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あなたと食べる手料理

 彼とのデートについて語らせてほしい。1ヶ月に1回は外食してるんだけど、それ以外はだいたいどちらかの家に寄って食べることにしている。ちなみに今日は私の家で、自家製モツ煮込みをいただいた。

「うん、美味しい!」

 極上のスマイル、いただきました! もう、この人の笑顔が見れると思うと、ついつい料理に手間暇かけてしまう。週末に下ごしらえしておいた甲斐があったなあ。

「ねえショウちゃん、次は何食べたい?」
「そうだなあ」

 彼は箸を置いてしばし考え込んだ。

「こういう手のこんだのも美味しいけど、もっと簡単なのでいいよ。ユイちゃんが楽できるやつ」

 うん、こういう気遣いしてくれるトコ、好き。でも、

「あたしは良いの、好きでやってるから」

 もっともっとあなたが喜ぶ顔が見たいの。

「そう? じゃあ、オムライスかなあ」
「オッケー! 頑張って作ろー!」

 幸せいっぱい。
 今日も私は料理の腕を磨くべく、台所に向かっている。

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 あれから何度となくデートして、結婚して、毎日料理をするようになって、いつでも笑顔を見ることができるようになった。さすがに毎日全部が手作りってわけにはいかないけど、惣菜も利用しつつ週末は頑張ってお料理してる。
 でも、

「うん、美味しい!」

 なんだろう。この違和感。
 彼の笑顔は変わらない。というか、前よりおいしそうに見えるんだけど……

「メンチカツって、ソースも良いけど醤油も合うよね」

 かけ過ぎじゃない? 塩コショウの素朴な味わいが損なわれちゃうよ。この前のオムライスにも、ドバドバとケチャップかけてたし、サラダにも酸っぱいだろってぐらいドレッシングかけてたし……
 実は、私の料理、そんなに美味しくない? いや、ちゃんと味見してるし、好みが違う? もしかして、

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「あ! ダメ!」

 慌てて隠したけど、間に合わなかっただろうな。コーヒーを補充しようと思って、うっかりパソコンの画面をそのままにしてしまった。

「読んだ?」
「読んだ」

 普段は「今日のお料理」とか言って写真ばっかり毎日投稿してるけど、今日に限って夫婦の悩みみたいなものを書いてた。恥ずかしい。サイアクだ。
  
「……どう思った?」
「え、ユイちゃんもnoteやってるんだ〜って」
「『も』って何。ショウちゃんもやってんの?」

 いや、聞きたいのはそういうことじゃない。味よ、味。私の料理の味付けについてどう思ってんの?

「東北太郎っていう名前でソシャゲのプレイ感想書いてるんだけど、ユイちゃん興味ないでしょ?」

 無い。確かに興味は無い。じゃなくて、

「東北太郎って何? ショウちゃん東京生まれの東京育ちじゃん」
「父ちゃんが福島で、母ちゃんが秋田の出身だから。話したことあると思ったけど……」

 そういえば、両家顔合わせの時に聞いた気もするけど、緊張でガチガチになって、お茶はこぼすわ、箸は落とすわ、散々な思い出しかない。
 っていうか、両親とも東北出身?

「もしかして、ショウちゃん濃い味が好き?」
「うん」

 何を、そんな飄々とした顔で……

「どうして言ってくれなかったの? あたしの料理、たぶん味付けが薄かったでしょ? 自分じゃそういうつもりないけど、親が関西出身だから、きっと薄いはず……ショウちゃん、ずっと無理して笑ってたの?」

 なんていう独りよがり。無理して作った笑顔で有頂天になって、もう今までの自分が恥ずかしくてしょうがない。

「え、俺の高血圧を気にしてくれれるのかと思って……ちょっと薄いとは思ってたけど、素朴な味わいもいいなと思ってたよ」

 高血圧? 初耳なんですけど。でもまあ、インドア派で土日もゲームばっかりしているこの巨体なら、納得の結果ではある。

「俺、ユイちゃんの料理大好き。ちゃんと愛情の味がする。これからも楽しみにしてる。あ、でも料理に熱中して俺のこと忘れてるフシがあるから、たまには楽な料理で俺との時間も大事にしてほしくはある」

 なんか……なんだか……ほっとして泣けてくるなあ、おい!

「もう、こうなったら徹底的にショウちゃんの健康を目指してやる! 炒め物は減らして煮物と蒸し物を増やすから。あと、ソースと醤油の量は今の1割くらいまで減らそうか」
「ええ、それぐらい見逃してよ〜」
「あと、去年の健康診断の結果、見せて。職場でもらったやつ」
「勘弁してよ、もう〜……」

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 お互いに気持ちを伝え合うって、けっこう難しい。私の場合、味付けの好みを分かり合うのにさえ、すごく時間がかかってしまった。

 気になったら、悶々としてないで、聞けばいいんだよね。

 あの一件以来、私達はよく喧嘩をするようになった。でも、より一層仲が深まった。これからもいっぱいぶつかって、妥協して、さらに良い案を出したりしながら、同じ道を歩いていくんだろう。

 私達の物語は始まったばっかりだ。

(おしまい)

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こちらの企画に参加中です

レベル高いぜ…こんなところに南葦がいてええんか?

…というわけで、久々に小説っぽいものを書いてみました。っぽいもので終わっちゃってるのですが、練習と思って見逃してくださいm(_ _)m ご感想ご助言お待ちいたします

応援してくださるそのお気持ちだけで、十分ありがたいのです^_^