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『OD!i』第61話「汝の敵を知れ②」

 杏莉子の提案も無事に終了し、

解散の雰囲気流れる矢先、

雁野先生がいつの間にかいらっしゃいました。

 あたしは内心驚きはするものの、

もう一同で、

明らに動揺をしている人は居ません。


「大分よさそーだな。おまえら全体の事を言ってんだぜ? 特に早水は運にも恵まれているよーだな? おまえらの為に、精魂込めた歌坂からのトレーニング表ももらってオイラちゃん満足だ。皇? 開いてくれてサンキュ」

「いえ、こちらこそです雁野先生。恵喜烏帽子さんや神守森さんの提案が、小生を開いてくれました。門に選ばれてからは、初めて家の中以外を、楽しい場所に思える様にさえ、なってきましたよ」


いつもよりほんの幾分感情に起伏を感じられる皇氏。


「おまえがそー言ってくれんなら教師冥利に尽きるぜ」


 そこから鮮明に空気は重く変わり、

雁野先生の声音も低くなる。


「おまえらは順調だ。おそらくeもEも、門……【虚鏡門(こきょうもん)】の在り処を教え、合同で夢降る森へ入るのは、4月の下旬頃になると推定されている」

…………、虚鏡門、

いえ! でも今は絶対に聴いておかなければならない事がある!

「雁野先生? うちの両親が、近い内に夢降る森にお伺いする事になってて、あたし……どんな事でもいいですから、森の情報がひとつだけでも多く知っておきたいんです!」


まー落ち着け、

そう平板に先生は、

あたしを冷やします。


「その事はオイラも知ってるし、オイラも川瀬先生も付き添い人になる。だから心配するな」


 それにな、


とさらに、



「早水の親父さんはオイラと同じ0Liner(ラヴライナー)だし、母上との久遠之焔(くおんのほむら)もある。単純に肉体や精神が強い弱いではなく、おまえら全員と森に入る時よりは、比べられないほど楽な道程さ」

 雁野先生も0Liner?

お父さんも雁野先生ぐらいに強いって事?

それはどう考えてもそうは思えないから、

あたしはさらに尋ねてしまう。


「雁野先生? 0Linerとは、どういう人の事を指すのでしょうか?」


雁野先生にしては珍しく言葉に詰まった感じで、

悩んでいらっしゃる……。

「……まぁ、中二病みたいなもんだが……と一言で表したいが、そうだな特徴をひとつだけ教えておいてやるとだな?」

「はいっ」

「0Linerは死なねー、死ねねーのさ」

 これ以上は他の生徒にも迷惑が掛かると、

厳然と突き放され、

あたしも諦めましたし、

希望を得られる解答を少しでも得られたのだから、

良しとしなきゃ。

「じゃーオイラちゃんいくわ。最後にひとつだけ。本当に怖いのは、神でも仏でも悪魔でも妖怪でも自然でも科学でもねー。人間の最大の敵は、同じ人間だ。これは単純で難解だが、自分が何と戦っているか? 自分が何を敵とすべきか? そこに明確な答えが出るまでは、ただ戦うだけってのは苦しいぞ。よく考えといてくれ? 今日もお疲れ。明日ちゃんと学校来いよ?」

 そして、本日の計画Aは解散しました。

………………
…………
……

 同日午後九時半頃、早水 捧華自室にて。

……あたしが何と戦っているか、か……。

むしろ、

あたしは戦っているのでしょうか?

菜楽荘であたしがテレビというものに初めて触れた時に、

お父さんが教えてくれた事は、今でも覚えている。

……捧華……テレビというのは娯楽だけで済めば……

……楽しむだけでいいかもしれない……

……しかし……

……これは僕も倖子君も魂の双子達もみんなそうだが……

……人間は自分が優位に立つ為に……

……思想誘導というものを行う……

……テレビにしてもネットにしてもそう……

……全てが思想誘導なのだから仕方ないと言ってしまえば……

……それを言っちゃあおしまいよ、だけどね……

……僕は捧華に全てが思想誘導の中にあってさえ……

……なにひとつ後悔のない思想を抱いて生きていってほしいんだ……

……被害者になった時加害者になった時……

……その事をよくよく覚悟しておくんだ……

……全ては物事の見方で全ては捧華の味方さ……

……食物の連鎖の一部の覚悟を持てば……

……敵は自身の中にこそ在る……

……他者がどう言ったどうしたで動くのではなく……

……常に徹底的に自分で考えて処せるといいですね……

そこに至ると心は落ち着いていた。

 そうか……、

今の、今も、あたしの戦うべき敵は、

誰かに脅かされてきたものじゃない……。

あたし自身から生まれ出る死への恐怖。

あたしはあたしの敵のひとつを見つけた。


 ぼくのことをしんじるひつようはないよ。
あなたはあなたです。
たちむかうべきものはなんだろう。

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