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コントラストを操る


コントラスト【contrast】
① 対比。対照。
② 絵画やテレビ・写真などの画像の、明暗の差や色彩の対比。
               〜大辞林より〜

雲と空。花と緑。横断歩道。カフェラテの層。
少し周りを見渡してみても、強弱の差はあれど、コントラストの美しい物で溢れている。人工物であれ、自然物であれ、人間はコントラストのある物が好きだ。

音楽においてもまた然り。
コントラストのない音楽は、つまらない。

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今年に入って、"デッサン会"というものに2回ほど参加した。そしてそれを機会に、空いた時間にデッサンをするのが趣味のひとつになった。

立体を作るのも描くのも苦手な私だけれども、デッサンをするために対象物をよーく見ていると、今までに見えていなかった凹凸や光と影が見えてくる。同じ色・同じ素材でできていても、光と影によって、実に多彩な色合いの変化があるものである。それを鉛筆のみで表現するのには、何種類もの硬さ、濃さの鉛筆を使うのだと、やってみて初めて知った。更に、同じ鉛筆によっても、線を重ねる方向によって、強弱やテクスチャーを表現したりするのである。

音楽においてのコントラストには、一曲全体を見渡した時に存在するもの、ある部分で同時に演奏される音の中で生ずるもの、ソナタや組曲など、複数の曲同士の間にあるものなど、いくつか種類がある。

問題はそれらをどう表現するかだけれど、1つ言えることは、表面の音符の羅列と強弱記号にばかり目を向けてしまうと見逃してしまうよ、ということだ。それは、一本の鉛筆しか使わず、同方向にしか線を重ねずに強弱をつけているのと同義だ。

音符の羅列の中の、どこに光があり、影があり、どういう濃淡を描いているのか。

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和声の変化も少ない、一見何でもないこんなフレーズの中にも、濃淡はある。(例えば、音の方向、跳躍や臨時記号、全音と半音の関係と、和声との調和から生まれる響きが示唆してくれるだろう。)

モーツァルトがそこまで考えてこのフレーズを書いたかは定かではないし、そこまでしなくていいよ、と思うかは弾き手と聴き手次第だけれど、私たちが今使うピアノからは、楽譜という宝の地図から宝物を見つけていくように、このフレーズから得られる響きの濃淡を発見できるのである。

そしてその視点を曲全体に広げてみた時にまた、大きな濃淡や、それによるコントラストがある事に気づく。あるいは逆に、曲全体の中にあるコントラストから考えてみてもいいかもしれない。

ちなみにあえてコントラストの弱い音楽、というのもある。けれどそれがあえて、なのかそうでないのかは、当然意図して演奏される必要がある。

コントラストを発見し、表現するのに最も大切なのは、言わずもがな、耳で聴くことだ。コントラストがある、とわかっていても、音にならなければ伝わらない。

どう身体を使えばどういう音が出るのか、たくさん実験しよう。望む音が出せないのなら、その音の出し方を疑った方が良い。それらの音を組み合わせて、彩り鮮やかなコントラストができたら、弾き手だけではなく聴き手にとっても、宝探しでいっぱいの曲になる。


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