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キツツキと花模様

「ねぇ、キツツキさん」
下から声がしたのでボクは木をツツくのを止めて首を下に向けた。
女の人がこちらを見上げている。
「なんの用ですか?」
ボクがたずねると
「おうちが欲しいの」
と言われた。
「ボクは大工ではないので無理です。
今、ボクは木には穴をあけているだけで。
エサを探すために」
女の人は首を振った。
「それでいいの。
その穴をひとつ、ちょうだいな。
どうしても、私だけのおうちが欲しいの」
ボクは高い場所から少し下にぱたぱたと降りた。
女の人よりちょっと上の辺りに。
そしてそこにコツコツコツ、と穴をあけた。
思いがけず、ちょうど虫がいたので食べた。
のぞくとそこは空洞で、中が案外広かった。
「どうぞ」
ボクは虫を飲み込んだ後でそう言った。
「ありがとう」
女の人は背伸びして穴をのぞきこんだ。
するすると小さくなって穴の中に消え、
それから中で向きを変えたらしく、ちょこっと顔を出した。
さっきまで疲れたおばさんに見えたのに
かわいい女の子みたいな顔だった。
そしてボクに向かってニコッと笑ってもう一回
「ありがとう」といった。
そして入り口に花模様のハンカチを吊るして、もう顔を出さなかった。

あれはたしか桜の木だった。
次の日に様子をみようと思ったけれど
あの入り口は見つからなかった。
だんだん暖かくなって桜がたくさん花を咲かせて、
そこらじゅうが桜の花でいっぱいで、小さな山じゅうが桜でいっぱいで、
もう花模様のハンカチを吊るした入り口はどうしても見つからなくなってしまった。
そう、たしかあのハンカチは桜の模様だった。

(了)

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