだから。

しかし、僕たちは合わなかった。

彼女が心でどう思っていようと、僕は春より前には現れなかった。


 「結局、何故全ての昆虫が蜜を吸わなければならないの?」と、彼女は結論付けたが、きっと彼女は時々思ったに違いない。


 「彼は本当のところ何をしているの?

東で彼らの商品を買い西でそれを売る笑顔の運び人の一人に違いないのだわ。」


「数学Ⅱ」の時間になった時、彼女はある朝、僕に学部であった、僕の新しい肘のつぎ当てと彼女が初めて見る新しく伸びた髪を興味を持って見ていた。

全てがそれ自体で繰り返された。

毎朝僕は約束した時間に来て、彼女はまだ眠そうに、しかしまるで鏡でさえも砕くことができそうな眼差しをして、冷たい流れと温かい流れに満ちた大きなアパートの緑色の層になった空気を通って、ドアを開けた。

彼女は僕が髭を帽子の中に押し込み手袋を外すのをしばらくの間見ていたものだ。

僕は中指と親指を合わせて手袋を一気に裏返し同時に外した。

それが終わると、彼女はすぐに勉強を始めた。

彼女は全力で仕事に取り組むと決めていて、それが毎日だった。

僕達は彼女の壁掛けのテレビのスクリーンの前に座り、ちょうど彼女のステレオがずっとミュートになっているのと同じように、テレビの電源を切ってミュートにした。

彼女は数式でいっぱいになったモニターに飽きた時は、僕の脚を観察した。

片方の脚は常に踏み出そうと構えていて、もう一方は完全にじっとしているのだった。

それから、左右の脚が役割を交代した。

彼女は破ってはならない考え方と意思で、それが朝であっても関係なく、僕たちが朝食後でまだ新鮮で仕事を始めたばかりの時でさえ、また終わりに近い時で彼女が幾分仕事のスピードが遅くなっても、仕事を止めたりせず、全ての問題の詳細に集中した。

まるで彼女は以前に失った何かを取り戻しているかのように。

彼女は大きな顔の美しい目で時々悲しげに僕を見た。

その目は何か言いたげだった。

それか、彼女は彼女の付きだした舌で僕に十字架を示していたのだった。

しかし僕はずっと僕たちの合意にこだわっていた。

僕はいまだに1時にアパートを出て、彼女は、僕のまなざしが一時間で古くなり、僕が後ろに置いて行かれているのに気が付いて、すぐもう一度無理にとどまらせることはできないと知るのだった。


 春の試験の時期が来た時、彼女は僕が試験に合格できないだろうという印象を持ったが、彼女はその責任は彼女にもあると感じて何も言わなかった。


 「結局、私は彼を勉強させるために肘にキスしてあげるべきだったの?もし彼が自分の責任でヘマをやるのなら、それは私の知った事じゃないけど・・・」


僕がもう一度試験に現れることを失敗した時、彼女はまだ驚いていて、後でもしかしたら僕が午後か別の日の試験を受ける受験者の方のリストに載っているのじゃないかとリストを調べた。

驚いたことには僕の名前はその日やその試験期間の別の日にもまったくリストには載っていなかった。

それは明らかだった。

:僕は全くその期間中の試験のどの受験も申し込んでいなかったのだ。


 彼女は彼女が成し遂げたことに満足して家に帰ったが、僕の立場については全く混乱していた。

というのは、彼女は匂いを嗅ぎ取ることができたので、きっとすぐに彼女の部屋の中の彼女の書類の中に違う匂いのする他の人のものが混じっていると分かったに違いない。

そして彼女は僕が前の日に慌てて、彼女のところにノートを残していたのを見つけたのだ。

彼女はそれを開いて、僕が土木工学部を全然学んでいないで、彼女の学部に入学してもいず、ほかの学校に所属している事を知ってショックを受けた。

その学校で僕はちゃんと普通に試験に合格していた。

彼女は2人の終わりない勉強を、それは僕にとっては不毛の意味のない努力に違いなかったのだし、完全な時間の無駄だった事を思い出し、当然、次のような質問を自問した。

:何故?何故僕がそんなに長い時間、僕の興味とは関係のない、受けなければならない試験と関係のない、科目を学んで彼女と過ごしたのだろうか?

彼女はその事について考え、次のような唯一の結論にたどり着いた。

:人は語られないまま残されたことを考慮しなければならない。

;それは全て試験のためではなく彼女のためだったのだ。


 「誰がそう想像しただろう、」と、彼女は考えただろう。

「彼がそんなに臆病で、彼女への愛情を何か月もあえて公表しなかったとは。」


 彼女はすぐに僕がアジアとアフリカから来た同僚と住んでいる借部屋に行った。

;彼女は貧相な生活状況を見、僕がすでにそこを出たと知らされて驚いた。

彼らがエーゲ海沿岸のサロニカの近くの小さな場所の住所を知らせたので、彼女は躊躇せず彼女の車「レイランド・バッファロー」に座り、いつもと変わらず何も発見しなかったかのように行動しようと決心し、僕を探しにギリシャに行った。

そしてその通りになった。

サロニカで彼女は骨董品の「愛の時計」を買った。

それはカップルでいることのできる時間を計る液体の入ったガラスでできた携帯できる小さな器具だ。


 彼女は夕暮れ時に到着し、沿岸に探している家を見つけた。

それは荒廃していたが水性の漆喰が塗られていて、ドアの大きさよりかろうじて大きい大きさで、ドアは大きく開かれ、大きな白い雄牛がラム肉を載せた新鮮なパンをくわえて繋がれていた。

内部にはベッドと壁には赤い房の付いた聖像、紐でつるされた穴の開いた石、独楽、鏡と林檎が見えた。

ドアの柱にペニスの形をした笛が吊るされていた。

日焼けした、髪の長い若い人物が窓を背にして、裸で片肘をついて、ベッドに寝ていた。

背中を走る深い溝は、太ももの間でわずかにカーブを描きながら終わり、粗い山羊毛の毛布の下に消えていた。

彼女は胸も見ることができるだろうという印象を持った。

それは温かい夕方の中で深く強く輝いていた。


 彼女はドアの柱から笛を取り、自分の存在を気付かせるために笛を吹いた。


 「クムト!」その笛はかろうじて聞こえるように反応した。

その人が彼女の方を向いたとき、ベッドにいるのが全く女性ではないことが分かった。

僕は片腕にもたれかかり、夕食代わりの蜂蜜をたっぷり含んだ口ひげを噛んでいた。


 「3回吹くべきだよ」と、僕は言った。


 彼女は僕へのプレゼントの愛の水時計をテーブルの上に置いて、ぼくのみじめなベッドに女性を見たという最初の印象をぬぐい去ることができなかった。

しかしその印象は長いドライブの疲れと一緒にすぐに消えてしまった。


 底に鏡の付いた皿から彼女は、一つは彼女自身の、もう一つは想像の中の彼女に魂のための、(豆とクルミ、魚、そして食事の前に小さな銀貨の)2重の夕食を受け取った。

銀貨は食事中、僕と同様彼女の舌の下に置いたままにしていた。

だから、一つの夕食は4人全員、僕たち二人と鏡の中の2つの魂を養うことができた。

夕食後、彼女は聖像に近づき、それが何を表しているのか聞いた。

「テレビだよ、」と、僕は彼女に言った。

「言い換えれば、これは君とは違う数学を使った世界への窓なんだ。」

「どういう意味?」と彼女が訊ねた。

「つまり、」と、僕は答えた。

「君の計算は間違っている。何故だか教えてあげよう。

単数、点と現在の瞬間、それがあなたの全ての機械的な世界で、その世界はその計算で成り立っているものです。しかしその計算は間違っています。そしてそのことが問題の始まりなのです。あなたの数学では水が漏れてしまう(通用しない)。」


 「今あなたは私に言っています、そしてあなたは何日もその同じ数学を私と一緒に詰め込んで過ごしましたね。あなたの主張を証明してください!」


「それはとても単純です。

5本の指を上げて数えてください。5本あると言うでしょう。そしてあなたは正しい。

そう、あなたは複数は数えられる。じゃあ指を一本上げて単数を数えてください!

それはできません。単数は全ての量を欠いています。それは数えられないのです。

そうでなければ、神も数えられるはずです。


 点に関しては、もしあなたにできるのであれば、縦幅、横幅、高さを決めてください。

できませんか?勿論できません。点は点です。そしてそれが点なのです!


 聞いていますか? 壁から聞こえてくるティックタックという音が聞こえますか?

時計は何を食べて生きていますか?しゃっくりです!

もし時計が常に同じ、今!、今!、今!を何時もつついていれば、どうしてあなたは今何時かを知るのでしょうか?

そしてわたしたちはその「今」だけを生きているのに、「今」は測ることはできません。


あなたの数学が測定可能性を欠いているのに、どうしてそれを信頼することができるでしょうか?

何故、それらの量的な間違いによって作られた飛行機や自動車という機械がそんなに短命なのか、人間の命の3,4分の1倍、いやそれよりももっと短いのですか?

ごらんなさい、私も白い「バッファロー」を持っています。

でも、それはレイランドでプログラムされたあなたのと違っています。

試してごらんなさい、そうすればいくつかの点であなたのより良いことが分かるでしょう。」

「それは馴れているの?」と彼女は笑いながら聞いた。

「保証します、」と、僕は答えた。

「どうぞ、試してみてください。」


 彼女は家の前のその大きな雄牛を触り、ゆっくりそれに乗った。

僕もその角に背を向けて乗って、彼女の顔を見た。

僕は牛を二本の脚が水の中にもう二本が地面を踏むように、海に沿って歩かせた。

彼女は僕が最初に彼女の服を脱がせ始めたとき驚いた。

彼女の服は一枚一枚水の中に落ちて、それから彼女が僕の服のボタンをはずし始めた。

ある瞬間、彼女は雄牛に乗るのをやめて僕に乗り始めた。

彼女は僕が彼女の中でどんどん重くなるのを感じた。

僕達の下の雄牛は僕たちがしなければならないことをすべてやってくれていて、彼女はもう、雄牛と私のどちらが自分に喜びを与えているのかわからなくなった。


 彼女は2重の恋人の上に座って、一晩中、僕たちが白い糸杉の森を通り過ぎるのを、水辺の人々が露と穴の開いた石を集めるのを、自分たちの影に火をつけるもやしているのを、二人の女性が光を放ち、2時間にわたる長さの庭を見た。

その庭では、最初の時間は鳥たちがさえずり、二番目の夜が暮れようとしている、最初の時間は果樹園に花が咲き乱れ、二番目には風を背にして雪が降っている。

それから彼女はすべての体重が私から彼女に移るのを感じ、拍車をかけられた雄牛が突然向きを変え、彼女を夕方の海に運び、ついに私たちを引き離す波に引き渡すのを感じました…


                       *


 夕方、僕たちはワインを飲んだ。

彼女は僕が足から片方ずつ靴下を脱ぐのを見ていた。


 「なぜ人は未来を嫌うの?」と、彼女は聞いた。


 「それが世界の終わりを含んでいることを知っているからさ。

彼らは怖がっているんだよ。

今日、世界の終わりは、いつでもどんな蝶でもその翅を羽ばたかせることで、それを脅すことができるほど、熟していて、ありうることになっている。」


「あなたの数学はそれがどのように見えるかを計算できるの?」


 「多分できるよ。

多くの人は世界の終わりは地球上のどこからでも見えると考えています。

人はそれが実際どういう意味なのか心に留めておくべきです。

 もし、世界の終わりがどこからでも見えるのなら、それは空間はもはや意味をなさないと言う事を意味します。

そう、破滅は時間が空間から分離し、空間が世界中で破壊されるという意味で、やって来るのだ。

空間から自由になった、沈黙の時間だけが残るのです。」


 「多分、」と、彼女はいやいやながら答えた。

夏の帽子の跡がまだ彼女の額に残っていた。


 「そうね、私はそうは思わないわ。

古代カナンのお寺の近くにはその周りに座席を備えた円形のいけにえの祭壇があったわ。

それは世界の終わりを観察するための座席だったの。

そこからは審判の日が最く良き見られたの。

だから、彼らは世界の終わりは一つの場所だと思っていたのよ。

彼らにとっては、それは時間の終わりであって、空間の終わりじゃないの。

というのは、もし世界の終わりが一か所で観察できるのなら、それはその場合、その場所ではもはや時間ではないことを意味します。

それが世界の終わりなのよ。

時間から分離された空間。」


 「まあ、私は愛について話しているの。

心の中には空間はなく、魂の中には時間がない・・・」


                  *


 日々はゆっくりと過ぎ去り、夜はすぐに灰色になった。

毎金曜日には、断食する代わりに、24時間沈黙した。

僕達がパリに帰る日の朝、僕は小さな女性用の陶器のパイプを買った。

その夏にもその後の何時も、彼女は僕が実際に学んでいることについて一言も言わなかった。

彼女はただそのノートを本棚の本の間に押し込んだだけだった。


 その冬、パリでまた、彼女は最終試験の準備をし、僕が彼女と一緒に勉強しようと申し出た時、彼女は黙って受け入れた。

以前同様、僕たちは毎日9時から朝食をはさみ正午まで勉強した。

しかし、彼女はもう、僕がその科目を勉強しているのか確かめようとはせず、僕が別の学校で学んでいることも知らないふりをしていた。

その後、僕は30分長く留まって、その間僕たちは本を置いて彼女のウォーターベッドに二人の体を投げ出した。


                     *


 秋に彼女が卒業した時、僕が彼女と一緒に試験を受けなかったことに全然驚かなかった。


 彼女はその後で彼女が僕に会わなかった時に驚いた。

その日だけでなく、その後の週も、その後の試験期間にも。

その後永遠に。

そして僕はそのパリの旧住所には既にいなかった。

彼女は戸惑いながらも彼女への僕の気持ちにたいする彼女の評価が間違っていたのかもしれないと結論した。

僕は彼女に愛のために惹かれていたのではなく別の何かのためだったのだ。


 彼女はすぐに彼女の専門で成功し、新しいパリの国立図書館のプロジェクトに取り組み、自分用に透明の洗面器や底に砂の入ったバスタブを、妹用にパンティーの中に入れるちいさな取り外しのできるエロティックな目覚まし時計などを買い続けた。


 しかし僕に関する問題は残ったままだったに違いない。

何故、僕が彼女が勉強している時にだけ一緒にいて、その後消えて決まったのか?

