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【RPG旅】黄色いかぼちゃが流されている間 初めて会った島のおじさんちで缶ビールを飲んでいた【直島編】

なぜだか旅先で、様々な事件が起こる。見知らぬゲストが現れ、予期せぬ展開に飲み込まれていく。それはさながら、RPGで街や村を歩いている時のようだ。年々増えていく冒険の書の中から、特に思い出深いシナリオの旅をnoteに綴ろうと思う。

冒険の書 #002

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瀬戸内の離島の魅力に取り憑かれてから早5年。瀬戸内国際芸術祭の有無に関わらず、年3ペースで遊びに来ていた。

片道6時間かけ、船に揺られてたどり着く先には、美しい海と島々の景色に加え、豊島美術館、地中美術館などの世界に誇れる美術館があり、そして、温かでチャーミングな島民のおじいちゃんおばあちゃんたちが待っている。狭い家でコンクリートに囲まれて暮らす東京在住の自分にとって、必要なものが全て詰まっているこの瀬戸内の島のエッセンスを、たまに摂取しないと生命のバランスが崩れてしまう。

とはいえ、世の中がこんなことになり、病院の無い島へ行くのは憚れるので暫く自粛していたけれど、島で繋がりのできた農園のオーナーと早々に仕事の打ち合わせが必要になり、えいやと島へ行くことを決めた。

照りつける日差し

直島行きのフェリーの甲板に立つと、驚くほど暑い日差しが痛い。天気予報は雨マークと晴れマークをコロコロと変え、先が読めないままの島入りとなった。台風が近づいてるらしいが、晴れ渡る空からはとても想像ができない。

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仕事の旅とはいえせっかくの機会なのでと、直島フリークの友人たちを誘ってみた。行きたいと願う気持ちとは裏腹に、急な仕事やワクチンによる発熱で、残念ながら次々と脱落。前日になってふと思い出し、誘った友人がまさかの二つ返事でジョイン。思いがけないメンバーでの旅になった。

今回の宿は、新しくできたホテルを見つけて予約をしていた。エリアも宮浦港にほど近く、インテリアがシンプルで素敵だったのが決め手だった。初めてのBooking.com、ホテル側と直接メッセージ連絡できるの凄く便利。

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迎えてくれた女性オーナーは、東京在住、直島との二拠点生活。IT業界に勤務しつつ、趣味の範囲にも関わらず東京で3軒の家をリノベし、不動産屋の無い直島の土地を自ら登記簿を探り、交渉し、ホテルを建て、岡山から2トントラックを運転してバスタブまで運んでくるというバイブスがハンパない。

大きなTVにAmazon prime見放題、ナンバーロックで出入り自由な玄関に、モバイルバッテリーやルンバ、電動のスクリーンシェード、IHコンロ、非常食まで備えられた高機能な部屋を見ると、さすが、抜かりない設備投資。電動自転車まで無料で貸し出してくれた。

人柄も気さくで、しかもパワフル。島民との人脈の作り方も、物事を成し遂げる為の努力の惜しまなさも凄い。こんなのんびりとした島に遊びに来たのに、自分の至らなさを痛感する。イタタタ。仕事頑張ろうと心に誓う。

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青い空 入道雲

早速自転車を走らせ、目当てのランチへ急ぐ。日差しが強く、風がほどよく出てきたので、気持ちよくてついスピードを上げてしまう。

本村にある「mai mai」は、ハマチを使用したフィッシュバーガーで有名なお店。「直島バーガー」と名のついたそのバーガーおいしさたるや、昨今話題のグルメバーガー店にも真っ向から戦えるレベルのクオリティ。

ふわふわのバンズに、カリカリに揚がった新鮮なハマチにタルタルソースがよく絡んでとてもおいしい。付け合わせがフライドポテトじゃなく、ハッシュポテトなのがまた好み。キンキンに冷えたレモネード「瀬戸キュン!」が、暑さで死にかけの身体に染み渡る。

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フラフラと近くを散策していると、友人が、貝殻が埋め込まれた門構えの家を見つけ、「いいな〜この家かわいい〜住みたい〜」とひとしきり眺めていた。

