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みちびきの神を訪ねて/無職の18きっぷ旅行記②

「そうだ、伊勢にいこう」


毎年、夏になると伊勢に行く。

きっかけは学生時代の一人旅だ。

当時、私は大学を休学していた。
理由は特にない。
多分、就活が嫌だったのだと思う。

やりたいことがあって休学したわけでもないから
毎日、何もせずにベッドに寝っ転がっていた。

同期は着々と人生を進めていく中、一人立ち止まった自分。
どこに向けたら良いかわからない、漠然とした焦りを感じる毎日。

そんなある日のこと
ふとした瞬間に子供のころ訪れた伊勢の風景が目に浮かんだ。

「そうだ、伊勢にいこう」

思い立った数日後には伊勢へと向かっていた。

それ以来、夏の伊勢旅行が個人的な恒例行事になっている。

伊勢に行くと必ず訪れる場所


伊勢に行くと必ず訪れる場所がいくつかある。
そのうちの一つが猿田彦神社だ。
個人的にこの神社の祭神が好きで、毎年お守りを購入している。

観光客はたいていの場合、この神社を素通りして伊勢神宮に向かう。
そのため、いつ行っても静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。

夏には2000個近くの提灯が並ぶ祭りもある。

半ばヤケに旅先を決めた

2022年の8月某日

猿田彦大神を祀る神社の本宮と呼ばれる場所があることを知った。
今まで猿田彦神社がそれだと思っていたが、どうやら違うらしい。

神社の名前は椿大神社
地図で場所を確認して驚く。
ずいぶん内陸、鈴鹿山脈の麓にあったからだ。
鉄道の駅からも離れている。

なぜこんな辺鄙(失礼)な場所に祀られているのか。
そもそも、なぜ椿という名がついているのか。

いろんな疑問が浮かぶ。

みちびきの祖神と呼ばれる猿田彦大神
人生絶賛迷子の無職にとって、ありがたい神様かもしれない。

などと考え、半ばヤケに旅先を決めた。

結局、部屋を出る理由が欲しかっただけかもしれないが。

車窓から見る夏の風景

前回

名古屋から三重にはJR近鉄の二路線が走っている。

ちょうど18きっぷが使える時期だったので
名古屋からJRに乗り、まずは四日市駅を目指す。

幸運にも天気は快晴。
車窓から8月の熱気が伝わってくる。

車窓から見る夏の風景が気持ちいい。

JR 四日市駅 驚くほどに人がいなかった

30分ほどで四日市駅に到着。
駅舎は大きい2階建て。
使用されているのは1階部分だけのようだ。
古いけども、なかなか立派な建物だと思った。
とはいえ利用者はほとんどおらず、静かなものだった。

