クラリスに恋して(華氏451度感想)
2020/1/29の虚行通信です。更新頻度落ちすぎ。
今回は「華氏451度」という小説の感想になります。
内容の考察等は、恐らく沢山の先人の方々がなさっていると思うので、あくまで個人的な感想になります。
私は普段あまり本を読まない人間なので、的外れなことを言っているかもしれませんが、お許しください。
華氏451度 あらすじ
レイ・ブラッドベリによって1953年に書かれたSF小説。
舞台は「本」が禁制品となった近未来。
隠匿されていた書物を燃やす仕事”昇火士”をしているモンターグは、ある晩風変わりな少女クラリスと出会い自身の仕事に疑問を持つようになる。
徹底的に管理されたディストピアな世界観、どこか抒情的な文体、現代社会を風刺する鋭い視点を持って描かれた傑作。
以下、感想。
・世界観
まず、世界観の素晴らしさについて触れていきたい。
テレビや漫画、などの単純で、思想性の少ないメディアや娯楽しか存在しない世界。
そこに住む人々は、思考することを諦め…いや放棄し、難しい事から目を背け続ける。
選挙は顔の良い、身なりの良い方に投票し、自分の国の起こした核戦争には見向きもしない。
人々の関心は専ら中身のない恋愛ドラマや「巻貝」と呼ばれる小型ラジオ(イヤホンみたいなヤツ)から流れる下世話で単純なニュース、永遠に中身のない雑談を楽しそうな口調で繰り返すAI達との会話。
それでも心が満たされなければ、巻貝から電子楽器をガンガンと鳴らして脳波を制御し、楽しんでいる感覚のみを味わって誤魔化すことだってできる。
現代社会を強烈に風刺、皮肉った描写の数々は読みながらヒヤリとするどころか、ブラッドベリが背後に立っていて、無言で説教でもされているかのような感覚に陥る。
堕落した人々のさまを反面教師にすると同時に、近未来的なディストピア感に思わずワクワクしてしまう自分もいる。
というか、現代でも通用するこのディストピア描写を、70年ほど前に書き上げているのは凄いとしか言いようがない。
もしかしたら私が全然本を読まないから知らないだけで、沢山そういった作品はあるのかもしれないが、とにかく私が読んでいてめちゃめちゃ心躍った点である。
とはいえ、今日日「本が禁制品となった世界」という設定には正直言って真新しさを感じないが、出てくる未来的なガジェットや堕落した人々の極端かつ少々滑稽な描写はこの作品に引き込まれる重要な要素の一つといえるだろう。
昇火士である主人公が署内の移動に使うポールは、実際の消防署でも使われているいわゆる滑り棒の近未来版的な扱いで、握るだけで勝手に上に行ったり下に行ったりしてくれる(便利)
昇火士というネーミングの秀逸さも相まって、現代の火を消すための消防士が火を立ち昇らせるための職業になってしまったことを印象づける。
他の移動手段といえば作中で「カブトムシ」と称されるスピード違反しまくりの死に急ぎ車(私はスポーツカー的なのを想像しました)や、マリオの土管みたいな感じで移動する「真空地下鉄」とかも面白い。
特に真空地下鉄で流れている「デナム歯磨き剤」のCMソングは、falloutシリーズのヌカコーラ宣伝アニメのように陽気な感じがして滑稽だ。
デナムの歯磨きソングがガンガン流れる中必死で聖書を読もうとするモンターグには思わず笑ってしまった。
♪デナムのスペルはD.E.N~デナムにお任せ!