僕は、彼女が僕たちが一緒に勉強したフィーユ・デュ・カルヴェール通りで音楽に浸り、自分の周りの匂いを読み取っているのを想像することができた。

そして、ある日の午後、朝食のときにそこに残した「ウェッジウッド」のティーセットにふと目をやるまで、私の失踪について頭を悩ませていた。

彼女はテーブルに残したものを嗅いで気が付いた。


 毎日毎日、何か月もの間、大変な努力と終わりのない時間の無駄で、僕は毎朝温かい朝食、僕がパリで学んでいる間に食べることのできる唯一の食事、を得る為だけに僕は彼女と一緒に勉強したのだった。


 この事に気が付いて、彼女は自分自身に別の事を質問した。

僕が実際に彼女を大嫌いになる可能性があったのだろうか?と。




             緑色の絹の区画


 上部の筆記用の表面を持ち上げると、厚い本やより大きなものが入っている3つの広い区画が現れる。

左の区画(9)は緑色の絹で覆われていて、中央の区画(10)は厚い布で裏打ちされ武器の潤滑油の匂いがし、右側の区画(11)はサンダルウッド白檀の匂いがし、白檀で出来ている。


 緑色の絹の区画には船の日誌がある。

仔牛の皮カーフスキンで綴じられ、文字が印刷されている。

表題はスペイン語で、その年の1923年は家畜に焼き印を押すようにカーフスキンに刻印されている。

日誌のページの隅は紫色だ。

日誌は革ひもの飾り縁があり、そうした船長の本の各項目を黒と赤の線できれいに縁どられている。

それは1997年の最後の部分以外は完全に空白である。

その部分では一人の大西洋のギリシャ船「イシドール」の乗客が夢見ていた食事の夢を読むことができる。

彼は明らかに船長ではなかった。

その見知らぬ男は船舶日誌の中に、彼の夢の中の食事を入念に、日付と船の位置をその瞬間の緯度経度を付けて、記録していた。

しかもそれだけではなかった。

彼はまた、夢の中で味わった食事を準備するための推奨事項も書き留めていた。

ここにいくらかの例がある。:


 「...ルアーブルの港を出るとすぐ、僕はラム酒を飲み、それは銀の瓶の中にあった形のまま僕の中にとどまった。

海は僕の前にある新しく手に入れた故郷のように、包囲することができないくらい広く開けている。

僕は自分だけで船の甲板で食事をしている夢見た。

僕の前には青い陶器の皿と黄色のナイフ、フォーク、スプーンがある。

― すべては陶器で出来ている。

「キノコを添えた貝」のメニューがあった。

それは以下の様に準備されたものだ。

目玉焼きぐらいの大きめのサンジャック産の貝を取り、最初に殻付きのクルミ、レモン、匙一杯の灰を入れ、赤ワインでボイルする。

熱湯を入れた別の皿に海の塩とお茶の葉、ビターオレンジのスライスを加える。

キノコを亜麻布のハンカチに包んでキノコがお湯につからないように気を付けて蒸す。

それから貝をオリーブオイルに入れてすばやくかき混ぜ脂肪を吸収させるための大きな紙の団扇の上に置き、キノコと一緒に供する。

このすべての上にバナナを散らす。

食事は女性が一瞬口に含んだ一杯の白ワインとともに供された。


                  *


 「・・・ 木曜日の夕方、僕たちはアゾレス諸島に着いた。

そこで僕はリンゴを食べる夢を見て、それは僕の胃を痛めた。

それから、僕の夢の中では、夕食を食べにレストランに行った。

僕はうさぎのカシスソースかけを選んだ。

それは海図が描かれたマジョリカ皿で供された。

僕は、トランペットとその下に天使、髭面の男、2人の女、そのうちの一人は墓に立っている、が描かれ、「審判」と書かれた皿を手に入れた。

食事の作り方は次のようである。

塩水に漬けた中サイズの牡のウサギの脚2本にヒマワリの種とニンニクを詰め肉厚の陶器でそれにひびが入るまで焼く。

カシスソースは通常の方法で用意されたものだが、その中に高価な宝石、恐らくルビーだろう、が供される前に入れられたことを気付いていた。

食事が供されるときに、片方のウサギの骨に緑色の、もう一方に赤い絹の旗があった。

これは重要だ。

この様にすると、どちらの脚がどのウサギのものかがわかる。

それら両方を食べなければならない、何故なら二つの肉は圧倒的に違う味がするからだ。

夕食は赤ワインと女性の膝でこねられた「破れパンツ」と呼ばれるペストリーが一緒に出された。

 酔った魂と肉体がある。

この夢の中の食事は、魂のためのものだ。」



                  *


 「・・・その夜、船の上の空は晴れていたが、夢の中は土砂降りだった。

僕は思ったのだが、雨は多くの事を知っているが、それはそれほど慰めにはならなかった。

僕は一人の農民と一緒に雨の中で避難所を見つけた。

その家の壁には松明で次のように書かれていた:

「タニア、髭を剃れ、体を洗え、そして自殺しろ!この足手まといの女め!」


 農民は僕にここにはビールスープ以外に食べ物はないと言った。

それは湯気が立つくらい熱かった。

彼はそれを暖炉から取り出して大きな釘をその中に入れた。

 「そうすると色があせないんだよ、」と、彼は付け加えた。

それがさめている間にレッドペッパーを巻いたベーコンを切って、悪魔が描かれた樽から「9種類のハーブのブランデー」を出し、2個のトマト(男根、女性のそれ)を僕にくれた。

僕は飲み、しばらくの間、樽の絵を見ながらどちらを飲み込むべきか考えた。

樽の下の方には「悪魔レ・ディアブル」と書かれていて、2人の男と一人の女が鎖で縛られている事を示していた。

その後、「イシドール」のサイレンが鳴り目が覚めた。」


                *


 「夢の食事」のたびに、見知らぬ男がその時の船の位置を航海日誌に記入していたというのは、航海日誌と一緒に革装されていた天空図に記録していたことを念頭に置く必要がある。

その天空図は1882年にバーゼルで印刷され、星座は普通の方法で記されていた。

見知らぬ男はいつも食事の作り方を書くのに使っていた緑色の鉛筆で、次のようにコメントを書き加えていた。

:「空には星々が聖なる書物を綴っている。

その聖なる本はヘルメスによって読まれた。

そしてこれが彼の天空図の読み方だ。」


追加はその後、印刷された天空図の中に手書きで付け加えられた。

その手は空を緑色の鉛筆で、違う様に分割し、星座に印をつけた。

これらの変更によれば、土星の領域にある星々は3つのグループに分けられる。

最初の星座は空のその部分で最も明るい星を先端に付けた棒を持った若い男性を示している。

二番目の星座は手にランタンを持った隠遁者を示している。

ランタンから小さな星々が輝く。

土星の領域の第3の星の群れは堕天使が男と女を引きずって破滅に向かう姿を示している(これは余白に書かれている。"この悪魔の星座に導かれなければならない船は災いだ!"と)

金星、水星、木星、火星などの領域にある他のいくつかの星座も海図に記され図の余白に説明が書かれていた。

:そこでは星々が恋人たちを形作り、幸運の環、もしくはヘルメスのサイン(「下にあるものはすべて上にもある」)を作っている。

それは空の水星の領域に見られるヘルメスの署名なのだ・・・。

そして地上ではその神聖な天空の本を読む行為がジプシーたちによりタロットカードを使って翻訳される。

その際それぞれのカードがヘルメスの天空図の星の群れである事を知らなければ理解することはできないだろう・・・。


 我々にとって最も重要なことはその見知らぬ男が船の航路を記録していたと言う事だ。

航路は船「イシドール」が土星サターンの領域に入った瞬間で中断されていた。


                 10


             厚い布で裏打ちされている区画


 船長の箱の中央の区画、かつては武器が置かれていた(布の裏地の跡形から判断して―二重銃身のリボルバーだろう)が、現在「愛の時計」と4つに折りたたまれた一枚の紙が入っている。


その「愛の時計」は液体の入ったガラスの器具で、水時計の一種である。

液体が上の容器から下の容器に落ち、愛の営みがどれくらい続いたかを測る。

その後ガラスがひっくり返され全てが最初から始まる。

この液体の落下によって時を計測する方法(クレプシドラ)は、今日の時間計算方法では、大変昔の発明であるが、測定できる余りの時間を1回の流出で測定できないことを除けば、今日でも使える方法であると言う事を気に留めておくべきである。

それはある種の、愛が何であるかに関する言葉のない話でもある。

というのは、その時計の中では、生命と情熱の瞬間は、ひとつづつ続くわけではないからだ。

時にはいくらかの雫は同時に落ちる、ある愛の時間の雫は大きいこともあれば小さいこともある;ある雫は早く落ち、ある雫はゆっくり落ち、もしくはいくらかの我々の情緒の雫はその時計の中でお互いに追いつき追い越す。

時にはそれらはとても小さいので流れている時間の流れに変わってしまう。

最後には、もし遅い雫が邪魔をする場合、それを押し流す愛の雨がある。

しかし、時間の中を落ちていくスピードのままでは、永遠に入ることはできない。

速い雫も遅い雫も、長い情熱も短い情熱もその源流で一瞬止まって均される。

この全ての動きは、永遠の入り口で、源流で止められ、ここで速い流れと遅い流れが均衡に達する。

;全ての雫はその同じ入口で互いを見出し、そこで、その底で、情熱は死ぬ。


 しかし人は別の事も知る必要がある。

3000年前に女と男の結合はどのくらいの長さ続くのかをこの器具を作った時に測った賢いギリシャ人は恋人たちにさらなる可能性を与えた。

愛の営みは液体が上のガラス容器のから下の容器に流れるよりも長く続くことがある。

だから恋人たちは自分たちのではなく他人の愛を測ることができ、彼らの情熱が他の人たちのよりも長く続くことに気が付くのだ。

そして彼らは時を越えて上昇し、時が永遠に死んだ後でもお互いを愛しているという感覚を持つのである......。




 すでに言ったように、水時計の下には小さな紙が一枚入っている。

その紙は実は、eメールで送られたメッセージをエプソンのプリンターで印刷した手紙なのだ。

それは知らない人物(リリーという名前か?)がエヴァ穣に送った、フランス語の、手紙だった。

パリからパリへ。


                E-メール

主題:ボスニア

差出人:L.T.<Lilly@rosini.com.fr>

宛先:E.T. <Eva@deville.com.fr>


 私は今日、ティモテの事を考えた。

あなたは長い事音沙汰のなかった、白い牛に乗っていたあの奇妙な私の恋人をおぼえていますか。

今考えてみると彼は私の土木工学の専門から、変ではあるが、少しは知識があったと結論に至りました。

彼はストーブは家よりも古い、人間は最初にストーブを作り、その後でストーブをまねて家を作ったのだ、と言っていたものです。


 聞いてください、今日コンセルジュがやって来て、私に郵便を手渡しました。 

手紙に束の中に一通の奇妙な手紙がありました。

ボスニアから、ティモテからの手紙です。

信じられないでしょ、彼はボスニアに戦争に行ったのです、セルビア人の側で。

恐怖です!

彼らは、ベオグラードの通りの真ん中で彼を車から引きずり出して、彼がサラエボで生まれたことを知り、戦争に送ったと言っています。

彼は煙草を買う時間もなかったそうです。


私の前の机の上にはPCと一杯のしょっぱいわさび茶と彼の手紙があります。

勿論その手紙はフランス語で書かれていますが、これには困ってしまいました。

というのは、それがもはや私の恋人が私たちが一緒にいたパリやギリシャで使っていたフランス語ではないからです。

私はこれらの言葉で彼と分かりません。

それは他の言葉で、若干去勢されているようで、その死んだ言葉の背後にある考えだけが時々生きている。

ボスニアで何が起こっているのかを知っているそれらは沈黙を保ち、知らない人は大声で話していると、彼は言う。

「もし手紙を書くなら、どうか、もう私の事を「ミスター」を付けて呼ばないでください。

その言葉は私の本当の状態にはそぐわないでしょう。

ここには「ミスター」はいないのです・・・。」


 彼は追伸として信じられないことを付け加えた。

想像できますか、彼はもっと早く手紙を書いたはずなのに、手紙に署名する方法を思い出せなかった!と言っています。


                          

                   11


白檀の香りのする区画


白檀の香りのする区画には、小さな女性用のアヘンを吸うための陶器のパイプと、「モーグル」の男性用パイプがある。

男子用パイプは店で買ったものではなく贈り物として特別に注文して受け取られたものであることを意味している。

パイプには、フランス語で銘が彫られていた。

L夫人がT.M氏のために「ギリシャの思い出に」と彫刻してもらった。

パイプには一つまみの煙草をすぐ詰められるように丸めるための紙が同梱されていた。

それらの紙には次のインターネットアドレスが書いてある:

http://www.khazars.com/en/cherrywithagoldpit


上記のアドレスでそのタイトルの文を実際に見つけて読むことができますが、問題は、インターネットからのその文章が筆箱の中身に属しているかどうかです。

というのは、それが筆箱に入っている物のリストではなく、サイバースペースと呼ばれる、偽のコンピュータの空間に入っていて、筆箱の中には見つけることのできない唯一のものだからだ。

