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超短編 ” 盆踊り ”【シロクマ文芸部】

花火と手拍子と盆踊りの輪が、渦のように私を押し流して行く。渦の先には懐かしい浴衣姿が見える。
「メグ!」
私が声を掛けるとめぐみちゃんが笑顔で振り返る。踊りの上手な恵ちゃん。私は小走りに近づいて恵ちゃんの踊りをお手本にしながら踊る。いつだってそうだった。転校してきてからずっと、近所に住む恵ちゃんの踊りを真似しながら町内の盆踊りに出ていた。
新しい曲に切り替わる。知らない曲だ。なんて寂しい曲だろう。これは胡弓の音色だろうか?でも知らない曲でも大丈夫。恵ちゃんの後ろにいるんだから、見て真似て踊れば大丈夫。大丈夫。
それなのに盛大に上がった仕掛け花火に目をとられ足を止めた一瞬に、恵ちゃんを見失ってしまった。そして気がついた。恵ちゃんはもういないのだった。そして私はもう50才を超えている。
恵ちゃんのお葬式には同級生が大勢来ていた。私が死んでも同級生は一人もお葬式に来ないだろう。親切な同級生が知らせてくれたから私は恵ちゃんのお別れに行ったけれど、お葬式が終わって集まっているみんなには声を掛けずにそっと一人で帰った。
盆踊りを見るといつも恵ちゃんが踊っているような気がする。
今年の夏はまだ盆踊りを見ていないけれど。でもきっと浴衣姿で踊っている。

(了)

*小牧幸助さんの企画に参加します


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