島には、個性があって素敵な家がたくさんある。東京を離れ、島暮らしも良いなと、先程のホテルオーナーのおねえさんを思い出しながら心が揺れていた。

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遠くの雷

食事を終え、本村港へ向かう。桟橋で釣り竿を垂らし、ぼんやりと海を眺める。友人は、古民家をアートに改装した「家プロジェクト」のチケットを持って、自転車で走って行った。暑いけれど良い天気。

釣果もなく、暑さに疲れた頃、ほどなくして遠くで雷が鳴り、黒い雲が近づいてきた。ポツポツから、ボツボツと雨粒が大きくなってきて、慌てて片付けて自転車に飛び乗る。風が強くなり、雨も強くなり、それなりに濡れてホテルへ戻った。

涼しい雨上がり

夕方過ぎると雨も止み、風は強いもののなんとかなるだろうと、再び自転車を走らせる。雨のおかげで暑さが和らぎ、風も気持ちよくていい感じ。

予約している夕食の時間まで時間があるので、移設された杉本博司氏の「硝子の茶室」を見に、ベネッセハウスへ向かう。

すっかり陽が落ちて、遠巻きに見る茶室は暗闇の中に透明でぼんやりとしか見えず。仕方がないので、黄色いかぼちゃを見に行くことにした。

波の音を聞きながら、かぼちゃをバックに貸切で記念撮影。茶室はまた明日昼間に見に行こうと、本村へまた自転車を走らせた。

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怪しい雲行き

仲良くして貰っている食事処「ゑびすかも」で、地ビールや地魚をいただく。

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久しぶりの旅、久しぶりの島でテンション上がり過ぎたのか、普段はそんなことない友人が、珍しく飲み潰れてしまった 。「こんな飲み潰れる飲み方する人直島で初めて見ました 笑」と笑われるくらい、それなりに食べてそれなりに飲んだらしい。介抱しているうちに、外は暴風雨で大荒れ。いろんな意味で雲行きが怪しくなってきた。

見かねた店長が車で宿まで送ってくれることになった。恐ろしいくらい風が強くて、車のドアを開けるのも儘ならないほど。自転車で帰ってたら死んでたなと思うと、店長の思いやりに感謝しかない。

新築のはずのホテルの窓も、ガタガタと音を立てて揺れていた。

暴風雨

翌日の朝。部屋から見える自転車置き場の屋根が、グラグラ揺れて吹き飛ばされそう。20㎏を超える電動自転車もなぎ倒され、崖下に落ちるのではと心配になる。雨も風も強くなっていて、ビュービュー音がする。外に出る気がしない。

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関東育ちのせいか、ここまでの威力に出会ったことがなく、建物が揺れるほどの風に少々ビビっていた。

とはいえ、幸いにも無料の飲み物やインスタント食品が常備されているホテルだったこともあり、暫くアマプラでも観てやり過ごすかとドラマを観ながらのんびりすることにした。

すると、

パチン!

部屋の電気が消えた。停電のようだ。

雨で気温が下がっていたので部屋の温度はなんとか快適なまま。はて、どうしようと思っているとほどなくして電気が復活。

たいしたことなかったなと、安心してドラマの続きを観ていたところに再びの停電。しかも今回はなかなか復旧しない。

クーラー、ポット、テレビ、IHコンロ、ボタン押して流すトイレ、湯沸かし器。ああそうか、どれも電気だよね。ピッピと打ち込むキーロックは電池式なのかな?そうじゃないと部屋さえ出られないよね?なんて思いながら、シャワーも浴びれず、ご飯も食べられず、このまま部屋で寝てるしかないのかな…と諦めかけた頃、やっとこ電気が戻ってきた。

よし!今のうちに、食べ物チンして、お湯を沸かして、トイレに行って、シャワーも浴びておこう!と思った矢先、友人からのお誘いが。

「島のおじさんが、車で迎えにきてくれるみたいだから、一緒にうどんを食べに行かない?」と。

そもそもこの暴風雨に、うどん屋やってるの? ?それに、迎えにきてくれるおじさんて誰??