コンピュータが嫌いな人は、そこで探す必要はなく、気軽に読み飛ばすことができる。


                 第三部


                筆箱の下の層


筆箱の下の層は: 貴重品入れ(12)、金貨ダカットの保管場所(13)とリング(14)である。

箱のこの段は外側の引き出し(15)も含まれる。


                 12

                貴重品入れ


 これから明らかにする筆箱の段は一番底の段だ。

その空間の一部は外部引き出し(15)によって占められていて、空間の残りの部分は貴重品入れ(12)で占められている。

貴重品入れに到達するには大きな内部鍵と金属開口部の錠を使う。

貴重品入れが開くと緑色の絹に包まれた左側の区画の底が開き、貴重品入れへの道が開かれる。

貴重品入れはかつてはルビー色だったビロード布で裏打ちされ、今は肝臓色でかび臭いコインの匂いがする。


 この貴重品入れには何も価値のある物は入っていない。

そこでパリ作られた小さな電話用のテープが見つかる。

留守電用のものだ。

興奮した男性の声が季節のように色を変え、中断しながらフランス語でパリの誰かに電話をかけようとしている。

テープの破損していない部分から取られたメッセージは以下のようである。


       留守電の内容


 ボスニアでの最後の3夜は私の兵士たちと戦車を収容した寂れた馬小屋の屋根裏部屋で過ごした・・・

サヴァ川は耕された大地のように黒く無言で、私の兵士がブリキの洗面器で水をすくった時、暗闇の中で立ち上がった。

私は、彼が私が寝ているところを通る音を聞いたと思う。

ゆっくりと、私を起こさないように、私が眠っている屋根裏部屋の前のバルコニーへの階段を上った。

バルコニーには木の椅子があった。

兵士は洗面器を椅子の上に置き、その横に小さな一片の石鹼を置いた。

彼はその全てを何時ものようによく訓練された動作で行った。

彼は松の木の枝を歯の間にくわえていた。

彼は突然枝を口から取って、バルコニーの下の一階の玄関から見えるように、バルコニーの床板の間に突っ込んだ。

それから彼は洗面器の中央の位置で椅子が松の枝の真下に来るように注意しながら椅子を動かした。

それから彼は彼の上にある枝がちゃんと見えるか確かめるために、木の階段を下りて一階の玄関に行った。

それは天井の板というよりむしろバルコニーの床の間から突き出して見えた。

それから彼は静かに自分の銃に弾をこめ階段に座って、私が起きるのを待った。


 目をこするとすぐ私は昨日の涙とその夜の激しい目ヤニが顔の表面で割れたガラスのように壊れるのを感じた。

私はバルコニーに行き霧とサヴァ川の上の森を見つめた。

太陽は、ボスニアの山々の上に昇りながら、すべての季節を巡っていた。


 その瞬間、最初の朝の砲撃の爆発がやって来て、霧の中の森の光景が消えて、その爆発の煙はクロアチア側からのものだった。

短い中断の後、最初の砲撃に応えるかのように、さらに2つの砲撃が起こり、私はすぐにそれがいるラム陣地から来たものだと察した。

それよりもっと静かにそれらのこだまがサヴァ川の反対側から繰り返された。

私は上官から攻撃の命令を受け取っていたにもかかわらず、3日間の間私の部隊に攻撃の命令を出さなかった。

というのは戦車の燃料が2㎞分もなかったのと、そのほかの事は言うまでもないことだった。

わたしは小さな鏡で自分を映してみた。

頭には刈り上げのがあり、片方の耳には3つのピアスがついていた。

静寂がまた私の周りに押し寄せてきた。


 お前は静けさの中で自分を洗うことができる、と私は考えてあらかじめ用意された水の入った洗面器で顔を洗うために屈み込んだ。

私の手の中で水が音を立てたその瞬間、下から銃撃が聞こえ、銃弾がバルコニーの床を突き抜け椅子と洗面器と水を貫通して飛んできて、私の頬に突き刺さった。

私は急いで浅い傷口から銃弾をとり出し、手に銃を持って階段を駆け下りたが、そこに見つけたのは私の兵士だけだった、バルコニーの下にいたのは彼だけだった。


 「下手くそが仕事を台無しにする。消えました、軍曹!」と、彼は真っ青な顔でどもりながら言った。

その間に、私の部隊の兵士たちが驚いて二人の周りに集まってきた。


 「大丈夫です、出血していません、水が銃弾を止めたんです・・・もう少し笑ってください、軍曹、こんな傷は。さあ、それはどこにも行きません!笑ってください。」と、その兵士はとめどなくしゃべり続けた。


 「お前のライフルを見せて見ろ!打ち金を起こせ!」と、私は言った。

「私の前に裁判官、私の後ろに死、」と彼はつぶやいて、仕方なしに私の言うことに従い、銃弾が弾倉の中で光っていた。


 「お前はどこでその銃弾を手に入れたんだ?

みんな3発しかもっていないはずだぞ。

彼らが俺を殺すためにお前に与えたのか?」


 兵士は沈黙していた。

その後、彼は言った。:

「口で言うのは口で言うだけのことです;金で買ったのです。

私はそれらを買いました、軍曹。

自分の金で買ったんです。

「気を付けて準備しておくこと」それが私たちの人々が言うことです。

彼らが私を西部戦線に送った時、3発の銃弾の入ったつり革のないライフルを手に入れました。

あなたはぶんぶん言う音の鋸の中へ歩いています(相手を倒そうと必死で戦っています)―と思っていました。

私は自分のベルトをライフルのために使って、ズボンが下がらないようにするのにロープを使いました。

私はフィクレット・アブディッチ*の部隊の一人の男がイゼトベゴビッチ**の部下を撃ったのを見ました。

全部新品で、ストラップはピカピカ、腰には爆弾、弾薬は好きなだけ。」

「少し下さい、」と私は言いました。

「目の見えない奴は金を欲しがる、目じゃないんだ!お前には何もやらないぞ、俺と同じようにそれを買え。」

「誰から買ったんですか?」と私が驚いて聞き、わたしは彼の答えにボスニアを想定していた。

「それを持っていなかったものからさ、これからも持たない奴からさ。

あなたの部下から、セルビア人から、そのほかの誰でもから!」


 「歯に衣を着せない言い方だなあ、と私は思ったが、私は買いました。私はそれを私の部下から買いました。

それがその銃弾の出処です。」

 

 私は驚いてその全てを聞き、その後で出発し、命じた。

 

 「ジープに乗れ、」そして私は彼のライフルを取り、すっと彼に突き付けて彼の横に座っていた。


 「出発!」


「神はどこでも通って行きます、鋭い剣の間でさえ。

どこに行きますか、軍曹?」

「高速道路へ」

「高速道路はだめです、絶対!

生には一人の父がいるが、死には無数の父がいます...

あれはクロアチアの手にあります。

「ゼンガス」がそこにいます。

もし彼らがあなたを捕まえると彼らはスプーンであなたの目をくりぬくでしょう。」

「お前の目玉はどうだ?」

「知った事じゃありません。私のじゃありません。」

「何故だ?」

「自分で見てください。

人は提案し 神は決断します。

あなたの書類には徴兵されたのに、あなたは志願兵だと書いてあります。

そして私のにはそう書いてない。

彼らがそう書いたのはそういう理由です、だからあなたは脱走すべきじゃないんです。」

「お前は徴兵されたので脱走出来て、私は志願兵だから脱走できない・・・」


 私たちは午前中滑走路として見捨てられたベオグラード―ザグレブの高速道路に沿って運転しました。

私はカーラジオで何か音楽を見つけようとした。

空腹な永遠だけが答えた。


 「私をどうしようとしているのですか、軍曹?」

「燃料が無くなったら分かるさ、」と私は答えて彼のライフルを車から道に投げた。


 「痛みますか、軍曹?」と、彼はまた話し始めた。

「3回息を吸って、それから息を止める。それであなたはもう傷を感じなくなるでしょう・・・」


 「誰が私を殺せと命令したんだ?」

「聞かなかった、見なかった、言えなかった。誰でもない。」

「お前は嘘をついている!」

「嘘には翼がありません。

誰でもないんです、言っておきます。

そのアイディアは私のものでした。」

「何故だ?」

「悪い主人より良い召使であれ・・・

あなたは攻撃の命令を出さなかった。

そして私の村とそこにいる私の家族の全員はイラン人やゼンガスの手に落ちるでしょう。

すると何が起こるのかあなたは知っています。

彼らは喉の乾いた人々を水から引き離したのです。」


 「弾の入っていないライフルでどうして私たちは攻撃することができるんだ?

おまえだけが弾の入ったライフルを持っているのだから。

そして戦車の燃料は30分分にも満たないのだ。」


 彼は車が音を立て始め、止まったちょうどその時に「戦車が我々を買ったわけじゃない。我々が戦車を買ったんだ!」と言った。


 わたしは兵士を見ることなくゆっくりとその道路から離れた。

兵士はライフルを取りに走って戻り、私は森のより深いところに入って行った…一匹の鳥も飛ばない日陰の中に。

その途中、私は物干し用のロープからズボンを取った。

隠れながら、そのズボンとアンダーシャツを着ながら、私はセルビア領のシドに到着し、最初のバーに入り水割りのブドウのブランディ―を注文した。

私の傷を洗うために。


 私はそのグラスに入ったブドウのブランディ―を見て考えることに集中した。

私は正確に私がやろうとすることのやり方を考えつかなければならなかった。


                   *


 私の前に置かれた重要な問題はわたしが小学生として使っていた数冊の教科書の題にかかわることだった。

それらは外国語の教科書だった。

それらの題名は:イタリア語100講、やさしいフランス語、英語を易しく速く学ぶ方法、等々、のようなものだった。

ここでは今、私は外国語の教科書で培われたものと反対の技術が求められた。

私には暗記術とは逆の技術を早く学ぶ必要があった。

今、私は物事をもっとも簡単に、最も早く忘れるやり方を身に付けなければならなかった。

夢は一番近いドアを通り抜けるのと同じくらいすぐに忘れられる。

残っているのは枠組みだけだ。

しかし、あなたがその言葉で夢を見て、その中で育った言語を忘れるにはどうしたらいいのだろう?

私の場合、極めて重要な問題は:


  いかに早く簡単に、7つのレッスンで忘れるか

 レッスン1 又は 導入

忘却が人生において特に重要なことであると言う事を心に留めておくべきである。

そしてそれは偉大で神秘的な技術である。

記憶は周期的に人に戻って来る。

十年おきの記憶は、宇宙の自分自身の区域を通る流れ星の様に記憶の空に、再び現れる。

だから忘却も同じように循環している。

あなたが何かを忘れる時はいつも、それは誰かが反対側からあなたを呼びだしていると言う事を意味している。

もう一つの世界の誰かは自分があなたとコミュニケーションを取りたいというサインをあなたに送っている。

あなたが忘れたことを思い出すとき、そのメッセージがそこにある!

しかしあなたが忘れたことは常にいつもあなたが最終的に思い出すときには少しだけ変化していることを気に留めておいてください。

:思い出はいつもあなたの記憶から逃げて行ったものとほんの少し違っている・・・

そしてその違いの中にメッセージがある。


 しかし、練習に戻ろう、と私は思った。

まず最初に、その分野で、ある経験をしてきた。

あなたに言ったように、わたしは人生で二度英語を忘れて、二度死からよみがえらせました。

だから、私はその言語の忘れられ方によって区別することが可能だと知っているのです。

私は今、何とか他の言語を忘れようとした、この戦争の中で。

フランス語では私は今だに言いたいことを言うことができるが、単語は一つも理解できない。

ギリシャ語に関しては反対で、私はもはや何も話せないが私に言われたことは何でも理解できる。

一言で言えば、人は多かれ少なかれ、言語障碍者で戦争から現れるのである。

戦争中、セルビア語で言葉に詰まり始めました。

そしてそれだけではありません。

自分がボスニアの恐怖の中にいることが分かった時、私の周りにいる人々の名前を、知り合いや親戚の名前さえも忘れ始めた。

私は彼らが誰だか彼らが何をしたのか私が何処で知り合ったのか、彼らがどんな性格なのかは充分知っていた。

私の記憶の中で彼らがどんな格好なのか正確に知っていたが、彼らの名前の全世代が私の心から消えてしまい、私が住んでいた人々のいる大きな町が苗字も名前もなく残され、わたしはアダム以前の名前のない、処女のように清らかな世界になってしまった世界を移動していたのだ。

最後には、ボスニアで私は自分自身の名前を忘れてしまった。

その事はこのコースを開始するにあたっての素晴らしい基礎になると私は思った。

ちょうどあなたへの思いが、スタートのための優れた基礎であるように。

あなたの名前を忘れないように私は水の表面にあなたの名前を書き続けた。

サヴァ川で。


 あなたは森が移動することを知っていないのですか?



           レッスン2



 母語と母乳が関係している事から始めなければならない。

もしあなたが子供の頃に習った言葉を忘れたいのなら、あなたは自分が育てられた母親の食べ物を忘れなければならない。

歌と一緒に準備された食べ物はその歌詞で味付けられいている。

そのことが私が急いでシドからベオグラードへ行った理由だった。

私は友達のところに隠しておいたパスポートを取ってブタペスト行きのバスの切符を買った。

そこでスロバキア行きの24時間ビザを申請し受け取って、そのままスロべニアとイタリアの国境へ行ったのだった。

そこで私は国境通行許可証をひらひらさせている、イタリア人の若くて可愛い少女を見つけた。

彼女はそのような逃亡者をセルビアから国境を越えてトリエステまで彼女の豪華な車で100ドイツマルクで運んでいた。

彼女はすぐに私を車に乗せて、古いトリエステ大聖堂を取り囲んで糸杉のいっぱい生えた丘を登った。

私は昼食を取りたかった。

私はメニューを開き、私の目はすぐに輝いた。

素晴らしいイタリア料理とそれらのその翻訳不可能な名前の素晴らしい集まり。

そこで私はもう二度とメニューを私自身の言葉に翻訳しないように決心した。

よさそうなものを何でも注文して、食べるものは何でも、セルビア料理を忘れてしまいなさい。

それらを永遠に忘れなさい。

翻訳できない名前も一緒に。


 そして私は糸杉の木陰で、第二のレッスンを習得した。

その後、私はもう一度はあなたの事を思いました。


 私はあなたがその森が移動することは知らないと思いますか?

森たちが動き始める時はゆっくりと長い間旅をする・・・



           レッスン3



 トリエステで私は仕事の問い合わせをした。

パスポートにスタンプのないセルビア人がボスニア戦争の最中に、イタリアで何の仕事を得ることができるだろうか?

