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『✕○!i』第34話「世界が終わる夜に」

 必要なこととはいえ、自分語りが過ぎた。
閑話休題、再び捧華との一夜へ戻る。

 市営住宅の辺りは、

もう夜が降りている。

虫さんや様々な生き物さん達の、

オーケストラを聴きながら、

“壁”を巡らす為に思う。

“第四の壁”は、僕には恒常的なものです。

ですから、“壁”の向こう側を常に意識する。

こと創作に関しても、非常に便利な能力です。

3月ももう終わる。

4月には、

愛娘は社会の縮図に加わる。

捧華に覚えてもらいたい事、

それは、死です。

 先ずは一手。

「捧華? 早速だけれど、せかいの果てまでの質問をするよ。捧華は“全能の逆説”を知っているかい?」

 捧華の表情で発する言葉は予測できました。

「……、お父さん、知らないので教えて下さい……」

僕はより端的な説明の仕方に思惟する。

「……基本的な問題はこうです。『全能者は自ら全能であることを制限し、全能でない存在になることができるか』……捧華はどう思うかな?」

彼女は綺麗な即時の応答。

「できる。……捧華はそう思います」

僕は少し昂揚して尋ねる。

「どうしてそう思うんだい?」

真っ直ぐな瞳で彼女は僕を見る。

「だって全能とは、全てできるって意味だと理解していますから……」

 こわい言葉だね。

捧華の言葉の深さは、

僕ぐらいでは読み切れない。

 しかし、

「うん。お父さんもそう思っています」

ひとつ安心を得ました。

それでも油断は禁物。

 ……ですが、

思った以上に早く、

捧華に命綱を結ぶ事ができる。

なぁ……

なぁ…………

なぁ………………

捧華?

せかいとは捧華にとってなんだい?

「お父さん、捧華に伝えておきたい事がある。捧華? これから先、これより先、捧華が何処へ行く事になっても、僕は捧華を探して見つけてみせるよ。倖子君、そしてその結晶の双子に捧華を。僕にとっては、暗闇の中に唯一光る道標だ。お父さんは弱い。弱さを突き抜けて強さを得た。でもどうだろう。君達が居てくれるからこその強さだ。君達の輝石が唯一僕を照らすものだ。お父さんには親姉兄が居る。父は既に亡くなったが、思い出は消えない。母に背き姉兄に背き今が在る。ひとつの後悔が数多の後悔に繋がり、もう取り戻せず、感覚も麻痺してきた。それでも、とても大切な人達。こんなお父さんを、今でも愛してくれている、大切な家族です。僕の創るものは、倖子君ありきです。それだけが、みんなに有難うを伝えるただひとつです。これは今夜の捧華の為の命綱だよ。僕らはね? 捧華? わかりあえても、わかりあえなくても、絶対に絆いでいる。僕は今夜、捧華にそれを証明する。捧華が、大好きだと言ってくれるお父さんに、今夜はついてきてほしい。捧華を、今を精一杯謳う鳥にする為に」

 彼女はへんてこな顔ひとつして、

それからなんだか笑ってる。

「お父さん? なぜなにそんなに深刻なのですか!? 捧華今までもよくわかってるのですよ? お父さん達はみんな優しくて……」

と、

間入り捧華の声を摘み取りつつ、

「“瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ”」

僕は自然に歌えた。

「捧華、“一期一会”を、どうか覚えてください。そして、捧華? 生き残れ」

 互いの気が合い、

相殺された形になりました。

沈黙が僕らに寄り添います。

生き物のオーケストラは今は聴こえません。

外灯またたく町中に、

その身ふたつあるからです。

捧華と僕。

互いが沈黙で繋がり。

手と手も繋がっています。

そのまま十分ほどで、

目的地に着きました。

 僕は沈黙を、

と開き、

捧華に告げます。

捧華は眠っているんだろうか?

それとも起きてくれているんだろうか?

 さぁ……、捧華や?

「せかいの終りへ入ろう」



 あなたにとってせかいのおわりとはなんですか?
あなたはおきてる?
それともねむってる?




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