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『✕○!i』第20話「普通じゃない」

 今日もあたしはお父さんにせっつく。

お母さんのイラつき止まりの敵意を感じながら。

「お父さんご本……、新作はまだでしょうか?」

お父さんはぴっかりこん☆

「捧華、ナイスタイミング。実は今捧華の通う学校探しでね? 面白いご返事が返ってきたから、これ読んでみてくれないかな? 捧華の反応次第で入学を検討してみるからさ」

と、

お父さんはあたしに冊子を差し出します。

すぐに目に留まる文字。

【私立普通学園~入学にあたってのしおり~】

「……お、お父さんお母さん。あたしの為に……有り難う」

お母さんの敵意は萎えて、

お父さんも話しやすくなった様に感じます。

「うん。こちらこそ有難う。やりがいのある仕事をくれて。ページは少ないから、できたらここで読んでみてくれないかな? 読み終われば、なんでかはわかるはずだからさ」

お父さんの言葉を受けてわくわく感♪

「うん♪」

………………
…………
……

頁を、

なるだけ丁寧に、

さら

………………
…………
……

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【絵本「普通の人と天馬と星」】

 昔でも未来でもどっちでもいい現代。

三角形の惑星がありました。

 惑星には、

人々が勝手に偉大だと称える、

王様がいました。

いつしかの冠す名は「怪物王」。

彼の願いはただひとつ……、

幼き頃に命を救ってくれた。

とある医者への恩返し。

王が独りなら、奴隷は何人?

善い事も悪い事も、責任は王様。

………………
…………
……

 奴隷街に訪れる、

とあるお医者さん。

奴隷をひとり、救いました。

奴隷は尋ねます。

「お医者様、なんでですか? ぼくの命に価値などありません」

「君は、なぜそう思うんだい?」

「ぼくには名前もないんです」

「……それは?」

「首輪(それ)」に刻まれた数字は「14106」。

「これは囚人番号です。名前ではありません」

「そうかな……いい名前だと、……想うよ」

「?」

 命を救われた奴隷は、

お腹がペコペコで、

奴隷専用の、一品しかない。

カレーライスを食べました。

そして、気付くのです。

「お腹がペコペコなら、ご飯はとっても美味しいんだ」

ひとつでもすえひろがっても。

それを感じられなければ、

美味しくないんです。

 いつか……、

14106は、

「27」という囚人番号だと思っている奴隷に出逢い。

満天の星空の中、告げるのです。

「あのお星様に、君の名前を差し上げてもいいかな?」

「……お星様が……可哀想だよ」

「そうかなぁ……、それは……誰が一番可哀想なのかなぁ……」

14106は、泣いてしまいました。

………………
…………
……

困ったら、三角形を、くるくる回してごらん?

いつか気付く事がやってくるかもしれません。

△もなく×もない、

みぃんなまんまるの満天なんだって。

怪物王と天を翔る馬は、今日も呟きます。

「命を救って下さった。貴方の為に」

「僕を、本当の医者にしてくれた。君の為に」

ふたりは出逢えて、

倖せだったに違いありません。

皆様? 普通ってなんでしょう?

弱さは弱さでしかないのでしょうか?

本当の強さとはなんでしょうか?

普通は本当に普通でしょうか?

ぼくは想います。

本当に普通の人こそ、

本当に、優しい人なのだと。



もじ こひなた いらすと じょにー

げんさく みんな


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………………
…………
……

 あたしは読み終えて……畳みます。

そして、あたしは決して告げました。

「お父さんお母さん。あたしこの学園に行く。絶対……行くから」

 お母さんは、

凛とあたしに訊ねてきます。

「……そう、行けば? でもね捧華? 何故?」

ひとつ。

「あたしの大好きなお父さんの仕事を、認めて下さった学園だから」

ふたつ。

「読んでて、とってもわくわくした」

だから……、

みっつ。

「あたしの魂が呼ばれてる」

 うん……、

言い終えて、

お母さんから視線を外し、

お父さんを見ると、

何処か……、

お父さんは複雑な面持ちをしてます。

それでも、あたしへ繊細に、

「有難う捧華。それなら、行きなさい」

そう言ってくれました。

落ち込む部分はあっても、あたしは退きません。

「うん絶対行く。絶対だよ? お父さん。うちお金ないよね? ……ごめんね」

お父さんとお母さんは、

「任せなさい」と笑う。

「捧華? お金の事は心配するな。僕は永遠払いでお仕事を引き受けてる。だから、私立普通学園も永遠払いでいいってさ」

あたし……、

また悲喜交々が顔にでちゃうわ。

ポーカーフェイスを覚えたい……です。

永遠払いについての疑問が浮かびますが、

あたしの発声する兆しを、

お母さんが摘み取ります。

「ふたりとも? もうご飯にしよう?」

………………
…………
……

 永遠払いの謎は、

どうやらあたしへの、

宿題の様で御座居ました。



 ふつうじゃない!
ふつうじゃない?
ふつうじゃない。

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