彼らは私に、古い電話の交換機が取り外された、パヴィアに行くように言った。

それで、私は廃墟になった電話局を片付ける事に取り掛かった。

私たちは金属の建築物と積み重ねられた多量のブロックと錆びた鉄のスクラップを切りとりトラックに積み込んだ。

作業は手袋を蜘蛛の巣のように引き裂き、爪がはがれ、怪我をしないものは誰もいなかった。

時々、上司は労働者を80km離れた小さな町に連れて行った。

そこには彼のセルビアからの不法逃亡者を雇用することを非難しない彼の友達の医者がいた。

2つだけ良いことがあった。


あなたにはわかっているように私がしつこくやっているように、好きなだけ電話を、パリへだって、タダでかけられることだった・・・。


もう一つのいいことは私たちはほとんどしゃべらない事だった。


そして私たちはほとんどがセルビア人で、どんな努力をしてでも敢えてそのことを明らかにしようとはしなかった。


その場合上司はすぐにその労働者を首にしたでしょう。


だから、その環境によって私はコースの第三のレッスン「いかに早く簡単にセルビア語を忘れるか」を習得したのだった。


私の結論は明らかだった。


:「セルビア語を一つの単語でさえ決して話してはならない」


そして私はあなたのフランス語を私の手袋の中の古い鉄の受話器を握って熱烈にしゃべったのだった。




 私はあなたがその森が移動することは知らないと思いますか?


森たちが動き始める時は、その森にとってより良い場所に向かって、ゆっくりと長い間旅をする・・・






             レッスン4






 私の膝と肘は、鉄くずを積んだ大型トラックの運転手が体調を崩した時には、既に傷ついてしまっていた。


私は彼の交代を志願した。


私は電話交換機の解体をしている会社の旅行許可証だけを公的書類として使って2回短い旅行をした。


私はそれをうまくやったので彼らは、フランスとの国境を越えて、旅費を前払いして、私をより長い旅に送り出してくれた。


そして私は運転席にいた。


私はいつも昔からトラックの運転者として果てしなく高速道路を旅行することにあこがれていた。


戦車に比べると私のトレーラートラックはおもちゃだった。


今やイタリアは私のものだった。


わたしはリグーリア州の遺跡に直行した。

そこは、ある夏、学生として古代の城壁を発掘する仕事をしたことのある場所だった。

そこにはたくさんの労働者がいて、私はスクラップの鉄を積んだトレーラーを少し離れたところに停め、掘削作業を志願した。

私が表面を引っ掻いたところではどこでも、古代の屋根のタイルやアラブのフィリップ時代からの青銅のコインに出くわした・・・

その地域はかつてローマ帝国の領土で地球上の、又は地下のだれもセルビア語を理解しなかった。

私もそれを必要としなかった。

私はそれを考えもしなかった。

だから私のコースの4番目のレッスンは達成された。

そこでは私はセルビア語で夢を見ることをやめた。

私はラテン語で夢を見た、大抵は私たちが発掘したコインに記されたラテン文字でした。

私は記念品として穴の開いたエトルスキラが刻まれたコインを一つ受け取った。

7日が経った時、あなたの事を思った。


 私はあなたがその森が移動することは知らないと思いますか?

森たちが動き始める時は、その森にとってより良い場所に向かって、ゆっくりと長い間旅をする。

彼らは秋に旅立ちたがる。

鳥たちの様に・・・



               レッスン5



 私は遺跡発掘場所で日当を受け取り、ローマの女帝エトルスキラの描かれたコインをジーンズのポケットに入れて、くず鉄をゴミ置き場に届けた。

その後、私はまっすぐトリノまでトラックを運転し、そこでアマデオ・ラマゾッチという看板を掲げた一軒の家を見つけた。

私は彼から私の叔父のものが入った預かっていた船箪笥と、亡くなった父の開封された遺書を受け取った。

それにより、私はコトルにある一軒の家を相続し、私はその弁護士に言った。

「ユーゴスラビアではいたるところで銃撃戦があります。

私は家を所有できるか確信できません。

サロニカの近くにある母の家はどうですか?」


 彼は彼の書類にはギリシャにある他の家についての言及はないと答えた。

しかし彼は言い添えた:


 「もしあなたが望むのなら、わたしはここで、あなたにコルトにある家の買い手を見つけてあげることができます。

あなたは今私から頭金を受け取ることもできます・・・。」


 私はお金を受け取って空のトラックでトリノを発ちトラックの通行許可証を携えてイタリア―フランス国境を越えた。

私は街の外の道にトラックを永遠に置き去りにし、それを本社にその場所を見つけられるように電話し、それが壊れたことを説明した。

電話の向こうの上司は、何も理解できなかった。

彼はトラックと私がフランスで何をしていたのか知るために、セルビア語をしゃべる人を電話口に連れて来たがっているようだった。


 「私はセビリア語は話せません、」とイタリア語で短く言って電話を切った。

それから私はまたあなたの事を思った。

私はパリのあなたの電話番号に電話を掛けた。

私はあなたのフィーユ・デュ・カルヴェール通りの電話が鳴ったので、またこのようなメッセージを残した。


 私はあなたがその森が移動することは知らないと思いますか?

森たちが動き始める時は、その森にとってより良い場所に向かって、ゆっくりと長い間旅をする。

彼らは秋に旅立ちたがる。

鳥たちの様に。それとも人の様に・・・



                  レッスン6


 私は数日旅をしてある夜パリに着いた。

そこで私はかつてのユーゴスラビアのセルビア人が、私がその前に負けたのと同様の戦争に負けたことを知った。

私はもう一度あなたに電話をし、運よくか不運にもか、あなたはあなたが覚えている通り、ついに電話に出た。

しかしそれは全て無駄だった。

あなたは逢いたがらなかった。

最初に一言だけ「絶対ダメ、」というようなことを言った。

そしてあなたは私に、覚えているでしょう、あなたの電話のテープにそんなボスニアから、イタリアから、プロビンスからの話を吹き込まないで、と頼んだ。

それは単に私が「いかに早く簡単にセルビア語を忘れるか」の短期講座をなんとか終えられなかったためだった。

私はその講座を続けることに決め、それを成功裏に完全に終えた時だけあなたに電話をかけることを自分自身に約束した。

私が第7課をマスターした時にだ。


 その後、私はレピュブリック広場に行き「シェ・ドゥ・マリス」店で暗赤色の毛糸の球を買った。

私は、あなたが万一私を探したいと思った場合に備え、中に電話番号を書いたメモ包んだ。

私はそれをあなたのアパートの窓から、手榴弾を敵の塹壕に投げ込むように投げ込んだ。


 私は、まるで星々の歩みが地球上でも聞くことができた、ノアの箱舟以前の時代から来たかのように、疲れ年をとった。


「魂の中には空間が無く、心の中には時間がない・・・」


私はあなたがその森が移動することは知らないと思いますか?



              13-14


金貨(ダカット)とリングの保管場所

金貨と指輪の保管場所は最も見つけにくい。

底に達するには貴重品の場所(12)の壁を押さなければならない。

そうすると、隣り合った壁がバネで飛び出して来て象牙の取っ手の付いた2つの小さな引き出しが現れる。

上の引き出しは本物で札を入れるためのものだが、下は偽物だ。

それは実際には、前に象牙の取っ手の付いた木製の立方体だ。

その中には、6つの完全な円筒形の開口部があり、小さいものと大きいもので、デュカットと指輪を収納することができます。

その後ろには英語で「彼の敵の事だけを考える者は敵を得るが友は失うだろう。」


 上の引き出しは今は空からである。

 下の偽物の引き出し、ダカット金貨とリングを入れるための区画には、首飾り用にした一枚のコインが入っている。

というのはコインの端に穴が開いているからだ。

その銀の表面はずっと前にすり切れていて文字はほとんど読み取れない。

:エトルスキラ・・・

その横の小部屋には、夏に足の親指につけるような銀色の女性の足用の指輪がある。



               15


             外側の引き出し



 筆箱のカギが開けられ、蓋が開けられると、真鍮のリングで外側の引き出しを引き出すすことができる。

引き出しは大変長いものだ。

航海中のダビノビッチ船長か誰かが、この箱に何を入れていたのか、想像するのは難しい。

多分、折り畳み式の望遠鏡か?

今は本が入っている。

もっと正確には、本からちぎり取られた53ページが入っている。

カバーもタイトルページもない。

著者の名前も判別できないが、出版社の名前は簡単に読み取ることができる。

こんな風だ;セルビア国立図書館、ベオグラード、1986年、写真印刷版、等々。

余白に手書きのメモがある。

これらの手書きの挿入の理由は簡単に説明できる。

本の所有者が自分の人生がこの本の中に書かれていると考えたということだ。

彼はメモを挿入し、手書きで適切だと考えるようにすべての部分を訂正したのだ。

これらの全ては全て省略することなくここにまとめて示す。



            本からちぎり取られた43ページ



                 1



 エヴァ様、



 一年ぶりに、ついに連絡を取ることができました。

あなたは私がパリにいない事には気付いていたに違いない。

私に驚くようなことが起こったのです。

去年の5月、フィーユ・デュ・カルヴェール通りの郵便受けに一つの広告が入っているのを見つけたのです。

それには次のように書かれていました:


日焼けした女性音楽 (ギター) 教師求む

望ましい条件:身長1.70cm程度、

バストとヒップのサイズはほぼ同じ。



 この信じられない広告には連絡先が書いてあった。

それと電話番号も。


 「モンパルナス駅、」と私は結論付けた。

広告の作り手は6区に住んでいた。

私はその時は何も疑わなかった。

しかし、わかるでしょう、その事は私が甘いもの、男性用香水「ヴァン・クリーフ」、秋のネバネバしたブドウと春の鳥がつついたサクランボなど、だけが好きだった年だった。

一月までには既に私は落ちる前に落下物を掴めるようになっていて、私は成長し遂にあれがやれたので幸せだった。


 私はそのメモを機械的にポケットに突っ込み、いつものようにギターを取り階段を下りて行った。

何かがしつこく私の頭に浮かんでいた。

私は日焼けしていた、背丈も適切だしその他の特徴も広告に有った通りだった。

私が広告に弱いって言うことはあなたも知っているでしょう。

それに、私のネズミ捕りはいつも私より早いのだ。

またしてそれは既に知っていた。

いつものようにそれは常に私より前に全てを知っていた。

事前に。


 朝だった。

門を開けた時、家の前にはもはや通りはなかった。

冬のサーカス(冬季にサーカスが行われる建物)からセーヌ川に向かって霧が流れていて、日陰と日向に分かれている。

その朝、私の通りは消えてしまっていて、太陽は全ての季節を通り過ぎて霧の間から登って来ていた。

 ちょうどその時、96番のバスが霧の中から現れた。

それはバス停から私の家の前にゆっくりと動いていた。

各停留所の名前はその乗り物の側面に書かれていた。



ポルト・デ・リラ – ピレネー –レピュブリック – フィーユ・デュ・セーヌ –

トゥレンヌ – オテル・ド・ヴィル –サンミッシェル – モンパルナス駅。



 バスは私の前に止まり、ドアがゆっくりと開いた。

まるで私を誘うかのように。

その誘惑には抗しがたかった。

私はバスに乗り、新聞に挟まっていたチラシのモンパルナスの住所に直行した。

この様にして、もしあなたがルノワールの絵を覚えているなら、私の「草深い坂道」が始まりました。

 ドアには名前は書いてはなかったが、広告にも名前がなく、住所と電話番号だけだった。

私と同じくらいの背の高さの若い男がドアを開けた。

私は彼をほとんど見覚えが無かった。

彼の顔色の青白さは何となく少なくとも4,5世代前のものに見えた。

そしてその青白さの中に何か傷跡の様なものが浮かんでいた。

しかし私はすぐにそれは彼だと分かった。

白い水牛に乗った私の恋人。

何年もたって、彼は私の上にもう一度あの焼ける様な彼の笑顔で焼き印を押したのだった。

まるでブドウ畑から取ってきたかのような金色の髭を生やしたティモテ。

最初は私はそのアパートを出たかったが、彼がまるで私に会ったことはないというように振舞ったのでそうしなかった。

彼はまるでシャフトで私に運命を教えたことなどまるでないかのように振舞ったのだ。

彼はまるで別人のように振る舞い、時にはそのように見えた。

彼は私に大変礼儀正しく名前を聞き、その名前を今までに聞いたことがないかのようにふるまった。

それはとても説得力があったので私は帰らなかった。


 「先生ですか?」と彼は聞いて私を中に入れた。

私はなじみのない心地良い、サフランの様な、多分もう少し甘い、オイルの様に濃厚な、香りに襲われた。

それは彼がかつて使っていた化粧水オードトアレ「アザロ」ではなかった。

彼は私を広々とした部屋の中央に連れて行きまるで初めて私を見るかのように、頭のてっぺんからつま先までを見た。

 

 「あなたは髪を染めているようですね、地毛の色ですか?」と、彼は考え深げに言った。


 「私の髪の毛が何か問題ですか?天然の黒髪ですよ。

ベルギー人の黒・・・

それがあなたの失礼な広告の中の要件の一つじゃなかったかしら?」

私も、私たちが雨の降るときにいつも愛し合ったことが無かったかのように、そのゲームをし始めた。

しかし、分かるでしょう、エヴァ、私の髪は、夢中になったり恋したりするとカールして、機嫌が悪いとまっすぐになってペタンコになるの。

私は近くの鏡を急いで見て髪がアフロへやーになっていると分かった。

ぐるぐる巻きになっていた。

私は一つのレッスンでいくら欲しいかを言い、5回目のレッスンで改善が無ければ止めることを付け加えた。

その後私は彼を私の横にソファに座らせてコードを弾いて始めた。:


