“The Pilot’s Wife” by Anita Shreve (10)

“The Pilot’s Wife” by Anita Shreve (10)
https://jp1lib.org/book/1444400/15aafd

 レポーターはカメラに向かってその男の名前はイーモン・ギリーだと言った。
彼は83歳で最初に名乗り出た目撃者だった。
この漁師が見たものを見た人は他にいないようで、まだ何も確認されていなかった。
レポーターはギリーの話をしきりに本当だと信じたがっているという印象を持ったが、キャサリンはそうではないかもしれないと言わざるを得ないと感じていた。

 しかし、それが本当だと知っていた。
彼女には海の上の月の光が見えた、灰色の光が、小さな天使たちが地球に降りてくるように、空からひらひらと降って来る様子が見えた。
彼女には水上の小さな舟と舳先に立っている老人が、その顔は月の方を見ていて、手はいっぱいに伸ばされているのが見えた。
彼女には彼がはらはらと落ちてくる破片を捕まえようとして、小さな子供が夏の夜蛍を捕まえようとするように、空中に手を突き出すのが見えた。
そして彼女は、そんな美しい事が起こっている時に、その種の災害が ― 体から血を出して、肺から空気を出して何度も何度も顔を殴るような災害 ― であるとは何と奇妙な事だろうとその時思った。

ロバートが近づいてきてテレビを消した。
「大丈夫ですか?」と、彼は聞いた。
「あなたはそれが何時起こったとおっしゃいましたか?」

 彼は膝に肘をついて手を組んだ。 
「ここの時間で1時57分です。現地時間の6時57分です。」
 
 彼の右の眉毛の上には傷があった。
彼は30代後半に違いない、ジャックの年齢より自分の年齢に近いわ、と彼女は思った。
彼は金髪で虹彩にしみのある茶色の眼をしていて美しい肌をしていた。
ジャックは青い目をしていた。
2つの違った色合いの青、一方は洗いざらしたような、ほとんど透明な水彩の様な空色の青、もう一方の目は明るい藍色だ。
その普通と違った色合いは他人の目を引き、この左右非対称が不均衡、多分何か間違っていると思わせるのだった。


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