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『✕○!i』第30話「世界の果てまで」

ご本を……、

読み……終えました。

 あたしはお父さんが大好きだから、

ひいきしちゃってるのかなぁ……?

 あたし、

お父さんのご本が大好きっ。

いつもいっつも、

そう想ってしまう。

お父さんは喫煙するからお口が煙草臭いとか。

お部屋ではなぜかトランクス一枚とか。

お出掛けの服装がひとり浮いてるとか。

どうでも良くなっちゃうくらい、

大好きになっちゃうんです。

 あたしは決意。

今日お父さんとお母さんが帰ってきたら、

お父さんに、どういう気持ちで物語を綴っているのか、

教えてもらおうっと。

 そう思った矢先に、

ピン♪ ポン♪ パン♪

いつもの合図。

ほくほくの笑顔でお出迎えするんだ。

いざ玄関へ、

ふたりの大好きな作家さんたちを。

………………
…………
……

 ただいまでたった今。

大好きな作家父は、

これまた大好きな作家母へ、

叱られてる。

 どうやら父は警察の方に、

職務質問というものを受けていたらしい。

原因の最もは、

お父さんの服装。

母はお洒落さんだけれど、

悪目立ちするなんておバカはしない。

今日はお父さんシャーマンドレスと呼ばれるものを、

羽織りたかった気分だったそうで……、

「全くっ! 私がいなかったらどうなってたか!」

そして、続いてお決まりの台詞。

「本当に心也君は私が居て上げないとダメなんだからっ!」

笑いがこみあげる。

 それにしても……、

あたし達のお役目って、陰陽師ですよね?

呪術者はいいのかな?

 あたしがそう尋ねると、

お父さんはさらりと事も無げに言う。

「僕は想うんだ捧華? 全ては連なりの鎖です。大切なのは……、白人、黒人、黄色人種……。そうじて人は人ですよね? 敬う気持ちを忘れてしまわなければ、陰陽師もシャーマンも、きっと何処かで繋がっていて、神仏は、でっかい御心で、愛してくれるはずです」

結局。

 早水家の夕げの時間まで、

母とあたしはお料理に取り掛かる。

あたし捧華はお母さんと仕合い、

いつか勝つ。

お父さんはもくもくとお部屋で執筆です。

 仕舞い時がやって来ても、

それは次の仕合いの始まりに過ぎない。

我が家のお夕飯の時刻になる。

「いただきます」

………………
…………
……

「ごちそうさまでした」

 しゃーわせ♪ おっと……、

幸せ。

ただいまあたしはご機嫌。

なぜなら、

今日はあたしの大好きな、

温野菜や生野菜をこれでもかと、

御馳走してもらえたから。

「お母さん有難う、あたしの好きなものばっかり♪ 今日なにかあたし、ご褒美もらえるような事したかな? すっごく美味しかった♡」

 すぐに食卓が、

ぴり

と来ます。

 あたしが怪訝に感じていると、

お父さんは神妙な声音で告げる。

「腹が減っては戦ができませんからね」

「戦……ですか? あたしが? 何と?」

「うん。捧華が学園に行く前に、どうしても覚えてもらいたい事があります。その為に捧華の命の糧として、精一杯倖子君が振舞ってくれたんです。たくさんの生命を」

「野暮」

すぐさまとぶお母さんの突っ込み。

そして両親はアイコンタクトを、

数瞬行いました。

「捧華? 以前、これからは捧華が座頭だと言ったけれど、今夜は僕に……それを委ねて欲しい」

「は……はい……それは大丈夫ですが、……これから、どこかへ行くのでしょうか?」

お父さんははっきりと頷いてから、

「うん。僕は頼りない父親だけれど、おまえはよく僕を許してくれてる。本当に、有難う。それでもこんなでも、おまえの父親、やらせてもらいたいんだ」

そう言い終えて、

お父さんは、

善き間で、

左腕を前に伸ばし、

左手をぴっと揃えて。

左側に払いました。

 すると……、

静寂が生み出されていました。

とつ

と、

お父さんは、

会話を終着させる一言を、

食卓へ落とす。

「じゃあ行こうか? せかいの果てまで」



 ぜんあくのひがん。
せかいのはてをしってるかい?
それはときをつかわずにとどくばしょにある。

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