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『OD!i』第30話「防護物」

 お花摘みに行ってから、

あたしは教室へと戻ります。

始まりの鐘がなり、二時間目です……、

が…………、

ご発言が途絶えてしまっていました。

なにやら皆様、

思いあぐねていらっしゃるご様子。

最初に沈黙を切り開かれたのは、

「かか♪ 未熟ではあるが、善い沈黙でもある」

「そうですね。川瀬先生、オイラよろしいでしょうか?」

おふたりの先生方。

「頼みましたぞ。雁野先生」

「はい。失礼いたします」

雁野先生がご発言されます。

「みんな、聴いてもらえる?」

 席をお立ちになる雁野先生へと、

目を向ける方、向けない方がいらっしゃいます。

「オイラはスポーツ活動ってものを、あんまりしねーから、大した事言えねーけどな。友だちづくりは倶楽部全般にかかわるから、野球でいかせてもらう。あのな? 基本はキャッチボールだぞ。何事もな? 仲良くしたいなら、できるだけ相手に良い球を投げる事返す事。敵対しているなら、できるだけ相手に悪い球を投げる事返す事。それを多様化していってください。それを踏まえて三尾、野球でよろしく頼むよ」

 三尾氏は明らかに躊躇されていらっしゃいましたが、

意を決して席をお立ちに、ご発言されました。

「……わいさは、……わいさが悩んでいる事は、八百万倶楽部全体を見て、どういう野球を行っていくかという事です」

 皆様の沈黙が、三尾氏を促します。

「まず、わいさはみなさんが怪我を負ってしまわない事。……そこに、重きを置いています」

あたしはきょとんとしてしまい、

そこを三尾氏に、やんわりと見咎められました。

「早水? もしも野球してて、手や足を怪我したら音楽の演奏はどうなる? サッカーだっておんなじ。そして、森には覚悟が要るんだろ。怪我は絶対に有り得ないと、まず、外さないといけないだろ?」

…………あたしって、今のところ、

本当に勢いだけなのですね……。

「ですから、わいさはもっと悩みます。わいさだったら、全力で野球してくれないチームと試合なんてしたくないですから……」

 そこで雁野先生から、

「そこはオイラちゃん、野球とサッカーをやってる奴らへ、個別にアプローチしといてやったぞ」

思いやりの声音が届きました。

「そうですか! 雁野先生、本当に、有難う御座居ます!」

「感謝いたします。先生ちゃん」

 三尾氏と恵喜烏帽子氏、

あたしは、いつかお父さんが、

「捧華、こういう物語がある事を憶えておいてください」と、

男性と男性が恋愛をする物語がある事を思い出してしまったので御座居ます。

お父さんは言ってました。

「恋愛というものが、相手を大切だと想う事なら、性別など、小さな事かもしれませんね」

なんなのでしょう……、この……胸の昂ぶりは。

居住まいを正してから三尾氏、

「……ですから、わいさたちは、怪我を絶対に避けなければいけません。森の守護に入るならば、攻めて勝つ野球ではなく、守り勝つ野球をしたいと想っています。現時点でわいさが想う、これが、最大の攻撃だと想います。今日この後お時間があれば、みなさんのポジションの適正も見せて下さい。わいさは、今のところは以上です」

 そう告げ終わり、三尾氏はご着席され、

頃合で、恵喜烏帽子氏が、ご発言されます。

「俺が言いたい事は、大体三尾が言ってくれましたし、サッカーは責任持って練習風景を見に行ってきます。しかし、皆さんならわかってもらえますよね? どうしたら俺たちが、楽しんでプレイできるかです」

 ……え? …………いえ、恵喜烏帽子氏?

普通に楽しめばいいじゃないでしょうか?

「おまえ達の能力についてだな。だが、それも概ね問題ないぞ? 普通学園には“ラプラスの魔”があるからな」

 恵喜烏帽子氏と雁野先生のキャッチボールが、

遥か上空で行われている感じがいたしまして、

全然意味がわかりません。

「“ラプラスの魔”? ……物理学の『全知の魔』ですか? 先生ちゃん、教えて下さい」

 よ……よかったぁ、

恵喜烏帽子氏もわかっていらっしゃらないんだ。

「まー人の身が造りしものだから、本当に全知ではないけれどな。おまえ達全員のDNA採取を行い、その情報をラプラスの魔に入力する。そして、野球場全体というある程度限られた情報を試合中ラプラスの魔が恒常的に分析し精査する。審判になってくれるんだよ。おまえ達が能力を使わないと宣誓をしてプレイしたいなら明らかにベースのDNA情報から導き出せるはずのない例えば、肉体を強化できる奴とかは、アウトになるんだ」

「……マジ、かよ……」

恵喜烏帽子氏はなにげなく視線を落とされて、

「……咆える時を、見誤るな……か……。先生ちゃん、ご説明、有難う御座居ました」

きっときるくを見ていたのですよね?

「いやちょっと待ってくれ」

 声音の先には一途尾氏がいらっしゃいます。

「なんにしろ、戦うんだったら心理戦が大事だろ? 諭みたいな“さとり”はどうなるんだ?」

……あ、

そう……ですよね……、

一途尾氏の誠悟氏への友情が、

よく伝わってまいりました。

そして、川瀬先生が仰せになります。

「誠悟よ。良い友がおるのぅ。一途尾や? 誠悟はさとりを祝宴早々に明らかにする程の誠意の持ち主じゃぞ? さとりである事を対戦相手に伝えられるなら、むしろそいつらには好い練習試合になるじゃろぅ」

 そこできるくを見ると、

二時間目終了まで、あと二分程になっていました。

「後は、わしの都合ですまんが、天休と神咲を休ませる為に皆へ尽力してもらいたい。今まで通りならば、ふたりは土日さえ休む暇もない者達じゃったからのぅ。挙げてみるならばケーキバイキングを楽しみながら読書会にも花を咲かせてもらえたら、すこぶる有意義じゃと想うのじゃが……、のぅ歌坂や?」

 一人称は申します、と杏莉子。

「はじめに一人称も多忙では御座居ます。しかし、普通学園にて学ぶ事は、現状一人称に有用と判断いたしております。その点が合致する限りは、一人称固有、歌坂 杏莉子は力を尽くし、寄与いたします」

「歌坂よ善哉善哉。かかかっ♪」

 川瀬先生の痛快な笑い声と、

終了の鐘が、大変好い塩梅で御座居ました。

………………
…………
……

 お次は、

三時間目ですっ☆


 こうげきがさいだいのぼうぎょだとしたら、
ぼうぎょになんのいみがある。
せめぬくよりまもりとおすことのほうがたいせつじゃない?

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