モンターグの妻、ミルドレッドが昏倒する「家族」こと壁回線も忘れてはいけない。
自分の周りを壁のような液晶パネルで多い、そこに映る人(AIなのか実在の人物なのかは曖昧、もっかい読んだら分かるかも)達と中身のない、俗でふわふわとした下世話な無意味な会話を延々と繰り返すことのできる装置だ。
ミルドレッドのように昏倒してしまうのは最悪だが、普通に話し相手としてのAIは孤独を紛らわすのに丁度良いと思う。
まあこの「家族」のように一方的に話しかけ続けられるのは流石に勘弁だが…
まあこんな風に未来的かつそのどれもが風刺的なエッセンスを注入されているガジェットの数々は、非常に興味深く、この作品の面白さを語る上では欠かせない点であるだろう。
(まあこの作品を手放しで面白いとか楽しい話と捉えるのはどう考えても間違っているのだが…)
・クラリス・マクラレンの存在
さあ、ここからが本題だ。
この作品のヒロインといっても過言ではない存在。
モンターグのたどる運命のきっけけを作った十七歳の少女。
「クラリス・マクラレン」の存在についてである。
単刀直入に言おう。
私はこのクラリスに心を奪われてしまった。
今まで読んだどんな文章の中にいる女性より魅力的で、儚く、美しい存在であると私は思う。
クラリスは、自分の事を「頭のイカれた女」と称する。
その言葉の通り、彼女はこの世界で生きていくにしては少しばかり思索的過ぎた。感受性が豊か過ぎたのだ。
先ほども書いた通り、この世界の人間はみんな考えるという行為を放棄している。
難しい事を見ず、聞かず、感じず、そして考えず、目を背けている自覚すら無い状態で生きる彼らは「結果」のみを求めて生きている。
事実、学校では知能テストと称して表やグラフの数値をひたすら暗記するような授業ばかり行われている。
そうして頭を使った様な気分にさせ、思考することを奪い、やがて大人になるにつれ考えないことに疑問すら持たなくなる。
「疑問」や「仕組み」、「過程」を知ろうとする事は悪とされているのだ。
そんな世界でクラリスは、様々なものを見、感じ、捉え、考えて暮らしていた。
だれも見向きもしない草花を眺め、月を見上げてそこに人を移す、雨が降れば傘もささずに歩き回り、空に向かって口を開け空から降る雫をワインのように飲み干す。
この管理された、一見すると輝かしい、でも本質的には閉塞的で救いのない世界で、彼女だけは自由であり、自然であり、解放された存在だった。
豊かな共感性と思考力を兼ね備えた彼女は、異常者として精神科に通わされる。
医者は、彼女がなぜ考えるのか不思議で仕方がないのだ。
要注意人物として国家からマークされる中で、彼女は彼女の生き方を曲げずに生きていた。
彼女は明るく、この作品の中で唯一「不安」や「焦燥」といった感情から切り離された存在として描かれる。
ふわふわとどこかに飛んで行ってしまいそうな儚さと、全てを見透かしているかのような鋭い視点が、彼女の中にはある。
私はこういう主人公よりも大人びていて、自分とは違う何処かを見ているような、儚いキャラクターが大好きだ。
フリクリのハルハラ・ハル子しかり、ニナモリ・エリしかり、ローゼンメイデンの柿崎めぐしかり、だがしかしの枝垂ほたるしかり、ケロロ軍曹のアリサ=サザンクロスしかり、よつばと!のとらしかり…(最後はちょっと違うかも)
とまあ、そんな性癖を内包している私なので、もれなくクラリス・マクラレンもドストライクなわけです、ええ。
多分クラリスはめっちゃ色白で、黒髪ロングのサラサラ髪で、白いワンピースを着ていると思います。というか絶対そうです。それ以外ないでしょう。
先ほどの説明では書きませんでしたが、彼女は聡明でありながら、一方で無邪気な一面も持っています。
主人公のモンターグと話しているときの口調は非常に明るく、無邪気といっても差し支えないでしょう。
セリフも良いものばかりで、特に最初にモンターグに会った時の別れ際の挨拶「あなた幸福?」は、私も人生の中で一回ぐらい他人に聞いてみたいセリフです。
そしてこういうセリフ言うキャラ良くない??良いよね???
つーかめっちゃ可愛いです。みんなも読んだ方がいいよ。
作中でも「ハッとするほど美しい」と称されているので、多分めっちゃ美人です。やったね!
とにもかくにも「クラリス・マクラレン」は私の中で今年のベスト・ガールになること間違いなしのキャラクターです。
というか今までよんだ小説の中で一番好きなキャラです。ベスト・ノベル・ガールです。
なんですが…
映画版だと、十七歳じゃなくて大人っていう設定になってるっぽいんですよ!なんで???
十七歳だからこそのこの儚さでしょう、年齢に不釣り合いな大人びた感じが良いんでしょう、なのになぜ変えるんだ…
浪漫がわかってないですね。
まあとはいえクラリスは全三章中一章で姿を消してしまうので、登場シーン自体は凄く少ないんですよね。
でもモンターグの心の中で何度も彼女との会話が思い出されますし、クラリスの面影自体は終盤までずっと残っています。
っていうか、今までこの華氏451度を読んだ人の中で、一人もクラリスに萌えを感じた人間がいないことが不思議で仕方がないですね。
てっきりもっとpixivとかに沢山クラリスの二次創作があふれかえってるもんだと思ってました。
訳者のニュアンスもあるでしょうし、原書だとここまで魅力的なキャラクターとして描かれていないのかもしれませんね。
それなら仕方ありません。
でも絶対にクラリスはめっちゃ可愛いと思います。
もうクラリス・マクラレンって名前が良いもんね。最高。
というわけで、皆さんも心躍るディストピア的世界観と魅力的なヒロインクラリスの二軸でお届けする「華氏451度」読んでみてください。おすすめです。
あと読んだことある人はクラリスにどんな印象を持ったか教えてください。
クラリス最高!
以上です。