啄木鳥探偵處 / 伊井圭 著

今夜中にアニメを放送している、『啄木鳥探偵處』。
その原作は伊井圭という方が書いた小説です。
金田一京助の視点で綴られる、石川啄木と金田一京助の探偵物語。
全五話からなる、短編集の様な形で書かれたものなので、文章慣れしてさえいれば数時間で一周出来ると思います。

アニメは啄木さんが亡くなった後、京助さんが過去の出来事を思い返す形で始まりました。
原作には全く姿を見せてこない作家達も登場します。
いるのかと思って読み進めましたが、あの辺はいませんでした。
……その分、原作は啄木さんと京助さんに関する描写が細かいです。
一部、アニメの吉井勇に使われた描写が、原作では啄木さんにされていた描写だった…というのもありました。
そんな違いを楽しみつつ、アニメと原作とを行き来するのも、この手の作品の醍醐味でしょう。

アニメの二話・三話では、原作の五話が使われていました。
時系列順にやろう、という事なのでしょう。
啄木さんが探偵稼業を本格的にやろうとしたきっかけの事件を扱った話ですから。
「僕は、死んだら貴方を守りますよ」
涙を浮かべながらそう言った啄木さんの姿が印象的だった一話からの、あの仲違いですから…原作より怖かったですね。
この辺は啄木さんの声優を務めた浅沼さんと、その浅沼さんを支えた、京助役の櫻井さんの演技力の高さ故でしょう。

四話からは原作の一話が題材となる様です。
これでもかという程、救いのない話。
やりきれない思いをしたと京助さんが綴る通り、終わったからといってスッキリは出来ない展開でした。
少なくとも、原作は。
もしこのままやるとしたら、相当メンタル上々でないと見られませんね。

原作の一話は、アニメの四話あらすじを読めば大体の流れが分かりますが、とある場所に「幽霊」が現れた!と騒ぎになるんですよ。
その正体が何なのか?というのを暴く物語です。
原作は最初こそ「何このドSなご主人様!」と啄木さんに対して思えますが…四話くらいまで読み進めると、そう思えなくなるんですよね。
で、五話の冒頭で泣くと。
…石川啄木という人がどんな人だったか?を知っているなら、私が四話で恐れて五話で泣いた理由も何となく分かる事でしょう。

……そんな事を書きながら、「信じることさ 必ず最後に愛は勝つ」と浅沼さんが歌っているのを聴いているのですが。
勝ったのでしょうか。
啄木さんの愛というのは…勝ったのでしょうか。
勝ったとして…それは誰に?何に…?
なんて言いたくなるくらい、四話からの五話が辛く苦しいのです。
それをアニメで見るのかと思うと…。
私にとって世界そのものである彼が死ぬ様な気がして、怖いのです。
彼と重なる部分があるから、余計に辛くなるのです。

…アニメでは死なないでほしいな、なんて思うけれど…
そもそも一話の始まりで、啄木さん死んだ後、なんて展開になってますからね。
せめて死ぬ描写だけはないといいな…咳き込むとか、泣くとか。
そういうのがあったら、私はきっと耐えられないから。

まぁあまり細かなネタバレをしてしまっては、推理小説でもあるこの物語を楽しめなくなってしまいますから、ネタバレは可能な限り避けますが…
実はどれも…かなりメンタルにきます。
明るい気分の今日読んだのに、今まで読めていなかった二話から四話を立て続けに読んだだけで、めちゃくちゃ落ちていますのでね。
読むとしたら、一話ずつ読むとか…とにかく元気潑剌!なんて時に限定するとかした方が良いでしょう。
これはアニメも同様です。
特にここから先、四話からは…原作のまま進むとしたら相当きます。

……しかし、これ。
読むと分かりますがね。
アニメの啄木さんより口調が荒いんですよ。
浅沼さんが担当されている人物で喩えるなら、碧棺左馬刻にも通ずるものがあると思う程に。
アニメだとふわふわした感じなのに対し、小説の文字だけで見るとゴツゴツした感じというか。
……浅沼さん、アフレコしようとした時に演技について周りから「こうした方が良い」と言われて、元の演技から変えたそうですが…
元の演技、どんな感じだったのでしょう。
そういう話を聞いてしまうと、気になりますよね。
元のバージョンで丸々一話分やっているのも見たいなぁ、なんて。

啄木鳥探偵處は、シャーロック・ホームズを好きだと思う方ならきっと夢中になります。
そして推理小説ではあるものの、トリックも犯人も被害者も全て分かった後、また読みたくなる不思議な魅力を持った作品でもあります。
アニメでしたらAbemaTVでも見られますから、是非見て楽しんでください。
その上で、この原作である小説も読んでみてください。
とても素敵な世界観ですし、きっと…貴方も石川啄木という一人の男性を好きになる事でしょう。

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