黄色いおじさん

30分後に約束し、急いで支度をする。約束の時間になると、ホテル前に車が到着。風が強すぎてドアが開かず、反対側のドアから乗り込む。

黄色い車の運転席には、黄色い帽子をぶら下げた、黄色いシャツのおじさんがいた。隣には当たり前のように友人が座っている。

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こんな雨の中にありがたいと思いながらも、この謎な状況が面白過ぎて、吹き荒れる雨の中をスイスイ走る車の中で、笑いを隠しきれなかった。

迎えにきてくれたおじさんは、直島生まれ直島育ち。友人が10年以上前に無計画で島を訪れた際に、お盆で宿も取れず困り果ててたところ、港で酒盛りしてたおじさんたちを見つけて話しかけ、お風呂を貸して貰った時からの仲らしい。その時交換したLINEのおかげで、こうして助けて貰っている。エピソード自体もそうだけど、出会いのご縁って面白い。

到着したうどん屋は、外れたガラス窓を風でガタガタ言わせながら、おばあちゃんたちがのんびりと営業していた。黄色いおじさんは、食べ終わったらまた迎えに来るから連絡しな〜と、家に帰って行った。外にはカッパを着た外国人が、傘も持たず(正しくはさせず)無理やりアート巡りをしている。

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食べ終わって連絡すると、おじさんは「会長の家に遊びに来い」と言う。会長って誰なん??と思いながらも、他に行くところも無いので、お言葉に甘えて、その会長さんとやらのお宅へお邪魔することになった。

直島の住人全員セレブ説

ネットで調べて初めて作ったという茄子とピーマンの揚げ浸しと缶ビールをご馳走になりながら、「会長」はいろんな話を聞かせてくれた。驚くほど大きなテレビとオットマン付きの本革の肉厚な一人掛けソファ。間取りはざっと、庭付き車庫付き6LDKくらいだろうか。とても綺麗に整理されている。

おつまみで出された炭酸煎餅をパクパクと食べていると、もうこれ全部食え!と、嬉しそうに煎餅を山積みにされた。

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「会長」は、大きな鉄工所の会長さんで、御年75歳。お招き頂いた、この大きな家は別荘で、普段は高松で暮らしているらしい。ヨットとクルーザーを持っているので、天候が怪しい日は、島に滞在してケアをするそうだ。

「彼女とよく東京に遊びに行くんだ」「久兵衛ってなんであんなに高いのかな」「金なら持ってる」「安くするからヨット買いなよ」と、想像していた島ののんびり暮らしとは真逆の、ワイルドな暮らしぶりに衝撃。

黄色いおじさんは会長の仲良しで、会長のクルーザーを代わりに操縦しては、高松まで送迎しているそう。黄色い車は株で儲けたお金で買ったらしい。

もしや直島の住人はみんなセレブなのか…。

想像外の事柄が多すぎて混乱していると、事件は起こった。

波にさらわれるかぼちゃ

「かぼちゃ流されてるらしいんだけど!?」ネットニュースに気付き、大騒ぎ。動画では、昨晩見たあのかぼちゃが海に揺蕩っている…。

そんなら今すぐ観に行こう!と会長宅を後にし、黄色い車を走らせた。

ベネッセハウス前の海岸に着くと、すでに海にはかぼちゃの姿は無く、かぼちゃがあるはずの突堤に波が打ち付けているだけだった。ざぶんざぶんと波音が悲しい。既に回収された後だったのかもしれない。こんなタイミングで直島にいることないから、貴重などんぶらこをこの目で見たかったのだけれど…。

ちなみに。かぼちゃは以前にも何度か流されていて、台風直撃の日には事前に避難させている。ベネッセ関係者が運ぶもんだと思ってたけど、黄色いおじさんは、かぼちゃ運搬を手伝ったことがあるらしい。島のおじさんたちが駆り出されているのを考えると、あれはベネッセだけのものでは無く、島民の皆さんで守っていってるんだなと思うとなんかグッとくる。