 「レッスンを始める前に、あなたが演奏中に知っておくべき指について言っておきます。

右の親指はあなたです、そして左の親指はあなたの恋人です。

それ以外の指は、あなたを取り巻いている世界です。

2つの中指は右があなたの友達、左があなたの敵;右の薬指はあなたのお父さん、左がお母さん、小指はあなたの子供たち、男の子と女の子、人差し指はあなたの子孫たち・・・

演奏中は時々その事を考えてください。」


 「もしそうなら、」と、彼は結論付けた、「私の左手はギターの絃で音楽を奏で、その事は、あなたのちいさな話によれば、それが私の愛人、母、敵、祖母と、もし私にその資格があるのなら、将来の娘によって作られると言う事です。

簡単に言えば、特にもし私の主な敵もたまたま女性であるとすれば、女性の演奏です。

「そしてあなたは、」彼はしばらくの間先生の役を演じ、「あなたが自分の指を怪我した時、あなたが私に言った事について考えてください。指の怪我があなたに関係があるとは思わないでください。

指の怪我はあなたの最も近い最も愛すべき者の病気と危険又はあなたを嫌っている他人の病気と危険を意味しない・・・。」


 彼のこの暴言の後、私は私に向けて彼がしたように急いで彼に向けてレッスンを始めた。

私は彼に最初のコードの押さえ方を示して彼は簡単にそれを学習した。

しかし彼の右手は決して絃に触らなかった。

その後も、その後のレッスンででも。

彼は彼の左手の位置を暗記し私が彼に与えたメロディーを正確に弾き始めたが、彼は私の要求にもかかわらず、いまだに右手を使わなかった。

そして私は私のパルファムスプレー「モリニュー」は彼の馴染みのない香りの存在の中では安全な位置にないと結論付けました。

翌日、私は「パコラバンヌ」のラ・ニュイ、オードパルファムをつけてみた。


 「右手でもやってみましょう、」と私は彼に頼んだ。

「私に、明日が私たちの5回目のレッスンだと思い出させて下さい。

そして、もしあなたがそのバカな遊びを続けるのなら私はあなたのもとを去りますよ。」


 「でも、何という事だ、あなたは何を着ているのだ?」

彼は私を押しとどめて不機嫌そうに立ち上がった。

「私はそんな服を着ているあなたを見ながら学ぶことはできません・・・。」


 私は驚いた。

彼は私が小さな少女であるかのように私の手を取って、何軒かの店に行ける通りを下りて行った。

信じられないほどの腕前と適正な趣味で彼は美しいスカートと格子柄のストッキングとそれに合わせてボンボンの付いたスコットランド帽子キャップと、リバーシブルの外套クロークと、エナメルのボタンの付いたシャツを買ってくれた。

私たちがその店を出る前に彼は私にそれらを身に付けさせた。

彼は仕立て屋に私の古い服をバッグに入れ、それらを捨てるように指示た。

私の全ての抗議は鏡を一目見ることで止んでしまった。


 「さあ、これで私たちはレッスンを続けられる、」と、彼は喜んで言い、私たちは彼のアパートに帰った。


 ここで、私はそれまで彼のしつこいほどの私に会ったことが無いというふりをひどく驚いていたことを言わなければなりません。

私は自分のギターを取って座ってレッスンを続けたが、彼はいつもやるように自分の楽器を取ることをしなかった。

彼は不意に私に後ろから近づき、私を抱き、私が逃げようとしたとき、彼は私のギターで最初のコードを弾き、私を抱いたままでいた。

そのコードは結晶の様に清らかで、その右手は完璧に自分の仕事をしていて、低くてかすれた声で彼は古風な歌を歌い始めた。

二つの言葉の間で彼は毎回私の首にキスし、私は私が今までに誰からも嗅いだことのない馴染みのない香水を深く吸い込んだ。

その言葉はフランス語ではなく、私にはなじみのない奇妙な言葉だった。:

♫ 静かな明日の動きのシャツで*


♬ 動かない


♪ 私はあなたの乳首を見つめた


♫ 心を満たすために…


 「それはセビリア語ですか?」と私は聞いた。


 「いいえ、どうしてそう思ったのですか?」と、彼は答えた。


 歌の途中で彼は弾くのをやめてゆっくりと私の服を脱がせ始めた。

最初に帽子を、そして靴を、それから指輪や真珠貝のバックルの付いたベルトを。

その後、私のシャツの中のブラのホックを外した。

その後私は彼の服を脱がせた。

私は震える指で彼のシャツを引きはがし、私が終わりにかかった時、私たちが裸になったと、彼は私をベッドの上に投げ、私の横に座った。

彼の脚を高く上げて、私の格子縞のストッキングを一つずつ身に付け始めた。

恐ろしいことに、私がたった今脱いだストッキングは私よりも彼にぴったりだったと、そしてスカートもシャツもそうだとすぐに気が付いた。

彼がさっき私に買ってくれた服を全部着て、彼は両手をお尻に当てて、私の靴を履いて、私の櫛で自分の髪を梳かし、ボンボンの付いた帽子を急いでかぶり、私の口紅を差して急いで街に降りて行った・・・。


私は言葉もなく服もなくアパートに一人置き去りにされ、2つの解決策を持った。

― 彼の男性用の服を着てそこを去るか、彼を待つかだ。

そこで、私はアパートに何か女性用の服が無いかどうかを調べようと思った。

一つのタンスの中に銀の糸で飾った美しい古風な女性のシャツを見つけた。

襟に「A」の文字があった。

それと、紐で留めたレースアップスカート。

スカートの縁に「ローマ」という刺繡があった。

その古い服はイタリアから届けられたものだった。

それらすべては何年も使われなかったものばかりだが、問題ないと思った。

それは私にぴったりだった。

私はそれを身に付けて通りに出た。

彼は近くのレストランに座っていて、フォアグラのパテを食べ「ソーテルヌ」を飲んでいた。

彼は私を見るとすぐ立ち上がって、夕方通りで2人の背の高い少女がお互いにキスするにはふさわしくないくらい、より情熱的に、私にキスした。

そのキスで私の口紅は彼の唇で奇妙に匂い、私たちは急いで彼のアパートに帰った。


 「私のおばさんの服はあなたに似合っています、」と、彼は囁き、まだ階段にいる間に私のシャツのボタンをはずし始めた。

ドアに鍵をかけるとすぐ彼は私の頭の上で掌を合わせ、脚を揃えて、つま先をとがらせて、潜水夫のようにまっすぐ私の上に乗ったのだった。

あたかも一つの槍がずっと飛び続け得られるように、できるだけ真っ直ぐな格好で。

それが私が覚えているすべてです。


最も美しい瞬間は最も早く忘れられる。

最高の充足の瞬間、オーガズム、魅惑的な夢の後、忘却、記憶喪失、記憶の削除がやって来る。

というのは、最も美しい夢の瞬間に、至上の創造の瞬間 ― 受胎の瞬間に、人間は一瞬にして生命の梯子の数段を登り、しかしそこに長い間留まることはできず、現実に落ちた時には急にそれらの啓蒙の輝きを忘れなければならないのだから。

私たちの生活の中では私たちはしばしば楽園の中にいるが、追放だけを覚えている。


 

                  *


 私たちの音楽のレッスンは違うものに変わった。

彼は私に悩殺されたようだった。

ある朝彼は私を彼の母と叔母に合わせたいと言った。


 「しかし、彼女たちに会うには私が相続した、家族の家のあるコトーに行かなければいけません。

それはモンテネグロにあります。

そこの戦争は終わっていて、今はそこに行けるのです。」と、彼は付け加えた。


 そして彼は私に輪のような取っ手の形のついた金メッキの古風な鍵を見せてくれた。

その鍵を指に付けるとそれは先端に宝石「紅玉髄サージウス」の付いた指輪のように見えた。

彼はそれを私の指に付けて、その事はまるで婚約のようだった。

その瞬間、私に奇妙なことが起こった。

私の心の中にその家ではなく、その鍵の重さだけに基づいて、一瞬、二つの階段のある、家の内装が見えたのだ、

しかし私は行きたいのかどうかは答えなかった・・・。


                   2


 私たちが着いたとき、コトルは完全な凪が広がっていた。

船は上下逆になった絵の上でまるで海が無いかのように浮かんでいた。

雲の黒い影がまるで素早く移動する湖のように白い山の斜面を滑っていた。


 「ここでは夕方に手を伸ばすと夜がまさにあなたの掌に落ちて来るんだ。」と、彼が言った。


 「私にその家を教えないで、私は家への道を自分で見つけられると思うの ― 鍵がそのカギ穴へ真っ直ぐ導いてくれるわ」と私は鍵のハンドルを指にはめながら言った。


そしてその通りだった。

鍵の指し示す方向を辿ると、気が付くと、私は小さな広場にいた。

後で分かったとおり、そこは「サラダ広場」で私たちの前に彼の先祖たちの家、コトルの宮殿ヴラチチェンが現れた。

299番と書かれていた。


 「ブラッチェンってどんな意味?」と、私は彼に聞いた。

「知らない。」

「知らないの?」

「知らないよ。それはセビリア語だし僕はセビリア語はしゃべれないよ。」

「冗談でしょ、」と、私は言った。


 私たちは家族の紋章の下にしばらく立っていた。

黄金の梁にとまった一羽のカラスが2人の石の天使によって私たちの頭上にかざされていた。


「本当に古いものだ、」と、彼は家に関して言い、「少なくとも400年前の雰囲気があります。

第2次世界大戦の後、それは共産主義者たちによって国有化されました。

最近、地方自治体がそれを私たちの家族に返してくれました。

14世紀にはミハ・ヴラチェンの未亡人であるカテナ夫人が所有していたことがわかっています。

カテナは私の母の名前でもあります・・・。」


 家は現在は土のレンガで出来た赤いモルタルで仕上げられていた。

しかしそれは私の興味をひかなかった。

私の心の中には内装を見たいという気持ちが燃えていた。

私はドアを開けた。

玄関ホールには石の井戸があった。

それはとても大きく、家よりも古く、13世紀の雰囲気で満たされていた。

私たちが入るとすぐ、私は数世紀にわたり生き続けてきた匂いに押しとどめられ、私はその家の敵意を持った匂いが一人の女性を玄関から追い出すことができ、彼女が家の中に入るのを拒んでいると思った。

その家は信じられないくらい放っておかれ、汚かった。

しかしその後、二つの階段ダブル・ステアケースが現れた。

私にはすぐそれが分かった。

それはナポレオン・デステという名前のイタリアの住宅画家によって署名された水彩画で飾られていた。

しかしそれはそれほど重要ではなかった。

それぞれの踊り場で、階段の2つの分岐部分の一番上には素晴らしい女性の立ち姿の肖像画があった。


 「私はこれらをあなたに見せたかったんです、」と、彼は言った。

「右側の黒い髪が私の叔母で、もう一つが私の母です。」


 私は金色の額縁の中に2人の美人を見た。

一人は黒い髪に美しい緑色のイアリングを付け、もう一人はむしろもっときれいだが完全に灰色で、最初の人と同じくらい若くて背が高かった。

彼女の手の上には宝石「サルディウス」がついた指輪があり、その中に私が今まさに指にはめている鍵のハンドルを認めた。

どちらの肖像画にも同じ画家マリオ・マスカレリのサインがされていた。


 しかし誰も私たちを出迎えなかった。

私は彼の母、カテナ夫人か彼の叔母が現れるのを期待したが無駄だった。

木と白の床のモザイクとインタルジア( ルネサンス期の象眼細工)のドアは私たちを上の階の応接間とアーチ型の通路の上にある小さな家庭用の礼拝所に導いた。

その薄暗さの中に一人の年老いた女性がいて、ひざまずいて祈っていた。

私はそれが彼の母親か叔母さんだと思って彼にそう言うと、彼は心から笑って、「違う違う、あれは私たちの古くからもメイドでセレナです。」と言った。


 3番目の部屋には同じような顔の2人の美女の腰までの肖像画があった。

おばさんの肖像画には同様にギターが、母親の方にはコトルの教会が描き添えられていた。

どちらの肖像画も背景はコトルのカーニバルのシーンだった。

その後、彼は彼の叔母が彼の未来のガールフレンドのために彼女の貴重なイアリングを残したことを私に話してくれた。


「私のガールフレンドがギターを弾けること、という一つの条件を付けてね。

ということは、そのイアリングはあなたにって意味らしいね。」


 そこで私は聞いた:

「彼女たちはどこにいるの?」

彼は、彼女たちはずっと昔に死んでしまったと答えた。


 「イヤリングも死ねるの?」と私が答えると、彼はその事を聞いてまた笑って、2つの緑色の涙のような、美しいイタリア製イアリングをポケットから取り出した。

それは彼の叔母が階段の上の肖像画で身に付けていたのと同じイアリングだった。

「お母さんと叔母さんはずっと昔に死んでいて、」彼は付け加えた、「私はほとんど母親を覚えていないんだ、叔母さんが私にとってお母さんみたいなものさ。

あなたは彼女たちがどんなに美しいかわかったでしょ・・・」


 私は謝り、彼が私の耳にイヤリングを付け、私にキスし私たちは家の中を歩き続けた。

ある部屋で私は男性用と女性用の2つのベッドを見つけた。

男性用は北向きで、女性用は南向きだった。

男性用は幅が狭く、船のベッドを持ってきたものだった。

女性用は大きな錬鉄製のベッドで脚が6本あり真鍮製のリンゴの装飾がしてあった。

それはとても背が高かったのでまるでテーブルの様に食事を供することができそうだった。


 私の緑色のイアリングは突然香りを発しだした。

その香りは、彼の甘い静かな和音を少し思い出させた。


 「あれはどんな種類のベッドですか?」と私は鉄製のベッドの方を指さして聞いた。


 「あれは三人用のベッドなんだ。

三番目の人は何時もいなくなるんだけどね。」


 「それはどんな風に?」


 「こんな風さ。

女性が妊娠すると、彼女の夫はベッドからいなくなる。

子供が大きくなると、それはベッドから去り、夫が帰ってくるか恋人が入ってくるかする。

もし妻がベッドからいなくなると、愛人がベッドに入り込む。

そんな具合さ・・・。」


 私たちはテーブルで立ったまま軽食を取った。

彼の指の信じられないほどの器用さと隠された動きの速さで、彼は私に「ミツヴァ(ユダヤ教の儀式用の食事)」を出しました。

それは銀紙に包まれた鉛筆の形をしたユダヤのチーズとワックスの匂いがするミード蜂蜜酒です。


コトルの朝は塩っぱい;

