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"The Sky Prison"第一章「The Sky Pirates」

空の牢獄と名付けられた空賊船で繰り広げられる、
一人の少女と空賊の物語。

~はじめに~
ガールズ・スチーム・メタル楽団FATE GEARによるコンセプトアルバム「The Sky Prison」の第一章です。
公開されているMV「The Sky Pirates」とともにお楽しみください。

なお歌詞の掲載を省略している代わりに、
CDブックレットとは異なる文章構成、解説付きでお届けします。
原作が気になった方はアルバムも是非お買い求めください!

第一章「The Sky Pirates」

蒸気機関で動く船が空と海を闊歩する世界。
誰もが恐れる「空の牢獄」と名付けられた空賊船があった—

栄えた港街に住む少女アン。弁護士の父を持ち、
周囲には「お金持ちのお嬢さま」として知られている。
平民には羨ましい暮らしに見えるが、本人はそうもいかない。

アンは妾の子として生まれ、母親は彼女を産んですぐ姿を消した。
父親は忙しいせいかアンにあまり構うことはなく、
アンは血の繋がりのない厳しい正妻に育てられている。

「もういや…こんな生活、終わらせてしまいたい。
本当のお母様に会いたい…」


港にサイレンが鳴り響く。空賊襲来の合図だ。
人々は我先にと建物に逃げ込む。
程なくして、武装した空賊たちが同じ方向に走って消えていった。

なぜかアンは身を隠しもせず、その光景を間近で見ていたのだ。


—波止場で電子パイプをふかしている、
洒落たコートを纏った髭面の大男にアンは話しかけた。

「お願いがあるのですけど、この船に乗せていただけないかしら?」

「ハッハッハッ、嬢ちゃん、これは空賊船って言うんだ。見た事ねぇのか?子供はお家に帰んな。」

「帰りたくないから言っているのです!お願い!街の外に連れていって!」

「あのなぁ、昔から船に女は乗せられねぇ決まりなんだよ。
なんも知らねぇのか?
…それと嬢ちゃん、後ろに気をつけたほうがいいぜ。」

アンが後ろを振り返ると、髭面の大男とは対照的で線の細い、
端正な顔つきの青年が今まさにアンに向かって短剣を突きつけようとしているところだった。

「…ラカム、ナンパするには相手が若すぎじゃないか?」
外見よりも大人びた低い声で、嘲笑しながらその青年は言った。

「ねぇお願い、私をこの船に乗せて。」
アンは必死にその青年にも懇願する。

「大した度胸だね。ふーん…」
青年は短剣を収めると、
アンを帽子のてっぺんからドレスの裾まで観察したのちにこう言った。
「面白そうじゃん、船長。乗せてやろうよ。」

「本気かお前!?…ああ、コイツはレヴィンってんだ。副船長だ。
しっかしどうしたもんか…。」

「この人が副船長ですって!?私より年下に見えますけど…」

「あのなぁ、あんたよりは上だと思うぜ。
船長、俺の部屋の前にある倉庫を片付けてそこに乗ってもらおう。
そこなら安全だろ。」

—レヴィン副船長の計らいにより、
空賊船Sky Prisonの倉庫の中に居候させてもらえることとなったアン。

倉庫の目の前にはレヴィンの部屋があり、
彼がアンの監視役、兼護衛を務めることになった。

聞けばラカム船長は無闇に略奪を行わない義賊で、
生活の苦しさなどからやむを得ず罪を犯した囚人たちを各地から救い出し、この船で更生の場を与えて日々鍛えているそう。

船長は元空軍の将校であったため人望も厚く、
この船での行いは軍からも黙認されているようだ。
次第に囚人のイメージが独り歩きし、
最恐の空賊船と恐れられるようになったらしい。

どこで降りるか決まっていない。各地で母を探したい。家には絶対に帰りたくない—
そういった話を、*伝声管越しにアンはレヴィンに伝えたのだった。

—続く—


*伝声管・・・
旧式の船などについている、細い管を通じて声を伝える装置。この船では各部屋に張り巡らされており、内線通話のような役割を果たしています。

第一章解説

早速ではありますがなぜThe Sky Prison(空の牢獄)なのか?ということについて描いています。

冒頭で空賊たちが街を襲撃するように見えてアンをスルーしたのは、
最初から「この街の刑務所にいる誰々を助けて仲間にしちゃおうぜ」
とターゲットを絞っているからです。

簡単なお仕事なので手下に任せて、船長であるラカムは電子タバコならぬ電子パイプを波止場でプカプカやっています。
レヴィン副船長は船長の護衛役でもあるので常に近くをうろちょろしています。

この世界の刑務所生活は、人として扱われないくらい酷いものであると思われますが、船長はそこから救い出した囚人に人間らしく生きる場所をこの船で与えています。

ですが船長は元軍人なので、
船員たちに課せている日ごろの訓練はヘヴィなものと思われます(笑)

第2章をお楽しみに~

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