そんなかぼちゃが、今回はパックリ割れてしまった。あの壊れ方を見ると、なかなかにつらい…。修復にもかなりの時間がかかるそうだ…。

貝殻の家

雨風も強く車から出るのもつらいので、かぼちゃ探しを諦めて、早々に海岸を後にする。

黄色いおじさんが家に寄ってけと言うので、今度は黄色いおじさんの家にお邪魔することになった。

再び車を走らせていると、ほどなくして、昨日見かけた貝殻が埋め込まれた門の家の前に来た。あれ?この家昨日見たところじゃん?と思っていると、貝殻の家の駐車場に車を停めた。なんと、貝殻の家は黄色いおじさんの家だったのだ。

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昨日この家住みたいって話してたんですよ!と言うと、おじさんは嬉しそうに笑っていた。

庭先には年代物のバイク、流木のオブジェ。玄関には釣竿。部屋には猫の形を切り抜いた手作りのウォールアートが飾ってあって、多彩で趣味に溢れた楽しいお家だった。部屋に入ると先程と同じ流れで缶ビールが配られ、愛する文鳥を手に乗せては、楽しそうにいろんな話を聞かせてくれた。

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天気が落ち着いて来たので、浜へ向かう。薄曇りの空には、足元の海水が少し冷たい。昨日だったら凄く気持ちよかったのになぁと、ひたひたと足を浸しては、暫く海を眺めていた。

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黄色いおじさんとLINEを交換する。船でお迎え来てくれるし、網漁で魚も取ってきてくれるらしい。どんな待遇なんだそれは。

今度は来る前に連絡して来いよ〜と、港まで送ってもらい、友人は先に東京へ帰って行った。

わたしは、昨晩から置いてきぼりになっていた自転車を回収しに戻り、再びホテルへ戻った。外でご飯を食べようかとも思ったけれど、悪天候で開けている店も少なく、想定外の出来事が多すぎて思いの外疲れていたようで、島唯一のコンビニで食料を買って、部屋にこもって直島最後の夜を終えた。

吹っ飛んだ窓

翌日。豊島行きの高速船に乗る。昨日までの出来事がなんだったんだと思うほど、普通の暑い夏の天気。赤い方のかぼちゃは無事だった。

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クライアントが午後からしか時間が取れないとのことで、豊島美術館に立ち寄る。私にとって、この場所は、この世の天国のような、巡礼に来るような、そんな不思議で大切な場所。暑い夏の日は特に、床の冷たさが本当に気持ち良い。ゴロンと寝っ転がりながら、目を閉じて、風の音や鳥の鳴き声を聴いていると、知らず知らずに溜まっていた「澱んだ何か」が浄化していく気がするのだ。

一度でも豊島美術館に訪れた人には、ですよね〜と共感してもらえるはずだけど、知らない人にしたら、なんのこっちゃ?だと思うので、騙されたと思って訪れてみてほしい。絵画が飾られていることもなく、コンクリートでできた大きな空間に、ただ水が流れているだけの美術館がなぜ世界の注目を集めているのか。説明すると余計にわからなくなっちゃうんだけど…。

美術館を観た後、いつものように別棟のカフェに立ち寄ってみると、なんだかいつもと景色が違う。あるはずの窓がビニールで覆われ、風に煽られバサバサと音を立てていた。カフェスペースの立ち入りも禁止され、イートインが出来なくなっていた。スタッフの話によると、どうも昨日の暴風でアクリルの天窓が吹っ飛んだらしい。

撮影禁止の美術館だからこそ、映えたい女子たちはこのカフェでこぞって写真を撮るのだが、願い叶わず。暴風雨凄いわ、黄色いかぼちゃは無いわ、カフェの窓吹っ飛んで撮影禁止だわで、インスタグラマーにはつらい旅になってしまってかもしれない。

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打ち合わせを終え、帰路に向かう頃、黄色いおじさんから届いた、初めてのLINEを思い出していた。

どんぶらこ画像と共に送られてきたメッセージ。

「カボチャも暑い♨️💨から、たまにはカボチャも自由に😄」

冷たい海に冒険に出て、束の間の自由を手に入れたかぼちゃの、一日も早い回復を心よりお祈り申し上げます。

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↑ 黄色いおじさんから送られて来た画像。テレビの写真かな? なんだかアーティスティック。

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浅葉 未渚
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