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セルリアンブルーの殺意【 #火サスどうでしょう 】

 セルリアンブルー。その色は死の色だ。美しく、恐ろしい。恐ろしいのに......目が離せない。


 残業帰りに寄った、いつものバー。注文をしなくても絶妙なタイミングで置かれるカクテル。ふわふわした手つきで最後のギムレットに口をつけた時、店のドアベルを鳴らしてロングヘアの可愛らしい女性が入ってきた。ドキンとして、踵を浮かせていたヒールを履き直す。
「さやかさん、お久しぶりです」
バーテンに微笑み、カウンターに腰掛ける仕草が色っぽい。つい見惚れていると、目が合ってしまった。
「こんばんは。あら、私と同じカクテルなのね」
甘い声にドキンとする。曖昧に頷き、微笑み返す。
「私、ここではこれしか飲んだことないのよ」
 さやかさんはバーテンから受け取ったカクテルグラスにそっと口づける。

 深夜1時。バイトが閉店の準備をし出した頃、さやかさんが小さな声で囁く。
「チェック。彼女と一緒で」
 私は慌てた。
「いや、そんな、ダメですよ!」
「いいのよ。だってあなたは、これから私ともう一軒行くんだから」
私は目をパチクリさせる。ふふふ、と嬉しそうに笑いながら私の手に触れる指が冷たい。艶めくセルリアンブルーのネイル。
「だって、私ひとりじゃつまらないんだもの。来てくれないとさみしいわ」
 こんな目で、声で、誘われたら断れるはずがない。

 さやかさんに連れてこられた店は小さなホストクラブだった。
「最近どうしてたんですか? お久しぶりじゃないですかぁ。さみしかったなぁ」
出迎えたホストが甘えた声で言う。
「ちょっと、忙しくてね。でも、今日はお友達連れてきたの。いい子つけてあげて」
「気に入った子いたら教えてね。呼んであげる」
耳元で囁かれてドギマギする。

 初めてのホストクラブで、私は会話どころではなかった。いや、さやかさんとホストの話に興味深々で、聞き耳を立てるのに忙しかったせいもあるだろう。
 さやかさんは既婚者だった。そして、ママだった。小学生の娘さんがいるらしい。娘を寝かせて、家事を片付けた後、気晴らしにそっと家を出て飲みに来ているのだという。まだ家庭を持たない私には、彼女の行動を判断する術はなかったが、少し不安な気持ちになり、つい聞いてしまう。
「ご主人は大丈夫なんですか?」
「ふふふ。あの人、他の女のところから帰ってこないのよ」
私はどんな顔をしてよいのかわからない。
「でもね、いいこと思いついたの。後で教えてあげるね」

 店を出ると、もう空がぼんやり明るくなっていた。酔いはすっかり醒めいて、怠さだけが全身を覆っている。
店で呼んでもらったタクシーに乗り込む寸前、さやかさんの冷たい指が私をそっと掴む。
「これ、あなたにも必要だと思って。目が合った時にすぐわかったの。あげる」

 扉が閉まり、走り出したタクシーの中でゆっくり手を開くと、そこには彼女の爪先と同じ色の小さなUSBメモリがあった。最後の言葉を頭の中で繰り返す。ふとあの人の顔を思い浮かべている自分に気付き、身体が青く冷たく沈んでいくような気がした。



こちらは、ピリカさん企画の参加作品です。
サスペンスって大好きだけど、難しい!!

この企画、抽選に当たっても当たらなくても、どんな作品が出来上がるのか、ホントわくわくしかない......!


企画上手なピリカさんには『すまいるスパイス』にも呼んでいただき、企画のお話もさせていただいたのです。
企画はとにかく参加してもらえることが最高に嬉しいよね! というお話をしたばかり。

ぜひぜひ皆様も火サス書いてみてくださいね〜✨

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