見出し画像

『✕〇!i』第4話「徒然曜日」

 コンちゃんとポップちゃんの誕生を知らせてから、現在、倖子君とは別居状態になってしまいました。

「少し、整理をする……時間が欲しい」とは君の言。

確かに僕が彼女の立場でも、それを要したと思います。

 僕は、具現で産み出した、胸の痛みがある。

いわゆる、産みの苦しみです。

肉体を持つ子供達を産み出す、

女性の出産と等価です。


――などと、


自惚れを持ちたくはありませんが、

コンちゃんとポップちゃんが、僕らの子ではない。

そんな想いもまた、抱きたくはないのです。

我が君は、田舎の実家へと帰省しています。

 ――ぅん?

 僕は、服の左袖に違和感を覚えたので、

視線をやると、コンちゃんが僕の服の袖を左手でつまんで居る。

古びたブリキの右手に、わずかにも揺らさず、

小さな鉢植えを持って。

全然気付けなかったし、突然過ぎて精神的に吃驚しました。

「ただいま♪ てへっ♪ お父さんに、この鉢植えをあげます♪」

僕は、声音を努めて柔らかくする。

「おかえり、コンちゃん。ポップちゃんはどこだい? かくれんぼしてるのかい?」

 言い終えて、僕は鉢植えに、

初めましてのお辞儀をひとつ。

「さすがお父さんご明察、ポップちゃんは、隠れるのがとっても上手なのです♪」

間に鉢植えの丁寧な受け渡しが行われます。

「ょ……と。こちらの鉢植えは、何のお花が咲くのかな?」

「それは咲いてのお楽しみ♪」

 コンちゃんの声音はいつも元気。

とても強い証拠だ。僕ではてんで敵わない。

一拍からつなぐ声音でコンちゃんが、

「そのお花は人の涙の雫でしか咲きません。お父さん、頑張って、咲かせてあげてくださいねっ♪」

人の……涙でしか……咲かない花……?

しばし思惟、

しかし、

良い言葉を思い浮かべられず、

「ぅ、うん……分かった。綺麗なお花を、咲かせてみせるよ」

てへっ♪

コンちゃんは、はにかみ笑いをひとつ残し、僕のお部屋から消失してゆく。

「…………、涙で咲くお花かぁ、美しいお花が咲くといいなぁ」

面白けりゃあ、こまけぇこたぁいいんだよ。二の次、僕も君も好きな言葉。

 僕はお部屋を出て、

えっちらおっちら、大切な鉢植えを持って外出しました。

少し外気に、あたりたくなったのです。

………………
…………
……

 金網のフェンス越しに、川や、お魚、野鳥さんを、ぼぅ……っ、と眺める。鉢植えを両手でしっかりと抱えながら、我が君を想う。

「寂しいよ……、君が居ないと……」

自然に、涙が溢れた。

………………
…………
……

 僕は自身で言うのもなんですが、

結構涙もろいです。

鉢植えへの、初めてのお食事は、我が君の不在でした。

 君が居ないと、

早く咲いてしまいそうだ。

 徒然なるまま、
川岸の堤防を南へと下ってゆきました。

第四の壁を維持し続けながら。



 らっかんもひかんもいっちょういったんあるけれど、
ぼくはらっかんしてたいな。
きみをうしなっても、じんせいはつづくから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?