“Stories” by Doris Lessing (8)
“Stories” by Doris Lessing (8)
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1, “The Habit of Loving “
彼は「とても良いよ」とすぐに言った。
何故だか彼は動揺していた。
「実に素晴らしい」
彼女が踊るのを止めて鏡から離れるのを見て、彼はその不思議な彼女の影がいなくなったので、安心した。
「誰かに君の事を話してもいいかい?」
君にとっても良い事だ。
「君は劇場では事がどんな風に進んで行くか、知っているだろう」と申し訳なさそうに提案した。
「露程も気にしていませんわ」と彼女はロンドンの下町の劇場訛りで言った。
そして彼女の顔はあざやかで、無謀で、卑劣な魅力に輝いた。
「多分、スカートに着替え直した方が良いですわね、もっと看護師として自然に見えるように、そうでしょう?」と彼女は提案した。
しかし、彼は彼女が黒いズボンを履いているのが好きだと言った。
彼女はずっと黒いズボンとさっぱりした小さな白いシャツを着ていた。
そして彼女は、端役で演じた芝居や、彼女が話した事のある大女優や大男優プロデューサーの事を彼にしゃべりながら、魅力的な優しい少年のように床の上を歩き回った。
勿論それらの女優や男優プロデューサーはジョージの友人や少なくともそれと同等の人物だった。
ジョージは枕元に座りそれを見聞きして心が痛んだ。
彼は彼女に行ってほしくなかったので必要以上にベッドに留まった。
彼が大きな椅子に移った時、「どこか別の所に行った方が良いのなら、ここに留まるべきだと思ってはいけない。」と言った。
それに答えて彼女は、黒い瞳を瞬かせて「でも、私は休んでいるのよ、ダーリン、お休み中なの。自分の事で良い事は何もないの。」と言い、「ああ、私ってひどいでしょ、何てことを言っているんでしょう?」
「しかし、ここに居たいのかい?ここに居てくれても構わないのかい?」と、彼は言った。
ほんの少しの間が有って、彼女は言った、「そうよ、変な事に、私はここに居たいのよ」と言った。
「変な事に」と言う言葉には、慌てた、半笑いの、ほとんど媚びるような視線が加わっていた。
そしてここ数か月で初めて、ジョージの心に寂しさの圧力が和らいていた。
今や劇場や手紙で親交のある著名な紳士淑女が彼に会いに来たりしたときに、ボビーがクールで絹の様な小さなホステスになり、彼らが帰るとすぐ、わんぱく小僧の魅力にたち帰るのは彼にとって幸せな事だった。
それは彼らの親密さの証だった。