“Writing Box” by Milorad Pavic (61)

“Writing Box” by Milorad Pavic (61)
https://jp1lib.org/book/16698678/7e0b66
私はバスに乗り、新聞に挟まっていたチラシのモンパルナスの住所に直行した。
この様にして、もしあなたがルノワールの絵を覚えているなら、私の「草深い坂道」が始まりました。
 ドアには名前は書いてはなかったが、広告にも名前がなく、住所と電話番号だけだった。
私と同じくらいの背の高さの若い男がドアを開けた。
私は彼をほとんど見覚えが無かった。
彼の顔色の青白さは何となく少なくとも4,5世代前のものに見えた。
そしてその青白さの中に何か傷跡の様なものが浮かんでいた。
しかし私はすぐにそれは彼だと分かった。
白い水牛に乗った私の恋人。
何年もたって、彼は私の上にもう一度あの焼ける様な彼の笑顔で焼き印を押したのだった。
まるでブドウ畑から取ってきたかのような金色の髭を生やしたティモテ。
最初は私はそのアパートを出たかったが、彼がまるで私に会ったことはないというように振舞ったのでそうしなかった。
彼はまるでシャフトで私に運命を教えたことなどまるでないかのように振舞ったのだ。
彼はまるで別人のように振る舞い、時にはそのように見えた。
彼は私に大変礼儀正しく名前を聞き、その名前を今までに聞いたことがないかのようにふるまった。
それはとても説得力があったので私は帰らなかった。
 
 「先生ですか?」と彼は聞いて私を中に入れた。
私はなじみのない心地良い、サフランの様な、多分もう少し甘い、オイルの様に濃厚な、香りに襲われた。
それは彼がかつて使っていた化粧水オードトアレ「アザロ」ではなかった。
彼は私を広々とした部屋の中央に連れて行きまるで初めて私を見るかのように、頭のてっぺんからつま先までを見た。
 
 「あなたは髪を染めているようですね、地毛の色ですか?」と、彼は考え深げに言った。
 
 「私の髪の毛が何か問題ですか?天然の黒髪ですよ。
ベルギー人の黒・・・
それがあなたの失礼な広告の中の要件の一つじゃなかったかしら?」
私も、私たちが雨の降るときにいつも愛し合ったことが無かったかのように、そのゲームをし始めた。

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