“Penguin Lost” by Andrey Kurkov (96)

“Penguin Lost” by Andrey Kurkov (96)
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73
屋根には雪がつもり、モミの木にはいつもと違いイルミネーションが飾られている。

ゴロセイエボはまさにおとぎ話のようだった。

アンドレイ・パブロビッチのところでは、3mはゆうに有るモミの木のイルミネーションだった。
パーシャの4×4が砂利の上に停まっているのを見ると、アンドレイ・パブロビッチはいないとしても、パーシャはいるだろうと思われた。
インターホンを押すのに応えて、パーシャが現れた。

「丁度ボスがお前の事を話していたよ!」と彼が幸せそうに言った。

「コーヒーでも飲むか?」

「お願いします」

「ボスは30分で帰ってくる。」と台所に座りながら言った。
「彼は、今は議員だから、ほとんどいつも夜中前には家にいる。」

「議員? 前はただの議員秘書だったのに。」

「補欠選挙に出たんだ。そしてうれしい事に、当選したんだ。
そこには良い人がいて、どこにでもいるけどそうでない人もいて、夜、橋の上から落っこちたりするって彼は言っているよ。」

車の音がしてパーシャは公用車の黒のベンツのために、門を開けようと走って出て行った。
車からほとんど足首までの長さのスマートな黒いオーバーコートを着たアンドレイ・パブロビッチが現れた。

ベンツが去り、パーシャが門を閉めた。

台所を覗きこんだアンドレイ・パブロビッチは「ああ!」と叫んだ。
「パーシャが、客人が来ていると言ったが、よく帰ってきた。お祝いをしなくちゃあ、男らしく祝杯をあげよう。」と、コートを脱ぎ、スマートなダークスーツで宣言した。

「コーヒーは朝飲むものだ、今はコニャックだ。ここで飲むかそれとも2階にするか?」

今から彼に頼む内容には台所の方がふさわしいだろうと思いながら、「ここの方が民主的ですね」とヴィクトルは言った。

「コニャックだ、パーシャ」と言いながら隅のテーブルのヴィクトルに加わった。
「良く言った! 俺も今じゃあ民主党員だ!ウクライナ国民民主同盟の議員として議員生活を始めたんだが、彼らの関心事はウクライナ語を話すかどうかで、独立や経済なんか二の次なんだ。
それにしても、今までモスクワで何をしてたんだ?」

ヴィクトルは今までの事をすべて話した。

「一万ドルだって?奴らをたたきのめして、お前のペンギンを開放して、その金を献金しないか?」

ヴィクトルは何も言わなかった。
アンドレイ・パブロビッチは考え込むように唇をかんだ。

その時、パーシャがヘネシーの瓶とそれにふさわしいグラスを持って来て、グラスにヘネシーを注ぎ黙って退出した。

「さて、お前はそれを借金とみなすか贈り物とみなしているのか、どっちだ?」

「借金です」

アンドレイ・パブロビッチは、「お前が何か借金のかたになる物を持っていると見た。」といたずらっぽく笑って言った。
「株券とか、会社の支配権が生じる50%以上が望ましいな。」

「クレジットカードは持っていますが、口座にいくら有るか知りません。それと、大量の金塊を持っています。」

「それは、汚れていないやつか?」

「いいえ」

アンドレイ・パブロビッチは頭を横に振った。

「人民代表議員に提供できるものは何もない、そうか、飲んで何か考えよう」

彼はかがみこんで「その傷は何処で負ったんだ?」

「ロシア兵のウオッカ瓶で」

「ウクライナ人の人質がいたのか?」

「いいえ、ロシア人だけです。」

「残念、いたのなら身代金が取れたのに。
ロシア人の事はロシア人に任せろ。
その傷には誇りを持っていいぞ。
人民代表議員の扉はそんな風な傷に対して開いているぞ。
さて、我々はお前のペンギンに何がしてやれるかな?」

「彼らは明日の正午に電話してきます」

アンドレイ・パブロビッチは言った。
「お前は良いやつだ。それに頭もいい、ちゃんとした仕事について金を稼ぐ時期だ。
家での生活は順調か?」

「はい。」

「ちょっと待っていてくれ」

彼は台所を出て、ゴムバンドでとめた100ドルの札を持って来てテーブルのヴィクトルの前に置いた。
彼がグラスに注ごうとしたが、ヴィクトルの表情に警戒の表情を見て、躊躇ためらっていた。

「どうしたんだ?」

「最初にぎ始めた人が最後までぐ。」ヴィクトルはセバの誕生日とその後の事を考えながら言った。

「迷信か?え?じゃあそうしろ。パーシャ、おかわりだ!」

パーシャが出て行った後、「僕の借金のかたですが、いつ返せばいいんですか?」とヴィクトルは訊いた。

「いつ?俺が丸裸になって腹を空かせて保護を求めておまえのところに行ったときだ。」とアンドレイ・パブロビッチは笑った。
「いいや、これは俺の人道問題担当のアシスタントとしての最初の一年分の給料として受け取ってくれ。結局、お前は俺たちの慈善専門家だからな。義足の事覚えているか?」


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