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音を混ぜる

ピアノを教えるにあたって、私にはどうしても伝えきれず、もどかしい思いをするポイントが2つある。

1つは、自分の身体のどこにどれだけの力が入っているか、あるいは入っていないかを示すこと。サーモグラフィーのように私の身体の色が変わって目に見えればいいのにと思うことがしばしばだ。思いつく限り、ピアノを弾く以外の動作に置き換えて伝えることが多い。(そういえば、ある程度の年齢になっても、ボールが投げられない、遠くに飛ばせないと言う子供が意外に多い事に驚いている。田舎で外を走り回る自然児であった私には、まずボールを投げる練習をしたらと言う以外に解決策が思い浮かばない。。)

そしてもう1つは、自分が音や曲のどの部分をどのように聴いているかを伝える事だ。私の中で、耳から入った音がどのように響き、どのような質感を持ってどのように混ざり合うのかを完璧に伝える事は不可能に近い。

この、耳を使う作業を更に奥深くするのが、ペダルである。たとえ16小節程度の小品であれ、自分が曲全体でダンパーペダルを使う場合には、かなり細かな動きをしていたりする。どこでどの程度ペダルを踏み、どこで踏まないかは、あるべき響きと耳とのコミュニケーションの中で決まる。ここで踏みましょう、ここで外しましょう、と懇切丁寧に教えたところで、求める響きを共有できなければ、残念ながら意味は変わってしまう。

かく言う私も、今でこそペダルを使う事を楽しめるようになったが、自分のペダル使いの下手さがずっと気にかかっていた問題であったし、まだまだ発展途中だと思っている。シフトペダル・ソステヌートペダルについては一旦置いておくとして、ダンパーペダル(最右のペダル)について、一昔前の私は、これを単に音が伸びる装置だと思っていた。断言できる。それでは面白さは半減だ。

ダンパーペダルが弦を開放する事で得られる"共鳴"によって、ピアノが奏でられる音は無数に増える。一音一音に水分を含ませるように艶やかにすることもできるし、音同士を相乗させて広がりを作る事もできる。音の切り方のバリエーションも増えるし、、挙げればキリがない。が、昨今私が一番面白がっているのは、響きを混ぜ合わせる事ができるという点だ。絵画の如く、違った質の音同士を遠近感やコントラストを持ちながら、同時に存在させる事も、反対に溶かしてしまう事もできる。

ピアノは歌や管弦楽器に比べて圧倒的に1人でたくさんの音を出せるので(ピアニストが孤独と言われる由縁でもあるけれど)、"響きを混ぜる事ができる"という事は、この楽器を演奏する上での大きな楽しみの1つであると思う。

というわけで、ペダルを使う時、単に「和音が変わるから踏み替える」ではなく、どの音とどの音を混ぜるか、という観点から音の行先を探ってみる事をオススメする。意外と、ここは混ぜなくてもいいな、という部分も増えるかもしれない。逆に、場合によっては"濁り"すら美しく響くこともあるのだ。

存分に、耳で楽しもう!

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