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高校生向け短期集中日本文学史#4 (昭和時代初期~戦前の文学) 全5回

文学史は地味ながら意外と定期テストで出題されて特典源になることも多いです。そのような文学史について素早く勉強をする全5回のシリーズ記事です。


文学史#4(昭和時代初期~戦前の文学)
次の文を読み、空欄Ⅰ~Ⅷに当てはまる作家や作品を語群を参考に答えなさい。
 昭和期の文学は、戦前期と前後期の二つの時期に大別することができる。戦前期では昭和初期に台頭した二つの文学勢力の影響が大きい。一つはイタリアやロシアで見られた未来派の考えがロシアを経由して日本に流入して形成されたプロレタリア文学である。もう一つはヨーロッパのダダイスムや未来派や表現主義の影響を受けて形成された新感覚派である。両者とも西洋の影響を受けているが、前者は、芸術は社会や思想に影響を与えるものとして文学を捉えているのに対し、後者は、芸術は芸術として独立して存在し社会や思想に影響に与えることを目的とするものではないと考えている。
プロレタリア文学は雑誌『種蒔く人』の創刊に始まるが、弾圧により廃刊し、新たに『文芸戦線』という雑誌を創刊し活動を継続する。プロレタリア文学運動は思想や思考の違いにより分裂や合同を繰り返していき、最終的に社会民主主義系の『文芸戦線』と共産主義系の『戦旗』の二つに大別されるようになる。初期のプロレタリア文学において活躍した葉山嘉樹は『セメント樽の中の手紙』や『海に生くる人々』などで情念を重視した作品を執筆した。そのような情動的な作品とは異なり、理論重視・行動重視を掲げていた小林多喜二はプロレタリア文学の代表的な作品である( Ⅰ )を執筆し、プロレタリア文学運動を牽引した。一方で、同じ雑誌『戦旗』で活躍した徳永直は( Ⅱ )で知られているが、多喜二に比べて穏健的な態度であり、行動派の多喜二らから批判の的となっていた。そのような激しい行動派の活動が活発化する中、満州事変以降思想統制が進められ、昭和初期の文壇の一大勢力だったプロレタリア文学の作家たちは次々に転向を余儀なくされ、プロレタリア文学運動は崩壊した。
 それに対し、雑誌『文芸時代』を母体として、感覚的表現を重視した新感覚派も昭和初期に台頭する。代表的な作家には『蠅』や『日輪』で知られる( Ⅲ )や、日本初のノーベル賞の受賞者であり、『伊豆の踊子』や『雪国』で知られる( Ⅳ )がいる。その画期的な表現は後世への影響は大きく、新興芸術派や新心理主義が生まれた。新興芸術派は頽廃的享楽的な作風を好んだが、注目されたのはそれらの作風に該当しない井伏鱒二や梶井基次郎であった。井伏鱒二は( Ⅴ )で知られ、梶井基次郎は( Ⅵ )で知られている。新心理主義は人物の深層心理を芸術的に描こうとする立場であり、( Ⅶ )で知られる堀辰雄や『曠野』で知られる伊藤整などがいる。
 そのような二つの流れがあったものの、思想統制により昭和十年以降は転向文学と文芸復興という二つの現象が見られた。両者ともプロレタリア文学の衰退によって台頭したものであり、前者では中野重治『村の家』が知られている。後者では永井荷風や谷崎潤一郎や島崎藤村や志賀直哉など既成作家の活動再開によって生じたものである。また、『山月記』や『李陵』で知られる( Ⅷ )らの新人の登場も見られ文学の新しい動きが期待されたが、一層強まる思想統制によって文学は戦争文学へと終結され、戦争の道具として利用されてしまう。
 
語群
作家
井上靖/室生犀星/川端康成/大江健三郎/横光利一/中島敦
作品
『蟹工船』/『風立ちぬ』/『太陽のない街』/『白い巨塔』/『山椒魚』/『檸檬』


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解答・解説
Ⅰ『蟹工船』 Ⅱ『太陽のない街』 Ⅲ横光利一 Ⅳ川端康成 Ⅴ『山椒魚』 Ⅵ『檸檬』 Ⅶ『風立ちぬ』 Ⅷ中島敦

Ⅰ、Ⅱはプロレタリア文学といえばの定番作品なので作品と作家はセットで押さえておきたいところ。
Ⅲ、Ⅳは新感覚派の代表作家なので名前は押さえたいところ。川端康成はノーベル文学賞の受賞者なのでその点も忘れずに。とはいえ、当時のプロレタリア文学の影響力の大きさのせいで地味な活躍という印象が強いです。
Ⅴ、Ⅵは新感覚派の影響を受けた作家といえばの二人で、梶井基次郎は『檸檬』が群を抜いて有名であるのに対し、井伏鱒二は新興芸術派らしい作品ではない、戦争をテーマとした『黒い雨』も有名なので、『山椒魚』とともにセットで押さえたいです。
Ⅶは、ジブリ映画になるまでは蚊帳の外に置かれていた印象の堀辰雄の『風立ちぬ』です。記念の年や映画化といった形で、世間の話題にあがると入試問題に取り上げられるという現象はよく起きるので、常識として知っておきたい作品です。
Ⅷは、芥川龍之介と同様に日本に留まらない古典の知識を利用した知的作風で知られています。若くして亡くなってしまったため、『李陵』と『山月記』のみが有名作品として取り上げられるため漢籍に詳しいという点ばかりが強調されます。しかし『山月記』はそもそも『古譚』という4作品(『狐憑』、『木乃伊』、『山月記』、『文字禍』)で構成されるシリーズものの1作品ですが、『狐憑』や『木乃伊』はヘロドトス『歴史』を元ネタとしているので、漢籍に留まらない教養が中島敦の特徴と言えます。

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