見出し画像

映画『関心領域 The Zone of Interest』の極私的な感想

かつて、槇原敬之作詞作曲でSMAPが歌った「世界に一つだけの花」が爆発的にヒットしました。ひねくれた高校生だったのでブームに乗れず「花屋の店先の花はみんな平等に美しい」という趣旨の歌詞に対して反感を覚えていたのを覚えています。

「花屋に並ぶことができた花なんて、ほんの一握りのうまくいった個体だけで、圧倒的多数は花屋に並ぶことすらできないじゃないか。それで“みんな平等に美しい”なんて、ばかげている」と思っていました。「ナンバーワンではなくてオンリーワン」と言いながら、その「オンリーワン」と自らを言える立場の人々の足元には、見えないように隠されている負け組たちの屍がありますよね、そっちの方が多数派ですよね、と、そのグロテスクさがどうしても気になるし、それを見ないふりしている大人たちにムカついていました。「女子高生」という身分になりたくもないのに勝手になってしまい、問答無用で見た目や性的魅力の有無でジャッジされ、勝手にがっかりされたり、気味悪く舌なめずりされたりするのにイラついていたんでしょうね。

なんて事のない思春期の気まぐれみたいな八つ当たりエピソードですが、映画『関心領域』で久しぶりにこの感覚を思い出しました。アウシュビッツ強制収容所所長の妻が庭で育てる花々の美しさに異常にこだわり、見ごろを過ぎた花や雑草を邪険に扱う姿を見たときにこの時の感情が生生しくよみがえり、ぞっとしました。

ホームドラマ型、現代に通じる戦争映画

誰もが日常生活で感じる羨望や嫉妬、優越感、無邪気な蔑み、そういう些細な感情や、ちょっとした行動の延長線上に大虐殺がある。
それを、これでもかと見せつけるような映画でした。

映画のネタばれを嫌がる方というのが一定数いるそうですが、この映画に関しては前提の知識はつけてから観ることをお勧めします。最低でも『夜と霧』はざっとでも読んでおく(読み返しておく)と良いと思います。

作品はほとんど、収容所の隣で暮らす所長の家族の日常です。ただ、生活のそこかしこに違和感があります。

毎日のように鳴り響く銃声や悲鳴はもちろん、暮らしぶりに対してどうも不相応に見える婦人の姿勢の悪さや佇まい、まるでショッピングの話題のように語られる“KANADA”の強奪、始終怯えているお手伝いさん、何気ない瞬間に臭いに顔をゆがめる人物たち、長男が集めている金歯など。

表面的にはただの日常だけど、薄皮1枚隔てて異常なことが起きている不気味さがあります。

作中の音の演出は、なんと600ページにも渡る音台本に沿ったものなのだそうです。実際にその日、その時間帯でアウシュビッツ収容所の中でやっていたことの記録と建物の構造を計算して「実際にその日、その時にあの場所に響いていたであろう音」を忠実に再現しているといいます。

アウシュビッツを扱った映画を私があまり観てきていないためかもしれませんが、量の感覚のリアリティもこの映画で改めて感じました。「100万人ほどが殺害された」ということを数字では知っていても、遺体の焼却施設のキャパシティの話や、銃声の頻度、“囚人”を移送してくる汽車が通る回数から、その量のイメージを持つとゾッとします。

視覚演出はわりかしシンプルでした。ナチスを描く際は左右対称、直線多め、無機質な演出になっています。ナチスの美的演出のやり方についてはこれから学びたいと思いました。本業が広報やマーケティングにまつわるものなので、その影響力の強さについては気をつけないといけない。

後半、アウシュビッツ所長のヘスが、カメラを見つめてきます。その見つめた先に現代のアウシュビッツが映ります。

ヘスや、ナチスの重要人物たちは、第二次世界大戦後に処刑されました。

それで終わったのか?
処刑された者たちが異常者で、彼らを殺せば解決するのか?
2024年は平和が実現しているのか?

と問いかけてくるようです。

参考になったレビュー等

私的な感想文になってしまったので、色々と調べていて参考になったレビューなどを紹介します。

世界遺産検定のサイトのブログです。短文ですが、歴史的なことにお詳しいからこその視点で参考になりました。

安定のライムスター宇多丸さんのラジオです。


読んでくれてありがとう! ぜひ、下の♡をポチッとしていただけると、とても励みになります。noteに登録してなくても押せます。