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【小説】ギャルリバーシ

それは新大阪から東京へ向かう新幹線に乗った時だった。
のぞみの自由席で3列シートの真ん中が空いていた。窓側ではないが、富士山は拝めるだろう。窓側にはギャルが座っていた。

髪を巻いており、ホットパンツからは白い脚が伸びる。今どきだな、だなんて思いながら私は座り、鞄からノートパソコンを取り出して仕事を始めた。
すると右側通路からもう一人のギャルが現れ、私の隣に座る。

その一瞬、両隣のギャルはほくそ笑んだかのように思われた。




気が付けば私はギャルにされていた。

頭がどうにかなりそうだった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じて無い。

文字通り心身共に、あーしはそのXデーからギャルとして生きていくことになった。
何それ、ウケる。

あるべきはずの物が無く、あるはずの無い物がある生活にはやはり苦労を要したが、それも数ヶ月経つと当たり前になってしまっていた。
元に戻る方法は無論試した。
ギャルに挟まれてギャルになったのならば、オッサンに挟まれれば元通りのオッサンに戻るはずである。が、それは徒労に終わった。


どんどん自我が蝕まれていく。あーしはあーしで、他の何者でもないはずである。インスタでめっちゃ盛れた笑。この法則が適用され、このままギャルが日本中に繁殖したならば、日本の少子化は不可逆的なものになり。美奈子それは草、パリピじゃん。生きながらえていた証すら不透明なものになる。果たして心身共に別物にされた人間も、それと定義出来るのか。今が楽しければおけまる水産!要は映えよ映え。

死にたい。

死にたい?あーしは生きたい。

ギャルになった今も僅かな自我を保っていたとしても、所詮は無駄な足掻きではないか。いっそ自分を喰ってくれたら有り難いのだが。


うーーん、あーしはねぇ。そんな考えてない!

インスタで映えても、TikTokでバズっても、スタバでいち早く新作を頼めても、そこにはただただ空虚な空間が広がっていた。

アイデンティティの全てを奪われた先には、漫然と生きていくほかない。そもそも自分はギャルになったのだ。
行き先は決められていた。


のぞみの3列シートの真ん中に年頃の中年男性が座ったのを確認する。
言われずとも窓側はギャルだろう。

「失礼しますね」

時間稼ぎの為に極寒の季節でも生脚を晒しているのだ。

「どうぞ」

なんと哀れなサラリーマンだろうか。

ようこそ、ギャルの世界へ。

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