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短編” 夕焼けのきれいな日のチーズケーキ ”【シロクマ文芸部】

夕焼けは私の気持ちを不安定にさせる。
だれかが夕焼けをみて「きれいな夕焼け!」と叫んでる。
きれい?どこが?怖い。
あんなに赤い空、どうしてみんな怖くないの?
私はいつも怖くて誰かに縋り付きたくなる。
でも縋り付ける人なんていない。
せめて誰かに「怖くないよ、大丈夫」って言ってほしい。
そんなこと言ってくれる人もいない。
私は一人できゅっと口を結び、足に力をいれて立ち、深呼吸する。
一人でも大丈夫。
だれかいなくても大丈夫。
大丈夫。
「お茶を飲みにきませんか?」
足元から小さい声がする。
街路樹の銀杏の木の根元のドアが開いて、ネズミが顔を出している。
ネズミはきちんと焦げ茶色のズボンとベストを着て、白いシャツの襟元に赤い蝶ネクタイを結び、二本足で立って、手でドアを開けている。
そして「どうぞ!」という。
私はネズミの前にしゃがみこむ。
しゃがむのは苦手だ。よろけるし眩暈めまいがする。
眩暈が…

私は小さな部屋にいた。
気持ちの良い明るい色の木の床、木の壁、小さい木のテーブルの上には黄色い布のテーブルクロス。ドアの小窓には黄色いカフェカーテン。
私は小さな丸椅子にちょこんと座っている。黄色い布のスリッパをはいている。金のビーズの飾りがポチっとついていて可愛い。
さっきの蝶ネクタイのネズミが冷蔵庫を開けてミルクを取り出している。もっとのぞき込んで何か取り出した。
「これは僕の姉が焼いて届けてくれたベイクドチーズケーキです。美味しいですよ」と笑顔で説明してくれる。
私はネズミの家のお客だ。きっと小さくなったのだ。
なのに対等に目の前で話すネズミがあまり怖くない。たぶん夢だからだろう。夢の中に出てくる動物はたいてい怖くないものだ。
ネズミはお湯が沸くと紅茶を入れ、さっき冷蔵庫から出したミルクも温めて入れた。ミルクティか。希望は聞かないんだな、とちょっと思う。でもいい、ミルクティは好きだから。
ポットもカップも黄色い。このネズミは黄色が好きなんだな、と思う。
黄色いカップに注がれたミルクティと、黄色いお皿に切り分けられたベイクドチーズケーキには少しクリームが添えてある。
「さあどうぞ」
「いただきます」
温かいミルクティの美味しいこと!
砂糖を入れていないのにまろやかな甘みを感じるし、砂糖が入っていないからチーズケーキにも合う。
「ものすごーーーく美味しいです」
私は笑顔でネズミに言った。口に入れるたびに笑顔になってしまう。
「お嬢さん、このチーズケーキは『夕焼けのきれいな日のチーズケーキ』という名前だと、うちの姉が申しておりましたよ」
「夕焼けのきれいな日のチーズケーキ」
私は復唱する。心の中でもう一回復唱する。
(夕焼けのきれいな日のチーズケーキ)
「ありがとう。もうこれで夕焼け嫌いじゃなくなりました」
ネズミはにっこりする。
「そうです。きれいな夕焼けは良いものです」
私には優しいネズミの蝶ネクタイも夕焼け色に見えた。

(了)

細かい読み違いが2か所ほど…(^-^;

*藤家秋さんのねずみがいるコラージュを見つけたのでブルーだけど断固使いました(๑•̀ㅁ•́๑)✧キラーン
秋さん、使わせてもらってありがとう~✨


小牧幸助さんの企画に参加します




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