「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 第10章

「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 第10章 
“Absent in the Spring” by Agatha Christie
https://www.pdfdrive.com/absent-in-the-spring-e199881914.html
Chapter10
ジョーンはゆっくりと正気を取り戻した。
彼女は立ち上がってレストハウスに向かって歩き出した。
しかし、わたしは物事をちゃんと考えなければならない、それがここにいる意味だ。
自分が何者であるのか。
昨日その手がかりを見つけた、そこから始めなければ。
詩「春にして君を離れ」は、ロドニーの事を考えさせ、「しかし今は11月よ」と私は言った。
ロドニーは「10月だよ」と言った。
彼がアシェルダウンでレズリー・シャーストンと4フィートも離れて、黙って座っていた日の夕方。
その理由は、今、いや、あの時も分かっていた。
マーナ・ランドルフではなく、というのは、ランドルフとロドニーの関係は論外だから。
しかし一方、ランドルフの方がシャーストンよりも受け入れやすかったから。
ランドルフは男受けする女性だから。
しかし、シャーストンは美しくも若くもなかった。
シャーストンは、ロドニーを絶望的に愛していたので、死んだ後彼のいる場所に埋めてほしかった。
ロドニーは墓石を見て「シャーストンがこんな冷たい墓石の下にいるなんて、馬鹿みたいだよ。」と言った。
そしてあの深紅のシャクナゲの花のつぼみが落ちて・・・
「僕は疲れたよ、僕たちはそんなに強くはいられない。」
「勇気が全てなのかしら?」と言うと、「そうかな?」と彼は否定した。
その後でのロドニーの神経衰弱、レズリーの死が原因だった。
ロドニーはコーンウォールでカモメの声を聞きながら、平和に静かに微笑んでいた。
トニーは「お母さんは、お父さんの事をなにも分かっていないよ」と言っていたが、確かにそうだった。
知ろうとさえしなかった。
彼女は彼の良き妻だったのだろうか?
彼の興味を最優先してきたのだろうか?
彼は農業をやりたかったのに・・・
彼はエイヴラルに「もし人が自分がやりたい仕事をやらないとすれば、彼は人生の半分を生きている事になる」と言ったのは、私がロドニーに強いている事について言っていたのかもしれない。
私は自分勝手だったのか?
人は、子供なんじゃないんだから、現実的じゃなければいけないと言って説得したけれども、農業をやりたくなかっただけなんじゃ。
ロドニーは「農場での生活は子供たちにとってもいいものだよ」と言っていた。
私はロドニーを愛していたがゆえに彼の生得の権利を奪ってしまった。
私はロドニーを愛しているし、子供たちを愛している。
しかし、十分に、ではない。
ブランチェは正しかった。
私はセント・アンを卒業したままの少女だったのだ。
苦痛を伴う「考える事」をしないで、安易に、春のような気分の中で。
私に何ができるのだろう。
彼のところに帰って「ごめんなさい。許してください」と言う事ができる。

 ジョーンは起き上がった。
彼女は老女のようにゆっくり歩いた。
インド人の従業員がレストハウスから駆け寄って来て、「良いニュースですよ、奥様」と言った。
「駅に汽車が着いて、今夜出発できます」


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