ここでは朝食の後で夜明けが来る・・・。

ほぼ毎日、彼はあちらの事務所こちらの事務所と彼の所有権の書類を調べるために朝早くから出かける。

そして、そこで彼は全く予期しない行動をとった。

コトルの人々とイタリア語で話すか、彼のために翻訳させるためにメイドのセレナを連れて行った。

そして夜には居酒屋でイタリア語で注文した。

日曜日には教会に行った。

セレナと私は聖トリプンのカトリック大聖堂に行き、ティモテジは聖ルカの正教会の寺院に行った。

その後、私たちは一緒にスクエア・オブ・アームズで一緒にコーヒーを飲みにいった。

彼は一度、私たちを湾を渡ってストリウに連れて行ってくれた、そこには半分東方キリスト教の宗派で半分ローマカトリック教である小さな教会があった。

その日、私は家の中で彼の母親の扇子を見つけた。

次の文は扇子に小さく手書きで書かれていたものだ:


肉体が四肢を持っているように精神もそれを持っている。

だから私たちは2重の現実に行き着くのだ。

神の美徳(直観)、人の美徳(思考、どこには神聖さは必要としない)、眠り(これも存在である)、想像力、知識、記憶、感覚、キス(目に見えない光)、怖れと家族の死 ― これらすべては精神の四肢である。

魂には四肢が10個あり ー 肉体が持っている感覚の2倍以上である。

それらの助けにより魂は自分自身がいる世界中を動き回る。


 ある朝セレナと私だけで朝食を食べていた。

;彼女は牛乳で揚げたヤツメウナギとレタスを家の中にある太陽の光の雫だけを落として。

供した。

彼女は手袋の代わりに古い靴下を付けていた。

靴下から指が出ていた。


 「私はあの素晴らしい絵を見たわ。あの女性たちを知っていましたか?」と私は、彼女の方が私よりも上手にしゃべれる、イタリア語で聞いた。

セレナは数十年もの間、同じ口の中で何度も何度も繰り返したセビリア語とイタリア語の数限りない波ですり減ってしまった、、その波の中で磨かれ平らになってしまった歯を見せた。

 「気を付けなさい、お嬢さん、女性は、愛の行為を行っている最中でさえも、一瞬で年をとってしまいます・・・。

そしてあの2つの絵はお互いに隣り合ってそこに置かれるべきではありません。

2人はどちらもそれを好まなかったでしょう、アナスタシアもカテナも。」

 「何故?」

 「ティモテジはあなたに言わなかったのですか?」

「いいえ。私は彼女たちがまだ生きていて、ここにわたしを連れてきて、彼が私を彼女たちに紹介したがっていると思っていました。

でもそれは明らかに私の思い違いでした。」

 「彼女たちはずっと前に死んでいます。

ティモテジの母カテナは彼女が結婚し、この家に来た時は黒い髪でした。

;一緒に来た彼女の姉のアナスタシアもそうでした。

彼女たちはお互いよく似ていました。

しかし彼女たちの父、裕福なギリシャの商人、は何時も旅をしていて、アナスタシアをイタリアで育て、カテナをギリシャで育てました。


 カテナ夫人は暖炉の火のように変わる愛らしい声を持っていたのを覚えています。

彼女は朝太陽の中に歩み出すと同時に歌い始めたものでした。

まるで彼女は彼女の声に日光浴をさせているかのように。

夕方には彼女が彼女の夫の寝室から静かに歌っているのを聞きました。

それは奇妙な歌で、ため息とうめき声で中断しました。

しかしそれらは私を欺くことはできませんでした。

私はすぐにそれが何を意味するのかすぐに気が付きました。

メドシュ氏は、彼らが恋をしている間、彼女が彼の上で歌うのを聞くのが大好きでした。

有る夕べ、彼はゆっくりした静かなメロディーの「「私の日は2つの夕暮れがある...」や「しっ、青い花が静まるときのように...」など、各旋律が海の波のようであるゆっくりとした静かなメロディーを望みました。

その夜、ティモテジがお腹に宿った時、彼女は「明日の動きの静かなシャツで...」という歌をうめいていたと思います・・・。」


 その間、姉のアナスタシアは膝にロザリオの数珠を置いて彼女の部屋に座って聞いていました。

しかし彼女も私を騙すことはできませんでした。

私はそのころ若く私の感覚はグレイハウンド犬のようにどこへでも跳んでいきました。

彼女はロザリオを祈りのためには使いませんでした。

その事が彼女が教会にそれをもっていかなかった理由です。

彼女は暗闇に座りロザリオの上で手を走らせ、当時イタリアにいた、彼女の昔の恋人の事を思い出していたのでした。

それぞれの琥珀の数珠玉には名前を持っていました。

恋人の名前です。

そしてそのいくつかにはまだ名前がありませんでした。

それらは将来名前を付けられるのを待っていたのでした。

そしてそれらは長く待ちませんでいた。

不思議ではありません。

アナスタシアは2つの指輪のような眼を持っていました。

私はその時はまだ彼女に仕えてはいませんでした、彼女の夫メドシュ氏だけが世話をしていましたが、だれもがその後何が起こったかを知っています。


 「私は知らないわ。 教えて。」

「ティモテジの母、カテナ夫人は決闘で殺されたんです。」

「決闘ですって!20世紀の後半に? 誰に?」

「彼女の最愛の男を奪いとろうと思っていた、他の女性にです。」

「何という事かしら!この他の女について分かっている事はありますか?」

「勿論です、あなたは彼女のイアリングを身に付けているので、すべてが再び家族に残ります。

そして、両方とも死んでいるので、私たちはそれについて話すことができます・・・。」


メイド セレナの話し


 私が言ったように、もう一人の女性というのは、カテナ夫人の姉のアナスタシア嬢でした。

あなたは階段の上の右側に彼女の絵を見たでしょう。

ティモテジの父、メドシュ氏は黒いベッドの中でカラスの濡れ羽色の髪をして眠っている、その美しさに抗しきれなかったのです。


 メドシュ氏と彼の義理の姉との間には夕食が供される料理を使って秘密のコミュニケーションがあったようです。

アナスタシアは毎日何を料理するのかを命じ、彼女の注意深い監視のもと私の用意するその食事は、もしメドシュ氏が来た場合の、その夜アナスタシアのベッドで起こるであろうことの愛の約束のようなものだったのです、。

言うのは難しいのですが、ある種類の喜びはディル入りのビールスープで、別の種類はウサギのカラントソースで、3番目の喜びはフルーツ風味のワインによって示されているように感じることができました。

夕食は実際ラブレターのようなものでした。

もし、アナスタシアが、マッシュルーム添えのセントジャッカス貝を命じ、私がそれを運んでくれば、メドシュ氏の目は特に輝きました。 

これらの夕食の後アナスタシアのベッドで何が起きたのかは私には想像できませんが、カテナは自暴自棄になり、嫉妬で一晩で白髪になりました。

;彼女は彼女がすでにティモテジを身ごもっていたその時、その様に描かれました・・・。


 しかし彼の夢の中では男が現実の泥を歩いているのとまったく同じように泥の中を重い足取りで歩いていた。

時が来て、メドス氏は彼の妻を彼女の父が当時住んでいたサラエボで出産させるためにサラエボに送った。

ティモテジが生まれ、カテナ夫人が彼女の夫のベッドに戻ってきた時には彼の義理の姉への愛情は、男たちの日常の情熱と同様、冷めることが期待されました。

しかし、メドス氏と彼の義理の姉アナスタシアとの関係は終わることが無かった。

カテナ夫人は強くエネルギッシュな女性だった。

彼女は彼女の家族を守るために断固とした手段をとることを決意した。

ある夕方、アナスタシアが、メドス氏がコトルにいないだろうことを知らないでマッシュルーム添えのセントジャッカス貝を命じた時、カテナ夫人は貝の代わりに彼女の夫の家族用のピストルを持ち出してきた。

彼女はそれらに弾を込めて、彼女の姉にそのうちの一つを取るように単刀直入に言った。

彼女はその夜、直ぐにコトルを永遠に出て彼女の家族と別れるか、夕暮れにピストルの決闘に参加するかのどちらかだった。

決闘は、男たちの間でさえ、彼女たちの時代は勿論のこと、私の時代には時代遅れになってしまっていた。

しかしカテナは彼女自身の姉との事を決闘で解決しようと決心していたのだ・・・。


 アナスタシアは彼女の美しい動きのない目でカテナを見つめて静かに訊いた:

「なぜ夕暮れなの?」と言い、「ピストルを取って今すぐ浜辺に行きなさい!」と、大声で付け加えた。


 私はその時までには既にアナスタシアに仕えていたので私は意思に反してその成り行きを目撃したんです。


 私たちは「廃棄物搬出用」の戸口から海に降りて行きました。

私たちは古い剣を浜辺の2つの石の間に突き立てその上にランタンを吊しました、その剣は家の壁から私が持ってこさせられたものでした。

南風が吹いていて、その冷たくなったり熱くなったりする風は、灯りを2度吹き消しました。

雨と波で何も見えず何も聞こえませんでした。

彼女たちはピストルを取り、お互いにランタンの所で背中合わせになって、私は彼女たちが10歩、歩くまで数えさせられました。

彼女たちはそれぞれ交互に2発撃つ権利を持っていた。

カテナ夫人が最初に撃って、失敗した。


 「次の回は外さないわよ、さあ、よく狙いなさい、」と彼女は彼女の姉に向かって風の中で叫んだ。

アナスタシアは背筋を伸ばし、ゆっくりと彼女の銃身を彼女自身に向けた。

彼女はしばらくそこに立ち、それからピストルの穴にキスをし彼女の妹に向かって撃った。

彼女は妹を完全に殺した。

そのキスによって。


 その出来事は事故として隠蔽された。

私たちは死体を家に運び、夫人が彼女夫の古い武器を掃除している時に暴発したと言った。

メドシュ氏がその知らせをどう受け取ったかは言うまでもありません。

最初彼は言う言葉を失くしていたが、最後には手を振って言った:


 「南風が吹いている間に犯した罪は、法廷でも半分の刑で罰せられる」


 多分、彼は自分が若いころの夢を見たのだ、誰にも分からないが、彼は自らを自分の運命に委ね、彼の義理の姉と仲直りをしたのだった。

それ以外彼に何ができただろうか?

私たちはどちらも子供のために沈黙を保った。

何故ならカレナの死後、ヴァレチェンの家に残った子供は故人の姉に引き取られたのだから。

彼女がティモテジを育てた人だった。

彼らがコトルから移住した時アナスタシア嬢は少年を連れて、彼女の父の家に戻ったのだった。

彼女は彼にとって母親のようだった。

彼女らは少年が成長するまでイタリアに住み、その後メドシュ氏がベオグラードで一緒に住むために彼を引き取った。

ティモテジにとって別れは本当に困難で、私は彼はいまだにその事で苦しんでいると思います・・・。


 生きている者への憎しみは死者への愛に変わり、故人への憎しみは生きている者への愛へと変わると言われます、と年老いたメイドは彼女の物語を結んだ。

私には分からない。

しかし、人は幸せのために才能が必要で、歌やダンスのためと同様に、幸せのために良い耳を持つことが必要だと知っています。

そのことが、私が幸福は遺伝であり引き継がれうるものだと考えている理由です。


 「それは違うわ、」と私は厳しく言い返した。

「幸せは引き継がれるものじゃなく、一個一個、積み上げられるものよ。

どちらにしろ、あなたが幸せであるかどうかよりも、あなたが幸せに見えるかと言う事の方がもっと大事なのよ・・・。」


                   3


 次の日、私は引き出しの中に絹の手袋を、その一つに小さな芳香油アロマオイルの小さな瓶を見つけた。

瓶には私には読めなかったが何か書いてあった。

「イオ ティ ソプラヴィヴロ!」

「私はあなたより長生きします!」セレナは私のためにボトルの文を翻訳しました。

嗅いでみるとそれは私がすでにティモテジに嗅いだことのあるのと同じ香水だと分かった。

彼とアナスタシア叔母さんは同じ香水を使っていたのだった。

私は彼に何も言いませんでした。

しかし彼は言いました。:

「私の叔母さんはもし私のガールフレンドが彼女の毛皮やドレスを身に付けるとしたらきっと喜んでくれると思うよ。

それらは今ここにある。

私は彼女のものが君にほんとうに良く似合うと思うよ、何故ならあなたは似たような体形をしているから。

結局、その事は私はパリで知ったんだけど・・・。」


 そして私たちは古い建物の中のクローゼットと食器棚をくまなく探し始めました。

昔の所有者、船乗りたち、が遠く離れた旅から持ってきた壊れかかった収納箱の中にはたくさんの美しいものが入っていた。

家中を探して、ここには大きな化粧台、そこには旅行用の収納箱、また、鉄の帯とドゥブロヴニク錠の付いた船舶用臨時金庫に出くわしました。

彼は彼の叔母さんと彼のものを一杯に詰めた一つの収納箱をイタリアからパリに、パリからここに、持ってきたのだった。

彼はその収納箱からホッキョクギツネの毛皮のコートをとり出して私に着るように提案した・・・。

それは私にぴったりだった。


彼は「これは君のものだ、」とささやいて私にキスした。


その後、彼は私に1ダースの指の有るのと無い叔母さんの手袋をくれました、それらはとても薄く、その上から指輪がはめられます。


彼は大きな銀の足用の指輪トゥリングをくれ、私は素足の時にはいつもそれを付けました。




 「時が来たら、新しい香水をあげるよ。


でも今じゃない。」




 ティモテジと一緒にいるのは楽しかった。


私がどれほど家事が苦手だって知ってるでしょ、私の小さなエヴァ。


そこで、彼は私にたくさんの技を見せ始めた。


彼は私に2つのナイフで食べるやり方を教えてくれた;


