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『月夜行路』秋吉理香子 書評#1


母親という自分からも、妻という自分からも、ログオフしてやる。ざまあみろ。


今回は、秋吉理香子さんの小説『月夜行路(げつやこうろ)』を紹介します。


あらすじ

夫との関係は冷え切り、子供からも家事をする人としてしか必要とされていないと感じている主婦・辻沢涼子は、夫の浮気相手を突き止め、単身銀座へ乗り込むことに。そこで偶然出会ったゲイバーのママに聞き出されるまま身の上話をしているうちに、ママと一緒に涼子の初恋の人を探す旅に出ることになります。突然始まった旅で見たこと、聞いたことは涼子の人生をどう動かしていくのか、というロードムービーになっています。
筆者はこの作品をX(旧twitter)上の紹介漫画で知りました。


見どころ

主人公と一緒に旅行するバーのママは文学オタクで、大阪にある文学スポットを回りながら旅をしていきます。作中にたくさん出てくる文学作品と、作品にまつわる場所は実在のものです。文学に詳しい人はもちろん楽しめるでしょうし、そうでない人にとっても興味を惹かれる描写でおもしろかったです。実際に筆者も知っている作品・知らない作品の両方が出てきましたので、未読の文学作品を読みたいなという気持ちになりました。もちろん、物語の主軸である涼子の心情の変化も見どころとなっています。

感じたこと

この作品の主人公のように、現状に満足できずもやもやしたり、人と自分を比べてしまって肩身の狭い思いをしたりしている人は多いと思います。筆者にもそういうことはたくさんあります。うまくいかないことや、理想的でないことなんて生きていれば何度もあるし、理想通りにうまくいくことのほうが少ないです。自分という役割からログオフして逃げ出したくなる夜があります。
でも、この作品を読んで”誰もが、誰かがうらやむ人生を生きている”ことに気づきました。キラキラして見えるあの人も、充実していて悩みなんてなさそうなあの人も、きっと何かをうらやみ、何かを諦めながら生きている。じゃあ自分も、もうちょっと自分をやってみよう、と思えた作品でした。

まとめ

読みやすい文体でさくさくと読み進められる1冊でしたが、読後のデトックス感は素晴らしく、現代を頑張って生きている人みんなに薦めたいと思いました。初恋の人を巡る涼子の旅の行方を、ぜひ見届けてください。

※ヘッダーはlisa500mlさんよりお借りしました


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