駅舎を出てすぐの光景を見て驚く。
駅前には建物はあるが店はほとんどない。
人はおろか、走っている車すら見かけない。

四日市ってこんなに田舎だったのか…。

全体的にガランと、寂しい雰囲気だった。
おまけに、地面のアスファルトから上がってくる熱で空気が重い
直射日光を避け、バス停の下に退避する。

白くて細い鉄柱

しばらくするとバスがやってくる。
乗客は自分と高齢の女性二人だけ。
バスはいったん、近鉄四日市駅を経由し目的地に向かうようだ。

だんだん人や車、商店などが増え賑やかになってくる。
どうやら四日市の中心は近鉄の駅周辺らしい。

茶畑

バスは市街地を離れ、山に向かって走り出す。
だんだん風景に農地が多くなる。

水沢という町の近くにくると、茶畑が多くなってきた。
後で知ったが、三重の茶の生産量は全国3位らしい。

白くて細い鉄柱が畑の中にぽつぽつ立っているのが目に入る。
空気をかき混ぜるための装置らしい。

青空の下に緑の茶畑が広がっている様は実に気持ち良い風景だ。

実はこの前日に静岡の牧之原という場所を訪れていたが
そこでも同じような光景を見た。

まさか二日連続で茶畑を見ることになるとは。

神話時代から語り継がれる史跡

1時間ほど乗車していると終点に到着する。
バスは参道のすぐ前の停留所に止まる。
外に出ると四日市にいた時よりも若干涼しく感じた。

バス停のすぐそばに神社に続く参道があった。
背の高い木々に囲まれて、鬱蒼とした雰囲気が漂っている。

鳥居をくぐった先の参道には多くの人が歩いていた。
平日の昼間にここまで人がいるとは。

猿田彦命の使いとされる
参道

入口からまっすぐに伸びる道を歩く。
木立に囲まれているおかげで暑さも和らぐ。

本殿・拝殿は立派で大きかった。
参拝客も多い。

正直、現地に来るまでは田舎の小さな神社などと思っていた。
しかし、実際に境内を歩くと中々の規模であることがわかる。

さすが、本宮と呼ばれるだけはある。

椿岸神社
猿田彦大神の妻神・天之鈿女命を主神として祀る。
縁結びの神様らしく女性がたくさん参拝していた。

参道の脇には磐座や小さな古墳など、神話時代からの史跡が。
特に御船磐座と呼ばれる場所は柵で囲まれた禁足地になっていた。
並々ならぬ空気が漂っている。

一体いつから、この土地には人が住んでいたのだろう。

落ち着ける店

一通り境内を散策し終わり、昼食にすることに。
来るときに見かけた、バス停近くのレストランに入る。
境内にも食堂はあったが、なんとなくこっちの雰囲気に惹かれた。

ソファーやテーブルの具合からもだいぶ年季を感じる。
何もかも新しく、計算された店よりも
こういう所のほうが気を抜いて、くつろげるから好きだ。

夏だ

バスは一時間に一本

バス停まで戻って時刻表を見ると、次のバスまで少し時間があった。
ちょっとだけ神社付近を散策することに。

神社から離れると途端に静かになる。
近くの小道を歩いていくと、先に茶畑が広がっていた。

少し立ち止まって、ぼっーとしてみる。
風が吹く音虫の鳴き声だけが聞こえる。

夏だ。

茶畑の背後には鈴鹿山脈がそそり立っている。
椿大神社奥宮もあの山のどれかにあるのだという。
かつては山そのものがご神体だったのだろう。

その昔、山に入る際に魔よけとして椿を用いたらしい。
それが神社名の由来なのだとか。

木造の古めかしいバス停には、これまた年季の入った広告。
こんにゃくが名物らしい。

茶畑の散策を終え、神社に戻る。
すでに何人かバス停で並んでいた。
行きに同じバスに乗った人もちらほら。

滞在時間はざっと2時間ほどだったと思う。

当てもなく散策

帰りはJRではなく近鉄四日市駅で下車してみた。
先ほどまでとは違い、暑さが体に絡みつくように感じる。
行きの車窓から見た通りこちら側は賑やかだ。

電車の時間まで少し余裕があったので、四日市の街を散策することに。

近鉄四日市駅からJR四日市駅までの道を歩く。
この道が四日市のメインストリートなのだろうか。
平日の昼間ではあったが人通りがそれなりにあった。
名古屋も近いし、割と住みやすい街かもしれない。

学習塾が多かったのも印象に残っている。

通りから横に逸れるとアーケードの下に商店街が続いていた。
先ほどまでの通りと違って、シャッターの降りている店舗も多い。
静まり返っている。

アーケードを吹き抜ける風が七夕飾りを揺らす音だけが響く。

楽器屋や古着屋などオシャレなお店もちらほら
休日は賑わうのだろう
首が伸び縮みする仕掛けになっている

商店街を歩いていると、広い境内の神社に行きつく。
東海道宿場町だった頃の四日市の中心地はこのあたりだったのだろうな。

こんな風に当てもなく散策していると、電車の時間が近づいてきた。
JRの四日市駅に向けて歩く。
駅に近づくにつれて、建物が少なくなっていく。
空を見上げてみると雲一つない青空。

夏はまだまだ始まったばかりだった。

旅とみちびき

今までの人生を振り返ってみて
何かにみちびかれている
という感覚になることがある。

今回、椿大神社に行こうと思ったのも
そもそもは学生時代の伊勢旅行がきっかけだ。

じゃあ伊勢に行こうと思ったのはなぜかというと
子供のころに偶然訪れたことがあって
それが大人になってから偶々、脳裏をよぎったからだ。

四日市の街を歩いたのは、帰りに少し時間があったからに過ぎない。

こういう風に考えると、自分の意志でやったと思うことも
本当にそうだったのか?と思う。

四日市駅の静けさ
山の麓に広がる茶畑
風に揺れる七夕飾りの音

強く印象に残っているが、旅に行く前は想像すらできなかった光景だ。

一方で、見るべくして見たというような感覚もある。
まるで、そこに行くことは前から決まっていたかのような。
妙な納得感。

こういうことをみちびき、というのかもしれない。
そう思うのは少しスピリチュアルすぎるだろうか。


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