彼はアラビア塗料で足の縁を化粧する方法、唇に黒いリップクリームを塗る方法などを教えてくれた。


それは私には正気の沙汰には見えない。


彼は料理も教えてくれた。


彼が私にディル入りのビアスープ、ウサギのカラントソース、セントジャッカス貝のマッシュルーム添えの作り方を教えてくれた時には身の毛がよだちました。


私はそれを全部上手に学んだが料理は今まで通りセレナに任せました。


彼はちょっとだけ失望しました。


私は彼にコトルでは美容院はどこにあるか聞いた時、彼は私をソファに座らせて、フォークとナイフを持ってちょっとの間私の髪を切って、私が自分を鏡に映してみた後もう一度私をソファーに連れて行ってくれたのです。


そして、彼が作ってくれたその新しい分け目で、私は彼の叔母にそっくりだったのです。




 「実のところ、彼はここで誰とやっているの?わたし、それとも彼の叔母さんアナスタシア?」私は不思議に思った。




 その夜一番楽しかったことは、彼がチュニジアから持ってきたランタンがそれに灯をつけるや否や、天井いっぱいに広がる色とりどりのペルシャ絨毯が広がったことだ。


その夜は私たちが魂から物を見、暗闇から音を聞いた夜だった・・・。

私たちは一階の床の高さと同じ高さの、家の後ろの庭に座り、暗闇の中で目をつぶり、テニスボールの様に産毛の生えた果樹園の桃ヴァインヤード・ピーチを食べたのでした。

一口かじるとネズミの背中をかじったような感じがします。

そこの一階では、背の高い草からレモンや酸っぱいオレンジなどの果物が生えていた。

私たちの上には夜が次々とやって来て、それぞれが前の夜よりもより深くより広々としていて、壁の後ろでは波の音が男女の話しに混じり合っていた。

石のようなこだまの中でガラスや金属や陶器の音が町から私たちの所に届いていた。


 ある朝私は彼に言った:

 「昨夜私はあなたの夢を見ました。あなたは時々夢の中で私と愛の営みをしますか?」

「はい、しかしそれは私じゃないよ。」

「じゃあ、それは誰なの?」

「その質問には答えはありません。私たちは誰が私たちの夢を見ているのか分かりません。」

「あなたは私を怖がらせているわ!答えが無いってどういう意味?

誰が質問に答えてくれるって言うの?」

「水に聞くことだね。

水があなたの名前を言う時にだけ、あなたは自分が誰なのか知ることができるでしょう・・・

そしてあなたの眠りの中で、あなたは夢を見ているあなたではなく、夢を見られている別の人です。

何故なら夢は人に仕えるものではないからです。」

「違うの?」

「魂は我々の夢を彼らの道にある駅として使う。

もしあなたの夢の中で一羽の鳥がやって来ると、それはさまよう魂があなたの夢をボートとして使って別の夜を乗り切ることを意味します。

何故なら魂は生きている人の様に時間を漂うことはできないからです・・・

我々の夢は他の人がたくさん乗った筏で、夢を見ている人はそれを運んでいるんです・・・。」


「それはつまり、」と私の感慨深く結論付けた、「そこには年をとった夢も若い夢もない。

夢は年をとらない。夢は永遠に続く。夢は人間の永遠の部分なのです。」


                  *


思い出したのですが、ティモテジが言ったように、時間が3回止まるセントジョンの日(6月24日、夏至祭の日。)に、私は秘かに彼を観察していた。

彼は、私のごちゃごちゃに散らかった扇の様に広げられたスカートが掛かった天井を見ながらベッドの上に横たわっていた。

私はその時、彼が変なにおいがしているのに気が付いていた。

その後、私は彼が裸で、夜に森の下にあるひとけのないビーチに抜け出して、暖かい海に入るのを見た。

少し泳いだ後、仰向けになって、手足を広げて、大きな舌を突き出して、犬の様に自分の鼻を舐めた。

そのとき初めて、彼が魚のように緊張して、何度も何度も波から顔を出しているのがわかった。

そして私は、彼が私に、男根を見て占うことを教えてくれた様子を思い出した。

だから熟練した女性はそれらが妊娠させるかどうかを予言するのだ。

彼は塩辛い海水の中にじっと横になって、潮と波が彼の性器を、女性が彼女の手でするように、揺らすままに任せ、力強い恋人の様に、彼から精液を絞り出した。

ついに私は彼が海の中に射精し、そして彼をペラストに向けて運ぶ潮流の上で眠りにつくのを見た。


                  4


 お城を歩き回るのに飽きて、ある時などティモテジの母カテナ夫人の灰色の肖像画が、私を額の中から奇妙に見ているように思えた。

今までよりも、もっと奇妙に。

それは鳥と蝙蝠が混じり合う、黄昏時だった;南風が突然部屋に吹き込み絨毯の端を持ち上げる・・・。


 じっさい、部屋には、より正確にはティモテジと私の間には、まだ緊張感があり。

ここでも、彼はまるで私が彼に最初のレッスンをしにギターを持ってやってきた日のように振舞った。

私がギリシャの居酒屋でテーブルの下で私の足で彼のズボンのボタンをまるで一度も脱がせたことが無かったかのように。

 「ここではフォークを使ってスープを飲むことにしよう、」と、私は怖くなって考えた。

「彼が私の事を分からないなんてことがありうるのかしら」と、不思議に思った。


 「あなたは私の事を愛しているの?」と、私は彼に言った。

「愛しているよ。」

「何時から?いつから愛しているか覚えている?」

 

 彼は窓の向こうのコトルの上の丘を指し示した。

「わかるかい、あの山の上の雪を。

あなたはあそこには雪が一つしかないと思っている。

でも違うんだ、3つの雪があって、はっきり分かれていて、ここからでも見分けられるんだ。」と、彼は言った。

「一つは去年の雪、もう一つは、その下に見えるの、はそれより前の年の物、そして一番上のが今年のだ。

雪は何時も白いが、毎年違う。

愛も同じなんだ。

愛が何歳かなんて事は問題ではなく、それが変わるかどうかが問題なのだ。

もしあなたが、私の愛はここ3年同じだと言うなら、あなたの愛は死んでいると知りなさい。

愛はそれが変化する間だけ生きているのです。

それが変化するのをやめた時、終わりなのです。」


 その後、私は私のパリの電話からとり出して持ってきた小さなテープを彼の留守番電話機に入れて再生した。

ずっと遠くから、男のくぐもった声が聞こえた。


 「私はボスニアで私の兵士たちと戦車を格納した荒れ果てた小屋で3夜過ごした・・・。」


 「誰がしゃべっているか分かりますか?

あなた自身のボスニアからの声が分かりますか?」と、私は尋ねたが彼は黙っていた。


 絶望の中で、恐ろしくも抗し難い意図が、私の頭に浮かんだ。

私はセレナに、次の日の夕食に自分でウサギのスグリソース掛けを作るわ、と言った。

メイドは驚いて私を見たが、必要なものをすべて買いに行った。


夕食の前に、私はティモテジにウサギ料理を供することの、その夜のベッドでの意味を囁いた。

そして私は私の約束を実行した。

それ以来彼は私の用意する食べ物にきちんと注意をはらい、目を輝かせて夜を待つことになった。

そしてある朝花がいっぱい詰まったボートをくれた。

花の匂いは潮と海の水に沁み込んだ・・・。


 日々は良好にいい天気で推移し、私たちは水浴びをし、軽く油で揚げた魚を食べ、貽貝を拾った。

一度など彼は左手の中指を貝殻の端で切った。

私がその血を吸い出したのでそれはすぐ治った。

私は彼の手からイチジクを食べた、そしてそれらのイチジクはあのへんな香りがした。

私がそれを吸い込むと私はティモテジの考えていることが聞こえる様な気がした。

ついに、私はティモテジがその古い家を売ろうとしていることが分かった。

そして私は自分に言った:

「どうでもいいじゃない?

フォークでスプーンを叩いて、歌えばいいんだわ!

あなたにとって大事なのはティモテジであって、家じゃない。

結局、それが彼ならね。」

 そしてその考えが私をびっくりさせた。


 彼がその事や他の仕事で外出した時、私は空いた部屋部屋をうろつき回った。

寝具の入った棚で美しいつやつやした木と黄色い金属の物体を見つけた。

それは船長が長い航海に出る時に持って行く古風な筆箱だった。

箱の中には驚いたことには中に全く何も書かれていない、古い航海日誌があった。

私はその箱にティモテジが私にくれた小さな贈り物といっしょに、ちょっとしたアクセサリーと手紙と葉書を入れた。

そんな日々のうちの一日、私は別の箪笥の底に琥珀色の数珠と白いレースの古風なコルセットを見つけた。

それは金の糸で織られガラスのボタンが付いていた。

“A”のイニシャルが付いた彼の叔母のコルセット。

それは魚の骨で補強されパンティーの上から又はパンティーをはかないで身に付けることができる種類のもので、ゴムのガーターでストッキングを固定しました。

私はティモテジを驚かそうと決めて、それを付けた。


その夜、私はティモテジのためにセントジャッカス貝のキノコ添えを用意し、夕食の後、彼の香水「私はあなたより長生きする」を一滴、私の腰と耳の後ろに付けた。

私は外で南風が吹いているのと女性が石の壁の後ろのどこかでくすくす笑っているのを聴いた。

彼女の笑い声にティモテジの声が重なった。

彼は私が教えた歌を歌っていた、彼が私から習ったと言う事を覚えていればだが。


У кошуљи тихој сутрашњих покрета…(明日の動きを静めたシャツで...)


 それから彼は蜂蜜で歯を磨きに行った。

彼が3人用の大きな女性ベッドで横たわったとき、私は彼の叔母のコルセットだけを着けて現れた。

彼は裸で横たわっていた。

私たちは魔法にかかったようにお互いを見つめた。

彼の物はなんとなく硬くて大きな鼻のようで下の方に縮れた口髭が付いていた。

私は彼に跨り、私の感情が頂点に達したとき、恐怖で頭を後ろに投げ出しそうになった。

― 私の前の金色の額縁の中には、彼女のコルセットの中で耳に緑色の彼女のイアリングを付けて、彼の黒髪のアナスタシア叔母さんがいて、その絵は愛のリズムで動いていた。

それはベッドの上に設置された鏡だったのだが、その中で私は自分自身を認識することができなかった。


 しかし絶頂が容赦なくやって来て、私たちは一度始まったものを止めることはできない。


 その瞬間、彼は種を吐き出して私を妊娠させ、私は完全に白髪になり、私自身の目の前でカテナと呼ばれる別の女性になった。

その間、浅黒い美人、ティモテジの叔母さんアナスタシアは鏡から、3人用のベッドから、現実から永遠に消えた。


 それはまるで私が彼の母によって妊娠させられたようだった。


 私はショックで数日の間ベッドで横になっていた。

セレナは髪と乳房をを成長させるというチーズを砕いてかけたお団子を作ってくれたが効果はなかった。

私の髪は白いままだった。

私は鏡を見るのを避けた。

私は浜辺に降りて行き、自分自身を水に映して見た。

私は妊娠していた。

そして私はついに彼に聞くことにした:


 「あなたは私の事を忘れてしまったの?

あなたは本当に私が音楽の先生だと思っているの?

あなたは何時になったらそのふりをやめるつもりなの?」


 そして彼は言った:


 「僕は家を売った。コトルを離れるつもりだ。一緒に来てくれる?」

「あなたは私を妊娠させておいて、今私に一緒に来てくれるか聞くの?」


 「だから聞いているんだ。」

「いやよ!あなたがパリで髪の毛の色や他の全てのを私に一致させた広告お金を払って作ったことを認めるまでは一緒に行かないわ!

それからあなたは新聞からその広告を切り取ってそれをフィール・デュ・カルヴェール通りの私の郵便受けに入れたことを認めなさい!

あなたは何時、私たちがパリの私の所で一緒に数学を勉強したことを認めるつもり?

あなたが戦時下のボスニアから私に手紙を書いたことを何時認めるの?

あなたがイタリアから私の留守番電話に何時間も伝言を送り続けたことを何時認めるつもり?

あなたは自分がずっと「セルビア語を最短で簡単に忘れる方法」の7つのコースを習得しようとし続けたことを何時認めるの?

あなたが私の事を知っていることを何時認めるつもりなの?」


 彼はコトルの西の門の下の水を見つめて言った。:

 「あなたは自分が誰であるか知らない・・・」

「あなたはその事を私に教えてくれなかったわ。

私を見て!

あなたは、私の髪の毛が真っ白になってしまったのに、わたしがわからないの、私の愛する人?

あなたはギリシャで白い水牛の背中の上で私を愛したのじゃなかったの?」


彼は答えの代わりに私に中に小さな瓶の入った木の鐘楼の形をした小さな箱を渡した。

「それは何?」と私は聞いた。

「キプロスのバラと呼ばれるものです」―「ローズ・ド・シプレ」。

香りの読み方を知っている人はそれらを読むでしょうし、そのメッセージが本当だと分かります。

愛はその香りが瓶の中に残っている限り続きます。

それは私の母カテナが使ったアロマオイルです。

あなたは白髪になったとたんそれにふさわしくなりました。

あなたは彼女たち二人があなたの中で戦っているから白髪になったのです。

私はどちらが勝つか気がかりでした。

そしてあなたは負けた。

事前にイタリアでの事についてあんなに努力をしたのに、あなたのことを、理解することもなく、アナスタシア叔母さんはあなたを失った。

しかしあなたは突然サロニカからやってきた女性、私のお母さんカテナによって射止められたのです。


 「あなたは何を言っているの?」

「私は、私があなたが誰だか知っているか、と言うあなたの質問に答えようとしているのです。」

「私の質問は私を覚えているかどうかと言う事です。

でも私はあなたに思い出させてあげるわ。」


 そして私は私のポケットから濃い赤色のボールをとり出した。

「あなたはこれが分かる?

それはあなたので、あなたはそれを私の窓から投げ入れたのよ。」

「私はあなたが手に持っているものを見たこともありません。」


「そうなの?」


 そして私がボールをほどくと、中からメモが現れた、それには彼が私に送ってくれた、私が決して使いたくなかった、電話番号が書かれていた。


 「あなたはこの電話番号が分かる?

