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『開幕前夜』第14話「星に願いを」

 EYESYSTEMを、

怪物王が開発なされて、

27(ふたなな)は覚える世界が一変しました。

なにか……大切に想うものが遠くなり、

なにか……大切に思う仕事に親しくする。

怪物王は、それから27に名を下さった。

「YES(イエス)」。

 言葉の意味をお聞きしたら、

「常に服せ」ただ一言。

27……YESはここでも奴隷街と変わらないのだ……、

と。

 それでも怪物王は、

信じられないくらいひとつひとつの所作が美しくあらせられた。

お言葉は残酷だけれど、ちっとも心が痛くない。

お城は美しく。

粗野乱暴さは微塵のなさ。

居心地は悪くない……、

いえ、非常に良いのです。

怪物王とYESの結婚はこう呼ばれていました。

「Marriage of Glass」と。

 けれどそれもまたちっとも心が痛まない。

なぜなら、

このお方に釣り合うお方が思い浮かばないからです。

だから……、

大切、想い、よぎり。

怪物王の孤独に、

YESは泣いてしまいました。

いまかの結婚式は訪れず。

「時を待ち服せ」の常。

YESはここに居る意味がわかりません。

怪物王の意に背いてまで、

お尋ねしても、

「なに……鏡台は美しい方が良いだけだ」

 っ……?

深い……お方、

謎と呼ばれる暗い箱。

愛する事は知らずとも。

次第に慕う様に。

 そう、

もしもYESに、

兄弟がいたら……。

素敵で秘密な、

兄を慕う妹の様に。

………………
…………
……

 ある夜。

怪物王は、

月光を浴び、

白く映えています。

「なにを……」

ハッと下がるYES。

つい口が滑ってしまいました。

そんなYESにも、

怪物王はお言葉を下さいました。

「そうだよ。想っていた。星に願いを」

「……ど、どの様な願いでしょうか……?」

「天翔る馬とともに、命を等しく扱える世を、とね」

………………
…………
……

 YESは、

その日から鏡の身を誇りに思える様になりました。

しかし、

その誇りは、

いつかの不安。

いつかのご本。

生きる事を知らないお人形さんと、

お隣にも、なぜだか想えたのです。

14106、そうよYESは今、

何故だか無性に貴方に会いたい。



 ざんこくなこと、すくわれること。
ふくすいぼんにかえらず。
しかし、こぼれたみずはまたくめばいい。

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