冬の海

思い出に頼らないと 生きてゆけないわけじゃない
でも 僕らが駆け抜けた あの蒼い時代は
いつまでも 鮮やかに蘇る

波の音だけが 時の流れを教えてくれているような冬の海
真っ暗ななかでは そばにいる君の顔さえ おぼろげだった
おかげで 君の頬に口づける勇気も 持てた

あの浜辺のひとときだけは
ふたりとも走るのをやめて
手をつないで じっとしていたね

静かにふたりを照らす月
キラキラと光り続ける星
ふたりでいくつもの物語をつくったね

君が好きだと言った月
僕に忘れないでと言った星
君は今もどこかで見るだろうか
僕のことを 思い出してくれるだろうか

ビルの谷間で 仰ぐ月
気まぐれでしか見えない星
僕には まだ終わらない物語がある
僕だけが 蒼い時代を生きているのかもしれない

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