これは毛玉の中に入っていたあなたの電話番号です。

私があなたを見つけた広告に有ったものと同じものです。

さあ、あなたが誰なのかを認めますか?」

 

彼はついに内部にあった葛藤が解けたかのように、言った:

 「あなたの質問に答えてみましょう・・・私は思い出しました、」と言い、続けて、「私は自分の人生の困難な時期、私の周りの男たちや、女性たちや子供たちの名前を忘れてしまいました。

それから私は狡猾に頼ったのでしょう。

その名前は完全に消えてしまわなかったので、私は水にその名前を書いたのです。

多分、水があなたの質問に答えてくれるでしょう。」


 「水が? あなたは私をからかっている!」

「水は言葉を教えることができます。

もしあなたがそれが眠っていないときに捕まえることができるなら。

何故なら水もまた、眠ったりしゃべったりするからです。男の様に。

いや、もっとうまく、女性の様に。

私は名前を言うことでそれを教えられます。」


 「それで、あなたの水は話ましたか?」

「いいえ。 それはあなたのフランス語の名前を発音できません。

水はフランス語を全くしゃべれないのです。

これは私の言葉さえ発音できないのです。」


 「あなたは今何をしようとしているの?」

私は彼に聞き彼の肩にキスした。

「何も。私はあなたに別の名前を与えるために、それを水に置いてきたのです。

発音できる名前を。」

 「そしてあなたの名前も? 水はあなたにも違う名前をくれたの?」

「そうです、そしてあなたはその名前を聞こうとしています。

私は水にそれを言うように教えたのです。」

 それから私たちは橋を下りて水の方に行った;彼は石を動かして言った:

「おはよう、愛しい水よ!」

まるで水が喉を鳴らし始めたかのような音がした。

それからそれは全くはっきりと私の秘密の名前をしゃべった。

その名前は炎の匂いのように私の心を打った。:

「エウロパ。」

「そしてあなたの名前は?」と私は恐々ティモテジに言った。


 彼は別の石を動かして囁いた。:


片目は水っぽい。


片方の目は燃えている


水のような眼を破裂させ


そして炎のようなものを鎮める。


 水はまた応えた。

それは言葉を発音していた。

それはとてもはっきり聞こえた。

それは一つの名前を発音していた。:


 「バルカン、」と、水は言った。

「それはどういう意味なの?」と、私はティモテジに聞いた。

「それは僕がまだ7番目のレッスンをマスターすることに成功していないってことだよ、」と、彼は言った。


 その後、ティモテジ・メドシュが、まるで生まれて初めて会ったかのように、私の前に姿を現した。

彼のまなざしは既に地衣類や雑草、カビで覆われていた。

見ることは彼の苦痛になっているようだった。

私は彼を嗅いだ。

彼は何の匂いもしなかった。

彼の顔、髪、シャツ、彼の物は何も匂いが無かった。

彼は汗の臭いもしなかった;彼は男の匂いも女の匂いもしなかった・・・。


 「いいわ、私のダーリン、」と私は彼に言った、「今私たちはこの話の中で誰が誰だかわかったわ。

そして、今度はあなたが3人分のベッドから姿を消す番よ、赤ちゃんが生まれるんだから......」


 今こそ私はやるべきことが分かった。

私は彼の全ての贈り物をティモテジに返し、ディルの入ったビールのスープを作ってあげて、永遠に彼の元を去った。

私はブラッチェンの家から何も持ち出さなかった。

私の船長の筆箱にため込んだ小さなアクセサリーやお土産さえも。


 こうして私の「草深い坂道」は終わりました。

同じ日の午後、一人でパリの私の家に帰りました。


          一枚の写真


 もしあなたが筆箱の外側の引き出しを完全に引き出せば、あなたは自分の手を箱の中に入れて、そこに一片の厚紙を感じることができるでしょう。

陽の光の中にとり出した時、それがしっかりした表面に張り付けられ、ほぼ2つにバラバアらになりそうな、半分に折られた大きな写真だと分かります。

長い金ぴかのドレスを着た若い女性と、彼女の後ろから覗いている子供が写っている。

写真には少し長いメモと次の署名:τιμοτηεοζ.(ティモテ)が書いてある。


 前述のメモは写真の裏にある。

サインをした人が書きたかった全部を書けるほど十分な空白が無かったため、彼は残りの部分を後ろの余白に反時計回りに書き込んでいた。:


 私は絶望に沈んでいたので、船長でもないのに、船長の筆箱だけを持ってギリシャの遠洋定期船に乗り込んだ。

その筆箱の中には私の偉大な恋人が持っていたちょっとしたアクセサリーが入っていた。

出発の時、私はかつてフランスでつけていた日記と、私が愛した人と子供の写真と、彼女と私の記憶に関連する、やっとの思いで集めたそれ以外のものを、旅行に一緒に持っていくために箱に入れている。

暗い気持ちでいると、ある考えが私を慰めてくれるのだ。:


 「子孫の一つの幸せな愛は、祖先の9つの不幸な愛を償うことができる。」


                 後書き


筆箱の買い手である私は、もう一度その売り手に会った。

それはコトルで、今年の冬だった。

南の風が吹き始め、夜よりも夕暮れが長くなり、雨のために夕食後は外に出ることはできなかった。

私は音楽が聞こえてきた時、玄関ホールに座っていた。

誰かが「明日への動きの静かなシャツの中で......]という歌のテープをかけていたのだ。

私は筆箱の中では、その同じメロディーが、南風が吹くことを告げる事を意味することを思い出した。

歌に引き寄せられて立ち上がり、半円形のバーに座った。

私の目の前にブドヴァからきたウエイターがいた。

彼の顔は銀色で無表情だった。

彼は今ここで働いているのだった。


 「おはよう、スタブラ、私を覚えているか?

ワインをギリシャ人のやり方で私に混ぜてくれないか?

注ぐときにグラスに空気を入れないように、用心してね。」


 スタブラは冗談が分かった様で言った:

「こんばんは、Mさん。いらっしゃいませ!

何と言う天気でしょう!

今夜は魚たちも泣いていますよ・・・

すぐにご用意いたします。」


 そしてウエイターは水割りの白ワインのグラスをテーブルの上に置いた。

「スタブラ、ちょっと質問していいかね?」

「どうぞ。神は燃える藪からお聞きになりましたが私たちは答えませんでした。」

「どうやって君が私に売った筆箱を手に入れたのか話してくれ。」


 スタブラの顔に硬い男らしい笑いが現れた。

笑顔は男や女の顔に何世紀も消えずに、非常に長い間続くこともある。

世代はそれを遺産として受け取る。

ウエイターの笑顔は少なくとも数世紀前からの物だった。


 「私は今も同様に売り物があります、」と彼はつぶやいた、「私は加齢を治療する薬を持っています。あなたの小切手をすぐに現金化するつもりはありません。」


 「加齢を治療する薬ってどんなものなんだね、スタブラ?」

「私たちの魂はゆっくりですが、私たちの体は成長します。

そのことがあなたが毎晩開け放たれた窓に立ってあなたから10回、悪魔を追い出す理由です。

難しくはありませんよ、あなたはただそのやり方さえ知ればいいのです。

(モーゼの十戒の)それぞれの戒律毎に、出来るだけ深く鼻から息を吸い、その後あなたの体からお腹までの全ての空気を口から吐き出すのです。

見覚えのない重い匂いが口から出てきたら、あなたにはそこにいるのです。

それが悪魔の匂いなんです。

彼が出て行こうとしていると言う事です。

神の戒めの心地よいにおいによって追い出されるのです。

こんな風に悪魔が現れるまで毎晩10回息を吐きなさい、そうすればあなたはもう10年長く生きられるでしょう・・・。」


 「すばらしい、スタブラ、しかし私はまだあの箱をどこで手に入れたかを知りたいのだよ。」


「そうでございますね、あなたは自分の人生でどこに種をまくかは知っていても、どこで刈り取るかは知りません。

しかし、だから神よお助け下さい、それは紳士の考えている事とは違います。」


 「じゃあ、どうして私の考えていることが分かるんだい?」

悪魔が何処で結婚するか私がどうして分からないことがありましょうか?

それが私の仕事で、注ぐこと、そしてお客様の考えていることを知ることです。」


 「さて、私は何を考えているかね、スタブラ?」


 「この殿方は私がギリシャ式のワインと水の混合法を知らないとお思いです。

正直におっしゃっ下さい、そうじゃありませんか?」


 「そうだ、スタブラ、それが私が考えている事だ。

お前はそうじゃない。しかしそれでも。

君がその筆箱の所有者を知っていたのか教えてくれ。

君はもしかして関係者だったのか?」


 スタブラの唇は赤くなり、美しい女性的な笑顔が現れた。

男性的な笑顔より年をとったものだ。

彼は全ての歯を見せてもう一度感情的になって言った:

 「私には、もはや知人も親戚もいません。

戦争がすべてを吹き飛ばしました、M様。

時代は変わってしまい、最後の年が来ました。悪意に満ちた卑劣な年が。」


 「それで、お前はその所有者をどうやって知ったのだ?」

「どうやって、とはどういう意味でしょうか、M様?

私があそこボスニアで彼を殺そうとしたとき、どうやって私が彼を知らないでいることができたでしょうか?

しかし私は彼に近づきませんでした。」

「お前が殺し損ねたって?」

「失敗したわけではありません、M様。

私は水を貫通して彼を銃撃しました、それで弾が彼に届かなかったのです。

水が彼を救ったのです。」

「そしてその箱、お前はどのようにしてそれを手に入れたのだ?」

「水からです、M様。

水は私の命を救うために私にも恩着せがましい態度を取ったのです、そのことが私がそれを手にした経緯です。

その箱とその所有者がギリシャ船「イシドール」に乗船してきたとき、私はその船でバーテンダーをしていました。

彼はすでにその時大変奇妙な男でした。

結婚式にはいつも自分専用のパンを一枚持参するような、変な人の一人でした。

彼は3つのことしか気にしませんでした:

彼の内部の事、彼の表面の事、彼の下にある物の事。

船が停泊するや否や彼は片方は赤もう一方は黒い長靴をはいて、かけ事と大酒盛りをするために上陸して行ったものでした。

彼は空に、彼以外の皆には見えない星々を見ていました。

私は彼の最後の言葉も聞きましたが、それを理解しなかった。

彼は言った:「堕天使だ! 俺たちは絶望的だ」。

船が遭難した時、私が何か木の物体を掴んだ時、彼は何かにあたって波間に消えてしまった。

波が私を岸に押し流したときだけ、私は船長の箱にしがみついているのに気づきました。

後で私はそれが彼の物であると分かり、それ以外の事もだんだん学びました・・・。」


 スタブラの顔の笑いは突然またもや変化した。

女性的なそれから、銀を加工したような硬い男性的な笑顔が戻り、彼はこう付け加えた:

 「M様、あなたはきっと、そろそろ自分のワインの支払いをする時間だと考えていらっしゃる。」

「そうだよ、スタブラ。」

「そうですね、えーと、M様、そんなんじゃないんです。

私はあなたに借りがあるのであって、あなたは私に借りがないのです。」

「どうしてなんだ?」

「勝利したものが月桂冠を得る。

私があなたに箱を売った時、あなた様は私が、失礼ながら、あなたに正当な金額以上のお金を吹っ掛けたとお考えになったに違いない。

そうじゃないですか、正直におっしゃって下さい?」


 「そうだ、スタブラ、お前が受け取るべき金額よりほんの少し高いのではなかったかと言うのは少し私の心に引っかかっていたよ。」


 私の言葉で、スタブラは彼のポケットから500ドイツマルクをとり出しグラス越しに私に手渡した。

「それはあなたの物です、M様。

私が余分にいただいた分です。ちょっと借りただけです。

今や私は借りを返したので、私たちは対等です・・・。」


私の顔に驚きを認めて、スタブラは付け加えた。

「あなたが今何を考えているのか私に言ってほしいですか、M様?

あなたはこれで私から金を巻き上げた、と思っていらっしゃる。

そうではないですか?」

 「そうだ、スタブラ、まさにそう思っていたよ。」

「もう一度言いますが、そうじゃないんです。」

「じゃあどういう事なんだ、スタブラ?」

「ちょっと前に小さな子供を連れたご婦人が、あの船の難破について尋ねて、コトルにいらっしゃいました。

外国人で若いのに白髪で、私はフランス人のかただと思いました。

彼女は私たちの言葉は一言もご存じではなく;フランス語もご存じではなかったら、モーとかメーと言うしかなかったでしょう。

彼らは一人の通訳を連れた彼女を私の所に連れて来ました。

彼女は彼女の夢の中に降りてくる鳥たちについて不平を言い、その箱を500マルクで買ってくれました。」


「それじゃなぜおまえはその箱を彼女に売らなかったんだね?」

「彼女はその箱を買うためにお金を払ったんじゃなく、あなたにその筆箱を渡してほしためにお金を払ったのです。」

「彼女が僕にその箱を渡してほしくてお金を払った、だって?」

「はい、彼女は箱の以前の所有者があなたの事を知っているとおっしゃいました。」

「それでお前はどうしたんだ、スタブラ?」

「私はお金を受け取って、約束したのにあなたに箱を渡すができませんでした。」

「何故?」

「あなたが既にその箱を持っていたからです。

私はすでにそれをあなたに売ってしまっていたのです。

今、私はあなたにご婦人のお金をお返ししています。」


 「しかし違う2つの世界からやってきた2人が私をそれの買い手としてえらんだのかね?」

「どのようにして選んだのかと言う意味ですか、M様?

私たちにはあなたが考えていることが分かります。」


「私は何を考えているかね、スタブラ?」

スタブラの顔の笑顔はまたしても変わった。

彼が次のように言った時、男らしい若い笑顔と年をとった女性的なそれの代わりに、第三の中性的な笑顔が顔に現れた。:


「この箱のことを何か書こうと思っているいらっしゃると思っていますので・・・。」


              完

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