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日本語教育の経験は会社員になっても役に立つのか?

今日はちょっといつもと違った角度から。私は社会に出てから日本語教師一筋だったのですが、今はIT企業の正社員として会社勤めをしています。今、仕事でその経験が役立っているのか?どんなふうに役立っているのか?書いてみたいと思います。

なぜIT企業に入ることになったのか

そもそも、日本語教育しかやってこなかった私がなぜIT企業で働くことになったのか。プログラミングスクールに通ったことがきっかけでした。大学で働いていた最後の方の期間、週末はスクールに通い、平日夜はオンライン教材で学習する、そんな生活をしていました。元々プログラミングには興味があって、ノウハウが身に付いたら何か日本語教育に役立つものも作り出せるかも、くらいの興味本位で始めたのです。(最終的には日本語教材を作るために使えるアプリを自作し、コンテストに出場して、賞をいただきました。わお!)話がそれましたが、通っていたスクールでは、時々スクール生向けに就職説明会が開かれていて、エンジニアを採用したい会社の方が来ていました。そこで話を聞いた会社が現在の働いている会社で、エンジニアではないものの、研修などを行うポストも募集していたということで、受けてみたら受かった、という経緯です。部署としては人事です。人生何があるかわかりませんね。

研修づくりのプロセス

私の仕事の大きな一部分である「研修づくり」には大いに役に立っています。内製化して社員研修を行うことも多いのですが、ニーズを聞いて、内容を考えて、資料を作成して、講師も自分でします。例えば、「リーダー陣が下にちゃんと情報を降ろしていない、伝えていないっていうことが役員会で問題に上がってるから、ちゃんと情報共有しないと大変なことになるよ、ってことをわからせたい」みたいなオーダーがきて、研修づくりを始めます。ゴールとしては「情報共有しないとこんなリスクがある、こんな最悪な事態になる、逆に適切に行えば働きやすくもなるということを理解してもらう」こと。そのために必要な材料を集めて組み立てていきます。事態を理解してもらうには具体的な事例がいるよな、実際会社で起きたこととか、部下の声とかもあると現実味あるよな、自分自身の振る舞いを「はっ!」と振り返れるための気づきがいるよな、…とゴールに到達するために要るものを洗い出して、内容を詰めていきます。
このプロセスは日本語教える時でも一緒なので、本当に役に立っています。私の中にすでにある、学習してもらうために(あちらにアクティブラーニングしてもらえるように)大事なポイントを抑えて、ゴールを明確にしてそこに到達する方法を考える、日本語教育でも大好きな作業ですが、社内研修でも同じく大好きなプロセスです。ものすごく役に立っています。

研修などで話すこと

先程のように作った研修は、自分で講師になって行うことが多いです。もちろん、教師の時もそうですが、緊張はします。でも一旦始まってしまえばこっちのペースに持ち込む、ということには慣れているので、これまでの場数や経験がものすごく生かされているんだなと感じます。会社には「講師はやりたくない」「人前で話すのは苦手」という人も割といるんですよね。

無駄を省き、聴きやすさに配慮して話せること

話し方についても訓練されたからなぁと感じることが多くあります。まず一番役立っていることは、無駄を省いて、必要なことを簡単な表現で伝えること、です。学習者に文法を導入するとき、指示を出すとき、ノイズを挟まずに最もシンプルで理解可能な表現を使いますよね。例えば、初級前半の学習者に宿題提出の手順の指示を出す場合、教師が伝える場合、教師ではない人が伝える場合、比べてみるとこんなイメージでしょうか?

教師:これは宿題です。みなさんは今晩、家で宿題をします。明日、クラスに来ます。先生にください。
教師じゃない人:これは宿題です。うちで今晩宿題をやって、明日提出してください。明日出してください。明日持ってきてくださいね。あ、私にお願いします。

イメージ、伝わりますか?どこまでのことを学習者が理解できるのかがわからないこともあって、自分の発話が理解されているのか心配になって、同じ意味のことを言い方を変えて何度も言ったり、親切心から何度も言ったりしがちになります。その結果、文が後付けみたいに伸びていって、繰り返しが多くなって、結局メインメッセージがわからなくなる、と。そんなこと、会社でもよくありませんか?(私の上司の話し方はこのタイプなので、日本人同士でもまどろっこしく感じます…でもうまく指摘できないでいます…辛)
それから、「聴きやすさ」の部分も経験に助けられるところは大きいと感じます。例えば、話す速度、間、文の長さ、文末…など、「理解できるように伝えるために工夫すべきこと」を、ちょっと意識するだけでできます。ティーチャートークなんて言われたりもしますが、会社でも誰にとってもわかりやすく話すことは大事ですから。私は研修講師もそうですが、研修の一つのコンテンツで、社員向けに自分でスライドを作って、それを説明する動画を作っています。スライドとの連動、理解できるスピード、文と分の間や内容と内容の間(ま)、一文を長くしすぎずできるだけワンメッセージ、文末をはっきりさせる、などを気をつけて練習をしてから、収録していました。自分で今見返してもわかりやすいと思えます。何よりなぜそう話さないといけないのかと、そのノウハウが身に付いていることが本当に役立っています。ただ、意識していない時は普通の人と一緒になりますけどね。(「え〜、これは○○というもので、これは、〜みたいなものなんですけど、あ、いや、つまり〜的な位置付けなんですかね?はい、それで、すごく重要なんですけど…どうして重要かというと、あの〜、〜なんです。例えば、〜〜〜で、はい、それで、○○はすごく重要なので、はい。」みたいな、無駄なものがいっぱい入って、文末が意味なく繋がってる話しかた、多いですよね。練習してこいよ〜、って思っちゃいます。)

日本語的な部分(敬語とか文のねじれとか)

日本語の文章の正しさ的な部分の知識も役立っています。気になってしまって、直したり指摘したりしていたら、文章のチェックを依頼されることが多くなって、始めから私に書いて欲しいという依頼も来ます。会社ではslackを使っているのですが、敬語の間違いはわりとたくさんあります。(私も焦っていると時々間違えますが)その多くが尊敬と謙譲のごちゃ混ぜですね。他チームの方宛のメッセージで丁寧に言いたいんだろうな〜という場合によく見ます。

例:
他チームの社員に
「〜さんは本日出社されておりますでしょうか?」
「〜さんが参りましたら、お知らせいただけますでしょうか?」
「(自チームの)メンバーに伺ったところ、〜ということのようでした。」

確かに、ウチソトの敬語は難しいですが、どれがどっちかを理解しておくこと、その時の登場人物間の関係で適切に使い分けることは、社会人としてできた方がいいことかなぁと思います。学習者むけのテストとか活用できるかもしれないですね。

ということで、日本語教育の経験は企業でもそれなりに役に立つ!という話でした。

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